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百九十七話 時空の旅人

 ――アシュレイ・フォルンを探す旅に出て一週間ほど。


 ジェネの案内によって、ようやく元アドガルドがあったという場所に辿り着く。


 しかしそこに大陸などは存在していなかった。


「ようやく濁った海以外のところを見つけたけど、これはもう……」


『はい。なんというか、小さな列島、という感じに近い、ですね……』


 上空からアドガルドだった場所を見ると、小さな島がかろうじていくつか見える程度の大地しか見当たらない。


 その大地の土も、黒に近い紫色に侵食され、青々しい草花は全く見受けられなかった。


「なんでこんな不気味な土地になっちゃったんだ……?」


『環境マナがほとんど無くなってしまったから、かと。アークラウスが言っていた通り、オルクラ上の環境マナはほぼ失われてしまったのでしょう』


「そうなのか……」


 恭介は変わり果ててしまったオルクラを改めて不憫に感じる。


 アドガルドという土地において、恭介は良い思い出は全く無い。


 殺され、追放され、拷問され……そしてアドガルドからは魔王の少年と指名手配され。


 恭介にとってアドガルドに良い印象など皆無なのだが、それでもやはり、見覚えのある土地がこうやって荒んでしまっているのは心苦しく感じた。


 ひとまず近場の小さな島に恭介は降り立つ。


 その足元からはえもいわれぬ独特な腐臭が漂う。


「……環境マナというものがないとこうまで大地がおかしくなっちゃうんだな」


『そうですね……』


「さて、あとはアシュレイが一体どこにいるか、いや、それ以前にそもそも生き残ってる人がいるかどうかから探すか……」


 小さな島々はどれもせいぜい直径数キロメートルあるかないか。そんな島々の草花は皆枯れ果て、残っているのは葉のない枯れ果てた木々と、文明時代の名残である瓦礫くらいだ。


 なので探すと言っても、探しようがなかった。


「見通しも良いし、隠れられる場所もないし……何をどこから探せばいいやら……」


 しかしそんな恭介の憂いはすぐに解消させられる事となる。


「……ん、なんだこの音?」


 何かの生き物の叫び声の様なものが、遠くから微かに聞こえたのだ。


「他に生物がいるのか……? まずはそっちへ向かってみよう」


 恭介は生き物らしき声がした方角へと、再び飛翔して行くのだった。




        ●○●○●




 元アドガルド大国があった列島の外れの方にて。


 腐敗した大地の一部にポッカリと穴を空けている場所を見つける。


「声は確かにこの辺からだったな。あの穴ぐらからか?」


 奥が見えない程の大きな横穴が空いた洞穴付近へ、恭介は舞い降りた。


『恭介さま』


 体内のジェネが何かに気づく。


「……これは」


 洞穴の入り口には、そう古くはない松明の燃カスが残されているのを恭介も見つける。


『まだこの世界に生き残りが本当にいたんですね』


「ああ。この洞窟の奥、か?」


『かもしれません。充分に警戒して進みましょう』


 恭介はその洞穴の中へと足を踏み入れる。


 中は薄暗いが、ぼんやりと洞穴自体が微かに光っている為、かろうじて進む事ができた。


『……これはヒカリゴケですね。まだコケが生える力が残っていたなんて』


 ジェネ曰く、そのヒカリゴケとやらのおかげで洞穴内が完全なる暗闇になっていないのだと言う。


 足元に注意しながら恭介は奥へ奥へと進む。


「これは段々と地下方向に進んでるな……しかも途中からは人為的な道になってる」


 自然に出来た洞穴に、何者かが通りやすいように手を施した痕跡を見つけたのである。


 そしてしばらく進むと、やや開けた空間に出た。


「ここは……地下水脈? でも地表のものとは違って……」


 開けた空間の先に、大きな泉があった。


 その泉は地表にある灰色の海とは違い、透明で澄んだ美しい水だった。


「そう。ここの泉の水は地表の水と違って浄化されてるから飲めますよ」


「だ、誰だ!?」


 突然の声に恭介が驚き、そちらを見る。


 泉の付近にある大きな岩の上に、その人影はいた。


「初めまして。お客さんは久しぶりですよ、っと」


 そう言いながら、岩の上から降り立ったのは、ぼろぼろの服を着た、青い髪色の青年。


「しかしどうやってここに? 周囲の海は汚染された死海だと言うのに……」


 青年はそう言って恭介のもとへと歩み寄る。


「青い髪……ま、まさかキミは……」


 恭介が驚くように呟くと、


「私の事を知っているんですか? 私は……あなたのようなおじいさまにお会いするのは初めてですが……」


「キミは……まさか、アシュレイ、か?」


「本当に私の事を知っているんですね? おじいさん、あなたは何者ですか? まさかとは思いますが、ミネルヴァの残した呪いの遺物、なんて事はありませんよね?」


「僕は……かつてキミにワイトディザスターと名乗った者だ」


「ワイト……ディザスター……? ま、まさか……あの、クラグスルアの屋敷での!?」


「やっぱりキミがアシュレイだったのか。あの時と全く変わっていないからすぐにわかったよ」


「なんと……こんな奇跡が……。あなたには非常に感謝しております。あの時、ミネルヴァの手に落ちていた私は、あのままクラグスルアたちの実験道具として永遠に利用されるのだと思っておりましたから……!」


 不思議な洞穴の、不思議な泉で恭介は難なくアシュレイとの再会を果たすのであった。




        ●○●○●




 アシュレイの説明によれば、ここは数少ない環境マナの残された聖なる泉なのだとか。


 泉を迂回し、洞穴の更に奥に行くと、数十人の人々が生活を営んでいた。


 世界が滅亡した後もあの泉のおかげで、わずかに生き延びた人々はこの洞穴内で細々と生活を送っているのだと教えてくれた。


 そしてこの世界の現状についても。


「……そんな事が」


 アシュレイは洞穴内の、アシュレイが住んでいる簡潔な住居のような穴ぐらまで恭介を案内し、恭介にこれまでの話をしてくれた。


 この世界は数十年前、唐突に各所の封印が解けてしまい、同時にマナが失われ、更には凶悪な魔物たちが蔓延る混沌の世界に変わってしまった。


 そして大きな力を持っていたミネルヴァは突然、その姿をくらます。

 

 その後、ミネルヴァの残滓(ざんし)、と呼ばれる異形の存在があちこちで生まれ、世界を意味もなく破壊し、喰らっていったのだと言う。


 多くの人々も魔物たちも、そしてアンデッドたちですら、そのミネルヴァの残滓という者たちに喰らわれ、そしてオルクラは死の世界に成り果てたとの事だった。


「ミネルヴァの残滓は唐突に現れます。アレらは現れたら、目の前の存在を否応なしに喰らおうとして来ます。見つかれば逃れる術はほぼありません……」


 アシュレイは険しい表情で、そう言った。


『ミネルヴァの残滓……一体なんなんでしょうね……』


 体内でジェネが呟くのと恭介は同じ感情であった。


 ただわかるのは全ての原因にミネルヴァが関与しているという事だけである。


「ミネルヴァは一体何がしたいんだ……」


 恭介がそう言うと、


「今となってはもはや何もわかりません。ミネルヴァに関する存在は、その異形の存在であるミネルヴァの残滓以外には、何も残されていませんから」


「アシュレイたちはどうして助かったんだ?」


「……私にはここが聖なる泉として、オルクラで最も大きな環境マナエネルギーを持ち、かつここにはミネルヴァの残滓が現れない事を知っていたからです」


「だから先んじてキミはここに避難していた、と?」


「はい。私と可能な限り救える人たちだけをここに誘導し、避難させました。それから数年間くらいは、生き延びた人が偶然この洞穴にやってくる事もありましたが、最近じゃそれもごくごく僅かとなりました」


「……キミは何故、そんな事ができたんだ?」


「私のたった一度きりしか使えないユニークスキルのおかげです」


「たった一度きりの……?」


 アシュレイはこくん、と頷き、


「このユニークスキルは、ひとつの存在につき、たったの一度しか施せない、かなり風変わりなスキルです。私にはもうあまり意味のないスキルと成り果ててしまいましたが……」


「アシュレイ、キミのそのユニークスキルは一体……?」




「私のユニークスキル『時空の旅人(タイムトラベラー)』は、ひとつの存在をたったの一度だけ、過去か未来の好きなタイミングの場面まで飛ばせるスキルなのです」





 



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