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百八十二話 対峙する二極

「確か、恭介、と言ったかな?」


 ルシフェルはそう言いながらゆっくりとホールの中心に立つ、恭介へと足を進める。


「そうか、お前がこのデーモンパレスの主だな? 確かルシフェル、だったか」


「うむ、そうだ。妾こそが魔族の王の中の王、ルシフェルである。この肉体はベルフェゴルのものだがな」


 不敵な笑みを浮かべて、ルシフェルは両手を広げる。


『ベ、ベルフェゴル!? あの伝説の悪魔……ですって!?』


 体内でジェネが声を荒げた。


「何か知っているのか、ジェネ?」


『はい、恭介さま。ベルフェゴルといえば、ワイトディザスターさまがこの世界に顕現されるより、更に数百年も前に、とある迷宮の奥深くに封印された、非常に強力な力を持つと言われる伝説の悪魔です』


「それはそんなにヤバい、のか?」


『ベルフェゴルの伝説は、伝承でしか聞いた事がなく、私ですらあまり詳細を知りませんが、その戦闘能力の高さは、このオルクラの歴史において並ぶ者などいないとされております』


「なるほどねえ。それじゃちょっとは手ごたえありそうな相手、かな」


『充分にお気をつけ下さい、恭介さまッ!!』


 ジェネが必死な感情で注意を促す。


「ガンドは少し下がっててくれ」


「御意……!」


 恭介の指示に従い、ヴァナルガンドは恭介の後方へと下がる。


「ふふ、妾の見た目で甘く見ている、というわけではなさそうだな、その自信」


 ルシフェルは見透かすように言った。


(……未知の敵だし念の為、コイツの戦闘能力を調べてみよう)


 恭介はそう考え、すぐに『生物鑑定』の技法を試みる。


「≪スキャン≫」



 個体名:ルシフェル


 総合戦闘能力:1977


 属性:悪魔族・魔王


 脅威レベル:19.7%



 そしてルシフェルのステータスが恭介の目の前にのみ、表示された。


(さすがは魔王と名乗るだけはあるな。戦闘能力がまさか2000近くもあるとは。まあそれでも究極強化(アルティメットバフ)した僕の敵じゃないとは思うけど……)


 恭介がそう思うと同時に、


「……貴様はアンデッドの瞳を持っているのだな。妾の戦闘能力を計っていたか」


 ルシフェルがすぐに恭介の所作を見抜く。


「わかるんだな?」


「アンデッドと戦った事は少なくないからのう。で、妾の戦闘能力を見抜けたうえで、妾をどう見る?」


「……キミはなかなか強いと思うよ」


「妾を前にして、なかなか強い、か。くくく、言いよるな、小僧めが」


「別に舐めてるわけじゃない。これまで見てきた中じゃ、キミがとびっきりの強さを持ってるのはわかるよ」


「貴様の言葉に嘘がないのはわかる。だが、それでもなお、その物言いでは、妾より貴様の方が上だとしか聞こえんな」


「そうだね。そう思ってる」


「……冗談、では言っていないな。妾には貴様の戦闘能力を知る術がない。貴様の戦闘能力、よければ教えてもらえるか?」


 ルシフェルの問いかけに、


『恭介さま! お気をつけ下さい! 何か企んでるやもしれませんッ!』


 体内のジェネが警戒を促す。


「……僕の戦闘能力については、それなりに高い、って事にしておいてくれ」


「っふ。教える気はないか」


「戦闘能力を教えたら、キミが争うのをやめてくれるって言うなら考えるけどな」


「それはないな。妾も王だ。仲間を倒され、侮辱され、城に攻め入られ、おめおめと降参するほど愚かではない」


「そうだよね。それじゃあ始めるとするか」


「ああ、どこからでも来るがいい。ニンゲンッ!」


 こうして魔王ルシフェルと、魔王の少年と呼ばれる恭介との戦いの幕が開けたのだった――。




        ●○●○●




「アスタロトさま」


 デーモンパレスの最上階。


 そこで魔水晶を見つめるアスタロトに、クロフォードが声を掛ける。


「なんだ? 私は今忙しい」


「っは。それがひとつとても重要な事がわかりまして……どうしても優先してご報告せねばなるまいと」


 クロフォードは跪いて、そう告げる。


「なんだ? 私は今、ルシフェルさまの行く末を見守らねばならん。それ以上に大切な用事だと言うなら、そのままさっさと報告せよ」


「了解しました。あの捕らえている者たちですが、男の人族の正体がわかりまして」


「あの口が悪い男か。アイツがどうしたというのだ?」


 アスタロトは魔水晶から目を離さずに尋ねた。


「アスタロトさまはあの男の名を聞きましたか?」


「いや? あんな下等な人族の男の名など、聞いても無駄だからな」


「彼の名はイニエスタ・サンスルグです」


「イニエスタ? それがなんだと言うんだ?」


「彼はサンスルード王国の元王です、アスタロトさま」


「ほう、そうなのか。あのような弱き者が王だったとは……これならこの少年さえ倒しまえば本当に世界は我らのものだな」


「……そうですね」


「それだけか? そんなつまらん報告ならあとにしろ。私はルシフェルさまを見守るのに忙しい」


「申し訳ございません、アスタロトさま。そのサンスルードの元王について、まだお話したい事があるのですが……」


「しつこい! そんなのは後にしろッ! 興味がないわッ!」


「……かしこまりました」


 クロフォードはこうべを垂れて謝罪した。


「……全く。たかが人族の王だかなんだか知らぬが、そんな事を仰々しく伝えに来るな」


 アスタロトがそう吐き捨てる。


「ときにアスタロトさま」


 しかしクロフォードはまだ食い下がって、話しかけた。


「なんだ? まだ何かあるのか? いい加減にしろ!」


「アスタロトさまの開発した、悪魔化させるアレは、二種類の薬剤がございましたよね?」


「そうだ! それがどうした!?」


 アスタロトは次第に苛立ちを募らせるが、


「ひとつは基本ベースを他種族から悪魔族との混合種族に変化させると共に、飛躍的に戦闘能力を伸ばし、もうひとつは短時間の間、完全なる上位悪魔へと変化させ更に一時的に爆発的な戦闘能力を底上げする、のでしたよね?」


 クロフォードは全く気にも止めず、次々と言葉を投げかける。


「そうだ! 完全悪魔化の薬は貴様にも渡してあるだろう!? 何が言いたい!?」


「その薬に因る副作用は、同族を手に掛ける事が出来なくなる、という縛りでしたが、それは副作用というより薬の成分によって、アスタロトさまがそうさせているのですよね?」


「そうだ! 貴様たちが馬鹿な考えを持って同族殺しでも始められたら、せっかく増やした勢力を殺されかねんからだ!」


「その縛りを破ろうとすると、薬の効果によって死に至る。逆を言えば、それ以外に大きなデメリットはほぼないと言える。そして、その縛りを生む効果は、ひとつめの薬にしかない。そうでしたよね?」


「ああ、そうだ、そうだ! で、貴様はさっきから何が言いたい!? 私を怒らせたいのか!?」


 あまりのクロフォードのしつこさに、ついにアスタロトが逆上して魔水晶から目を離し、クロフォードへと向き直る。


 そしてズンズンとクロフォードの元へと歩み寄った。


「アスタロトさま。私はアスタロトさまを敬い、あなたさまに包み隠さず報告をしようとしただけであって、これは別に同族への裏切りでもなんでもないのです」


「……なに?」


 クロフォードは真っ直ぐにアスタロトを見据えて、不敵に笑う。


「だから、私は全てを報告すべきだと思ったのですが、あなたさまがそれを拒絶しただけであり、私は例え上部(うわべ)だけだとしても、決して逆らっているつもりはないのです」


「……貴様、さっきから何を言っている?」


「申し訳ございません、アスタロトさま。私は一応止めたのですが、彼らが勝手に行動した結果ゆえ、私にはこれ以上どうしようもないのです」


 クロフォードは頭をもう一度下げ、そしてその場から大きくバックステップした。


 その直後。


「こ、これは!?」


 アスタロトの身体の自由が奪われたのである。


「……その魔法は、スペルバインドにございます、アスタロトさま」


 クロフォードが離れた位置から、頭を下げつつ、そう言った。


「……ああ、実に残念です、アスタロトさま」


 クロフォードはそう呟き、不敵に笑った。




        ●○●○●




「さて、それじゃあまずは様子見をさせてもらうかな」


 恭介はそう言って、両手にマナを集中させた。


「……相当に精錬されたマナだ」


 ルシフェルが鋭い眼光で恭介を見る。


「行くぞ、ルシフェル。≪フレアアロー≫」


 恭介はまず右手のひらから、大きな炎の矢を生み出し、それをルシフェルへと向かって放つ。


 その魔法が、とても低級魔法とは思えないほどの凄まじい魔力を孕んでいる事が、ヴァナルガンドもルシフェルもすぐに理解した。


 恭介もそれなりにこのフレアアローには殺傷力を持たせたつもりで放っている。


 だが。


 全てを焼き払い、溶かし尽くしそうな魔力を孕んだフレアアローは、ルシフェルの身体に触れた直後、霧散した。


「うむ。良い威力だ。口だけではないようだな」


 ルシフェルは腕を組んで不敵に笑う。


「へえ? 今のそれはどういう事だ? 僕のあの威力の魔法を消し去るなんて、少し驚かされたよ」


 恭介が目を見開いて尋ねた。


「うむ、妾は貴様と違って素直に答えてやろうぞ。今のは単純に、妾の魔力で魔法を打ち消したのだ」


「魔力で打ち消す?」


「そうだ。フレアアローに対し、妾の逆属性魔法をぶつけて消したのだ。こんな風にな」


 そう言ってルシフェルは右手をかざし、目の前にマナの粒子を集める。


「今集めているマナは水属性だ。逆属性のマナを瞬時に練り上げぶつければ、いかな攻撃魔法といえど、容易くあしらえる」


 ルシフェルは威厳たっぷりにそう言ってみせる。


『きょ、恭介さま……。奴は簡単そうに言ってますが、普通、そんなマナコントロールは安易に出来ません。さすがは魔王と名乗るだけはあります……!』


 恭介はルシフェルの卓越した能力を、ジェネのその話し方から察する。


「なら、これはどうだ? ≪サンダーレイン≫」


 続けて左手に集めたマナをルシフェルの頭上へと向け、無数の雷撃を降り注がせた。


「うむ。無駄だな」


 ルシフェルはさっきと同じく腕を組んだまま上空を見上げるだけで、恭介の放つ魔法を全て掻き消した。


「おお……本当に凄いな、キミは。あれほど大量の魔法もそれぞれに対応してくるなんてさ」


「仮にも妾は魔王だ。魔を扱わせる事において、舐められては沽券(こけん)にかかわる」


「……これはなかなか手強そうだなあ」


 恭介もルシフェルを見て、笑った。


(……うん、()()()も色々と条件が整ってきたみたいだし、あとは僕次第、だな)





 想像以上の強さを持つ敵を目の前にして、恭介は不思議と恐れや憎しみなどではなく、純粋にその実力を楽しみに興奮するのであった――。




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