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百八十話 悪魔たちの歓迎

「見えた! あれがデーモンパレスの入り口だな!」


 恭介がヴァナルガンドの背で叫ぶ。


「おそらくそうでしょう、恭介さま! ですがお気をつけください! 前方から多くの殺気を感じます!」


「ああ、わかってる!」


 雪の積もる林道を抜けて、雪原の中、デーモンパレスの入り口である禍々しい装いをした正門が遠目で伺えたくらいのところで、ヴァナルガンドと恭介は大量の敵意を感じていた。


「ガンドはデーモンパレス入り口から、内部への突入に集中しろ! 敵は僕が全て片付ける!」


「御意!」


 恭介がそう言うと同時に、無数の悪魔族たちがデーモンパレスの入り口からまるで溢れ出てくるかのように、恭介たちへと向かってきた。


「おー、おー。本当に大層なお出迎えだ」


『恭介さま! 私たちも具現化して応戦致しましょうか!?』


 体内でジェネが声を上げる。


「いや、僕ひとりでいい」


『そ、そう、ですか……』


 ジェネは心配そうに言うが、恭介はもう、大切な者たちを失いたくはなかったのだ。


「あの歓迎から見ても、敵さんは僕らがデーモンパレスに乗り込むのをわかっていて待ち伏せていたと考えられるな」


「はい。そうなると捕らわれたイニエスタたちは間違いなくデーモンパレスにいるでしょう!」


 ヴァナルガンドが雪原を駆けながら答える。


「ガンド。エスたちの生存可能性はどう見る?」


「生存だけで言えば高いかと。ですがグラニスとかいう悪魔の言う通りならば、悪魔化、という処置を施されている可能性もあるかもしれません」


「そうだな……悪魔化ってのはなんなんだ?」


「我もよく知りません。ですが、異様なほどに戦闘能力を向上させるのは間違いないかと」


「……そうか。でもきっと、それだけなわけはない、よな」


「でしょうね。それではあまりにリスクがなさ過ぎます。その悪魔化には相応のデメリットがあると考えられますが、我も悪魔族ではないので詳しくはなんとも……」


「そうだな。わかった。とりあえず、目の前の敵を殲滅するとしよう」


 恭介とヴァナルガンドが向かう先に、槍や剣、魔法の杖など様々な武具を携えた悪魔たちが、戦闘態勢を整える。


「ざっと見た感じ、100体くらいはいるな」


「はい! 加えて1体1体がかなりの戦闘能力を誇っている様です!」


 ヴァナルガンドは、数の多さだけでなく驚異的な力を持った悪魔たちを前にして冷や汗を流す。

 

『スキャンしました! 平均戦闘能力150ほどの悪魔たちです!』


 体内でジェネが恭介の代わりに『生物鑑定』の技法で前方の悪魔たちを調べた。


「150か」


「個々のユニークスキルによっては、我ら六頭獣でも、充分驚異的になる可能性がある戦闘能力です」


 ヴァナルガンドが警戒しながら呟く。


「そうだな。だが……」


 恭介は不敵に笑い、その考えをすぐに汲み取ったヴァナルガンドは、


「ええ、どれも恭介さまの敵ではございませんッ!」


 我が主人の強さをすぐに思い返し、そう返す。


「そういう事。さて、ちょっとだけ、素早く動けるスタイルになるとするか」


 恭介はそう言うと、


(脚力に集中……瞬発力を重視した筋繊維へと調整、変化……)


 脚の筋肉、血流、骨格を意識して調節する。


 これらのコントロールは常にできるわけではなく、恭介特有の究極強化(アルティメットバフ)されている時のみ、可能な技術である。


「よし、こんな感じだな」


「恭介さま! 敵の魔法が大量に来ますッ!!」


「そうか、ガンドよく聞け。お前は僕が背からいなくなったとしても、僕が背に乗っているつもりで、ただひたすらに一直線に突っ込め。避けるな、止まるな。僕を信じろ」


 恭介のその言葉にヴァナルガンドは、微塵にも主人の言葉を疑う事などなく、


「無論でございます、恭介さまッ!」


 即答した。


 だがこの段階で、すでにヴァナルガンドの数メートル先には悪魔族たちが放った、無数の多種多様な属性による攻撃魔法が迫っている。


 普通であればもはや回避すら間に合わないと、ヴァナルガンドは思った。


 そしてその無数の魔法の威力は、どれを貰ってしまったとしても、ヴァナルガンドにとっては大きなダメージになりうる可能性があるほどの威力を秘めている事も理解していた。


 しかしそれでも脚を止める事はしない。


 どう対処するのか、何を実行するのかなど、全くわからなくとも、信頼すべき主人がそうしろと言ったからである。


 いよいよ魔法が着弾するという寸前。


 ヴァナルガンドは一瞬、背が軽くなる感覚を覚える。つまり恭介が背からいなくなったのだ。


 そして、火炎、冷気、雷撃、土系、水、毒、風……ありとあらゆる攻撃魔法が、ヴァナルガンドの目の前で、その全てが一瞬で消え去った。


 その現象がヴァナルガンドの目にはもはやどういう理屈なのか、理解まではできない。


 そしてその数秒後。


「「ギャァアアアアーーッッ!!」」


 多くの絶叫と共に、燃やされ、凍らされ、あるいは吹き飛ばされたりする、前方の悪魔たちの姿を見ていた。


 その後、まだ放たれてくる魔法も全て、その放たれてきた方向へと打ち返されていく。


 恭介の中にいる体内のアンデッドたちも、ヴァナルガンドにも、何故そうなったのかはすぐにわかった。


『さすがですッ! 恭介さまッ!!』


「さすがですッ! 恭介さまッ!!」


 皆、理解している。


 恭介の力を。圧倒的なまでの戦闘能力を。


 だから、恭介が何をしたのかわからなくても、恭介以外に考えられないと、もはやわかっているのである。


「うん、ただいまっと」


 恭介がやった事は単純だ。


 迫り来る魔法の群れを、全て手で弾き返したに過ぎない。


 可能な限り高速で動き、身体全体の耐性を反射にし、そしてヴァナルガンドに迫る魔法を全て、放ってきた前方の悪魔たちに向けて打ち返したのである。


「マインドブーストしなくても、それなりの速さで動く事は出来たかな」


「充分すぎます! お恥ずかしながら、すでに我の目には恭介さまの動きが全く見えておりません!」


「ははは。そうか。ガンド、一発も被弾しなかったよな?」


「はい! 恭介さまのおかげです!」


「いや、お前が僕の言う事をきちんと信じて、真っ直ぐに走り続けたおかげだよ。だから迫る魔法の軌道が読みやすかった」


 そしてヴァナルガンドの背に戻った恭介は、ついにデーモンパレス正門へと辿り着く。


「よし、とりあえず悪魔どもの数はかなり減らしたな」


 正門を守っていた多くの悪魔は、さきほど恭介によって跳ね返された魔法の効果によって、倒されている。


「「恭介だッ!! 殺せぇーーッ!!」」


 しかしその周囲にはまだ、大勢の悪魔たちが殺意を向けながら恭介たちを睨み、襲いかかってきた。


「待ってなガンド。まずはこの周りの雑魚たちを黙らせる」


 恭介はそう言って、再びヴァナルガンドの背から降りる。


「まだ結構な数がいるな。手加減はめんどくさいから、魔法で片付けさせてもらう」


 そして、素早く両手にマナを集約させ、


「≪サンダーレインッ!≫」


 直後、上空から降り注ぐ大量の電撃が悪魔たちを襲う。


「「グァァアァアーーーーーーッッ!!!」」


 多くの悪魔たちの絶叫が響き渡る。


 広範囲の雷撃系中級魔法で、自分の周辺にいる者たちを数秒で一掃したのである。


「素晴らしいです! 恭介さま!」


『サンダーレイン程度の魔法をここまでの破壊力と広範囲で扱えるのは、恭介さまだけかとッ! 本当に素晴らしいお力にございます恭介さまッ!!』


 圧倒的な魔法の威力にヴァナルガンドとジェネが絶賛する。


「僕もようやく少しずつ、魔法の使い分けとかが上手くなってきたと思わない?」


 恭介がニコっと笑って問いかける。


「上手いどころか、世界一でございますよ、恭介さまッ!」


 ヴァナルガンドが主人の偉大さを感じ、尻尾をぶんぶんと振りながら喜びを表す。


「ふふ、ありがとう。さて、っと。堂々と侵入させてもらうか」


「はい! 行きましょう!」


 周りの悪魔たちを蹴散らし、恭介らはようやくデーモンパレス内部へと脚を踏み入れるのだった。




        ●○●○●




「大変です、ルシフェルさまッ!」


 アスタロトが血相を変えて、デーモンパレス最上階に位置する魔王の間へと入ってきた。


「どうしたアスタロト? 騒々しいぞ」


「申し訳ございません。しかし本当に大変な事がわかってしまいました。あの恭介とかいう少年なのですが、かのワイトディザスターの生まれ変わりなのだと言うのですッ!!」


「な、なんだと!?」


 ルシフェルもそのアスタロトの言葉には目の色を変えて反応する。


「じ、事実かどうかは不明ですが……ただ、その少年の素性が全くわからず、驚異的な力を持っているその理由が、ワイトディザスターの魂を受け継いでいるからかもしれない、と奴の仲間が言っておりました!」


「……まさか、アスタロトの『自動書記』が告げていたのは……」


「……わかりません」


「……ワイト……ディザスター」




 ルシフェルはついにデーモンパレス内部へと侵入してきた人族の少年に、伝説とまで言われる王、ワイトディザスターと重ね、畏怖するのであった――。






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