表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

174/242

百七十二話 3体の悪魔

 デーモンパレスを住処としているルシフェルの忠実なる部下である宰相(さいしょう)アスタロトは、数日前から警戒を怠らなかった。


 それというのも、彼女のユニークスキル『自動書記』が、奇妙な文面を書き出したからであった。


 先日捕まえたふたりの勇者を悪魔族化した時から、アスタロトはとある事を懸念していたのである。


 そもそも何故、勇者がデーモンパレスにいるのか、という事を。


 だからアスタロトは自身のユニークスキル『自動書記』に尋ねた。


 そして『自動書記』はこう答えたのだ。


 『強大なる王が攻めくる。それは異界の王。全てはその者が軸となり、巡る者』


 この意味を正確にはわからなかったが、君主であるルシフェルではない別の王たる存在が、このデーモンパレスを攻め入るのだろうと予測された。


 勇者たちが忍び込んでいたのも、そのせいかもしれないと考えたアスタロトは、対策を講じる事にする。


 それがデーモンパレス周辺を囲う幻惑結界だ。


 これによって、デーモンパレスに侵入しようとする者はその魔法に惑わされ、アスタロトに捕縛される。


 アスタロトの予測通り、ふたりの勇者の侵入後より次々とデーモンパレスには冒険者たちが侵入してきた。


 そして、兼ねてよりテストしていた『魔族化超変異(まぞくかちょうへんい)』の技法による実験を、その捕らえた者たちで繰り返した。


 その結果、『魔族化超変異』の技法のコツを習得したアスタロトは、ついに勇者たちをも魔族化する事に成功する。


 その後も次々と人族を魔族に変え、ルシフェルとアスタロトは自分らの眷属、仲間を増やしていったのだ。


 それというのも全ては、今日の日の為である。


「……ついに来たか」


 ルシフェルが鋭い眼光で、魔水晶を睨む。


「グラニスが手酷くやられて帰ってきてから数時間。奴が言っていた人族の子供とはこの者の事、でしょうか?」


 アスタロトがそう尋ねる。


「おそらくそうであろう。ここ数日、これまで手練れの冒険者どもが何人もこのデーモンパレスにやって来たが、この様な小さな子供は初めて見る」


「……しかしこんな子供が本当に戦闘能力700を超えるあのグラニスを倒したとは。あのレオンハートを遥かを超える強さを持っているというのに……」


「なに、人も魔族も見た目ではわからぬ。(わらわ)やお前も、この見た目に騙されてきた愚かな人族を散々に見てきたであろう?」


「そうでございますね。しかしこの人族の子供は一体……」


 アスタロトが見据える魔水晶。そこに映るは、ルシフェルたちには見たことのない少年。


「一見、ただの子供に見える。だが……」


 ルシフェルには予感がしていた。


 今の自分が世を統べるほどの力を持っているにも拘らず、いまだかつてない程の大きな戦いが待ち受けているであろう事を。


「……もう妾は油断はせぬ」




        ●○●○●




「……ロクサンヌッ」


 恭介は雪の積もる林道を駆け抜けていた。


 索敵に出していたロクサンヌに異常事態が起きた事を察知し、彼女の元へ急いでいるのである。


『恭介さま! 一体ロクサンヌに何があったんですか!?』


 体内に戻っているジェネが問いかけた。


「わからない……ただ、僕の名を呼んで、助けてと言っていた」


 恭介の耳に届いたロクサンヌの声は「恭介さま、助けて!」という言葉。


 恭介はエルモアが残してくれたユニークスキル『臆病者の術(チキンハート)』によって、意識を高めればかなり広範囲、遠距離の物音や声を聞き分ける事が出来る。


 だが、常時意識を張っておけるわけではないので、恭介はこのユニークスキルをいつの頃からか、自分の中でプログラム化していた。


 それは『恭介』という単語が放たれた際、そちらに『臆病者の術』のスキルが反応しやすい様にするという自動プログラム化だ。


 それから意識を集中して、聞き取れたのは「恭介さま、助けて!」だったというわけである。


『何か異常事態があったのは間違いないですね……』


「やはりジェネたちの様に、悪魔族と遭遇したと考えるべきか」


『そうかもしれません。……さきほど私が言いかけたのはその悪魔族たちの事なのですが、私が見た複数の悪魔族たちの戦闘能力はどれも、非常に高い数値だったんです』


「さっきも言っていたな。どのくらいなんだ?」


『……200前後です』


「1体あたり200近くあるのか?」


『はい。我ら六頭獣や勇者クラスの強さを誇る戦闘能力を持った悪魔たちが数十体もいたんです……』


 恭介は表情を強張らせた。


「それが事実なら、普通の冒険者や兵士たち、ちょっと強いくらいの奴じゃ、とてもじゃないが太刀打ち出来ないな。このパーティでようやくなんとか各個応戦出来るかどうか、ってところか」


『そうなんです。だからロクサンヌはその強力な魔族たちに見つかってしまったのかもしれません』


「……っくそ、失敗した。そんなに強い奴らがウヨウヨしてるなら、索敵なんか出すんじゃなかった」


『いえ、恭介さまの判断は正しいと思います。もし索敵を出さずにあのまま全員で進んでいたら、急に囲まれた時、対処が遅れるかもしれませんから』


「……無事でいてくれ、ロクサンヌ」




        ●○●○●




 ロクサンヌは怯えていた。


 索敵に向かった先で、信じられないレベルの戦闘能力を持った悪魔族3体と遭遇し、更にはその悪魔たちに見つかってしまったからであった。


「あぁん? なーんでこんなところにアンデッドがいやがんだあ?」


 体躯の大きな悪魔のひとりが不敵な笑みで近づく。


「……本当だ。アンデッドでもちょっと知性が高そうだね」


 もうひとりの悪魔が、凍る様な瞳でロクサンヌを見る。


「……アンデッド、か」


 更に別の寡黙そうな悪魔もロクサンヌに目をやった。


「……っく」


 ロクサンヌは3匹の悪魔に睨まれ後ずさる。気配は消して可視化レベルも最大まで下げたというのに、あっさりと見つかってしまった事に焦りを隠せなかった。


「なんでわかったの? って顔してやがんなあ」


 一番初めにロクサンヌを見た悪魔が、まるでロクサンヌの心を見透かすかの様に尋ねた。


「わかるに決まってんだろ? 俺たちはボンクラ悪魔じゃねえんだぜ?」


 その悪魔はニヤニヤと笑いながら言った。


「そう。僕たちはさ、ルシフェルの配下の中でもトップスリーって言われる悪魔だからね。アンデッド特有のマナくらい察知するのなんて造作もないよ」


 凍る様な瞳の悪魔が続けた。


「で、お前はなんで俺たちを見てやがったんだ?」


 ズンズンと迫り来る体躯の大きな悪魔に、ロクサンヌは視線を晒さず後退しながら、警戒する。


「べ、別に意味なんかないわよ。癇に障ったなら謝るわ。ごめんなさい! だ、だから見逃してくれない?」


 なるべく相手を刺激しない様に言葉を返す。

 

「いいや、お前は駄目だな。なーんか嘘ついてやがる。それになんかどっかで嗅いだ事のある匂いがすんなあ……」


 体躯の良い悪魔はロクサンヌの目の前まで近づき、


「……さては、恭介ってヤツの仲間か?」


 グリーンの髪色が特徴的な、禍々しい角と羽と尾を生やした悪魔が、そう問いかけた。




        ●○●○●




「とりあえずまずはグラニスたちに任せておきましょう」


 アスタロトが魔水晶を見ながらルシフェルに告げた。


「うむ。この子供の行く先はここ、デーモンパレスだろうからな。必ずグラニスたちと接触するだろう」


 ルシフェルも魔水晶に映されている恭介を見て、そう言った。


「しかしふたりの勇者と、あのグリニッド展望台にいた細身の魔法師の男は妙に小競り合いが続いていますね」


 アスタロトが不満げに呟く。


「こやつら3人共、元人族だからな。くだらんプライドが強いのだろう」


「本当、人族は下卑た考えを持つ者ばかりですね」


「全くだ。まあどちらにせよ、悪魔族化した者は妾には逆らえんがな」


「はい。意思では敵意を持っていたとしても、身体がルシフェルさまに忠誠を誓っておりますからね」


「うむ。その技法を極めたお前の技量には感服したぞ、アスタロト」


「もったいなきお言葉、ありがたき幸せにございます」


「……グラニス、シグルド、そしてクロフォード、と言ったか」


「はい」


「グラニスがこの子供に敵わなかったというのであれば、3人同時で戦わせてみてどうなるかだな。もしこやつらが負ける様な事があれば、妾が出向く」


「その様な事にはならない、とは思いますが、もしその時は私も必ずご一緒致します」


「うむ、今度は共に闘おうぞ」


 


 ノースフォリアのデーモンパレスにて、大きな戦いが幕を開けるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ