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百七十話 デーモンパレス突入目前

 恭介たちが温泉宿の『クサズの湯』を出てから、数時間後。


 ノースフォリアの雪景色を堪能しながら、恭介は可能な限り速度を上げて、雪雲に包まれている空を飛行していた。


「位置関係的にクサズの湯から少し北上した山間部に、そのデーモンパレスってのはあるんだったっけ」


「はい、恭介さま。アークラウスらはそう言っておりました」


 白い大きな羽根をはばたかせて空を舞う恭介のその肩に担がれているヴァナルガンドが答えた。


「ガノンの奴が幻惑系の結界って言ってやがったな。そうなると結界自体が目視不能な場合がある。デーモンパレスの建物が見え始めた辺りから、地表に降りて、徒歩で近づいた方がいいぜ」


 イニエスタがヴァナルガンドの背の上でそう言った。


「幻惑系の結界だと目に見えないのか?」


 恭介が問い掛ける。


「ああ。そもそも結界を幻惑系にする意味は、基本的に二つしかねぇ。ひとつは建物を隠す場合。これは建物自体を見られたくねぇ時に使う。だが、デーモンパレスは場所も知れちまってるから、隠す意味が薄い。となるともうひとつの意味、獲物を捕らえる為だ」


「獲物を捕らえる?」


「そうだ恭介。デーモンパレスになんらかの目的で近づく者を片っ端から捕まえる為だ。幻惑で混乱させ、そして捕らえる。倒すだけなら別のもっと攻撃的な結界にするべきだからな」


「なるほど。なんでそんな結界を張ったんだろうな?」


「……さてな。それはわからん。とにかくもうそろそろ降下してくれ。ぼちぼちデーモンパレスが見えてきたぜ」


「あの漆黒の城か。いかにもって感じだな」


 恭介は言われた通り、近くの林の中へと降下する。


「ふう、着地っと」


 恭介は雪の地表へ降り立ち、ヴァナルガンドたちを肩から下ろす。


「ありがとうございます、恭介さま! 今度は我の背に!」


 ヴァナルガンドがペコリ、と頭を下げ、今度は自分の背に乗る様に恭介の前へと屈み込んだ。


「いや、僕はいいからそのままエスとストレイテナーとレヴィを乗せてやっててくれないか?」


「御意!」


 恭介はそう言ってヴァナルガンドの頭を撫でてやった。


「何かあった時、ガンドに素早く動いてもらいたいからな」


「……なるほど、恭介さま。何か勘づかれましたか?」


「ああ。人型の足跡がな」


 ノースフォリアは全域において雪が止まない国だ。人里から程遠い場所はどこも新雪が降り積もっている。


 しかしこのデーモンパレスが視界に入る林の中で、真新しい人の足跡がいくつも見受けられるのだ。


「なあレヴィ。魔族ってのも大体は僕ら人族と同じ様な背格好なんだろ?」


「はい、恭介さま! 悪魔族と人族の違いは角とか背中の翼とか尻尾くらいですね」


 そう言って、レヴィアタンは小さな角と小さな羽と尾をぴょこぴょこと動かして見せた。


「はは。レヴィの角と羽と尾はいつ見ても可愛いな」


「あらぁ! 嬉しいです恭介さまあ!」


 レヴィが嬉しそうに尾を振る。


「となると、この辺にある足跡は魔族のものか?」


 恭介がぐるりと辺りを見回す。


「……おそらくはそうだな。しかしそうなると、結構厄介だぜ」


「厄介? どういう事だ、エス?」


「悪魔族ってのは基本的には魔物だ。だから知性が低い者も当然多い。しかし知性の低い悪魔族は二足歩行はしねえ。つまり、この辺一帯の悪魔族は知性の高い奴らばかりがいるって事だ」


「知性が高ければ、当然戦闘能力も高い、か?」


「ああ。おめえさんが、クサズの湯で戦ったっていうその悪魔族も、もしかするとデーモンパレスの関係者かもしれねえな」


「……そういえば」


 恭介はクサズの湯で戦った悪魔族の、グラニスの事を思い返していた。


 あの悪魔族は自分の事を『不敗の勇者』だと言っていた。


 そしてルシフェル、という名を呟いていた事も思い出す。

 

「あのグラニスって奴はルシフェルがどうこうだと言っていたな。そうすると、あの悪魔族は本当にここからやってきたのかもな……」


「そうなのか。だったら本当にそうかもな。しかしにわかには信じ難いぜ。まさか元人族の勇者が悪魔族に肩入れしてるなんてな」


「まさか……」


「ああ。俺様も恭介から話を聞いてるうちに、同じ事を思った。多分ルシフェルの奴は復活していて、そんでこの幻惑結界にかかる奴らを片っ端からてめぇの配下にしてやがるんだろうな」


 グラニスの言っていた内容から考えれば、イニエスタの予測はおそらく間違っていないのだろうと恭介も思った。


 そうなると、デーモンパレス内部に侵入する事はつまり、そのルシフェルらと戦闘になる可能性が高いと言える。


「……出でよ、ジェネ、マリィ、ロクサンヌ、フレデリカ」


 そう考えた恭介は、手のひらをかざし、体内にいる4体のアンデッドたちを具現化させた。


「「はい! 恭介さま!」」


 呼ばれて具現化された4体のアンデッドたちが笑顔で挨拶をした。


「お前たちを具現化した理由は、主に周囲の監視だ。可視化レベルを目一杯下げて、僕からあまり離れ過ぎない距離で、索敵を行なえ。もし敵を発見したら、気付かれない様にアンデッドの瞳で敵のステータスを探って、僕の元に報告してくれ」


「「了解致しました!」」


 4体のアンデッドが声を揃えて返事をした。


 彼女らアンデッドなら恭介と同じく『生物鑑定』の技法が扱える。それで敵の強さを調査させる狙いだ。


「索敵の際、自分に危険が迫ったらすぐに僕の名を呼べ。よほど遠くに行かない限り、僕がすぐ駆けつける」


「「はい!」」


 恭介には予感がしていた。


 ルシフェルというかつてレオンハートが倒したはずの魔族や、その眷属たちとの抗争になるであろうという予感が。


「恭介さま。何かあればすぐにこのジェネにご相談くださいね? あまりひとりで何もかも抱えすぎないでくださいね?」


「ああ。ありがとうジェネ」


 そう言って恭介は笑って、彼女の頭を撫でる様な仕草をした。


 そしてアンデッドたちは恭介たちを軸に散開して、周囲の警戒にあたった。


「……よし、僕たちもとにかく警戒しながら進もう」


 恭介はヴァナルガンドたちにそう告げて、自分が先頭に立って歩き始めたのだった。




        ●○●○●




 一方アドガルド城、ミネルヴァ王女の自室では。


「ミネルヴァさま! ありがとうございマス!」


 ニコラス王がそう言って、ミネルヴァに向かって頭を下げる。


「いえいえ、いいんですのよ。それにしても相変わらず、素晴らしいマナコントロールですわね、サキエル」


 ミネルヴァは笑顔でニコラス王の形をした、サキエルにそう言った。


「コレは素晴らしい素体デスヨ、ミネルヴァさま。俺がコレマデ操ってきた死体なんかより、よっぽど使いやすいデス」


「うふふ。ソレはよかったですわ。そのニコラスの身代わりの為に、あなたをなんとか奪還してきてもらったんですわ」

 

「この御恩、忘れませんヨ、ミネルヴァさま。それだけでナク、またコノ俺に遊びの場を提供してくださるのデスネ!?」


「ええ、そうですわぁ」


 ミネルヴァはニコっと笑う。 


「あなたには、ミッドグランドに出向いてもらいたいんですの」


「ナルホド! 俺が国を操ればヨロシイんですカ?」


「いえ、ミッドグランドはもうほとんど滅びてしまっていますわ。あなたには、ミッドグランドに残っている残党兵たちを信頼させて、アドガルドに転移させるお仕事をしてほしいのですわ」


「ミネルヴァさまの配下にさせればヨロシイんですネ?」


「……まぁそんなところ、ですわね」


「御意デス!」


 ニコラス王の格好をしたサキエルが、敬礼まがいのポーズを取る。


「……凄い……わね。本当に生きている……ニコラス王の様に見える……わ」


「ま、全くですな」


 レヴァナントとミロードが感心した様に呟く。


「うふふ。ニコラス王を完全に食べ切ってしまう前に、『デュプリケイター』で複製を作っておいて正解でしたわね」


 ミネルヴァは『デュプリケイター』のスキルについて何度かテストを重ねている。


 複製というのはその存在を造りあげるが、魂までを作ることは出来ない。なので、人や魔物、アンデッドを複製する時、それは死者でも生者でも変わらない。


 複製とはその名の通り、型だけを作るのである。


「ククク。コレは本当に良い素体デス。ニコラス王という知名度を、面白おかしく使わせてもらいマスヨ!」


「うふふ。私の命に反しない程度なら、サキエル、あなたのお好きになさってよろしくてよ」


 ミネルヴァの言葉にサキエルはニコラス王の顔を、満面の笑みに変えて喜んだ。


(……サキエル奪還、という名目が更に良い感じにカムフラージュになりましたわね)


 ミネルヴァは内心でほくそ笑む。


(サンスルードへの攻撃……これをきっかけにノースフォリアは私の手に落ちますわ)


 ミネルヴァ王女による、アドガルド軍強化方針は実に順調すぎる程に進んでいた。


 全てはミッドグランドとノースフォリアを自分のモノにする為の計画。


 全ては恭介と全力で戦い合う為の、下準備。




(……ひとつ気になるのは、恭介さんがいなかった事。果たして、今はどこで何をしていらっしゃるのかしらね)



  

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