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百六十六話 サンスルードを襲う脅威

 サンスルードの街、入り口付近を守る衛兵たちは、遠目に近づいてくるアドガルド兵たちと巨人の存在に、恐怖し、震えていた。


 このままではあの巨人に街は壊滅させられてしまうだろうと思った。


 だがしかし、それでも彼らはサンスルードの誇りを捨てない。


 敵わない相手だろうと、彼らは街の入り口を死ぬ気で守り抜くと決めていたのだ。


「……頼む……! 街に近づけさせないでくれ……第二陣の兵たち……頑張ってくれ……!」


 衛兵たちは祈る様に、前線で戦う彼らを応援するのだった――。




        ●○●○●




 アークラウスは自分の誤算を酷く後悔していた。


 斥候部隊に大きな戦力を集中させたとは言え、それでも第二部隊は元々サンスルードが保有している戦力プラスアルファなわけだ。決して、戦力不足なわけではないと踏んでいた。


 誤算だったのは、敵が合成して強化されるというまさかの事態を起こしたからである。


 こうなってしまえばもはや仕方がない。残る手段は、サンスルードの全兵力を集めて、ぶつけるほかない。


「ガノン殿。全兵力を街の外へ集めてもらっても良ろしいか?」


「はい。すでに手配済みでございます。もはやそれしか手はありませんからな」


「……すまない。まさか敵がこれほどまでの戦力を突然生み出すとは、完全に想定外であった」


「いや、アークラウス殿だけではないですぞ。私も同じ考えです。さぁ、そんな事よりも我々は出来る対抗をしましょう」


「……恭介王を呼び戻すべき、だろうか?」


「最悪はそれしかありませんな。全部隊の投入であの巨人を抑え、その間には精鋭部隊であるレオンハート殿たちが戻るでしょう。その彼らでもどうにもならなかったならば、恭介王を呼びましょう」


「それはかなり際どいところまで様子を見る、という事だな」


「恭介王らは先程、温泉宿を出たところでしたな……出来る限り、我らでなんとか対処しなければ我らの面目も丸潰れですから」


「……うむ、その通り、だな」




        ●○●○●




 ガノン大臣とアークラウスが迅速に動き、城と街にいる全ての兵士が緊急事態として集められた。


 その数はおよそ15000。


 だが、彼らはそのほとんどが下級兵士であり、一般人とほぼ変わらないレベルの戦闘能力でしかない。


 しかしそれでも物量として抑える壁としては充分であると考えた。


 ガノン大臣は兵士たちに、街へ迫って来る巨人兵をなんとしても近づけさせるなと、彼らに命をくだす。


 そして、街を守る為の第三陣が出兵したのだった――。




        ●○●○●




「う、うわぁ! く、来るなぁーーーッ!!」


 クライヴが率いていた第二陣はほぼ壊滅状態にまで追い込まれていた。


 リーダーであるクライヴもヒューマゴーレムに丸飲みにされてしまい、多くの仲間たちが無残に散っていく。


 その様子を見て、戦意喪失する者も増加していった。


「ひ、ひいぃいいいぃーーーッ!」


 そして今まさに、ひとりのギルドから参加した義勇軍の青年が、その命を終わらせようとしていた。


 ついに自分の目の前にまで現れてしまった巨人の化け物と相対し、全身がすくみ上がって震えてしまっている。


「サンスルード兵はぁあああ……」


 ヒューマゴーレムがその青年に手を伸ばす。


 青年は自分の命はこれまでか、と覚悟を決めた時。


 ドドドドドドッ! と、ヒューマゴーレムに向かって無数の魔法が撃たれた。


 その魔法は青年の背後から止む事なく、ヒューマゴーレムに放たれ続ける。


「……ああ!」


 青年が背後を見ると、そこには街を覆い隠さんとする程の無数のサンスルード魔法兵が横方向一列に並び、一斉に攻撃魔法を放っていたのである。


「サンスルード城下町への侵攻は、この私、フィーネが率いる、我々サンスルード魔法兵団が死守するッ!」


 魔法兵団の女団長であるフィーネが声をあげる。


「打ち方を止めるな! ガドリング式に魔法兵を入れ替えて行けッ!」


「「了解ッ!!」」


 団長のフィーネが言う通り、魔法兵団はひとりが数発打ち込むと次のメンバーへと素早く入れ替わり、魔法を再び放つ、というサイクルを繰り返し、ヒューマゴーレムへの攻撃が止まない様に続けた。


 彼らサンスルードの魔法兵団は、下級兵の中でも魔法が扱えるという点でいくらか優秀だ。しかしその威力はマナ量の少なさゆえに知れている。


 そんな彼らでもその物量で、ヒューマゴーレムの足止めをしようと目論む。

 

「きょ、巨人の化け物が……立ち止まっている!」


 ヒューマゴーレムの目の前にいた青年が、僅かな希望を見出す。


 だが、それもほんの少しの間に過ぎなかった。


 ヒューマゴーレムは、再び動き始めたのである。


「何をしている、そこの青年! 早く逃げろ!」


 魔法兵団の団長、フィーネが叫んだ。


 言われた通り、青年は巨人に背を向けて逃げ出そうとしたその時。


「……え?」


 青年は突然夜になってしまったのかと勘違いした。


 だが、それがヒューマゴーレムによって作られた影である事をすぐに理解する。


「……ッッ!!」


 青年は絶句した。


 巨体を誇るヒューマゴーレムが、軽々と宙を飛んでいる事に。


「なッ!? ぜ、全軍、回避しろーーッ!」


 まさかのヒューマゴーレムの跳躍に驚き、フィーネが叫ぶ。


「か、回避間に合いませ……うわぁぁぁぁーーッ!!」


 だが、その指示による回避行動よりも早く、ヒューマゴーレムは魔法兵団の人々の真上に降り立った。それも、全身を大きく広げてうつ伏せの形で、のしかかる様に着地したのである。


 プチプチプチッ! と、まるで人が虫の様に何人も潰され圧死した。


「に、逃げろ! 奴から距離を取って魔法攻撃態勢を整え直すんだッ!」


 かろうじてヒューマゴーレムに潰されなかったフィーネが再び叫ぶ。


 兵士たちは、その指示通りヒューマゴーレムから急いで距離を取って逃げようとした。


 しかし。


「ぎゃああああーーッ!!」


 ヒューマゴーレムはすぐに起き上がり、周囲の魔法兵たちをその巨大な腕や足で薙ぎ払い、掴み、殴り、あるいは飲み込み、と、大暴れをして多くの兵士たちを次々に殺していく。


「く、くそ! この巨人の化け物1体さえなんとかすれば……ッ!」


 フィーネが悔しそうに呟く。


 だが、直後。その絶望は更に加速する。


「た、大変ですフィーネ団長!」


 ひとりの魔法兵団下級兵の女が、震えながらフィーネに告げようとしたが、すでにフィーネも理解していた。


 なぜなら、下級兵の女が見ている先とは別方向に、同じ現象を見ているからである。


「なんて……事だ……」


 フィーネの見据えるその先。


 そこには、絶望的な強さを持つヒューマゴーレムが、更に4体も増えていたからであった。


「……サ、サンスルードは終わりだ……」


 そう呟き、フィーネは膝から崩れ落ちて、死を覚悟した。




        ●○●○●


 


 ――アドガルド城。


「くっふふふ! 想像以上の戦闘能力ですわね、このヒューマゴーレムは!」


 ミネルヴァは実に楽しそうに笑った。


「全くですな! いやはやミネルヴァさま! このヒューマゴーレムはカスみたいな人族を100体ほど使うだけなのでコストパフォーマンスも実に素晴らしいですッ!」


 ミロードも瞳を輝かせ、歓喜する。


「そうなんですの。クラグスルア、あなたはさすがよくわかっておりますわね。重要なのは費用に対する効果なのです。それがこのヒューマゴーレムは実に優れていますわ。ただし問題なのは、私の『コンポジッション』では一度の合成はひとつの素体に対して100体が限界で、更に1日に合成できる最大数がトータル500体が限界、という事ぐらいですわね」


「いやいや、王女さま。それでも充分過ぎますぞ! 5体ものヒューマゴーレムだけでも一国を落とすのに充分すぎる戦力です!」


「うふふ。たったの1体で戦闘能力1000を超えているんですものね。下手な勇者の何倍も強いのは魅力的ですわ」


「その通りですぞ! 『デュプリケイター』と『コンポジッション』はとてつもないスキルでございます!!」


「ええ、本当ですわね。わざわざたくさん喰らってきた甲斐があるというモノですわ」


 ミロードがその言葉を聞いてごくり、と唾を飲み込む。


「や、やはり何者かのユニークスキルなんですな?」


「少し、違いますわね」


 ミネルヴァ王女はニッコリと微笑み、


「このスキルは、おそらくユニークスキルとは少し違いますわ。言うなればこれは、この世の摂理の外側から授けられたスキル。強いて言うなら『エクストラスキル』とでも言い表すのでしょうか」


「え、えくすとら……スキル!?」


「うふふ。『エクストラスキル』の持ち主はこのオルクラには存在しないんですのよ? ですから、ユニークスキルよりも唯一無二のスキル、なんですわ」


「そ、それは一体……!?」


「私もね、このスキルが誰のものだったのか、もはやわからないのですわ。たまたまこれがユニークスキルではないのだと言う事がわかったに過ぎないのです」


「ゆ、ユニークスキルではないスキル……わ、私めにはさっぱり何が何やら……」


「あら、ごめんなさいクラグスルア。あなたには理解できませんわよね」


「は、はい。申し訳ございません……」


「いいんですのよ」


 ミネルヴァはそう言って、瞳を閉じた。


(……おそらく、私が喰らった者に異世界転生者がいたんでしょう。きっとこれは、その方たちのスキル。そう考えると、この世界には少数とはいえ恭介さんや私の様な方が他にも存在していると言えますわ。これは一体どういう事なのか……神々の手のひらで遊ばれてる、とでも言うのでしょうか)


 そしてミネルヴァは笑う。




(くふふふ……面白いですわ。神々の遊びだと言うのなら、とことん付き合って差し上げますわ……)






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