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百六十話 おっぱいがいっぱい

「……なんか視線を感じるわ」


 不意にストレイテナーが呟いた。


「ん? 何よ? 敵?」


 湯船の中で隣にいたレヴィアタンが尋ねる。


「敵というか……なんだかとても禍々しい気配を感じる……」


 ストレイテナーは男湯とのしきり壁の方を見上げる。


「ふーん?」


 レヴィアタンが不思議そうな顔でストレイテナーと同じ方を見上げた。


「ところでお前って……無駄にデカいわね……」


 レヴィアタンがストレイテナーの胸部を睨み付ける。


「え? なんの話?」


「……別に」


 レヴィアタンはぷいっと顔を背けた。


「え、何々? なんの事? 教えてレヴィアタン」


「なんでもないわよ!」


「教えてよ? 気になるじゃない!」


「別になんだっていいでしょ!」


「嫌よ! 私は気になったらとことん教えてもらわないと気が済まないんだからッ!」


「だから大した事じゃないってば! 放っておいてよ!」


「そういうの駄目なのよ! 放っておいてなんて言われたら余計に放っておけないの! 悩みがあるならなんでも打ち明けて欲しいの! 私に出来る事ならなんでもするわ!」


 ストレイテナーはぐいぐいとレヴィアタンの顔に迫っていく。


「うざッ!? ……っく、な、なんでこの女、こんなに圧が強いの!?」


「私は嫌なの! あなたがさっきからひとりで悩んでる様に見えたの。だから力になりたくて……」


 ストレイテナーは真摯な瞳でレヴィアタンの目を真っ直ぐに見据える。


 それとは打って変わって、レヴィアタンが見ているのはストレイテナーの胸部にある大きな肉塊の膨らみだ。


 ストレイテナーがぐいぐいと押し寄せてくるので、その大きな肉塊が先程からレヴィアタンの身体に当たっていて、余計にイライラしている。


「うぐぐ……わ、わかったから離れなさいよ、この童顔不釣り合い女……!」


 レヴィアタンが煽り気味にそう言うと、


「童顔不釣り合い女? 童顔なのは認めるわ。よくイニエスタさまにも顔が幼いって言われるもの。でも不釣り合いって何? 私の童顔に不釣り合いな何があるって言うの!?」


 ストレイテナーは更に必死な表情でレヴィアタンを追い詰める。


「うざァー!? お前、わざとやってんの!? さっきから当たってんのよ! お前の不釣り合いなソレが!」


「だから不釣り合いって何よ!?」


「っく! う、うざい……は、早く離れて……!」


 レヴィアタンが必死に抵抗すればするほど、ストレイテナーは異様な圧で迫る。


「だから教えてって! 私の何が気に入らないの!?」


「……〜〜〜ッ!!」


 レヴィアタンのイライラが頂点に登りかけたその時。


「キャァアアーーッ!?」


 突如女湯に響く、絶叫。


「どうしたの!?」


「何事!?」


 ストレイテナーとレヴィアタンはそう言いながら、そちらへ振り返る。


「あ、あ、あれ……」


 マリィがしきり壁の方を指差す。


「禍々しい正体ってまさか……」


 レヴィアタンが呆れた様に呟く。


 そして女湯にいた全員がそちらを見ると。


「……やべえ」


 と呟くイニエスタがいたのである。




        ●○●○●




 ――数分前。


 イニエスタは天にも登りそうな上機嫌で、最高の絵面を愉しんでいた。それはもう、最高に愉しんでいた。


「はあ……はあ……た、たまらねえ」


 興奮によって顔を紅潮させ、薄ら鼻血を垂れ流しながら、変態馬鹿面丸出しで女湯を眺めていたのである。


「テ、テナーのヤツ……結構デカくなりやがったな……」


 イニエスタはストレイテナーの艶かしい身体を舐め回す様に見ていた思うと、


「おお……ア、アンデッドたちも皆良い身体してんじゃねぇか……」


 今度はジェネやマリィたちの身体を堪能する。


「ジェ、ジェネちゃんは……や、やっぱり可愛いな……こぶりの胸がまたそそられる……はあ……はあ……」


 イニエスタは一番お気に入りのジェネを凝視し、呟く。


「恭介のおかげで……俺様もアンデッドを見る目が変わったとつくづく思うぜ……。前まではアンデッドなんか見ても、化け物にしか見えなかったからな……」


 イニエスタはジェネを優しく変態的な目で見た。


「……くそ、それにしてもこの温泉、ちっと湯気が濃いな。よく見えねぇ……」


 と、その時。


 風の流れで湯煙が少し晴れた瞬間、ちょうどジェネが立ち上がってマリィを追いかける様な仕草をした。


「うおお!? も、もうちょっと乗り出せば下半身の方まで丸見え……」


 イニエスタが興奮して、しきり壁の上の方から身を乗り出した瞬間。


「おわ!?」

 

 バランスを崩し、そして。


 ドサっと、見事に女湯側に落ちたのである――。




        ●○●○●




「……と、まあそんなわけで、こっちで起こったトラブルは、エスが女たち全員にボコボコにされたくらいかな」


「はっはっは! なるほどなるほど。それはイニエスタさまの自業自得ですな」


 恭介はマナトーンクリスタルでガノン大臣に連絡を取っていた。


 恭介もガノン大臣から連絡手段用にとマナトーンクリスタルのひとつを渡されていたのである。


「で、ガノン。そっちは大丈夫なのか?」


「アドガルド軍との戦いは先程より始まっておりますが、斥候部隊は問題ないでしょう。しかし、なんにせよ不確定要素が多すぎますな。ミネルヴァ王女の狙いもはっきりしません」


「この前のレヴァナントの件もある。僕もいないし、油断だけはするな。もしどうにも手に負えなくなったらすぐに連絡しろ。レヴィアタンを使ってそっちに緊急転移するからさ」


「っは。ありがたきお言葉にございます、恭介さま」


「……しかし驚いたな。まさかアンフィスバエナたちもサンスルードにやってきていたなんてな」


「我々も驚きましたぞ。アンフィスバエナと言えば、サンスルード王国でも災厄と恐れられた真紅のドラゴン。てっきりサンスルードの街を破壊しに来たのかと肝を冷やしました」


「ははは。まぁアイツはそんなに悪いヤツじゃないから、僕が帰るまで大人しくしておけって伝えておいてくれ。それとクルポロンにグリモアの予言書の事については聞いてみたか?」


「いえ、まだでございます。素性もはっきりしない者でしたので、安易に尋ねるべきではないと思い、恭介王の判断を確認してからが良いと思いました」


「さすが慎重だな。まぁでもそれでいい。クルポロンには僕が帰ったら直接聞いてみよう。僕ならどんな相手の虚実も見抜けるからな」


「よろしくお願い致します。それと恭介王らがノースフォリア遠征に行く前に行なった、スキル鑑定士からの結果もわかりましたぞ」


「お、そうなのか! じゃあ僕やジェネのユニークスキルについても明確になったのか?」


「はい。些かあやふやなものもありますが、だいたい判明致しました」


「その資料を僕に送れるか?」


「書簡にして、伝書鳩に届けさせましょう。イニエスタさまの匂いを辿って追跡するので、どこにいても届くかと。かなり速い鳩なので、恭介さまたちがそちらに着くまでに要した時間よりも早く届くと思われます」


「わかった、助かる」


「……それとひとつ前々から懸念している事がございます」


「なんだ?」


「治癒師についてです。我が国には元々王宮専属のヒーラーが少ないのです。そして恭介さまの配下である『ナイツオブグロリア』は我らがサンスルード王国における最強のメンバーではありますが、その中に優れたヒーラーがいないのがネックだと感じているのです」


「ヒーラーか……確かにいないな」


「ミリアさまやフェリシアさまが多少簡単な回復魔法を扱えますが、あれではいざと言う時に役に立ちません。そこで恭介さまにお願いがございます」


「なんだ?」


「その温泉宿『クサズの湯』の従業員として働いている古竜族のひとりに、ディースという名の女性がいたと記憶しているのですが、彼女を恭介さまの配下に加えて欲しいのです」


「ディースという人は凄いヒーラーなのか?」


「はい。ノースフォリアと悪魔族との争いの時に、多くの人々を救った英雄とも評されるほどの治癒師だと聞いております。以前、私がノースフォリアに居た時、風の噂でその高名なヒーラーがクサズの湯で働いていると聞いたのです」


「なるほどね。わかった、今から古竜族の女将さんに聞いてくるよ」


「お願い致します。彼女は古竜族にしては珍しい金色の美しい髪の毛をしているので、すぐわかると思います。それと恭介さま」


「まだ何かあるのか?」


「……湯は堪能出来なかったかもしれませんが、そこの宿は肉料理が絶品でございます。そちらをぜひ愉しまれてください」


 ガノンは知っていたのだ。


 恭介が熱耐性によって、温泉を楽しむ事ができないであろう事を。


「……ふふ、そうか。ありがとう、ガノン」


「いえいえ。それではイニエスタさまにくれぐれも女の尻に敷かれて殺されぬ様お伝えください」


「ははは! わかったよ、お前たちも無理はするなよ」


「はい、それでは失礼致します」


「ああ。またな」


 恭介はそう言って、マナトーンクリスタルでの通信を終える。


「さて……ディース、か。すぐに説得できればいいけど」




 恭介はガノンに頼まれたヒーラーを仲間にすべく、古竜族の女将の元へ向かうのだった。






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