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百五十九話 温泉ぱにっく!

 アンデッドは生物に触れる事は出来ないが、生物ではないものに触れる事ができるのが、この世界、オルクラのシステムであり、ルールだ。


 それはつまり、ジェネたちアンデッドも温泉に入って温まる気持ちよさを体験する事が可能、という事でもある。


 温泉宿に到着しイニエスタたちの回復が済んだ後、皆で温泉に入る準備を始めた時、ジェネたちも温泉に入りたいと騒ぎ始めた。


 恭介もたまには外に出してやるか、と考え彼女らを具現化し、そして男人族2名、メスの魔獣族1名、女アンデッド4名、女人族1名、女悪魔族1名の計9名が温泉を堪能する事となった。


 恭介の体内にいるアンデッドたちは恭介の体内にいれば幻惑に掛かる事はないだろう、との事だったので、本来ならジェネたち4名のアンデッドは温泉に入る必要性はなかったのだが、もしなんらかの事情で具現化して行動する可能性も考えれば、全員で温泉に入る事自体は特になんら問題はない。


 もしあるとするならばそれは、余計な『とらぶる』くらいである。


「恭介。俺様は漢としてやらねばならん事がある」


 そしてその余計な『とらぶる』の発端となるだろう発言をしたのは、イニエスタである。


「……エス。僕はお前の事をある程度わかってるつもりだ。お前は嘘をつく様な卑怯者ではないし、狡賢い性格でもない。心意気の気持ち良いヤツだ」


「おうおう、わかってるじゃねーか、恭介!」


 イニエスタは満面の笑みで頷く。


「そんな僕のお前に対する評価を下げたくないからこそ、あえて聞く」


 恭介は呆れ顔で瞳を閉じる。


「お前のやらねばならん事、というのはまさかとは思うが、覗きか?」


「うむッ!!!」


 イニエスタは温泉の露天風呂から、腕を組んで勢いよく立ち上がり、仁王立ちで大きく頷いた。


「……(ゴミクズを見る様な目)」


「おい、恭介! 黙って汚ねぇものを見る様な視線で俺様を見るんじゃねぇ! ヘタに罵られるより、傷つくだろうがッ!?」


「いや……だって実際そうだし」


 恭介が大きくため息を吐きながら呟く。


「おいおいおいおい!? なんだよおめぇさん、つれねぇじゃねぇかよォオ!?」


「いや……つれないって……僕はそんな馬鹿じゃないから……」


「うぉおおおおおおおおおおおおおおい!?」


 恭介の冷め切った回答に、イニエスタが半狂乱気味に叫ぶ。


「おいおいおいおい! おめえ気は確かか? 確かですか!? 確かなのですかッ!? この薄っぺらい壁の向こう側にゃあ男の夢が詰まってんだぞ!? わかってんのか!? ぁあ!?」


「いや、男の夢って(笑)(かっこわらい)


「待て待て! かっこわらい、とか言葉に出してまで言うんじゃねぇよ! っつーか恭介、おめぇなんて、女の裸に興味津々青春真っ盛りのお年頃だろうがよ!?」


「いや、青春真っ盛りって(笑)(かっこわらい)


「やめろやめろ! その、かっこわらい、って言うのを語尾に付けんのをやめろ! なんかすげぇムカつくから!」


「はは、ごめんごめん(笑)(かっこわらい)


「……っぐ! きょ、恭介! おめぇは女の子が好きじゃねえのかよ!?」


「いや……今はそんな事言ってる時じゃないだろ。僕らにはやる事があるし、女の子どうこうっていう暇なんかないだろ」


「おい、恭介。おめぇさん、別世界から転生したって言ってたよな。転生前の歳はいくつだったんだ?」


「……二十二だけど、それがどうした?」


「そうか、立派な大人だな。そんじゃこんな格言を知ってるか? 『英雄、エロを好む』」


「いやいや! 英雄が好むのはイロだろ?」


「ちっげーよ、馬鹿。英雄はすべからくエロを好むって昔から相場は決まってんだよ!」


「いや、すべからくって……そんなわけないだろ」


「いやいや、いやいや、って、おめぇはさっきから否定ばっかりしやがって! くそ! もういい! こうなったら俺様ひとりで見るもん!」


 イニエスタは半泣きでぷんぷんしながらそう言うと、恭介らに背を向けて、女湯の壁の方へズンズンと歩いて行ってしまった。


「……イニエスタっていいヤツだけど、たまに本当に馬鹿だよなあ」


 恭介は呆れながらも、笑いながらイニエスタの様子を眺めているのだった。




        ●○●○●




「えっと……逆に聞きたいんですが、ジェネさんはむしろ、なんでそんなに胸が小さいんですか?」


 一方女湯では。


 マリィがまるでジェネに辱められた仕返しとでも言わんばかりに、言葉攻めの逆襲に転じていた。


「だ、だだだだ、だぁーれがちっぱいですか!? 誰がぁーーーッ!?」


 ジェネが顔を真っ赤にして、怒っている。


「なんだろう……ここではないどこかで、私たちではない誰かが、同じ様なセリフを言っていた様な気がするわ……」


 ストレイテナーはジェネたちの言い争いを見て、誰に言うでもなく遠目でやや()()()()()()を呟く。


「……胸の大きさなんかで、女の価値は決まらないわ」


 そしてレヴィアタンは身体を隠す様に湯船の中に口まで浸かって、ぶくぶくと泡を吹きながらポツリと呟く。


「ふわぁ……まるで天国に登りそうな気分ですわねえ、ロクサンヌさん」


「ほんと、気持ちがいいわね! ……けどフレデリカ。天国に登る気持ちって言うのは、私たちアンデッドがセリフにしたらシャレにならないわよ」


 フレデリカとロクサンヌも温泉の香りと温もりを、気持ちよさそうに堪能している。


 当然だが、アンデッドたちも温泉の中では裸である。


 アンデッドたちが恭介に具現化させたもらった後の装いについては、自身の可視化レベルとマナコントロールで衣服を好きな様に変化できる。


 服を着ている格好で風呂に浸かるのは風情に欠けるとわかっているので、アンデッドたちは服の具現化を解除しているのだ。


「お前にはわからないでしょうけど、この身体はですねぇ、私と恭介さまの、言わば愛の結晶なのです! ふたりの愛の力が創り得た具現体なわけですよ!」


 ジェネは勝ち誇った様に胸を張って、マリィへと言い放つ。


「そう、なんですか?」


 マリィは不思議そうな顔でジェネを見上げる。


「うーん、それってよくわからないわね……? 私たちアンデッドの具現化って、自分の生前の姿をそのまま投影するんじゃないのかしら?」


 ロクサンヌがマリィの代わりに、怪訝な表情で答える。


「……私はお前たちと違って、100年以上も前からアンデッドをやってたんですよ。元の身体の記憶なんて、とっくに忘れてしまったんです」


 ジェネがそう言うと、


「そういえばそうよね。ジェネラルリッチってウチやサラマンドラ姉さんより古くからワイトディザスターさまに仕えていたみたいだし。あんた、アンデッドになってからどのくらい経ってるの?」


 レヴィアタンが尋ねる。


「私も、もうよく覚えていません。最近は特に昔の記憶が薄れてて……。でも私にとったら今が大切ですからそんな事、全然関係ありませんけどね! 恭介さまと一緒にいられる今がとても幸せなのですから!」


 ジェネが満面の笑みで答えると、


「じゃあジェネさんって、やっぱり私たちの中で一番お年寄りなんだねッ!」


 と、マリィが声を大にして言った。


「だ、だだだだだだ、誰がババアだぁあああああーーーッ!?!?」


 ジェネがついに発狂する。


「あーん。ロクサンヌさーん、フレデリカさーん。ジェネさんが怖いですぅー」


 マリィがからかう様に、ロクサンヌたちの元へと逃げる。


「待てやゴルァ! ちっぱいだとかババアだとか、いい加減許さねぇですよ! その具現体だけ、苦しめて浄化してやらぁああああーーーッ!!」


 そんな風にアンデッドたちが騒いでいるのを横目に、ストレイテナーがレヴィアタンの事をジッと見ていると。


「……何?」


 レヴィアタンが怪訝な表情でストレイテナーを見返す。


「あ、えっと……その」


 ストレイテナーは言いづらそうに口籠る。


「何よ? なんか言いたい事でもあんの?」


「その……レヴィアタン、あなたって、水と氷の化身とも言われる六頭獣なのよね? こんな熱いお湯に浸かって平気なのかな、と思って……」


「あー、これくらいならウチでも全然余裕よ。マグマやサラマンドラ姉さんが放つ様な業火でもなければ、大した負担でも無いわ」


「そ、そうなのね!」


「……? そんな事が聞きたかったの?」


「あ、え、えーと……」


 ストレイテナーは再び言い籠る。


「何よ? 言いたい事があるならはっきり言いなさいよね」


「えっと……その、あなたも恭介の事が……その、好き、なの?」


 ストレイテナーからの質問に思わずレヴィアタンは、身体を一瞬硬直させた。


「……だ、だったらなんだって言うのよ!?」


「あ、いえ……不思議だなぁ、って思ってたの。あなたたち六頭獣は皆、なんで恭介の事をそんなに慕うのかしら? 恭介がワイトディザスターの生まれ変わりだという証拠も何もあるわけじゃないのに……」


「……お前たち人族にはわからないと思うわ。ウチたちにとってワイトディザスターさまは最愛を捧げた最も崇拝すべき相手だからね。もし、ワイトディザスターさまの名を謀った愚か者なら、すぐにダスクリーパーさまから天罰が降るでしょうし」


「つまりダスクリーパーが手を下さないからこそ、それが逆に証拠になってる、って事なのね。だからあなたたちは恭介の事をそんなに好きなのね」


「……それだけじゃないわ。ジェネラルリッチたちもそうだと思うけど、ウチも一緒にいればいるほど伝わってくるの。恭介さまがウチたちに分け隔て無い愛を向けてくださってるのをね。だから、ウチたちは恭介さまに惹かれてるのよ」


「……そっか。それは……少しわかるわ。私も恭介の人柄や強さは素直に凄いと思うし」


「……いや、お前は人族なんだから、ウチたちの恭介さまに惹かれないで欲しいわね」


「うふふ。でもレヴィアタン、恭介にはライバルが多いんじゃない?」


「だからお前たち人族と同じ様に考えないでよ。恭介さまはウチたち皆を愛してくれるから、それで良いとウチは思ってるんだから」


「そっか。ふふ、ごめんなさい」


「だいたいお前は、イニエスタって人族の王を好いているんでしょ? さっさとまぐわって、イニエスタの子でも宿せばいいんじゃないかしら?」


 レヴィアタンの煽りにストレイテナーが真っ赤になって慌てる。


「な、ななな!? そ、そそ、そんなハレンチな事、イニエスタさまはしないわよ!?」


「ハレンチって今日び聞かないわね……」


 ストレイテナーとレヴィアタンも普段話せない様な内容で盛り上がる。


 ちなみにヴァナルガンドはすでに湯船にはいない。


 どうやら長い時間、湯に浸かるのが苦手だったらしく、ひと足早く風呂場から宿の中へと戻っていたのである。


 ヴァナルガンド以外の乙女たちは、しばらくたわいもない会話に華を咲かせていた。





 そして、そんな乙女たち6名をとある視線が見ている事になど、まだ誰もが気づいていなかった――。




 



 

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