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百四十四話 ナイツ・オブ・グロリア

「アドガルドの軍がサンスルードの戦争領域に入るのは、あと三日くらいか。サラマンドラたちは間に合いそうか?」


 サンスルード城の大会議室で、アークラウスが尋ねる。


「距離的には、あと一日もしない内にペルセウス殿とシリウス殿たちがサラマンドラを連れてきてくれますでしょう」


 ガノン大臣が頷いて答える。


「まぁフェリシアちゃんの情報の感じだと、俺ひとりでも余裕な気がするけどねー」


 レオンハートが椅子で船を漕ぎながら笑う。


「整えられる戦力は整えておき、恭介王が戻られるまではこのサンスルードをしっかりお守りしなければならん」


 アークラウスの言葉に、皆が頷く。


「ではペルセウス殿たちの帰還に合わせ、明後日の夜明けと共に精鋭の斥候部隊のみでアドガルド軍を叩き、大きく戦力を削いでおく。その後、サンスルード兵で迎撃するという流れでよろしいですかな?」


 ガノン大臣のまとめに全員が頷き、


「それで問題はあるまい。俺の方も何体か召喚獣を用意できた。斥候部隊と共に戦ってくれるだろう。召喚獣たちの指揮はフェリシアに任せる」


 アークラウスがそう言った後、ウィルヘルミナが席を立ち、


「私の方でもサンスルードのギルドから多くの優秀な義勇軍が集められたぜ。こちらも手練れの冒険者たちがすでに城にスタンバイしている」


 そう続けた。


「……ギルドの一部は俺や恭介さまやストレイテナーを指名手配してるって話だったけどそれは?」


 レオンハートはこの前のギランとツヴァイクの言葉を思い出していた。


 しかしウィルヘルミナはニコッと笑い、


「それならもう大丈夫だぞ。先日のレヴァナントの奇襲があった日より、我が国のギルドは他三カ国のギルド協定から離脱、独立し、完全にサンスルード国内だけの冒険者ギルドとなったからな」


「そっか。それならもう俺たちを狙ってくる様な輩は国内じゃ出ないかな?」


「まず、それはねぇはずだぜ」


「それはそれでつまんないけどね。そう言えば俺も一応アドガルド冒険者ギルドに名前入ってたけど、そういうのどうなってるんだろ?」


「各ギルドから指名手配されてるのなら、もうギルドから名前は抜けているだろうな。どちらにせよレオンハート殿はもう我がサンスルード国の重要な戦士だ。気にする事なんかねぇよ。出来れば私らの王国騎士団長を引き受けて欲しかったところだったけどな……」


「俺、そういう硬いの嫌いだからね。適当になっちゃうだろうし」


「この前もそう言っていたな。まあレオンハート殿は一騎当千の戦力であるし、そもそも恭介王に宣誓している者は私も信用しているぜ。ま、代わりと言っちゃあなんだが、我が国の兵士たちの指揮を上げる為にも、貴公ら恭介王の直属の部下には『ナイツオブグロリア』という特命地位を与えたけどな」


 ウィルヘルミナの言葉に、


「ウィルヘルミナ女王代理のその特命地位は確かに、サンスルードの兵士たちや民にとって良い刺激になっている」


 と、アークラウスが頷いた。


 先日発足され、急遽制定された特命地位『ナイツオブグロリア』は、恭介に宣誓した者ら全員の、サンスルード王国における集団の別名である。


 この『ナイツオブグロリア』は、勇者の称号を持つレオンハートやストレイテナーは当然として、ペルセウスやシリウス、クライヴやミリアなどの人族の他、ヴァナルガンドやジェネたち六頭獣、また他のアンデッドたちもそのカテゴリに含まれている。


 レヴァナントの襲撃後、街の復興の手伝いや危険な魔物討伐などなんでも請け負い、この『ナイツオブグロリア』は瞬く間にサンスルードの国中に知れ渡った。


「俺は恭介さまと楽しめればなんでもいいけどね。そのナイツオブなんちゃらって肩書きはどうでもいいや」


「レオンハート殿らしいな。でもまぁそう言うな、ウィルヘルミナ女王代理のその案は、国をまとめる者としては必要な流れでもあるのだからな」


 アークラウスがそう答えた。


 ウィルヘルミナはイニエスタがいない時の代理を常に務めていただけあり、今現在も恭介の代わりに王としての仕事をきっちりこなしている。


 口調は兄のイニエスタの影響なのか、ぶっきらぼうではあるが、実に真面目な性格であり、イニエスタに並んで高い能力を有しているのだな、とアークラウスは常々感心していた。


「……俺たちみたいな、ちんけな冒険者崩れもその『ナイツオブグロリア』ってのに名前が連なってるんだと思うと、なんだかくすぐったいがな」


 クライヴは笑いながら言った。


「本当だよ。私たちみたいなただの冒険者が……気づいたらそんな国の特命地位とか……務まるのかな……」


 対してミリアは困惑した顔で、答える。


「クライヴ、お前たちは随分変わった。俺から見てもそう思う。恭介王もそう思っているからこそ、お前たちをここに置いてくれているのだと思うぞ」


 アークラウスが甥っ子でもあるクライヴを見て、そう言った。


「……何度も死に掛けたら人生感変わっちまったのかもな。それに恭介王にはだいぶ迷惑掛けて、おまけに命も散々救われちまったからな……申し訳なさ半分、ありがたさ半分ってところだな」


「俺は正直言って、アークラウスの家系でもお前は最底辺のクズだと思っていた。ろくでなしのお前など、どのように死んだとしても、どうでも良いくらいに思っていた。だがやはり、今となってはお前がそういう風に変わってくれた事、血縁者として俺は嬉しく思うぞ」


「っへ、悪かったなぁアークラウス家の面汚しでよ。どーせ俺にはスレイン叔父さんみたいな商才も呪術の才能も恵まれてねーよ」


「……っふ」


 アークラウスとクライヴは互いに笑った。


「……私めはクライヴ坊ちゃんが逞しくなられて、本当に嬉しゅうございますぞ」


 シルヴェスタも笑顔で呟く。


「そういえば会議の延長上で聞いておきたい事がある。クライヴ、お前はそもそも何故、恭介王と知り合っていたのだ?」


「あぁん!? そこから話すのかよ!?」


「気になるではないか。その辺の経緯はキチンと聞いた事がないからな」


「俺も聞きたーい。クライヴくんたちはどうして恭介さまと組んでたのかー、とか」


 アークラウスの何気ない提案に、レオンハートや他の者も頷く。


「……ロクな話じゃねーよ。俺がクズなだけだぞ」


「いいから話せ。皆も硬い会議ばかりで肩が凝っている。貴様のつまらん与太話を聞きたがっている者もいるかもしれんだろう」


「ふふ、言えているな。面白そうだ、私にも聞かせてくれよ」


 アークラウスとウィルヘルミナが皮肉に笑う。


「んだよ、それ……まあいいや。わかった、んじゃあちっとだけ話すわ――」




        ●○●○●




 特命地位の『ナイツオブグロリア』はサンスルードを支える新たな柱となっていた。


 国中で『ナイツオブグロリア』を讃え、大きな話題を呼んでいるのである。


 それはギルド内にも多大な影響を与え、サンスルードの冒険者たちの新たな目標にさえなった。


 その最たる例がクライヴとミリアの存在だ。


 彼らふたりがレヴァナントの襲撃から民を守る戦いをし、そんな彼らも元はしがない冒険者だった事が知れ渡ると、それが逆にギルドへ良い刺激となった。


 ただの冒険者も、その『ナイツオブグロリア』の様に、王へと直接貢献出来る近衛兵の様な大出世をするかもしれない、という希望が冒険者たちの国への期待感を高めたのである。


 それにより、今回ウィルヘルミナからの要請を受けたサンスルードの冒険者ギルドは、女王代理の依頼を快く引き受け、冒険者たちが城へと出兵を希望してくれたのだった。


 しかしあまりに多くの希望が殺到した為、ギルド長は出兵に制限を設けた。


 それは戦闘能力最低でも40以上の者だけ、という条件だ。


 その条件をクリアし、なおかつ国と王への忠義の高そうな者を選出する形となった。


 その結果、それでもおよそ100名近い冒険者たちがギルドの選出に合格し、そして城へと集う事となる。


 このギルド上がりの冒険者たちをリーダーを任されたのが何を隠そう、クライヴとミリアだったのだ。


 クライヴは『ナイツオブグロリア』義勇軍統括責任者という地位を与えられ、ミリアはその代理兼補佐という役割となっている。


「……はー、疲れちまった」


 クライヴたちはガノン大臣やアークラウスたちとの会議をようやく終え、それぞれの自室へと戻るところであった。


「あはは! クライヴお疲れ様!」


「ったく、スレイン叔父さんは相変わらず良い性格してるぜ」


 最後に自分と恭介の話をさせられたせいで、余計に気疲れさせられてしまったのである。


「でもやっぱり皆驚いてたね、クライヴが奴隷拾って、オマケに利用して殺して、更に追放したにも関わらず命を助けられた話!」


「うぐ……やめろやめろ、蒸し返すな。思い返すと気分が悪くなる……」

 

「……私も同じ様なものだよ。なんだろう、恭介に会うまではそういう生き方が普通だと思ってたし、自分がおかしいなんて思わなかったのに、今は考え方も想いも全然違うんだよね」


「宣誓したから、だろうな。恭介との魂のリンクの影響だろう。……ってスレイン叔父さんが言ってた受け売りだけどな」


「でも私は今の自分が好きだよ。後ろめたくないもん」


「……まあ、そうだな」


 二人は苦笑いして、互いに頷く。


「ねぇ、それにしてもさ、ガストンってどうしたんだろうね?」


「わからない……アイツは頭が良いから、死んでなんかいないと思うが……。あの王女に目をつけられていたらと思うと……な」


「そう、だよね……私たち、本当に運が良かった」


「全くだな……だが、今はそれどころじゃねえ。俺たちは俺たちの戦いを頑張らねえとな」


「うん」



 ふたりはかつてのパーティメンバーである治癒師のガストンの行方を案じつつ、明後日の戦を思い気を引き締めるのだった――。



 

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