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百四十二話 女帝の涙

「っち! ウチのイフリートハートを抑え込むなんて、ニンゲン風情の癖に、なかなか小癪じゃない!」


 サラマンドラは一瞬でこんな人族どもなど灰にできると踏んでいたのだが、想定外に抵抗され、若干苛ついていた。


「でもあのバリアー、ぎりっぎりってところね? ウチのマナ切れでも狙ってるのかしら?」


 サラマンドラはひとりごちると、不意にニヤっと笑い、


「……ふふふ。そんならいいわよ。どっちがマナが続くか勝負してあげるわッ!!」


 真紅で燃え盛る様な美しく長い髪をより一層、ボウッと逆立たせ、全身のマナをみなぎらせる。


「ウチのマナ量、舐めてんじゃないわよォ!!」




        ●○●○●




 先程まで拮抗していたイフリートハートの火力とペルセウスら多重バリアーによる障壁に、明らかな差が生まれ始めていた。


「く……こ、こいつぁマジィな……」


「ペルセウスさんもそう思いますか……」


「ああ。予想以上にサラマンドラのヤツのマナ量が桁違いだった。このまま行けば間違いなく俺たちが先にガス欠になって気絶しちまうな」


「……かといって、バリアーを解けば瞬時に即死級の火炎が来て、どっちにしても燃やされてしまいますね。この窮地を打開するのは、アレしかないです……」


「……フェリシアからのコール、か」


「はい。上手くレヴィアタンと繋げてくれれば良いんですが……もし最悪の時は僕を……」


「シリウス。お前と俺は一心同体だ。俺はどう間違ったとしても、お前だけを置き去りにして逃げる、なんて選択肢は取らねぇ。お前は俺の大切な弟みたいなものなんだからな」


「……ペルセウスさん」


「ほれ、そんなつまらねぇ事なんざ忘れて、さっさと自分のマナを研ぎ澄ませろ! マナはコントロール次第で消費率もだいぶ違うんだからよ」


「……ふふ。全く、普段は物理的な技しかできない癖に、僕をコピーした時だけは妙に偉そうですね」


「っへ、当然だろ。俺を誰だと思ってやがる!」


「そうでした。我らがシューティングスターの隊長、でしたねッ!」


 ふたりは腕を繋ぎ、マジックバリアーを重ね続ける。


「そうだ! そして俺たちは恭介さまに忠誠を誓った! 彼を信ずるべき指標と決めて。俺たちは恭介さまに尽くさなくちゃならねぇ。こんなところで終われっかよ!」


「その通り、ですね。僕も彼に……恭介さまに新しい世界を見せてもらいたい。人も魔物もアンデッドも争う事のない世界、と言うものをッ!」


 ふたりは恭介の事を信じると決めた。


 そしてそれを改めて言葉に出したその時。

 

 彼らは自身の体内から、力が湧き出る様な感覚を覚える。


「なんだ……!?」


「わ、わかりませんが……マナエネルギーが増した様な……」


 ふたりは困惑したが、これでまだしばらくはサラマンドラの猛火を凌げそうだと安堵する。


『加護、王との絆がレベル2になりました。これによって最大保有マナ量が更に増加しました』


 ペルセウスとシリウスの頭の中に、システムの声が響く。


「そうか、宣誓での加護にはこんな効果もあるんだな」


「……僕たち、宣誓なんてした事がないですからね」


「恭介さまとの信頼関係が俺たちの力の源にもなるって事だな。益々忠義を尽くす甲斐があるってもんだぜ!」


 ペルセウスとシリウスだけでなく、多くの人は宣誓を行なう事自体少ない。


「それにしても……俺たちのマナ量は以前とは比べ物にならないくらい増えているってのに……なんつー火力とマナ量だ。さすがは六頭獣だな」


「その六頭獣を何体も従えてる恭介さまは、本当にワイトディザスターの生まれ変わりかも、というのは確かに納得ですね」


 ふたりがサラマンドラのイフリートハートを防ぎながら、そんな事を話していると。


「……来ました! フェリシアさんです!」


 アイテムポーチに入れておいたマナトーンクリスタルが反応を示す。


 シリウスはそれを取り出して、受信する。


「フェリシアさんですか!? レヴィアタンとの連絡はつきましたか!?」


 シリウスが食い気味に話しかけると、


「わ!? な、なんとかなったわよ、うっさいわねぇ。今から私のマジックコールと、このマナトーンクリスタルをコネクトするわ。ただし中継すら形になるから声の通りが悪いの。だからサラマンドラのかなり近くにマナトーンクリスタルを置かないと聞こえないわよ」


「かなり近く……ですか……。わかりました、なんとかやってみます!」


 シリウスとペルセウスは互いに頷き合い、


「サラマンドラァー! 聞こえるかぁ!?」


 ペルセウスが叫ぶ。


「まだ耐えてるなんて、なかなかしぶといわね! ニンゲン風情がッ!」


 炎の向こう側でサラマンドラも叫ぶ。


「お前の大事なレヴィアタンと話させてやるッ!! だからこの攻撃を一旦止めろッ!」


「はん! そんな安っぽい嘘に騙されるわけがないでしょ!? ウチを舐めんじゃないわよ!」


 ペルセウスの説得は全く聞いてもらえそうにない。


「……困りましたね」


 シリウスが頭を悩ますと、


「シリウス、そのマナトーンクリスタルを俺に貸せ」


「え? は、はい」


 シリウスは言われた通り、マナトーンクリスタルをペルセウスへと手渡す。


「ちっとの間だけ、おめえひとりでマジックバリアーを展開しててくれっか?」


「え? ペ、ペルセウスさん、何を……?」


「……ちょっくら地獄を見てくるわ。すまねぇが、少し耐えてくれッ!」


「ペルセウスさんッ!?」


 ペルセウスはそう言うと、シェイプシフトを解いて元の姿に戻りつつ、自前の大剣を担いだ。


 そして前方のイフリートハートによる業火の炎へと、向かって大剣を振りかぶり、


「ぅぉおおおおおおおおッ! 唸れ俺の身体ァッ!」


 ペルセウスのユニークスキルで全身を鋼鉄化しつつ、自慢の剣技を繰り出す。


咆竜波(ほうりゅうは)ッ!!」


 大剣を下から捲り上げる様に斬りあげる動作を繰り返し、前方へ向かって突風を起こす。


 それによって僅かに炎の裂け目が生まれた。


 ペルセウスはそこへ向かって勢い良く駆けて行く。


「っぐぅ!?」


 だがしかし、当然マジックバリアーを抜けた先はサラマンドラの炎による恐ろしき灼熱地獄の中。


 多少の裂け目が出来たとはいえ、数秒も持ちそうにない。


 しかしペルセウスの目的は自分がそこを駆け抜けるのではなく。


「レヴィアタンーーッ! 頼む!!」


 ペルセウスはそう叫び、炎の裂け目の先にいるサラマンドラへと向かって、マナトーンクリスタルを投げた。


「はっ! 馬鹿め! わざわざ死にに飛び込んで来るなんてね! ウチの炎で骨まで灰にしてやるよッ!」


 サラマンドラは何故ニンゲンのひとりが突然炎の中に飛び込んで来たのか理解不能だったが、それを好機とみて、そのニンゲンを燃やし尽くしてやろうと、イフリートハートの威力を高めようとした。


 その時。


「……サラマンドラ姉さんーーッ!」


 その声が微かに届き、思わずイフリートハートの威力を高めようとしたサラマンドラの手が止まる。


「こ、この声……」


「サラマンドラ姉さん! 聞こえる!? ウチだよ、レヴィだよ!」


 サラマンドラはその直後、手から放っていたイフリートハートの魔法を解いて、その声のする方を見る。


 聞き間違えるはずもない。


 命よりも大切な妹の、レヴィアタンの声がそこには確かにあった。


 その小さな石、マナトーンクリスタルから確かに聞こえた。


「レヴィ……なの……? 本当に……?」


「姉さん! ああ、姉さん!! 本当に、本当にサラマンドラ姉さんなのね……ッ!」


 マナトーンクリスタルの向こうから聞こえるレヴィアタンの声が、涙で震えているのがサラマンドラにも伝わる。


 そして同じ様に、サラマンドラも大粒の涙を浮かべた。


「レヴィ……レヴィ!!」


「姉さん! 会いたかった、声を聞きたかった、生きててくれて本当に良かった、サラマンドラ姉さん!!」


「ウチもよ! ウチもあんたは絶対生きてるって信じてた……レヴィ!」


 マナトーンクリスタルを拾い上げて、サラマンドラは何度も何度もレヴィアタンの名を呼ぶ。





 そんな彼女の様子を見て、ペルセウスとシリウスはホッと安堵したのだった――。







 

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