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百三十七話 ひとつの復讐の達成

「しかしそいつらは頭が悪いのか? レオンハートとストレイテナーほどの実力者を相手に多勢でなんとかなると思うなんてな」


「なんでも各国で俺とストレイテナーは指名手配らしく懸賞金が掛けられているらしいので、金に目が眩んだただの愚か者ってところですね」


 恭介を城の地下牢へ案内しながらレオンハートが笑いながら言った。


「ははは。お前たちも僕のせいですっかり有名人だな」


「有名人なのは良いんですが、自分を殺しに来てる奴を殺せないのは少しストレスが溜まりますね」


「まあそう言うな。どうしても殺す必要がある場合は大目に見るが、それ以外はなるべく生きたまま捕らえてくれ。貴重な情報を持っていないとも限らないからな」


「……御意」


「不服か? まぁそんなつまらない奴を殺すより、もっと大きな戦が始まれば否が応でも戦わざるを得なくなるさ。その時には期待している」


「っは」


 レオンハートは殺しと戦闘を楽しみとしている。


 なので冒険者ギルドの仕事でも任せて、ストレス解消をさせてやらないとだな、と恭介は思った。


「着きました。この牢屋の一番奥にふたり共閉じ込めております」


「うん。しかし静かだな?」


「ふふふ、捕らえてから水と僅かな豆を餌として与えていただけなので、弱ってるんでしょう」


「……充分楽しんでるな」


「殺しはしていませんから!」


「ま、いいか。そのくらいの罰はあっても良いだろう」


 恭介は苦笑いしながら牢の奥へと進む。


「……うぅ……」


 奥からうめき声が聞こえる。


「は、腹が……減った……」


「な、何か……食い物……」


 ふたりの賊の空腹に飢える声が響く。


「おー、床にへばりついちゃって……だいぶ弱ってるな。お前らー会話できるかー?」


 恭介は鉄格子越しに、ふたりの賊へ声を掛ける。


「ぁあ……? だ、誰だ?」


 床にへばりついていた、細身の男が顔をうつ伏せたまま答える。


「僕は先日、イニエスタ王に代わってこのサンスルード国の王となったばかりの恭介という者だ。お前たちの処罰を決めに来た。……とりあえずふたり共、顔を上げろ」


「王……だと?」


「お、俺たちはなんも変な事はしてねぇ……」


 ふたりは言い訳をしながら顔を上げる。


「まあ、まずはお前たちの言い分を聞いてや……んんん?」


 その顔を見てそこまで言い掛けた恭介は、少し遅れて賊どもの顔に見覚えがある事に気づく。


「……お前たち、どこかで……」


 恭介が怪訝な表情でふたりを見る。


「お、俺たちは違法な事はしちゃいねぇ。法律やギルドのルールから逸脱しねぇ範囲で活動していたんだ……」


「そ、そうだ。あんた王様なんだろ? 俺たちの話を聞いてくれよ」


 ふたりは恭介へと必死に弁明を続ける。


『恭介さまッ! こいつらは私やナーガラージャに酷い事をした奴らですッ!!』


 体内でジェネが声を荒げた。


 そして恭介もようやく思い出す。


「……思い出したぞ。お前たち、ギランとツヴァイクって名乗ってたふざけた冒険者たちだな!? 僕の顔を忘れたか!?」


 恭介の激昂にレオンハートが驚いている。


「恭介さま。コイツらは知り合いですか?」


「知り合い、というより僕の復讐対象だな」


 恭介は忘れかけていた憎悪を思い出す。


「た、確かに俺たちはギランとツヴァイクだ。だけど、あんたみたいな王様の事なんて俺たちは……」


 恭介の中でどんどんとあの当時の怒りがふつふつと沸き上がる。


「……出でよジェネ!」


 そしてすぐにジェネを隣で具現化した。


「おい、お前たち! このアンデッドの少女をよく見ろ!! 見覚えがあるだろう!?」


「忘れたなんて言わせませんッ!」


 恭介とジェネが怒鳴り気味にそう言い、ジェネの事を見ろと、ギランとツヴァイクへ促す。


「そんなアンデッドの女なん……」


 ツヴァイクがそこまで言って、


「「あ」」


 と、ふたりはようやく思い出す。


 一ヶ月ちょっと前くらいに、ギルドのクエストでガルドガルムの掃討依頼を受けていた仕事をしていた時の事を。


「思い出したなッ!?」


 恭介が怒りの表情でギランとツヴァイクを睨め付けた。


「こ、このアンデッドは……俺らが捕まえた……。じゃ、じゃあてめぇは……!?」


 ツヴァイクはもう一度恭介の顔を見直す。


「あ、あの時のガキ!?」


 とギランが言葉に出した瞬間。


 シュッ、と一瞬の小さな音と共に、ギランの右耳が斬り飛ばされ、


「……え?」


 そこからプシュっと大量の血を吹き出させた。


「ぎ、ぎゃあああーーッ!!」


 ギランが遅れて痛みと出血に恐怖し、右耳のあったところを必死に手で押さえる。


「ちょっとキミたち。恭介王様の御前だよ? さすがに『ガキ』呼ばわりは俺も看過できないね」


 レオンハートが笑いながら細身の長剣を鞘に収める。


「ひ、ひぃいいいいい……」


 ギランが涙目で震えた。


「おい、レオンハート。勝手な真似をするな」


 恭介が嗜める。


「っは、申し訳ございません。しかしコイツら、少々恭介さまへの態度が不届き過ぎると感じたゆえ、罰を与えねばと思いました」


「そうだとしても、今はまだ僕が彼らと話してる。次、勝手な真似をする事は許さない。……ま、今回のは大目に見てやる」


「申し訳ございません」


 レオンハートが笑いながらも深々とこうべを垂れた。


「……ッッ!」


 レオンハートの強さや冷酷さも去る事ながら、人族最強と謳われた冷血の勇者が、こうまで従順に手懐けられているその様子を見て、ツヴァイクは絶句していた。


 しかもその相手は過去に自分が殺したはずの少年に。


 もはや何がなんだかわけがわからなかった。


「ギランとツヴァイクと言ったな。お前たちが僕たちにした行為は到底許されるものではないし、今この瞬間にでも僕の手でお前たちを殺してやりたいところだが……」


 恭介はこれでも爆発しそうな憎悪を抑え込んでいる。


 この男らの顔を見ているだけで当時の悔しさ、辛さ、痛みが何度も思い返されてくる。


 恭介はそんな心をグッと抑え、レオンハートを見て、


「……看守のところから、この牢の鍵を持って来い」


 と命令をくだす。


「ッは! ……まさかとは思いますが、その者ら、逃すのですか?」


「っふ、安心しろ。いくら僕でもそこまで優しくはない」


 レオンハートはニヤっと笑い、


「御意」


 と言って看守のもとへ鍵を取りに行った。


「……て、てめぇみてぇなガキが王、だと……一体どういう事なんだ……?」


 ツヴァイクは目を見開き、震えながら恭介を見る。


「おいクズども。誰をガキ呼ばわりしているんですか?」


 今度はジェネが殺気を放ちながら右手にマナを集中させている。


「言葉に気をつけなさい。もうお前たちが対等に口をきける様なお方ではないのですよ」


「……ジェネ、殺すなよ」


「ええ、わかっております恭介さま。ただの脅しです」


 そう言うとジェネは無詠唱でツヴァイクの真横の床へと魔法を射出。


 瞬時にその床は一瞬で腐食し、ドロドロに溶けてしまった。


「ヒ、ヒィッ!?」

 

 ツヴァイクがその様子を見て青ざめる。


「お、それはコラプションだな。ジェネ、無詠唱でそれが出来る様になったのか」


「はい! 恭介さまに宣誓した後からマナ量が膨大に増幅されたおかげの様です!」


 ジェネは満面の笑みで答えた。


 と思いきや、再びツヴァイクらの方へと向き直し、


「……わかりましたね? 必ず恭介さまには敬称を付けて敬いなさい。次に無礼な物言いをした場合、先程の魔法を指、手足にかけていきます」


 暗く重い口調でジェネは彼らを脅した。


「わ、わわ、わかりました。も、も、申し訳ございません恭介さま……ッ」


 ツヴァイクは土下座しながら、言葉を直す。


「……謝るならジェネにも謝れよ。お前たちのせいで彼女は凄く辛い思いをしたんだぞ? わかってるのか?」


「は、はい! ジェネさますみませんでしたッ!」


 ツヴァイクはジェネの方にも土下座して謝罪を述べる。


「……おい、お前もだ」


 恭介はまだ耳を痛がっているギランにも謝罪を促す。


「ひぃいい……す、すいませんっした……」


 ガシャんッ! っと恭介が鉄格子を蹴り飛ばして、


「謝るときはすいません、じゃなくてすみませんでした、申し訳ございませんでした、だ」


「ひ、ひぃ! もも、も、申し訳ございませんでしたぁっ!」


 震えながら土下座するふたりを見た後、


「恭介さま。謝罪を促しましたが、この者ら許すのですか?」


 ジェネがそう恭介へと問いかける。


「……」


 恭介はその問いには返事せず無言のまま、瞳を閉じた。




        ●○●○●




 少ししてレオンハートが看守から鍵を持ってきてくれたので、恭介はその鍵を受け取りツヴァイクらの牢の鍵を開け、


「レオンハート、ジェネ。僕が何をしようと口を出すな。わかったな?」


 そう言って、牢の中へと入った。


「「はい!」」


 レオンハートとジェネは声を揃えて返事をし、牢の外で待つ。


「さて、お前らに聞きたい事がある。素直に答えろ」


「「は、はい」」


 先程のジェネの脅しがよく効いているのか、ふたりは正座して返事をした。


「まずお前らが連れて行ったナーガラージャの所在について教えろ。この僕に嘘偽りは無駄だと知れ」


「ナ、ナーガラージャはゴルムア王に献上しようとしました。しかしアドガルドにいた行商人がレアモンスターを高く買い取りたいと言ってまして、そいつに売りました」


 恭介の質問にツヴァイクが答える。


「その行商人はどこにいる?」


「お、おそらくあの出で立ちはノースフォリア出身かと」


「じゃあナーガラージャはノースフォリアにいるんだな?」


「あの行商人はノースフォリアのとある貴族に売りつけると言っていたので、多分……」


「……生きてると思うか?」


「は、はっきり言えばその可能性は低いかと。六頭獣ですし……ほぼ間違いなく殺されている、かと」


「そうか、わかった。それじゃ最後にもう一個だけ答えてくれ」


「は、はい」


「……ここですぐ死刑になるのと、ロクな人生ではないとしても僅かに生きられる可能性がある方と、どっちが良いか選べ」


「そ、それは一体どういう……!?」


「簡単な話だ。これまでの悪行を死刑で簡単に終わらせるか、それともナーガラージャが生きているか僕が確認できるまで、生き地獄を味わわされるかの二択って事だよ。後者の場合はナーガラージャが生きていれば、お前たちの命だけは助けてやろう」


 恭介のその脅し、宣告に対し、


「そ、そんな! お、俺たちは法律に違反はしてねぇ!!」


「そうだ! 何故それで俺たちが死刑なんだ!?」


 そう言い訳するふたりに、


「何言ってるんだ? 今の王は僕だぞ? 僕が法律に決まってるだろ、馬鹿かお前ら」


 恭介は冷酷な瞳で答える。


「く、くそ……ふっざけんなぁ!」


 その言葉に逆上したツヴァイクがついに恭介の襟首を掴んだ。


下手(したて)に出てりゃ良い気になりやがって……! どうやったか知らねえが、ちょっと強い部下が出来たからって調子こきやがってよお! てめえみてぇなクソガキの細い首なんざ、この俺の腕力にかかりゃあ、ひとひねりなんだよッ!! ああ!?」


 激昂しながらツヴァイクは恭介を揺さぶる。


「やっちまえ、ツヴァイク!」


 ギランも嘲笑いながらその様子を見る。


「……低脳が」


 恭介はそう呟きながら、ツヴァイクの腕を掴み上げた。


「い、いでででででーーッ!!」


「今の僕に、力でも魔力でも知力でも勝てると思わない事だな」


 恭介が呆れ気味に言うと、


「は、離しやがれ!」


 ツヴァイクが痛みに顔を歪めながら、まだ強気の態度だったので、


「……ふう」


 と、恭介は軽くため息を吐きながら、捻り上げた腕の骨をボキッと折った。


「うぐぁああーーーッ!!」


 ツヴァイクが激痛に悶え、うずくまる。


 そんなツヴァイクの髪の毛を強引に持ち上げて、


「……ふたりも情報提供者はいらないんだよ。ひとりは見せしめに殺してやろうか?」


 と、恐ろしく低い声色で恫喝する。


「ひ、ひッ! や、やめて……」


「そういや、僕はお前に斬り殺されてたな。じゃあお返しにお前は殺してもいいか」


「ひ、ひぃいいい! す、すすす、すみませんでしたすみませんでしたぁ!」


 恭介はギランの事も冷たい眼差しで睨め付ける。


「あ……す、すみませんでした!! ゆ、許して下さい……」


 ギランはツヴァイクの様子を見て、再び頭を下げた。


 ――こうして恭介はひとつの復讐を無事成し遂げる事ができた。




 後日、このふたりには死ぬよりも辛い刑罰を与えたのだが、それはまた別のお話。





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