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百三十二話 レヴァナントの真価

「「舐めてる……わ……。あなたのスピードじゃ……その攻撃を……私にはほとんど当てる事ができないもの……」」


 大勢のレヴァナントが見下す様にイニエスタを嘲笑う。


「……っへ。俺様の剣がノロマだってんだろ?」


「「ええ……そう。あなたでは……私を倒せないわ……」」


「そういう御託はよお……」


 イニエスタは全身に力を込める。


 最後の手段に打って出る為に。


「この形態の俺様を相手にしてから言いやがれッ! う、ォオオオオオオッ!!」」


 そして身体全体にマナを行き渡らせ、イニエスタのユニークスキル『ライオネルハート』を発動。


 全身を大きく変化させる。


「……ふしゅるるぅううーッ」


「「これは驚いたわ……稀有な……ユニークスキルね」」


「余裕こいてんのも、今のうちだぜ! この形態は戦闘能力も数倍引き上げるッ!」


 その変化に驚嘆していたのは、ヴァナルガンドとフェリシアもであった。


「お、驚いた……イニエスタさんにまさかこんな能力があるなんて……」


「我も初めて見た。獣人化出来るユニークスキルは稀だと聞いていたが、まさかイニエスタが扱えるとは……」


 イニエスタはニヤ、っと笑い、


「……久々に全力でやってやるぜ」


 と、魔法剣を掛けたバスタードソードに力を込めるのであった。




        ●○●○●




 一方アドガルド城内。


 ミネルヴァは着々とサンスルード侵攻準備を進めていた。


 今回のレヴァナント襲撃は彼女のほんの実験を兼ねた遊びだ。


 そしてその遊びは思いのほか、ミネルヴァを楽しませるものとなっている。


「レヴァナントさん、凄い張り切っていますわね」


 魔水晶に映し出されているサンスルード城下町の惨状を見て、ミネルヴァは笑う。


「でも……もうそろそろ……限界……」


 それを隣で共に眺めていたレヴァナント(・・・・・・)が、そう答える。


「あら、さすがに頑張りすぎちゃいましたかしら?」


「少し……張り切ったわ。でも……おかげでたくさんの魂を……食べられた……」


「うふふ。それは何よりですわ」


「最後に……このイニエスタとか言う……王様を殺せば終わりね……」


「ええ。この方は結構邪魔なので、ここで処分してもらえると助かりますわ」


「……向こうが本気を出してきたわ。私も……少し本気でやらないと……駄目かも」


 イニエスタが獣人化したその様子が、魔水晶に映し出されている。


「では、残りのレヴァナントさんを合体させてみましょうか」


「……お願い、するわ」


「うっふふふふ。どうなっちゃうのか楽しみですわ」


 ミネルヴァはそう言うと、隣にいるレヴァナントと魔水晶に向けて手をかざし、奇妙な呪文を唱える。


「ふう。これで向こうにいる分割した複製を合体させましたわ」


「……あれなら、恭介以外は余裕」


「ですわね。ちなみにあちらにいる合体したレヴァナントさんの戦闘能力はどのくらいなんでしょう?」


 レヴァナントは不敵に笑い、


「……3000はくだらない」


 そう呟いた。




        ●○●○●




 イニエスタが覚悟を決めて、自身の体力、マナが尽きるまで戦おうとした矢先。


 目の前にいたレヴァナントたちが一斉に光輝き出した。


「な、なんだ!?」


 イニエスタたちはその眩さに思わず瞳を細める。


 そしてイニエスタが次に目を開くと、たくさん居たレヴァナントたちは消え、たったの一体だけとなってしまっていた。


「……ふふ。私も……ちょっと本気……でやろうかしら……」


 目の前のアンデッドは、これまでのアンデッドとは格が違う、と瞬時にその場にいるイニエスタたち全員が理解した。


 アレはもはや伝説級の化け物だ、と。


「な、なんてマナ量……こんなの見たことないわッ!!」


「わ、我もここまでの化け物は見た事がない。これは……とてもではないが我らではどうにもならんぞ」


 フェリシアとヴァナルガンドが目の前のレヴァナントを見て、圧倒的な実力差に畏怖する。


「……こりゃあ、さすがにちっとやべえかもな。俺様が本気でやろうと思ったのが、返ってやぶ蛇だったかもしれねぇな」


 イニエスタはその大きな体躯を震わせた。


 それは目の前の脅威によるものと、自分の後ろにいる民たちを守れないかもしれないという絶望的状況から来る、恐怖。


「さすがにわかる様ね……今の私の……圧倒的な力が……」


「……ああ。俺様の変身がかすんじまったぜ」


「ふふ、ふ。私もね……驚いてるわ。自分の……驚異的なまでの進化に……」


「その力、普通のアンデッドじゃありえねえ。どうなってやがる?」


「……ミネルヴァの力ね。……彼女は多数のユニークスキルを保有している……その中でも『デュプリケイター』というスキルが……この現象の結果」


「デュプリケイター、だと? なんだそりゃあ!?」


「自分のマナを使って……ほぼ完璧な複製を作るスキルよ……。もちろん元の素体が必要だけれど」


「じゃ、じゃあ何か? ミネルヴァはおめえを大量に生産したってのか!?」


「……そんな感じ、ね。更に彼女は……『コンポジッション』というスキルで……複製したモノをひとつにする事もできる……。その結果がコレね……」


「そうだとしても、魂までは作れねえだろ!?」


「だからミネルヴァは……私の魂を分割させて……それぞれの複製に植え込んだ……」


「そ、そんな芸当まで出来るのか。化け物め!」


「私もそう思う……。彼女は……化け物ね」


「なんでおめぇはミネルヴァに従ってんだ!?」


「……面白そうだから、よ」


「そんな理由で俺様たちの国を襲ったのか!?」


「そう、ね。そういう事になる……かしら」


「ふざけやがって……ッ!」


「……そろそろいい……かしら? あなたは確実に殺せと……ミネルヴァに言われてるから……」


「狙いは俺様だけか!?」


 イニエスタの質問に、


「……さあ、ね」


 レヴァナントは嘲笑った。




        ●○●○●




 恭介は後悔していた。


 まずは自分が誘き出された事。


 そして軽々しく力を使い過ぎた事。


 最後にマインドブーストに頼り切ってしまっていた事。


 イニエスタが城の前でレヴァナントと対峙し、問答をしている声だけはしっかりと恭介の耳に届いている。


 だが、辿り着くまでに随分と距離があった。


 マインドブーストを使えれば城門前まで加速移動し、なんとか間に合ったかもしれないが、もはや限界らしく発動させようとする事すら出来ない。


(クソ! 今のフェリシアの言葉は……ッ!)


 恭介に届いている声。


 それはイニエスタの断末魔の様な絶叫の後、届いたフェリシアの叫び声。


「恭介……? どうしたの?」


 恭介の険しい表情に気づいたストレイテナーが、何事かと勘繰る。


「あ、ああ。いや……」


 しかしそれに返す言葉を、恭介は濁した。


 何故なら。


(……死ぬはずがない! エスはそんなやわな奴じゃない……!)


 フェリシアの叫び。




 それは、イニエスタの生存が絶望的であるとも捉えられる内容だったからであった……。





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