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百二十八話 民衆の憂慮

「カディナのねーちゃん、喜んでたでヤンスね」


「うむ」


「ラダ村に残ったのは寂しいでヤンスが、彼女が無事故郷に戻れて良かったでヤンスよ」


「そうだな」


「……ペットくんにしちゃ、なかなか粋な事をしたでヤンスね!」


「ふん。ただの気まぐれよ」


 ミッドグランドの上空を舞いながら、そう憎まれ口を叩く。


 アンフィスバエナは自分でも不思議だった。


 人族など取るに足らないゴミだと思っていたはずなのに。


 それなのに、何故自分はあの様なつまらない真似をしたのか。


 何度考えても答えは出せなかった。


 だが。


「……気分は悪くない」


 そう呟き、大きな口元で小さく笑った。


「でも本当にあれで良かったんでヤンスか? 千里眼の法を使わせれば、キョースケさまをすぐに見つけられたと思うでヤンスけど」


「……代わりにアークラウスという者の事を聞いたからなんとかなるだろう」


 ヨハンナは自身の千里眼の技法を伝授した弟子の事をアンフィスバエナに告げる。


 その者はアークラウスという名の、アドガルドの貴族だと教えてもらった。


「ここから飛んで行くには結構な時間が掛かるでヤンスよ。死の湖(レイクオブザデッド)も越えなくちゃならねーでヤンスし。あそこは凶悪な魔物やアンデッドがひしめいているでヤンスよ?」


「ふん。我を脅かす者がいるのなら、望むところだ」


「……相変わらず好戦的なペットでヤンス」


「本当ね。ドラゴンさん、優しいのに血の気は高いわよね」


「うんうん、全くでヤンス。こんな危なかっしいドラゴンと一緒に居たらいくつ命があっても足りないでヤンスよ」


「って言っても私はすでに一回死んじゃってるけどね」


「そういやぁそうでヤンスね! はっはっは、こりゃあカディナねーちゃんに一本取られた……ってうぉおおおいでヤンス!?」


 ようやくカディナの存在に気づいたクルポロンが大袈裟に驚く。


「ね、ねーちゃん!? いつからそこに!?」


「最初っからずっと居たよ。可視化レベル目一杯下げて隠れてたけどね。うふふ」


「うふふじゃねーでヤンスよ! 心臓が三回は止まって、三滴はチビったでヤンス!」


「……おいクルポロン。貴様、我の背で漏らすなよ。振り落とすぞ」


「ペットくん、気づいていたんでヤンスか!?」


「……当然だ」


「なんでオイラにだけ黙ってたんでヤンスかあ!?」


「そんなの決まってるでしょ」


「うむ」


 アンフィスバエナとカディナは声を揃えて、


「「ビビリだからだよ(ぞ)」」


 と言って、大声で笑った。


「……あはは。クルポロンさんなら良いリアクション見れると思って黙って着いてきてたの」


「まったく! とんだねーちゃんとペットくんでヤンス! ぷんぷん!」


「ごめんごめん!」


「……ところでねーちゃん。村に残らなくて良かったんでヤンスか?」


「うん。私も悩んだんだけどね、やっぱりアンデッドがひとり人族と混ざって生活するのは難しいと思ったんだ。それに、私は人探しが得意だもん」


「人探しが得意、ってどういう事でヤンス?」


「アンデッドの瞳は生物を鑑定するスキルが自然と備わってるからね。名前を調べるのは造作もないんだよ」


「そうなんでヤンスね! それなら確かに探しやすいかもしれないでヤンス」


「そんなわけで、私も一緒に行くよ!」


 楽しそうに笑うカディナを横目で見ていたアンフィスバエナは、


「……本当に良いのか? 危険な旅になるかもしれんぞ」


「いいの。私はもう人族じゃないから、ドラゴンさんやクルポロンさんと居た方が居心地も良いしね」


「……っふ、そうか。ならばもう聞くまい。それと我が名はアンフィスバエナだ。今後はそう呼べ」


「オイラは嬉しいでヤンスよ! カディナねーちゃんの事はオイラが守ってやるでヤンス!」


「あっははは! よろしくね、小さなナイトさん!」


「任せろでヤンス! さぁいざゆけ! 我がペット、アンフィスバエナ!」


「……貴様のペットではないし、そもそもペットではないッ!」


 クルポロンとカディナをその大きな背に乗せ、アンフィスバエナは一路、アドガルドへ向けて空を翔ける。




        ●○●○●




 一方その頃、サンスルード王国では。


「……なあ、エス。それ、本当に僕がやらなくちゃ駄目なのか?」


「当然だ、恭介。お前はもう、名実共に王様なんだからな」


 イニエスタの宣言により、恭介は正式にこのサンスルード王国の王となった。それもあっさりと。


 もちろんイニエスタの言葉はサンスルード全土を揺るがす大事案となったが、それでも民はこのイニエスタだからこそ彼の言葉を信じる事にし、結果恭介という新たな王は認められる事となる。


「恭介さん、私はあくまで同じ王族として接するままで行くぜ?」


 イニエスタの妹であるウィルヘルミナが腕を組んでそう言った。


「ああ、僕は構わないけど。キミはよく認めてくれたね? 得体のしれない僕なんかをさ」


「はん! イニエスタ兄貴がクソ真面目にモノを言う時は、何か理由があっからな。それに反論したところでこの馬鹿な兄貴は覆さねえしよ」


 ウィルヘルミナは口は悪いがなんだかんだイニエスタの事を信頼しているんだな、と恭介にはよくわかっていた。


「ほれ、おめぇら無駄口叩いていられんのはそこまでだぜ。もうじきガノンがやってくんぞ」


 恭介たちは王族の衣装部屋に居た。


 そこで恭介は、王族に相応しい礼装を着せさせられている。


 不意に衣装部屋の扉が開かれ、大臣のガノンが入ってきた。


「イニエスタさま、恭介王、用意はよろしいですかな?」


「恭介王ってなんだかむず痒いな……」


「今日が王として、民の前で行なう初のスピーチですから、緊張するのもわかります。ですが、王たる威厳は示されてくださいませ」

 

 恭介は先日のイニエスタの宣言により、正式にサンスルード王国の王位を受け継ぐ事となった。


 細かな弊害はもちろん種々あったが、この国の土地柄とイニエスタの強引な勢いで、あれよあれよと言う間にさまざまな事がなしくずし的に決まっていった。


「……エス。僕はあんたが作ってくれた王らしいスピーチをもちろんするつもりだが、ジェネたちの事を一番の題目として話す。それで本当にいいんだな?」


「もちろんだ。俺様も恭介に宣誓してからというもの、アンデッドへの考え方がまた大きく変わっていったからな。それに、今巷で流れてる『クソみてえな噂話』も今日払拭(ふっしょく)しねえとな」


「……わかった。それじゃあ行こうか」


 恭介は意を決して、城の2階テラスへと向かい廊下へと出ていった。




        ●○●○●




 今日は恭介が王位を正式に受け継いだのち、初の大演説が行われるセレモニーの日である。


 王族以外の恭介に忠誠を誓った者たちも含め、サンスルード城の2階にある恭介ら王族とは別の衣装部屋にてそれぞれ待機させられていた。


馬子(まご)にも衣装とはこういうのを言うんだろうな、ミリア」


「え、クライヴそれ、私に言ってんの?」


「お前も俺もさ。まさか恭介に従うどころか、こんな礼装させられて、更には王の配下としてサンスルードの国民たちの前に立つだなんてな」


「こら、クライヴ。恭介、なんて呼び捨ては駄目だって言ったじゃん。もう王様なんだから」


「そうだな。恭介王、と呼ばないとな」


「……ところでガストンはどこに行っちゃったのかな?」


「わからない。俺も王女に連れて行かれてからはアイツの情報は一切聞いてないんだ。まあずる賢いアイツの事だ、うまくやってるに違いないさ」


「……そうだといいけど」


 クライヴとミリアがそんな会話をしていると、衣装部屋の扉がコンコンと叩かれ、開く。


「クライヴさま、ミリアさま。恭介王様の準備が整いました。従者の皆様は王様より先にテラスを出て、隊列なさってください」


 メイドの女性が丁寧にお辞儀をしながら、そう告げた。


「うん、ありがとう。ほら、どうしたのクライヴ、行くよ?」


「……じ、地味に緊張してきやがった」


「っぷ、ダッサ」


「うるせー。お前は平気なのかよ!?」


「……私も少し」


 ふたりは初の晴れ舞台に硬くなりながらも、テラスへと向かった。




        ●○●○●




 クライヴやミリアと同じく、ストレイテナーやレオンハートら他のアンデッドを除く者たちで、イニエスタと共に宣誓の儀に参加した者全てがテラスの端に並んで集められ、隊列させられていた。


 そして恭介以外の全員が集まった事を確認したイニエスタは、国民たちの目に入る位置まで前へと歩み出る。


「……サンスルードの民たちよ、今日はよく集まってくれた。俺様はこの国の元王、イニエスタだ」


 民たちはイニエスタを見て、ワァっと歓声を沸かせた。


「今から俺様が心から認めて、一生忠義を尽くす相手でもある恭介王が参られる。静粛に話を聞いてくれ」


 イニエスタの言葉に民たちは、より一層歓声を沸かせる。


 それからほどなくして、テラスの奥より小柄な少年が姿を現し、イニエスタの隣に並ぶ。


「……皆、俺様の隣に現れたこの小柄な少年。この方こそ、俺様が唯一認めた男、狭間(ハザマ) 恭介(キョウスケ)だ」


 イニエスタの紹介を受け、恭介が更に一歩前へと出た。


「……サンスルード国の皆さん、初めまして。不詳ながら僕がこの国の王を承りました恭介という者です」


 ざわざわ、と多くの民がどよめく。


「……子供じゃないか」


「話には聞いていたけど、あんな得体の知れない子供がこの国の王になるなんて……」


「やっぱり噂は本当だったんだ……この国がもう終わりだって噂は……」


「あんな子供が王だなんて、どうかしてる……」


 各所から恭介を王として認める事を拒絶する声が渦巻く。


(だいたい思っていた通りの反応だな……)


 恭介の事を直接見て認めさせたイニエスタの臣下たちについては、イニエスタからの強引な説得でなんとかなったものの、国民たちまでそれで簡単に押し倒せるほど甘くはない。


 この反応は恭介の予想通りと言えた。


 そして――。


(この国、サンスルードが他の三カ国から見捨てられ、近々他国から侵略されるという話。だからこの国の王に適当な代替者を立て、王族を絶やさない為の政策という噂話。それがすっかりと蔓延してしまっているようだな)


 この話を教えてくれたのは他でもない、イニエスタだ。


 どうやら街中から集めた情報でわかったらしい。


 果たしてどうしてそんなデマが出回ったのかは不明だが、そのデマのせいで民衆は大きな不安を抱えている。




(……さて、僕にどこまで出来るやら)




 




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