十二話 僕のお化けが可愛いなんてあるはずがない
『……それより恭介さま……これからどうなさるの……ですか?』
ジェネにそう聞かれたが、これからどうしたらいいのか聞きたいのはむしろ恭介の方だった。
「うーん、まずは食料確保が第一優先、かな。僕はジェネみたいに魂を食えばいい、なんてわけにいかないし」
『食料……? 必要なの……ですか?』
「必要でしょ。今も腹ペコだし、このままじゃ飢え死にだよ」
『恭介さまは……死なないのでは……?』
そう言われてハッとした。
「……そういえば僕は自分の『無限転生』について、ほとんどよくわかってないな。この世界に来てから何度か死んで生き返ってるみたいだけど、いまいち何がどうなってるのか、自分じゃ実感がないんだよなぁ」
『私も……ダスクリーパーさまの仰った……内容でしか理解できておりませんが……今の恭介さまは……すでにいくつかの耐性を……会得されております』
「え? ジェネにはわかるの?」
『ダスクリーパーさまが……恭介さまが、死亡されるたびに……アナウンスしてくださっています……』
「そうなの!? って、自分が死んでる時にアナウンスされても僕にはわからないのは当然か」
恭介が聞いて覚えているのはたったの一度。レジスト、インスタントデスを取得した、というアナウンスの時だけだ。
「いくつか、ってジェネ言ったよな。ってことは僕の耐性にはすでに即死系以外にもあるってこと?」
『はい……耐性一覧を……確認されてみては?』
「耐性一覧? なんだよそれ」
『……そうでした……恭介さまは……異世界人で……ございましたね……』
実はジェネには、それなりに自分の境遇について話している。
恭介は、この体本来の人間ではないこと。
別の世界から生まれ変わって、この体に途中から自分が宿ったこと。
それらをクライヴらと過ごしていたひと月の間に、合間を見て色々と話していた。
『目を閉じ……心で祈るように……コマンド・ステータスと……』
言われた通りに目を閉じて、心でそう呟いてみる。
(コマンド、ステータス)
すると、まるで目の裏に表記されたかのように簡単な数字や情報が浮かび上がった。
そこにはこのように表示されていた。
総合戦闘能力:378
特攻:なし
耐性:障壁・炎・束縛・治癒・刺突
吸収:即死系
弱点:精神波・聖
特性:治癒による回復無効・○☆◉◇◎▼
「ぉお! 思ったより色んな情報あるんだな! うんうん!」
初めてみる自分の状態を具体的に確認し、感激の声を漏らす。
『ちなみに……ステータスには……ユニークスキルなどは……映し出されません……また、魔法や技法は……自分が認識していくと……表記が増えていきます……』
「ふむふむ!」
異世界転生して一ヶ月。ようやく異世界っぽくなってきたな、などと勝手にわけのわからない関心をしてしまう。
しかしなるほど。みんな心の中で念じ目を閉じて確認していたから、僕はこのステータスの出し方に気づかなかったんだな、と恭介は納得した。
「なぁなぁ、ジェネ! この総合戦闘力ってのはなんだ?」
『言葉の……通りでございます……。数値が高いほど……総合的に強いということ……。単純な強さ比べは……この数値で決まります……』
つまりはRPGで言うところのレベルって概念だなと、解釈する。
「じゃあさ、この耐性とか吸収とかってのは?」
『耐性は……完全にそれを無効化、もしくは反射……します。絶対にそれによる……傷を負うことは……なくなります。吸収は……その類いの能力を受けた場合……体力の回復の他……身体能力が向上します……』
「おおお……マジか。なんか思ったより僕はスキル取得してたんだな……」
『弱点には……注意を……。それで攻撃されると……倍以上の苦痛を伴うという……意味でもあります……』
精神波と聖なる何かで攻撃されると大変だということだが、しかし精神波ってなんだろうか、と疑問に思うと、ジェネがそのまま解説してくれた。
精神波は、直接その者の記憶やトラウマにアクセスし、それを攻撃してくるのだそうだ。ある程度、知識のある生物には、大体効果があるらしい。
例えば小動物なら、天敵に襲われる幻覚を見せたりするのも精神波の一種なのだとか。
(それはいいとして、聖なる属性に弱いってのは納得できないな。僕はダークサイドなのかよ……)
「あと、特性なんだけど、なんで僕は回復無効なんだ?」
『ヒールを……受けながら……苦痛に晒され、直後、死亡したからと……思います』
「ヒールを受けながら? なんだそれ? そんなことあったか?」
『恭介さまは……ご存知なかったかも……しれませんが、あのクライヴめらは……恭介さまを容易く死なせないために……ヒールを掛けつつ……結界のバリアに縛り付けるという拷問まがいなことを……しておりました……』
「なんだって? じゃあガストンさんが掛けてくれていたアレは身体強化なんかじゃなくて……」
『はい、ヒールに……ございます……』
恭介は愕然とした。
「じゃあ、もしかしてこの耐性の束縛って言うのは……」
『それは……あのミリアなる痴女が……恭介さまを結界のバリアから弾き飛ばされないように……掛けていた補助魔法です……』
彼らに追放された今、全くその想像をしていなかったわけではないが、あらためて知らされて恭介は失望した。
そしてその時の記憶がだんだんとハッキリしてくる。
つまりクライヴらは、恭介を結界のバリアに押し付けて束縛し、死なないようにヒールを掛け続けていた。その間にクライヴは別のところから結界を破って侵入したというわけだ。
理由はよくわからないが、きっと自分を結界に縛り付けて生贄にするのが彼らの目的だったのだろう、と恭介は察した。
「……そうか、僕はただ利用されていただけ、だったんだな」
『……』
ジェネは返事をしなかった。
ジェネからの通告、注意喚起はクライヴらと共に過ごしてきた日々で幾度もあった。
しかし恭介は盲目的に彼らを信用しすぎた。そのことを今更後悔などしても、なんの意味もなかったが、
「すまないジェネ。キミはいつも僕を気にかけてくれてたのに……」
所詮モンスターの言うことだと、ジェネの思いを汲み取らずにいた自分の愚かさに心苦しくなる。
『謝罪など……滅相もございません……。私のことなど……お気になさらないで……ください』
「ありがとう。キミだけはいつも僕の味方でいてくれて。これからもよろしくね」
『は、はぅ……も、も、もちろんに……ございます……わた、私めは……忠実なる恭介さまの下僕……ですから……ふふ……ふふふふ……』
わかりやすいほど、このお化けは言葉だけでも感情を表してくれる。そんなジェネをなんだか可愛らしいと思ってしまっている自分に、少し笑えてしまった。
「ジェネとも顔を見て会話できたら、もっと面白いかもしれないのにな。それだけが残念かなぁ」
『ほ、ほ、本当、でございますか……!?』
ジェネが珍しく興奮気味に語尾を強くした。
「うん。それに頭の中に響く声と会話してると、独り言みたいだしね」
『そ、それでしたら……手のひらを伸ばして……こう念じてください……』
我が体内に残留せしジェネラルリッチの欠片よ。この手の前に具現化せよ、と念じて欲しいとジェネは言った。
『そう念じつつ、私めのことを……体外に押し出すイメージを……高めながら、トリガーとなる言葉を……なんでも良いので発して頂ければ……私は恭介さまの前に、再び……顕現できます……』
「なるほど。ここなら人もいないし、ちょっとやってみようか」
『ワク……ワク……』
恭介はジェネに言われた通り、腕を前へと伸ばして手のひらを広げ、説明された通りに念じる。
(トリガーとなる言葉……単純なのが良さそうだな)
「……出でよ、ジェネッ!」
恭介がそう言うと、手のひらがほんのりと暖かくなり、そこに光り輝く粒子が集まりだす。
そしてそれは、段々と人の形をかたどり始めた。
「ぉお……! ……って、ぇえ!?」
やがて具現化したそれは、恭介よりもやや小さめの華奢で可愛らしい女の子が出来上がった。
「……ありがとうございます! 恭介さまぁ!」
完成されたジェネと思われる女の子は、頭の中での話し方よりもしっかりと言葉を紡ぐ。
「ジェ、ジェネ、だよね? な、なんでこんな形になったんだ!?」
「それは私めの想いと、恭介さまの想いが合致して出来上がった結果でございます!」
目の前の少女は、腰ほどまでに伸ばされた美しい碧い髪の頭に、花を模した小さなサークレットを被り、白いポンポンがあちこちに付いたピンク色のフリルワンピースを着こなした、まるで現実世界のアニメでよく見る魔法少女のような格好をしていた。
「そ、それにしたって、前に墓地で見た時の、あのおどろおどろしいお化けとは到底思えないんだけど……」
「私は私がどう具現化されるかは、人によってまちまちなのです。この形は、恭介さまの私へのイメージと、私の恭介さまへの想いが合わさった結果、としか言いようがないです」
それって、あなたにはこういう趣向があるのよ、と言われているようで、恭介は恥じらいを覚えた。
「……なんだか僕がそういうの好きですって言ってるみたいで嫌だなぁ」
「……私めの格好、お嫌いですか?」
いいえ、大好きです。
という本音をぶちまけたかったが、そこは我慢して話題を変えた。
「そ、それでもやっぱり体は透けてるんだね」
「はい。私は基本アンデッドですし、アンデッドとは精霊などと同様に、その体質の多くはマナの集合体で構成されていますから、どうしても物質として存在するには限度があります」
「なるほど……となると、やはり人前では僕の中に入っている方が良さそうだな」
「そうでございますね。それにこの形態だとマナの消費も激しくなるので長時間は維持できません」
「そっか。基本は今まで通りって感じだね」
「ただ、私の本体は今も恭介さまの中にありつつ、私もこの体で魔法を扱えますので、マナの消費は倍化しますが単純に戦闘能力は二倍になっていると考えることもできます」
戦闘能力という言葉で思い出したことがひとつあった。
「そういえばさ、僕の総合戦闘能力ってさ、378ってあるけど、これって強いのか弱いのかよくわからないんだよね」
ちなみにクライヴらと過ごした一ヶ月では、恭介は魔物などとは戦っていない。ただひたすらに簡単なトレーニングや、強化魔法を受ける、今にして考えれば実験体にしかされていなかったからだ。
ゆえに自分の強さがいまいちよくわからなかった。
「普通の成人男性はだいたい30前後なので、十倍以上の強さがあるということですね」
「え!? そんな強いの!?」
「ただそれは私めの魔力と扱える魔法も考慮されているからです」
よく考えればジェネの魔法だけでも簡単に生物を殺せるからそれだけで、戦力が跳ね上がるわけだ。
「そっか。あとは……特性のところにあった、なんか読めない記号みたいな羅列はなんなのかな?」
「あくまで予測ですが、恭介さまの『無限転生』に関する何かだと思われます。この世界に存在しない能力なので、測定不能となって文字化けしているのでしょう」
(なるほどな。っていうか、この世界でも文字化けって言うのか……)
と、恭介が色々な情報を得ながらジェネとの会話を楽しんでいると、近くで「ウォォオオオオオーン」という、狼のようなケモノの甲高い鳴き声が響き渡った。
「いけません。私は一度恭介さまの中にまた戻ります」
ジェネは何かに察知したのか、少女の形態を崩し、また恭介の中へと戻っていった。
『やはり恭介さまの中は落ち着きます』
また以前のように頭の中で声を出すジェネだが、前のように話し方がおどろおどろしくなく、しっかりとした物言いになっていた。
「ジェネ、しゃべり方がハッキリしたままになったね?」
『恭介さまのイメージが固定されたので、私という概念がこのように変化したかと。本質は変わっておらず恭介さまをご主人さまとして崇め、愛しておりますので、ご安心を』
「そ、そうなんだ」
『それよりも……恭介さま。戦闘準備が必要です』
緊張感のある声になったジェネが、そう、警告してきた。




