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十一話 二度目の追放

「判決を言い渡す、ハザマ キョウスケ。貴様を我が神聖なる王都の反社会的存在、また、危険因子と認定し、永久追放の刑に処す」


 堂々たる荘厳と優美さの両方を兼ね備えた声が、冷酷無慈悲にこの、連合王国裁判所内に響き渡る。


「そ、そんな……」


 恭介はその判定を申し渡され、絶望とした表情で裁判長を見上げた。


「貴様の罪は重い。よって、今後、我が同盟連合国である四カ国、そのどれもに立ち入ることの一切を禁ずる。死刑とされなかっただけでもありがたく思え!」


 眉間にシワを寄せ声をやや荒げた、裁判長である初老の男は、まるでこの世の全ての悪はお前だ、と言わんばかり表情で恭介の事を睨め(ねめ)付ける。


「ま、待ってください! 僕は何もしちゃいない! 僕は……!」


 そんな恭介の言葉に口を挟んだのは、美しく気品のある若い女性。


「……あなたのような下劣な男の声など、聞きたくもありません。この下等な奴隷風情がッ!」


「ミネルヴァ王女さま、近寄ってはなりません!」


 ミネルヴァ、と呼ばれたのはどうやらこのアドガルド王国の王女らしい。


 恭介がこの裁判所で裁かれている間、ずっと見下す様な視線を恭介に浴びせ続けていた。


 そんな王女が席を立って、恭介の前に歩み寄ってくる。


「私は、この世でもっともアンデッドと奴隷が嫌いなの。だから、早く死んでほしい。わかるかしら!?」


「ッう!?」


 王女はそう言いながら、恭介の頭や体を、その手に持っていた錫杖で殴りつけた。


「本当なら、この場で死刑にしたいくらい! でも追放だなんてお父様は甘過ぎますわ。だからこのくらいの罰は当然ッ!!」


 まるで王女のストレスの捌け口であるかのように、恭介はしばらく殴られ続けた。


「……はぁ! はぁ! これに懲りたら二度とこの国に足を踏み入れないでちょうだい!」


 そして気が晴れたのか、ひとしきり恭介を殴ったのち、王女は踵を返して元の席に座った。


「ぼ、僕が一体何をしたって言うんだ……」


「黙れッ! 罪人の言葉など聞く余地は無い! 衛兵、連れてゆけ!」


 初老の裁判長に命じられ、鎧と剣を装備した屈強そうな兵士が二名で恭介の腕を掴む。


「お願いだ! は、話を聞いて……」


 裁判所から連れ出されながら叫ぶ恭介をよそに、周囲のギャラリーから侮蔑するような言葉と冷ややかな眼差しで、彼は屋外へと見送られた――。




        ●○●○●




 罪状は二つ。


 ひとつは不法入国罪。


 もうひとつが国家反逆罪。


 内容はこうだ。


 まずこの王都において『奴隷』という存在はあってはならない。奴隷制度自体がこの国では違法なうえ、奴隷階級はこの国に滞在してはならないルールもあったが為だ。


 恭介の首元には奴隷の証、奴隷紋が刻まれている。


 クライヴらに言われたこともあって恭介も多少はそのことを知っていた。ゆえに、奴隷紋は人に見られると不味い、とのことで、服の襟を立てて奴隷紋が見えないようにしていた。


 だが今回、そのことについて裁かれたということは、何者かが恭介は奴隷であったことをリークしたということだろう。


 そして二つ目の国家反逆罪。これが大問題だった。


 その内容は――。


「上位アンデッド、ジェネラルリッチを王都付近に呼び寄せ、あげく、その居場所を隠蔽(いんぺい)した罪、か」


 王都アドガルドを遠目で眺めながら、周囲で飛び交う鳥たちのさえずりを聞き、ガルド山脈の麓付近にある、罪人の休息所と呼ばれるあばら家の中で恭介は呟いた。


 このあばら家は、すでに廃屋となっていて屋根も扉もボロボロだったが、簡易的に雨露を凌ぐ程度には体を休められる。国家追放の罪を課せられた罪人は、ここまで運ばれてから足かせと手錠を外してもらい解放される。

 

 ここまで連行してきた二人の兵士も王都へ還り、独りになった恭介は裁判長の言っていたことを思い返してみた。


 裁判長はこう言っていた。


 ひと月ほど前、突如、王下管轄の墓地でジェネラルリッチが出現。偶然、現場に居合わせた二名の衛兵が襲われかける。


 一名の兵士は無事逃げ帰るが、もう一名がジェネラルリッチに連れ去られた。


 連れ去られた兵士はとある少年に救出されたとのことだったが、何故かそれからジェネラルリッチが姿を消した。


 状況から考えて、その少年こそがジェネラルリッチを召喚した悪の根源であり、今もなおジェネラルリッチの所在を隠していると暫定し、今回の処罰となった。


 という流れなのだが。


「……一体何が、どうなってるんだ」


 全くもってわけがわからない。


 あまりにも推論が強引すぎる。


 確かにジェネラルリッチは今、恭介の体内にいるが、召喚などはしていない。


「ジェネ、いるよな?」


 裁判中から何故かずっと静かに黙っているジェネに声を掛けてみる。


『はい……おります』


「……僕には何がなんだかさっぱりわからない。ジェネ、そもそもお前は一体どうしてあの墓地にいたんだ?」


『私めは……封印から解き放たれたばかり……なのです』


「封印? どこかに封印されていたのか?」


『はい……あの墓地の……一番大きな……墓石に封じられて……おりました』


「なぜ封印は解かれた?」


『わかり……ません。ですが……封印されて約百年……時が満ちたのだと……思いました……』


「時が満ちた?」


『はい……ノストラダム(終末戦争)が……始まる予兆……かと』


 ――ノストラダム(終末戦争)


 ジェネの解説によると、今からおよそ百年ほど前。この世界では人族(人間族や獣人や亜人など)が死滅するか、それとも、その時の大いなるアンデッド族の王、ワイトディザスター率いる魔族軍団とアンデッド軍団が消滅するかという、それは大きな二極戦争があったらしい。


 夢幻大戦(むげんたいせん)と呼ばれたそれは、一年以上に渡って続いたが、魔族とアンデッド族の力は強大で、人族らは徐々に追い詰められていった。


 ある時、彼らを憐れに思ったアンデッド族の王、ワイトディザスターはこう言った。「人族が今後ルールを守り、お互いの不可侵を破らないと誓うのならこれ以上の侵略攻撃はやめる」と。


 疲弊しきっていた人族らは、提示されたこの条件を飲む。しかしそんな慈悲の手に謀反を起こしたのが一人の人間族だった。


 名はラグナと言った。


 条件を飲み、撤退していくアンデッドと魔族群に対し、ラグナは水面下で準備していた大規模な封印魔法を仕掛けた。


 人間族のラグナが仕掛けたそれは成功し、強大な力を持つ魔族やアンデット族の大半が世界のあらゆる地域で封印された。


 知能の低い魔族やアンデッド族は放置されたが、大きな力を持つ者らはかなりの数が封印され、それをきっかけに戦争は終結し、人間族は自らの領地を拡大していった。


 封印される直前、当時のアンデッド族の王、ワイトディザスターはこう言い残した。


「この仕打ちは忘れぬ。およそ百年後、ノストラダムが世界の行き先を示すであろう。その日が訪れるのをゆめゆめ忘るるな」


 その最後のセリフが伝承となり、ノストラダムとは終末戦争のことだろう、として各国に伝えられていった。


「ノストラダム、ねぇ。それは一体なんなんだ?」


 規模の大きな話になり、恭介はなかば他人事のようにジェネに尋ねる。


『それは……よくわかりません……ただ……そういうものが……始まるのだと……』


 この様子では、ジェネも詳しくはわかっていないようだ。


(しっかしノストラダム、か。まるで地球の1999年にあったノストラダムスの大予言だな……)


「ふーん……。なんだか凄い話だな……」


 規模の大きな話ではあるが、自分に全く無関係かと言われると、そうでもなさそうなところが不安だ、と恭介の内心は複雑であった。


 それと今回の件。


 あまり考えたくはないのだが、思い返すと黒い感情が湧いてくる。


 状況から見ると、奴隷のことを通報しているのは、クライヴらの可能性が高く、ジェネラルリッチのことを通報しているのはマリィらの可能性が高いのだ。


(前者については、突然パーティから追い出したクライヴさんたちに、何かしらの目論見があるのかも。結界を打ち破れなかった僕へのあてつけもあるのかな……)


 もしそうだとしても、何故そんなに自分を貶めようとするのか不思議で仕方なかった。


 そして、マリィらからあれほど感謝されたのにも拘らず、恭介が主犯のように疑われて話が伝わっていることも解せない。


(……やめよう)


 これ以上わからないことを考えても、悪い方にしか想像が働かない。


 そう思った恭介は、このことを潔く受け止め、今後の方針について考えることにした。





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