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百八話 繋がる異変

「は!? 僕がリーダー!?」


 唐突なイニエスタの提案に恭介が声をあげて驚く。


「そうだ。っつーか、前におめぇ自身で言ってただろ? だから俺様はおめぇの配下になるぜ。そんでもって、おめぇさんが俺様たちの王だ」


「い、いや、確かに前はちょっと勢い余って言ったし、確かにアンデッドたちをまとめる王にはなっても良いとは考えてたけど、人族まで混ざるとなると、僕が王ってわけには……」


「いやあー? 適任だと思いますよ、俺は」


 あたふたする恭介に、それまでなかなか話に加わらなかったレオンハートが手を挙げて賛成の意を示す。


「俺はこんな感じだから、なかなか信用されないキャラですが、俺の加護が恭介さまに従うことが一番だと、そう告げてるんですから」


 レオンハートはヘラヘラと笑いながら言っているが、恭介の目から見ると彼の言葉にやはり嘘偽りは感じられない。


「イニエスタ! レオンハート! お前たちはなかなか見る目がありますねッ! その通りです! 恭介さまこそが世界を統べるに相応しいお方ですからね!」


 ジェネが興奮気味にはしゃぐ。


「うむ! 我も恭介さまこそが王になるべきお方であると思っている!」


 ヴァナルガンドも尻尾をふりふりしながら声をあげる。


「俺様はよぉ、とりあえず大事なテナーも取り戻してもらえたし、それに今後のことを考えると、どの道サンスルードにゃあ力が必要になると思ってんだ。だから、俺様の国を恭介の国にしちまおうと思ってんだ」


「はあッ!? 僕の国、だと!? な、何を言ってるんだエス!?」


 イニエスタはニカッと白い歯を見せて笑い、


「何もクソもそれが一番だろうが。だいたいおめぇー、このまま拠点も国も持たずに仲間が増えていってどうするつもりだったんだ? 確かにおめぇの力なら、適当にどんなところでもあっさり支配できるだろうが、結局それじゃあ恐怖による支配になっちまう」


「……支配……は、駄目、か?」


 恭介は最初、それで良いと思っていた。


 クラグスルアの屋敷で拷問されたのち、この世界の人族など恐怖と力で抑えつけて支配してしまえば良いと。


「駄目じゃねえし、それは短期間で勢力を作るにはもってこいだろう。しかしそんな支配下じゃあ必ずすぐに綻びが生じる。内部から崩れっちまう」

 

「むう……」


 恭介は図星をつかれ、思わず難しい顔をした。


「だが、それが俺様の後ろ盾を使って、王になったとありゃあ話は別だ。他の国はわからねぇが、少なくとも俺様の国はおめぇの味方になる」


「そ、それはそうかもしれないけど……僕は帝王学なんて知らないぞ?」


「……」


 イニエスタは少し黙って恭介の目を見る。


「……おめぇさんさ、よくわかんねぇけど年相応じゃあねぇよな? それもただの奴隷だったとは思えねえ」


「な、なんだよ急に……」


「いや、サンスルードからここまでおめぇと数日一緒に居てわかったんだけどよ、おめぇは割と達観した考え方を持ってるよな。そもそも元奴隷とは思えねえほど知識も高く、文字の読み書きまで出来る」


 今更だが、恭介はこの世界に転生した時から文字や言語は当たり前のように理解できていた。


 それはこの元奴隷の体の持ち主である『ファウスト』という者が勤勉だったのだろうと思っていた。


「普通はよ、ガキの奴隷に文字の読み書きが出来て、更にはそれほどに卓越した言語の語彙力(ごいりょく)なんざ、ありえねぇんだわ。飼い主がそれを教える労力を払う意味がねぇからな。しかもおめえはクラグスルアの奴隷だったんだろ? なら尚更だ」


「……そう、なのか」


「だから俺様は思ったんだ、おめぇさんがさっきアークラウスが言ってた異界の王なんじゃねえかってな」


 イニエスタはアークラウスを見て、したり顔をする。 

 

「……なるほど。イニエスタ王の言う通りかもしれませんね。俺も当初より恭介殿には異端な何かを感じておりました」


 恭介は異世界から転生したことはあまり口外していない。


「……ちょっといいか? さっきアークラウスは異界の王が世界を救う為に破壊するって言ってたよな。破壊の章、だっけ。それはどういう意味なんだ?」


 恭介は自分の転生のことはひとまずさておき、ずっと気になっていたグリモアの予言書の内容について尋ねる。


「その破壊の章にはこうあります――」


 ――マナを巡る争いは、別世界からやってきた王の手によって鎮火させられる。


 根源たる者らを全て殺し、浄化し、その魂すらも行き場を失わせ、しかしそれでも世界は滅ぶだろう。


 異界の王は無限の時間を生きながら、救う為に滅ぼす選択を選び続ける。それは世界がやり直す為に選んだ者なのだから――。


「……と。この異界の王が恭介殿ではないのか、と俺は思っているのです」


 アークラウスはグリモアの予言書第二巻、破壊の章についての内容を恭介らに伝える。


「つまり僕は、ダスクリーパーの思想通りに人族を殺してマナを失わせないようにする存在だ……って意味か?」


「そうとまでは言いませんが、近しい存在であるとは思っております」


 恭介は少しだけ、顔を伏せて黙した。


(……アークラウスの話から推測するに、その異界の王って言うのは僕のことに間違いなさそうだ。しかし気になるのは、全てを殺しても世界が滅ぶ、というところ。つまり結局はどうあってもこの世界は救えない、ってことなのか?)


 さまざまな思惑が恭介の頭の中で交錯する。


 しかしいくら考えたところで、現状は圧倒的に情報不足だ。


 それにやはり気になるのは――。


「なあアークラウス」


「なんでしょう?」


「グリモアの予言書ってのはなんなんだ? ミッドグランドの大平原にいたコロボックルたちもなんだかそんなようなことを言っていたんだが、彼らはグリモア禁書(・・)って言っていたんだ」


 恭介がそう言うと、


「な、なんだと!? おめぇ、コロボックルたちに会ったのか!?」


 今度はイニエスタが驚いたような顔で声をあげた。


「あ、ああ。ディバインプレーリー(神聖なる大平原)とかいうところだったかな? そこで会ったんだけど……」


 そう言って恭介が皆の顔を見ると、驚いていたのはイニエスタだけではなく、アークラウスやシルヴェスタ、それにミッドグランドの住人であるペルセウスらもその感情を表情に現している。


「……え? な、なんだよ? 僕おかしなこと言ったか?」


「いや、そうじゃねぇ。そもそもコロボックル種は人前に姿を現すようなことはしねえんだ。奴らは精霊の一種だからな」


「ああ、だから僕がそんな彼らに出会えたのが珍しい、ってことかな?」


 イニエスタは首を横に振った。


「ちげぇ。そうじゃなくて、アークラウスの話が真実味を帯びてきたってことだ」


「んー……? 意味がわからないぞ、エス。どういうことだよ?」 

 

「コロボックルが地表で姿を現すなんざ、本来ぜってぇありえねえんだ。奴ら精霊の類いは六頭神『アネモネ』の加護がある」


 こくん、とアークラウスが頷く。


「イニエスタ王の言う通りです。精霊たちは常に『アネモネ』によって、その姿が生物の瞳には映されないように守られている。それは環境マナの効力に因るところが大きい」


「……コロボックルたちが見えたってことは、マナの力が弱まってる、ということか?」


 恭介の言葉にこくん、とアークラウスが頷く。


「それも相当に危険なレベルです。おそらくミッドグランドの住人が一番最初に環境マナ不足による、マナ中毒現象を引き起こし、大惨事になると思われます」


 アークラウスの説明では、環境マナというものは空気と同じく一定濃度以上を生命体は必要としており、それが失われるとさまざまな体調不良を引き起こす。


 吐き気、頭痛、目眩、倦怠感と続き、やがて意識は混濁し、果てには命を失う。


「……僕は知っています。その症状で後遺症を残す羽目になった人をダンジョン探索中に見たことがありますから」


「俺もだ。戦争なんかじゃたまに見るな」


 シリウスとペルセウスは、自分たちの見てきたマナ中毒患者を思い出す。


「うむ。狭い空間で大量に環境マナを使う、戦争でたくさんの者が密集して魔法を使う、と言った行為は環境マナを一時的に著しく消耗する。すると一過性ではあるがそう言ったマナ中毒を引き起こす」


 再びアークラウスが語り始める。


「だが、コロボックルが現れたとなると、もはや一過性では済まない。むしろ彼ら自身も気づいていない可能性も高い」


「コロボックルたちも気づいていない……!?」


 恭介が驚いたように答える。


「はい。恭介殿は彼らと接触した時、何か最近で変わったことがあった、ような話は聞きませんでしたか?」


 そう言われて恭介は思い出す。


「……聞いた。なんでかわからないけど、突然イビルゴートという凶暴な魔獣に住処を荒らされ出した、って」


 アークラウスはその表情を更に険しくして、


「なんでかわからない……その言葉こそが全てを物語っていますね。彼らはまだマナの枯渇による六頭神『アネモネ』の加護が失われかけていることに気づいていない」


「そもそもコロボックルたちはそういう加護があることを知っているのか?」


「それはわかりませんが、話の脈絡から見ると知らない可能性の方が高そうです。とにかく、このままでは近いうちにミッドグランドは内部から崩れるでしょう」


 その言葉を聞いて、愕然としているのはペルセウスとシリウスだ。


「……コロボックルなんて、御伽噺の存在かと思ってたぜ。ディバインプレーリーに住んでいる、とは聞いたことあんのに、今まで見たことねぇのはそういう理由だったのか」


「そん……な……僕たちの国が……」


 恭介もそれで合点の行くところを思い出す。


 コロボックルらは定期的に人族の街、ミッドグランドに忍び込んでいた。


 恭介はそれを聞いた時、隠れながらうまく潜入しているんだろうなと思ったのだが、実際はそうではなく、彼らは彼らも知らない六頭神の加護によってその姿を認知されなくしてもらっていたのだ、と。


「おそらく、ですがアンデッドに大きな関係があると考えられます」


 アークラウスはペルセウスらを見た。


「そちらの国ではアンデッドが非常に多いと聞く。それを利用していることに何か関係性が深そうだ。思い当たるフシはあるか……?」


 二人は神妙な面持ちで、


「……ある。ニコラス王の『エキスパンション・マインドジャック』だ」


 マナ枯渇の大きな要因である王のことを話す。


「なるほど……それは怪しいな」


 アークラウスは手を顎に当てて、少し考え込む。


「……話を戻しましょう。恭介殿、グリモアの予言書について調べるなら、その全てを集めるべきと俺は思います」


「全て、って……それは何冊あるんだ?」


「全部で4冊。始まりの章がおそらくコロボックルらが持っている物です。第一巻は禁忌の章と言いますから、それで彼らは『グリモア禁書』と呼んでいたのでしょう」


「なるほど。で、アークラウスが持っているのが第二巻の破壊の章だから、行方不明なのはあと2冊か」


「あ、あの!」


 ミリアが突如声をあげた。


「あの……多分、それの一冊は私が知ってるかも……」


「ミリアさんが? どういうこと?」


「うん、ちょっと私の家のことから話すね。なんだか無関係でもなさそうだし……」



 そう言うとミリアはゆっくり、自分の生い立ちから語り始めるのだった――。




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