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十話 そして始まる物語



 ――そして。



『恭介……さま……』


 意識が薄らと戻り始める。


『恭介さま……大丈夫ですか……恭介さま……』


 自分のことで悲痛そうに嘆く、ジェネの声が響く。


『恭介さま……早く……お目覚めになられてください……』


「……っう」


 脳に響く声が徐々にしっかり聞き取れ始めた頃、またいつもの激しい頭痛と、喉が焼ける感覚が襲う。


「……そう、か。僕はまた死んだのか……」


 人気(ひとけ)の少ない路地裏で、見知らぬ野党に殺されたのを思い出す。


 信用しきっていたクライヴらに裏切られ、意味不明に追放され、行く当てもなく彷徨っていた恭介に、更なる不幸の積み重ね。


 野党に襲われ、腹を滅多刺しにされ、殺された。


『無事思い出されて……よかったです……』


 しかし案の定、手持ちのわずかなアイテムは全て奪われてしまっていた。


 まさに泣きっ面に蜂とはこのことを言うのだろう。


 そんな中残ったのは、いつも話しかけてくるこのアンデッドのジェネくらいなものだった。


 他にもダスクリーパーとかいう神様も体内にいるらしいが、本当にアレ以来声を発さなくなった。恭介が知る限りでは、だが。


「……ありがとう、ジェネ」


 脳内でしか声を出せないアンデッドだが、それでも、たった一人、自分の身を案じてくれている彼女に対し、思わず涙が溢れそうになった。


『え……恭介さま……それ、私めに……仰って、くださっている……のですか……?』


「もちろんだよ。他に人なんていないだろ」


『う、う……嬉しい……です。恭介さま……ぅ……私は……感無量……です……』


「ははは。大袈裟だなぁ」


『私だけは……恭介さまと……ずっと一緒に……』


 ずっと脳内にいられるのは正直困るなぁ、と思いつつ恭介はジェネの言葉に笑って返した。


 しかし今更ながら、自分の『無限転生』に驚かされる。


 体の完全再生だけでなく、衣服と認識されているもの全てが完全に復元するのだ。


 それは装備品の類いも完全に復元する。


 唯一残されたコレがそうだ。


「マリィさんにもらった指輪。これは奪わなかったんだなぁ」


 この指輪も、クライヴらも結界を破ろうとした際に一緒にボロボロになっていた。皮膚が炭化するほどだったのだから当然だ。


 しかし目覚めたら、しっかりと再生されていたのだ。


「そんなことより、これから本当にどうするかだよな……」


 恭介はぼやきながら、また人気のない路地を歩み出した。


 こんなことは、まだこれから始まる大いなる災いの、ほんのプロローグにしか過ぎないことなど、つゆほども知らずに。




        ●○●○●




「間違い無いのか?」


 暗闇の中で、体格の大きい威厳のある男が大きな白い髭を揺らしながら呟く。


「はい。卿からの報告では、そのように……」


 一人の兵士が跪いて答える。


「……なぜこのタイミングで目覚めた? その少年はなんなのだ?」


「わかりません。ですが、アレ以来目撃情報は途絶えました。代わりにその少年が、とのことです」


「……わかった。早々に処分をくだす。すぐに捕らえよ」


「……っは」


 兵士に命を下した男は、小さく溜め息をつく。


「ついに訪れるのか」


 男は最悪の事態を想定して、冷や汗を流す。


「……ノストラダム」




        ●○●○●




 とりあえず行くあての無い恭介は、当面の問題をどうするべきか、頭を悩ましていた。


「いらっしゃい! 良い肉だろ!? そいつぁ、ガルド山脈に住む希少なイブリコ豚の燻製肉だぜ! うまいゼェ? 買ってってくれよ、あんちゃん!」


 ググウゥぅぅーーっと、お腹が鳴る。


「ほ、ほんとに美味そう……」


 腹の他、ゴクリと喉も鳴らすが、こんな美味そうな肉を買える金など当然恭介には持ち合わせてはいない。


「あんちゃん腹すかしてんな!? これ買ってけよ! な!? サービスすんぜ!?」


 肉屋の店主は、まるで剣ほどもある大きな中華包丁を片手に、ニカッと笑って恭介に肉を勧めてくる。


「う……す、すみません……お金ないので……」


「ああ!? 文無しかよ! じゃあ邪魔だ邪魔だ! あっちいけ!」


 店主はシッシッと、野良犬を追い払うかのように恭介を邪険にあしらった。


 長居すると更に腹ペコになりそうなので、恭介はとぼとぼとその場から立ち去る。どちらにせよ、この肉屋の店主でなくても、文無しの自分には誰も何ひとつ売ってはくれないだろう。


 街の外に出て狩りをして生活、なんてのも無理だ。恭介には獲物の調理などできない。


 しかし恭介にはジェネが扱う即死系魔法が使えるので、魔物の討伐はなんとかなりそうだったが、魔物を討伐してもギルドのクエストとして処理されたものでなければ一銭にもならない。


 クライヴに教わったが、この世界でお金を稼ぐのに一番てっとり早い方法は、王立冒険者ギルドに名簿登録して、ギルドお抱えの冒険者になることだった。


 しかし実は恭介はそれをしていない。クライヴらに止められたからだ。


 その時、クライヴは「パーティ名で登録しているし、人数も報告している。お前もパーティの一員だからいちいち個人での登録をする必要がない」と言っていた。ギルドへの用事もクライヴらが全てやると言って、恭介は一度も直接ギルドへと足を踏み入れたことがない。


 だが、今は追放された身。


 だったらいっそ、ソロプレイヤーとしてギルドに冒険者登録すればいいか、と恭介は思った。


「……ギルドに行ったらクライヴさんたちに会うかもしれないけど、そんなワガママも言ってられない、か」


 空腹は実に辛い。この街には美味そうなものがあちこちにあるのに、食べさせてもらえないのは、ある意味拷問だ。


 恭介は恥も外聞も捨て、ギルドへ向かった。




        ●○●○●




「え、身分証明書?」


「はい、まずはそれをお持ちください」


 王立冒険者ギルドの受付で、冒険者として個人登録しようと尋ねたらそう返された。


 どうやらこの世界では一般市民階級以上の人間全ての個人情報が、アドガルド城内にある市民課で統括管理されているらしい。


 そう言われれば、そんなようなことをクライヴも言っていたことを思い出す。


(そうか……僕は元奴隷だから……)


 当然、奴隷に身分などない。そもそも奴隷は非公式に売買された人間たちなのだから。


 だからこそ、クライヴは恭介をギルドにあまり連れてこなかったのだ。奴隷紋を見られたくないがゆえに。


 元奴隷、となると身分証明などもないのだろう。ということはここに居ても時間の無駄だと悟った恭介は、踵を返しギルドから出ようとした。


 その時。


「全員動くな!」


 勢いよくギルドの扉を開いて、数人の兵士たちが入り込んで来た。


 ズカズカと横柄な態度で、兵士たちは恭介の目の前に立ちはだかる。


「貴様がキョウスケという者か!?」


「そ、そうだけど……」


 恭介が怯えつつ頷くと、兵士は一枚の紙切れを見せつけてきた。


「我がアドガルド王国の絶対王、ゴルムア・ルドア・アドガルド様の勅命により、貴様を連合王国裁判所へ連行する! 抵抗は無意味だ!」


「え? ちょ、ちょっと!? 離せって!」


 傲慢な物言いでそう言うと、兵士たちが用意していた麻の縄でぐるぐる巻きにされた。


「抵抗は無意味だ!」


 兵士たちは口を揃えてそればかりを言う。


『恭介さま……この者ら……魔法で一掃してしまえば……』


(ジェネの魔法で僕が知っているのはコールドデスとウルティメイトデスだけだ。そんなものを使えば、また罪のない人を殺してしまう……)


 そう考えた恭介は、この場でジェネに返事をすることなく、抵抗は諦めた。


 そしてギルド内にいるたくさんの人の注目を集めたまま、恭介は連れ去られて行った。






 ここまでご拝読賜りまして、まことにありがとうございます。


 この話を読まれてみて、純粋に「面白かった」「続きが少しでも気になる」と、思われてくださったのなら、お手数かもしれませんが、この下の広告の下にある、☆☆☆☆☆のところで評価をいただけますと、作者は泣いて喜びます。


 また、更新はほぼ毎日行う予定ですので、ブクマの方も、僭越ながらよろしくお願い申し上げます。

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