ヒスウェルの1日
武道館で一通り、日本の武術を見学した後、
ヒロヤから「バイトが欲しかったから」とヒスウェルは奥野家から連れ出され、車に乗せられた。
車内は初めて見る仕様で、ハンドルは丸く、足元にもペダルがある。
「オランド王国の乗り物は、魔石で動きます。
正面に魔石を置くところがあり、石に行き先を告げると連れて行ってくれるんです。だから、ハンドルもなければペダルもありません。そして、魔力で動くので全く揺れないんです。こちらの車はガソリンが動力源でタイヤで動くのですよね」
「そうだよ。ガソリンを定期的に入れないとガス欠をおこすから。魔石は一度置いたらずっと使えるわけ?」
「石の魔力がなくなると新しい魔石に入れ替えます。魔石の質で走行距離や速度は変わりますね」
「魔力で動かしたりしないの?」
「魔力は、体力量によって決まるのです。魔力を使うと、それだけ体力が奪われます。道具に魔力を込める時は消耗が早いので、出来ないことはないのですが誰もしません」
「そうなんだー。定期的に魔石を買わないといけないのならガソリン入れるのと同じだね。なんて話してるうちに着いたよ。ここが俺の店」
ヒロヤの店は、大通りから少し入ったお洒落なショップの並ぶ一角にあり、洋服や雑貨など置いてある店でカフェが併設されていた。
「カフェは、俺の兄貴のトモヤが奥さんと経営してるんだ」
と言いながら中に入った。
開店前なので裏口から入る。
中に入ると日に焼けて少し透けそうなくらい色が落ちた薄い茶色の髪のかなり日焼けした美人が忙しそうに荷物を運んでいた。
「ヒロヤ、おはよう。一緒にいるえらく美形な外国人さんは?」
「おはよう、姉御。紹介するよ、今日からバイトに入ってもらう事にしたヒスウェル。奥野屋旅館にしばらく滞在するんだってさ。その間、働いてもらおうと思って。日本語もバッチリだしね
」
とヒロヤは姉御と呼ぶ女性に言った。女性はヒスウェルに向かって
「はじめまして。私は奥野美咲。ヒロヤの兄、トモヤの嫁です。私たちはこのカフェを経営しているの。こっちが忙しい時には手伝ってもらう事になるけどいい?」
「もちろんです。私はヒスウェルと言います。お忙しい時には是非お声掛けください、美咲殿」
美咲は、少し笑って
「殿は変だよ。誰に日本語習ったわけ?もしや時代劇で学んだとか?」
とクククと笑っていながら、美咲はカフェの厨房に入っていった。
ヒスウェルはヒロヤに連れられて、セレクトショップのバックヤードに入った。
「じゃあ、ヒスウェル。とりあえず着替えようか。ここは洋服を売る店だから、それなりにお洒落をしないといけないからね。とりあえず、この服に着替えてよ。しかし、ヒスウェルって汗かかないわけ?俺、汗かいちゃったよ。さっき旅館でシャワーしてくればよかった」
そういいながら、ヒロヤは麻でできたパンツと、Tシャツを渡してきた。
「汗をかいたなら、お任せください」
というと、ヒスウェルはヒロヤに向かって魔法をかけた。
一瞬爽快な風が体を包み、シャワー後のようなサッパリ感を感じる
「魔物討伐に数週間山に篭る事もあるので体を清潔にしてサッパリ感を感じる魔法がここ数十年、多様されているんです。あ、でも魔法を使ったことは皆様には内緒にしてくださいね」
とヒスウェルは言った。
ヒスウェルの着替えが終わると、ヒスウェルを鏡の前に座らせ、ヒロヤは手にワックスをつけて、髪をセットした。
「そのままでも十分、イケメンなんだけどさ、ちょっと自然体すぎるでしょ。だから、接客の時は髪型をセットしてから店に出てね、とりあえずこれは見本。やり方がわからないとできないでしょ?」
とヒロヤはいいながら、髪を流す。
「おっ?いい感じじゃない。じゃ、店での仕事を説明するよ。何にも難しい事ないからさ」
仕事は毎日、カフェのホールと洋服屋を掃除してから開店するから、その手伝いをすること、入店したら、いらっしゃいませ、と声をかける事。お客さんが服に迷っているようならアドバイスすることなどだった。
「アドバイス?」
ヒスウェルは聞いた。
「ここて取り扱っている服は男性用と女性用があるわけよ。でね、女性は、洋服で迷うわけ。その時に、お似合いですよ、とか自分の思ったことを言ってあげるといいと思うよ。ヒスウェルは、人当たりがいいから大丈夫」
そういうと、モップを出してきて
「じゃあ掃除から始めよっか」
と言った。
仕事が始まった
日曜日とあって、ランチタイムのカフェは混んでおり、洋服や雑貨を買い物した後カフェに行く客がいれば、またその逆もあった。
「ようこそ、お嬢様方」
思わずいつもの挨拶をしてしまうヒスウェル。
イケメン外国人に、お嬢様なんて言われるので、買い物後にカフェに行ったお客さんは、カフェで寛いだ後、また洋服屋の方に戻ってくる始末だった。なのでセレクトショップは、ヒスウェル目当ての女性客でごった返した。
ヒスウェルは、イケメン集団である騎士団御一行の中でもさらに顔がいい。
二重の垂れ目にサファイア色の瞳。ハリウッドスター顔負け。そして貴族の御子息なので物腰柔らかく、女性に優しい。
今日初めてアルバイトに来たのに、女性客で店内はごった返した。
…これはまずい
ヒロヤは思った。こんなに人だかりができても、商売にならない。明日から、カフェのバックヤードに入ってもらおう、とヒロヤは思った。
こんなイケメン、この地方都市のどの店にいたって目立って仕方がない。
こんな感じで、だんだん日常パートに移っていきます。今後ともお付き合いください。
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