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銃盾  作者: 鶏卵そば
子の銃を以って子の盾を陥さば如何
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激突、天と地

 砂漠の上空で、リルは焦りを押さえきれずにいた。


「なあ、じい様を一人で下ろしてホントに良かったのか?」


 アマテラスをスサノオに衝突させるためには、スサノオの動きを止めなくてはならない。


「わしがやろう。スサノオの構造は把握している。アレを止められるのは、わしだけじゃ」


 そう言って役目を買って出た田常を、リルたちは前もって落下傘で地上に下ろしていた。

 だが、国境砦ですらやすやすと突破した地の神器を年寄り一人でどうこうできるとは、常識ではとても考えられない。


「何か、作戦があるんだよな。スサノオの構造は把握しているキリッとか言ってたんだから」

「師匠は言っていました。アレの防御は完璧で外側から止めることはできないと」

「じゃあ、全然ダメじゃないか!」

「師匠が出来るといったのですから、大丈夫です。なんといっても、師匠は世界一の盾作りですから」

「盾関係あるか!? 鉄砲ならともかく、アレは盾じゃ止められんだろ!」

「でも、見てください! ホラ、あそこ!」


 安樹は、そう言って地上を指差した。

 砂漠の一角で激しい砂塵が舞い上がり、視界が遮られている。やがて、砂煙が引くと、そこあったのは停止したスサノオの姿だった。

 そして、その鼻先に田常が立っていた。


「おう、じい様、ホントにやりやがった! 一体どうやったんだ!?」

「わかりません。でも、それより姫様、今度は私たちの番です」

「そうだな、よしシギめ、覚悟しろ!」


 安樹は、アマテラスに最後の命令を下した。


「アマテラス、これから地ノ神器スサノオに特攻をしかける!」


 狭い船内に、無機質な女性の声が響く。


「了解シマシタ。アマテラス、角度下ゲ。目標すさのお」


  *         *         *


 スサノオが急停止した反動で、シギは搭乗ハッチの縁にしたたか顔面をぶつけていた。

 操縦席に向かって叫ぶ。


「イズナ! 何をやってる。止めるなと言っただろう!」


 しかし、操縦席にうずくまった彼女からは何の返答もない。おそらく、停止時のショックで頭でも打ったのだろう。


(落ち着けよ。冷静に考えるんだ)


 なぜイズナがスサノオを止めたのか? どう考えても、シギにはその理由がわからなかった。しかし今は理由などどうでもいい。肝心なのは、これからどうするか。

 シギは、迷わずスサノオを飛び降りた。

 スサノオが止まってしまえば、リルディルは間違いなくアマテラスで突っ込んでくるだろう。

 巨大な鉄の塊は格好の標的だ。

 そして、いかに地の神器の装甲が硬いといえど、天の神器に空から体当たりされては一溜まりもあるまい。中に残っていてはまず助からない。


「イズナ! 大丈夫か!」


 外に出るシギと入れ替わりに、一人の男がスサノオの中に飛び込んだ。

 あの男には見覚えがある。たしか安樹の祖父の盾作りで、イズナと行動を共にしていた老人だ。

 しかしシギは、一切振り返らずに砂漠をキヤト軍の本陣に向かって走っていた。


(イズナはあの老人のために俺を裏切ったのか?)


 口の中に苦い物がこみ上げてくる。

 次の瞬間、背後からヒューという落下音が聞こえてきた。


(マズいっ!)


 とにかく目に付いた岩陰に飛び込んで頭を抱える。

 続けて恐ろしい大音量の爆発音が響いた。

 熱風が吹き抜け、吸い込んだ熱い空気がシギの肺を焦がす。さらに、砂煙とともに飛散した瓦礫がうずくまるシギの背中を打ちのめした。


「ゲホッ、ゲホゲホ!」


 激しい咳と背中の痛みに襲われながら、シギはただ砂煙がおさまるのを待った。

 やがてあたりに静寂が訪れる。

 おそるおそる後ろを見ると、スサノオとアマテラスが空高く炎を巻き上げて炎上していた。


「間一髪だった。……イズナも、それから老人もあの炎では助かるまい」


 我知らずつぶやく。

 そして心の内で脱出を急いだとっさの判断を自賛し、裏切り者が迎えた結末に少しだけ溜飲を下げた。


「ハァハァ」


 そのまま岩陰にもたれて呼吸を整える。


「まだだ、まだ俺は負けたわけじゃない」


 スサノオを手に入れることは失敗した。

 しかし、スサノオとアマテラスが同士討ちになった今、残る神器は自らの手にある人の神器『クサナギ』だけということになる。

 つまり、シャンバラにもう神器は存在しないのだ。

 このままキヤト族が攻め入れば、シャンバラを陥すことは簡単だ。


「計画通り、この戦でシャンバラを本当に地図の上から消し去ってくれる」


 悔し紛れに、おもわずそんな独り言が口をついた。

 その時だった。


「まだ減らず口をたたく元気があるのか!」


 頭上から、聞き慣れた少女の声が響いた。

 見上げるまでもない。リルディル元万人隊長だ。

 キヤトの赤き狼が、シギの隠れている岩の上に仁王立ちになっていた。その傍らには、木の鞄を抱えた安樹の姿もある。


「リルディル……様」

「今更、様もないだろう。シギ、おまえはもう終わりだ」


 見たところ、リルの手に武器らしいものは握られていない。

 一方のシギも武器を持ち合わせていなかった。

 一見、大の男対小柄な少女だが、肉弾戦ではまずリルに勝てる気がしない。

 シギは、恥も外聞もなく砂漠の砂の上に土下座をした。


「待ってくれ。頼む、ちょっとだけ待ってくれ」

「なんだ? まだ言い訳でもするつもりか……」

「いや、そうじゃない。ただ、ちょっとだけ待って欲しいんだ……そう、あとほんの少し、……そうすれば……」


 そう言いながら、額を地面にこすり付けていたシギは顔を上げてニヤリと嘲笑った。

 土下座した彼の額は、大地を伝わる馬の足音を感じていた。


「……また、俺の勝ちになる」

「何ぃ?」


 次の瞬間、ひづめの音と共に大勢のキヤト族の騎兵たちが現れた。

 爆発を聞きつけたキヤト軍が突撃してきたのだ。

 騎兵の大部隊は、いつの間にかシギとリルたちの間を取り囲んでいた。


「チィ、さすがに素早いな」


 リルが悔しそうに唇をかむ。

 やがて、騎兵たちの一角が割れるように空いて、ゆっくりと一騎の騎馬が現われた。

 派手な羽飾りをつけた鎧を纏った馬。

 乗っているのは、キヤト族の長、偉大なるボドンチャル・ハーンその人だった。


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