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銃盾  作者: 鶏卵そば
銃と盾と桃色の魔獣
31/60

シャンバラ鉄砲隊、迎撃する

「カギュー、来ます!」


 入り口で待ち構えているキサンタが声を上げた。

洞窟の奥のほうから、水の滴る音と粘液の擦れる音が聞こえてくる。


「まだ撃ってはいけません。入り口をふさぐまで待つのです」


 指示を出すシズカ女王の声にも緊張の色が浮かんでいた。

 通常、鉄砲隊の攻撃は射撃手個人の判断で開始されることはない。

 なぜなら、鉄砲は標的が遠くなると命中率も威力も格段に下がる。しかし射撃手は接近する敵の圧力に押されてつい早く引きがねを引きたくなるものだ。

 単発式の鉄砲の場合、それが致命的な失敗となる。

 したがって鉄砲隊は、隊長の号令の下に一斉射撃を行うのが常だった。

 鉄砲を構える三人の兵士たちは、今か今かと女王の発射命令を待っていた。


 やがて、洞窟の暗がりからぬーっと巨大なカタツムリが姿を現した。

 おそらく敵がいることを認識しているのだろう。

 さっきまでの勢い込んだ様子ではなく、警戒しながらゆっくりと進んでくる。獲物を探して、二本の触覚をうねうねとくねらせていた。

 開明獣が通ったあとの道にはぬめぬめとした粘液がたれており、鼻を突く強烈な腐臭が漂う。工房への入り口を閉じるためじっと岩陰に身を潜めていた侍従長とキサンタは、そのあまりの臭いに思わず手で鼻と口を覆っていた。


(入り口を塞ぎなさい!)


 カギューが工房内に入りきったのをみて、シズカ女王は手振りで指示を出した。

 侍従長たちが、用意してあった大きな丸い岩を二人がかりで押し込む。

 大きな岩のぶつかる音に、巨大カタツムリはあわてた様子で触覚を激しく揺らした。


「シズカ様、かかりましたぞ!」


 侍従長が得意げに叫ぶ。

 シズカ女王は、満を持して攻撃開始の号令を出そうとした。

 ――しかし次の瞬間、女王の耳に飛び込んできたのは人間の悲鳴だった。

 退路が塞がれたことを悟った開明獣は、今までとは異なる素早さで侍従長とキサンタにのしかかると、あっという間に二人を下敷きにしてしまったのだ。


「撃ち方はじめ! ただし味方にあたらないように、カギューの胴か、狙えるものは頭を狙いなさい」


 兵士たちは、我に帰って銃撃を開始した。

 乾いた銃声が洞窟内にこだまする。

 鉄砲の攻撃を受けた開明獣は、体を大きく震わせた。体中に開いた穴から体液を噴出させて、しぼんだ風船のように動かなくなる。


「やった!」

「カギューを倒したぞ!」


 兵士たちの快哉を叫ぶ声が洞窟内に響いた。

 ややあって、下敷きになっていたイセ侍従長とキサンタが巨大カタツムリの死骸の下から顔を出した。

 まず先にイセ侍従長がぶよぶよした腹の下からぬけ出した。


「やれやれ、あやうく化け物のエサになるところだった」


 それを見て、シズカ女王は安堵の声を漏らす。


「良かった、無事だったのですね」

「もちろんですとも。シズカ様お見事でしたぞ!」


 頭についた粘液を振り払って、侍従長は女王に笑顔を見せた。ところが――


「すみません。侍従長殿、手をお貸しください」

 

 キサンタの足が、開明獣の死体にはさまって動けなくなっていた。


「なんじゃ、しっかりせい」


 侍従長は、キサンタの腕をつかんで引っ張り上げようとする。


「!」


 その時だった。

 鉄砲の総攻撃を受けて止まっていた開明獣が、再びぬらぬらと動き始めた。

 軟かい身体に急激に力がみなぎり、腹の下の獲物を吸い込もうとする。


「なんだコイツ、死んだんじゃなかったのか!」


 キサンタの体が、まるで底なし沼に引きずり込まれるように、ずるずるとカタツムリの方へと吸い寄せられていった。


「ぐわぁー!!!」


 開明獣の腹の下から、キサンタの断末魔の悲鳴が聞こえてくる。

 それとともに腹の下の鋭い歯が骨を噛み砕く鈍い音がして、おびただしい血液が床面に広がった。

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