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1.第一日目 朝

全9回を予定。1週間おきにでも更新しようと思っています。

 今朝はこの冬一番の冷え込みだった。初めて氷点下を記録したこの日、北からの強い寒気団の影響で未明から雪が降りはじめた。降り始めたと思ったらあっという間に勢いは強くなり、まるで吹雪のようにこの街を包みこんでいった。路面はいつの間にか白く厚くコートされ、もはやノーマルのタイヤでは走ることができなくなっていた。しばらくするとチェーンを巻いて走る車の音が、重くずんずんと街中を響き渡っていた。

 そんな音で私は目が覚めた。

 今日は土曜日であった。昨日の晩、会社の付き合いもあって夜遅くまで深酒をしてしまった。終電車の時間に気づいてあわてて乗ったタクシーも出発時間までに間に合わず、結局のりそこね、大枚1万円の自腹を切ってようやく自宅にたどり着いたのはもう二時過ぎであった。

 時間はまだ朝の7時過ぎであった。雪のせいか、薄色のカーテンから入り込んでくる外の光がいつになく明るい気がした。ちょっと体を起こして見た。昨夜、家にたどり着いてほとんど何もせずベットにもぐりこんだようである。シャツとズボンがすぐ脇に脱ぎ散らかされていた。カーテンを開けると街はまぶしいくらいのホワイトスノーに包みこまれていた。私は妻の名前を読んでみた。

 返事がない・・・。

 そういえば昨日から妻は娘と冬休みを利用して彼女の実家に帰省していた。予定では確か火曜日頃に帰ってくるとか言っていたようなことを思い出す。いつもなら飲んだ場合どんなに遅く帰っても一言二言ぐずぐず言われるのだが、昨日はそういう人もいないということで、自分的についつい羽目をはずしてしまったのを思い出した。「そうか、私にとっては久々の独身生活なんだ!」と昨日うきうきしていた自分がいたのに気がついて、思わず笑ってしまった。

 でも次の瞬間、異変に気づいた。喉の調子が良くない・・・、いがいがする。

 きっと昨日カラオケを歌いすぎたのかもしれないと一瞬思った。元々喉は丈夫なほうではなく、ちょっと無理をすればすぐここに炎症をおこしてしまうのだ。風邪・疲労・ストレスというあらゆる症状のなりはじめに私は喉をおかしくすることが度々であった。まあそういう意味では健康のバロメーターとも言えるが、一度こじらせてしまうと大変なことになり、その不快感に耐えられなくなってしまうのだ。

 ちょっとした不安感に苛まれながらも、「何か冷たいものを・・・。」と思い、ベットから起き出した。

 この週末は久々の一人暮らしである。好きなことに時間が使える。いつもだと仕事でくたくたになって迎える週末も、共働きということもありゆっくりはしてられない。できる家事の大半をできる限り土日にこなしてしまわなければならないのである。掃除・食事・アイロンは私の分担であった。その上育ち盛りの子供たちの面倒を見なければならない。夕方になるころにはくたくたを通りこして、へとへとになっているのであった。

 本当に貴重な週末である。

 私はパジャマに一枚羽織ってキッチンに向かった。冷蔵庫から牛乳を取り出すと一杯喉に通した。二日酔いの翌朝には、牛乳はかなり酔い覚ましに効くのである。

 冷たい感じが上の方から下のほうに流れ落ちていくのがわかった。でもそれと同時につっかかりながら少し痛みが走る。冷たさで若干麻痺し緩和されているとは言え、やはり違和感を感じてしまうのである。一応念のためを思って喉スプレーをしてみた。

 自分の部屋に戻ると、もう少し眠りたいのもあったのだが、貴重な週末にはそれなりの予定があるということを考えて、とりあえず起きることにした。Gパンとトレーナーに着替えると、パソコンをつけメールをチェックした。ここ数年、インターネットの発達によって、従来のペーパーベースから始終メールでのやりとりへと仕事の進め方が、社会全体で大きく変わりつつあった。今ではどこに居ようと仕事は追っかけてくる。恐ろしい時代になったものである。チェックしてみるとバンドメンバーからの連絡だけで特に急ぎなものはなかった。

 「さあ、とりあえずすることをして、この貴重な休みをエンジョイしよう!」

 私はまず掃除機をかけなきゃ、と思いつつパソコンデスクから重い腰を上げた。これから私に起きる悲劇にはまだ気づく余地もなかった。


http://blog.goo.ne.jp/alford/ に私の別名のブログがありますので、良かったら見てください!

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