第1話
「時間ってのは理不尽だ…」
きっと世界中の誰もが感じたことを
あくびを一つかましてぼやきながら
神城 隼人は気だるげな月曜日の2時間目を受けていた。
昨日までの休日の2日間はまるで圧縮されたかのように短くてあっという間だったというのに、
なぜ古典の源藤の授業だけはこんなに秒針の進みが悪いのだろう?
暖められた教室の空気に当てられ
隼人はぼんやりとさした頭の中で自問自答する。
--そういえばテレビで聞いたことがある。
理屈は知らないがなんでもF-1カーやら戦闘機やらに乗っていると体感する時間が1秒か2秒ほどゆっくりになるらしい。
なるほど
そういう事ならきっとこの池崎高校の二年二組の教室は現在、現代の科学力では到底追いつけない速さで進んでいることだろう。
ふと考えた冗談に思わず苦笑したあと、
隼人は教室内を見渡す。
教室内には教壇に立つ教師が発する一定に保たれた低周波が響き、
そして席に座る学友たちは皆船を漕いだり伏せって寝息をたてていた。
ああ、哀れな奴らだ
テストが2週間とさし迫ったこの時期に
志半ばに散っていった者たちを見て涙をこぼす。
今教鞭をとっている古典教師の源藤先生は
夢に微睡む学徒たちを怒鳴って起こすような無粋なことはしない。
その代わり授業中に居眠りをした生徒を1人残らずチェックし、一回の居眠りにつき5点、
テストの点から減点するという残虐非道の行いをするのだ。
実際今も源藤は
宇宙船「二年二組号」による強烈なGに耐えられず気絶した芝山の姿を確認すると教科書から手を離し教壇の上の名簿にチェックを付けた。
哀れだ芝山
お前確か今日で居眠り4回目だろうに…
うちの赤点は30点以下だから、
お前はこれから古典なんかを必死こいて勉強しなきゃいけないな。
そうやって気を紛らわせてから
隼人は時計に目をやると思わず唸りたくなってしまった。
さっき時計を見てからまだ三分ほどしか経っていない。
授業が終わるまでまだ三十分以上あるのだ。
それまでこの睡魔と戦い続けるのを想像するととても耐えられなかった。
現実から目をそらそうとして窓の方を向く。
そこには窓枠に切り取られた雲一つない青空が映る。
「ああ、どうせなら本当にこの教室がものすごいスピードで走っていたらな…」
もしそうなら窓を思い切り開け顔を出したい。
そうしたらこの息苦しくて淀んだ暖房の空気が追い出され、一気に冷たくて新鮮な空気が顔に容赦なく当たるのだ。
そして身を乗り出すと、
風の音が教師の声をかき消し、
退屈に鈍った身体が一気にスリルと高揚に満たされるのだ。
そしたら自分は風やスリルに負けないように大声で叫ぼう。
そんな幸せな想像をしながら、
隼人は額を腕に乗せ前のめりに倒れ伏した。