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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

汝、人狼なるや?前編

作者: ちゃんまる。

 

「お願い、殺さないで!」

 

甲高い女の声は、町はずれの廃屋に鈍く響いた。 

 

もう夜も深いというのに、月光が影を暴くように降り注いでいる。


非の打ちどころがないほど、綺麗な満月の夜であった。



 時は3分前に遡る。

 


幸せに暮らしていた、なんの罪もない平凡な家族4人。

父母に娘が二人と、男子には恵まれなかったと言え、問題と言えば姉妹の父親は二人を溺愛するあまりほとんど彼女たちを自由に外の世界を魅せなかったことだろうか。


箱入り娘、まさにそんな言葉が似合う姉妹である。


彼女達は両親の言いつけを破って、両親が寝たのを見計らって森の中に野イチゴを拾いにでかけた。


置き手紙もしたので、道にまよっても大丈夫だろうと二人は踏んでいる。


今まで抑圧されていた彼女たちは、あふれ出る冒険心を胸に、森の奥へ奥へと進む。


もちろん、家には遅くなるまでに帰るつもりだった。

父親に叱られることも、覚悟していた。


だが、これは彼女達なりの反抗心であり、彼女たちの意見を主張するきっかけづくりであったのだ。


森の中入って少し経った頃、二人は木製の廃屋を見つけた。


造りはしっかりしているが、人が一人なんとかすめる程度の大きさで、ぽつんと一軒立っている。


「秘密基地みたいね、ここに入ってみましょう姉さん!」


妹は無邪気に姉の袖を引っ張る。


姉はこういった不気味な場所が好きではなかったが、冒険心が勝ったようで、妹に連れられるがまま小屋に入っていった。


二人が恐る恐る中を覗いてみると、中には一人の人間がいた。


それも凄く苦しいそうだ。苦痛に耐えかねているといったようすで頭を抱えている。


「もしかして、村はずれの狩人さん?」


姉はその人物に話しかけた。その声がすこし上擦っていたのは気のせいではなく、彼女は密かに彼に気持ちを寄せていたのだ。


「なんでここにいるんだ」


狩人の低い声が小屋に響く。


「そんなことより、あなた大丈夫?」


妹が心配した様子で、彼に近づく。


「近づくな!」


彼女を寄せ付けまいと狩人は声を張り上げるが、目の前の苦しんでいる人を放っておいてよい、という教育を彼女達は受けていない。


「だめよ、あなたやっぱり苦しんでいるんだわ」


そういって、妹は右手で狩人の肩に触れた。それが、大きな間違いだったのだ。


その右手を力強くに握った狩人の腕は、毛で覆われていた。


体毛濃いとか、そういった次元ではなく、獣のそれとしかいいようが無いほどだ。


よくみれば、鼻は異常に発達しており、鋭い牙が剥き出しになっている。


「え、あ」


妹は腕から吊るされるように宙ぶらりんになった。


「お願い、殺さないで!」


その甲高い声が獣に届くことはなく、次の瞬間には妹の横腹は食いちぎられていた。


身体はまだ生命活動を終えていなかったが、その衝撃と痛みで最早意識が戻ることもなく、彼女は餌、肉塊と化してしまったのだ。



姉は、その全てを見ていた。


一部始終を、瞬きすることもなく。ただ、みていた。





次の日の朝、置き手紙をみた父の呼び掛けで、村の男衆が捜索のために集まっていた。


目覚めてすぐ愛娘二人をなくした父は、血眼になって村はずれの森へ男衆を連れて向かう。


妻に、二人が見つかるまで帰らないと宣言するほどの覚悟だった。


だが、あっさりと事件は解決の兆しをみせる。


森からよたよたと姉が出てきたのだ。

彼女が着ているワンピースは血に濡れている。


父は膝まずいて彼女を抱きしめ、帰ってきてくれてありがとうと何度も何度も呟いた。


だが、帰ってきたのは姉だけ。


当然父は妹がどうなったのか姉に問いかけたが、答えはない。


相当のショックを受けているのだろうと受け取った父は、それ以上追及しなかった。いや、できなかったのだ。


父は妹を探しにいこうかと考えたが、姉が帰って来ただけでもよしとすることにした。


姉だけが帰って来たということが、妹が生存しているという可能性を著しく低いものしていると考えたからだ。


下手に探しに出て、妹を殺したかもしれない存在に自分まで殺されてしまっては姉を守れない。


それに村人達も森に入るのを恐がった。


あの血に濡れたワンピースが、全てを物語っているように思えたのだ。



だが、それに異を唱える者がいた。


彼はジョン。なんの変哲もない村の青年だ。


彼は失踪した妹を愛していた。


そして妹も彼を愛していた。


恋人だったのだ。



彼は妹を探し出すため、行動を始めた。


まずは現場に行かねば話にならないと、猟銃を持って彼は森へと入っていった。


特に痕跡はない。


もう少し入っていくと、村はずれの狩人の家がある。


狩人が何か知っているかもしれないと、ジョンは尋ねることにした。


狩人の家は小綺麗な丸太製。


戸を叩くと、今から狩りに行かんとする狩人が扉からでてきた。


「どうしたんだい、こんなところまで来て」

「あの姉妹が行方不明だってしっているか」

「そうなのかい?それはとても残念だ」


狩人の様子は至って冷静。

おかしな所は特に無い。


「昨日の夜は何をしていたんだ」

「いつも通りだよ。獣を狩るため準備さ」

「そうか。何かわかったら教えてくれ」


そうやって玄関口で軽く言葉を交わした後、ジョンは狩人の家を後にした。


ジョンが思うに狩人が黒か白か、でいえば恐らく黒だ。


あの狩人は姉妹と仲が良かった。


狩人は獲ってきた肉を村に売りに来る。

そこで姉妹と狩人はよく顔を合わせていたはずだし、彼女達の父が狩人と二人を引き離さんとして躍起になっていたのもジョンは知っている。


それなのにあの反応は些か冷静すぎると彼は考えた。




彼は一度村に戻り、再度調査することにした。


家に戻ると、玄関口の前に姉が居た。

にこやかに笑っている。


「どうしたんだい。妹のことは気の毒だった。暫くは外出できないんじゃないかと心配していた」

「ええ、ありがとう。まだ心は落ち着いていないけれど」


確かに彼女の様子をみて、落ち着いているとは言い難い。

表現はにこやかだが、身体は強張っている。


「それで、何か用か?やすんでいなくては」

「何故、森に行ったの?」


急にそんなことを聞く姉にジョンは違和感を覚える。


「狩人に会ってきた、何か知らないかと思って」

「彼は何も知らないわ」

「何故そう言い切れるんだ」

「知らないからよ。妹は死んでしまったの。これ以上この件に触れないで」


捲し立てる姉に、ジョンは苛立った。

彼女は被害者かもしれないが、同時に妹について一番よく知っているはずの人物だ。


「じゃあどうやって、妹は死んだんだ。死体もないのはおかしいだろ」

「……」

「俺は探す。せめて埋葬してやらなきゃ」

「勝手にすればいいじゃない!」


そう怒鳴ったかと思えば、彼女は去っていった。


悲惨な事件の後で気が動転していると言ってしまえばそれまでだろうが、何かがおかしい。

その違和感を頼りに、ジョンは捜索を続けることにした。

前編、後編の構成にしようと思っていたのですが、短編のシステムをよく理解していなかったのでこういう投稿になりました。今回だけ、このまま続きを投稿させてください。すみません。

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