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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BLシリーズ

Black love 〜long version〜

作者: 綾小路隼人

ちょっとした思いつきで、以前投稿した『Black love』を2倍ぐらい長くしました。

僕、綾小路隼人はある日の放課後に、2つ下の後輩である岩崎貴博に新聞部の部室へ呼び出された。

この時の彼は、いつもの穏やかな表情ではなく、どこか強ばった表情をしている。

なんで? 僕、何かした?


「ねえ、綾小路先輩。てっきり僕が初めての相手になれると思ったのに、浮気しているらしいじゃないですか。相手は誰なんですか? 僕の知ってる人ですか?」

「た、貴博、これにはワケが…」

「僕だけを愛してると言っていたのは嘘だったんですか。ひどい人ですね」


まさかこうなるとは予想外すぎだ。

外ではカラスの鳴き声が聞こえ、夕日が部室を赤く染めている。

僕は自分の置かれた状況に唖然とした。


「貴博……あの……」

「あなたがあんな事をするから、僕は…!!」

「ぐっ…!!」


貴博は目に涙を溜めると、僕の上に馬乗りになり、脇腹に両手を置いて体重をかけた。

小柄な体躯からは想像もつかないほどの凄い力で胃の辺りを押し潰され、猛烈な吐き気が僕を襲う。

喉には熱いものがこみ上げてきて、僕はものの見事に吐瀉物をぶちまけた。


「うっ…げぇぇぇぇ!!!」


消化できなかった昼食の欠片や胃液が散らばり、辺りに異臭が広がる。

やがて引きつる喉の奥からは黄色い液体しか出てこなくなり、僕は力なく床に倒れ込んだ。


「うぁ……っ……」

「綾小路先輩がいけないんですよ。僕以外の男に色目を使ったりするから」


もう、喋ろうに喋れなかった。

まるで、舌が石になったように。


「僕を愛せないあなたなんかいりません。どうしますか? 僕だけを愛すると誓いますか?」


本気そのものの表情で顔を近づけて呟く貴博。

あまりの迫力に負け、僕は瞳を潤わせてこくりと頷いた。

声を出したいのに、首を絞められているかのように喉がギュッと固くなり、息をする事すら苦しくなった。


「反省しているのなら許します。ですが、次にやった時は承知しませんよ」


静かな部室に、ドクドクと鼓動の音が響く。

貴博は影を含んだ笑顔で僕を抱き起こすと、髪を優しく撫でた。


「さあ、そろそろ帰りましょうか。時間も時間ですし」

「……わかった」



※ ※ ※ ※ ※



ふとスマホを見ると、時間は4時45分を回っていた。

学校から帰るには遅い時間になってしまった。


実をいうと、僕の両親は旅行で家を空けているから帰りが遅くなっても問題ない。

しかし、中3である僕でも一人は寂しいものである。

それなら、今やるべき事はひとつ。


「貴博、悪かったよ。僕の家に泊まりに行かない? 親がいなくて寂しいとこだったんだよ」

「ええ」


二つ返事でOKをもらい、心の中で歓喜した。

外は既に暗くなっているし、一人で帰るには危ない気がしないでもない。

貴博にそんな思いはさせまい。そういった考えもあって、彼を泊める事にしたのだった。

10分かけて帰宅し、貴博を家にあがらせる。


「とりあえず、ゆっくりしてて。僕は着替えてくるから」

「はい」



カジュアルな私服に着替えると、僕は洗面所に向かった。

嘔吐物で汚してしまった制服を洗うためである。


「わっ……」


脱いだ制服のブレザーを見て驚いた。

胃液に塗れたご飯粒とほうれん草に、崩れて原型を留めていないソーセージの残骸が少しながら付着している。

こんなの着て外を歩いてたのか?

恥ずかしくなったが、冷静に考えたら洗えばいいだけの話だ。

しばらく水洗いしていたのだが、ガチャッとドアが開く音がすれば不意に貴博が入ってきた。


「綾小路先輩……僕の方こそごめんなさい。乱暴な事をしてしまって」


謝りに来たのか。やっぱり貴博は可愛いな。

今の僕は、たぶん聖母や仏様のような優しい表情になっている事だろう。

気付いたら僕は、右手で彼の頭をゆっくりと撫でていた。


「いいんだよ。もう終わった事だから」


あの時の僕と同じく、潤んだ瞳で頷く貴博。

ごくりと口の中に溜まった唾を飲み込み、彼の頬に軽く口づけをした。

可愛い、柔らかい、そして温かい。

僕たち2人だけとはいえ、こんな事をしていいのかなぁ……。

まるで学校をズル休みした時のような小さな興奮を覚え、思わずクフフと笑ってしまった。


「綾小路先輩?」

「…貴博、浮気してごめんな。心から反省してるよ。だからさ…僕と2人きりになろう」


そう言った直後、2回目のキスをして貴博を抱きしめる。

貴博の気持ち良さそうな呼吸が聞こえ、キュンときた僕は小さな子供をあやすように彼の背中をトントンした。

たなごころに彼の体温が伝わり、身も心も温かくなっていった。


2人きりの時間はまだ始まったばかりだ。

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