8話 『始まりの時』
ここから本格的に物語が動き始めます。
「そちらの攻撃はそこまでか? ならば、そろそろこちらからもいかせてもらう!」
「くっ......」
騎士団長さんは僕の方へ剣を構えて走り始めた。
まずはこの攻撃をかわさなくては...
「はぁ!!」
騎士団長さんが僕の目前まで迫り、剣を振り上げる。僕はその剣が振り下ろされるより前に左へ飛び退いてなんとかその剣を回避した。
が、騎士団長さんは体勢を崩すこともなく、僕の方へ体の向きを変えて再び切り付ける。
「うおっ」
僕はその斬撃も後方へよろめきながら飛び退くことでなんとか回避した。
そして僕はそのまま一目散に騎士団長さんから離れる。
くっ、相手に背を向けて逃げるなんて情けない...。
「なぜ魔法を使わない?」
僕がある程度の距離をとったところで、騎士団長さんは再び僕に話しかけてくる。
僕は騎士団長さんの方を振り向いたが、その質問に答えることは出来なかった。
僕はあの魔法(?)を使いたいのに使えないでいるからだ。
「答えないということは何か理由か秘密があるのか? ......ならば質問を変えよう。君は今、誰のためにこの入団テストを受けている?」
「誰のため......」
「そうだ、よく考えてみろ」
今入団テストを受けているのは、僕が職を、身分証明書を手に入れるためだ。ということは僕のため......か?
...いや、違う。あの夜、自分自身に誓ったじゃないか、この街の人々の笑顔を護るって。今の僕は焦るあまりこんなに大切なことを忘れてしまっていたのか。だから、その気持ちを忘れていた昨日の特訓の時は力が使えず、リースを助けないと心から思った時には力が使えたんだな。
「騎士団長さん、僕、思い出しました。今ここにいるのは僕自身のためだけじゃない。僕を支えたくれた人、そしてこの街の人々の笑顔を護るためなんだということを」
「そうだ、騎士とは自分のために力を使うのではない。『大切な人たち』のために力を使うのだ」
「はい、ありがとうございます。それを思い出させてもらって」
「私はヒントを与えただけだ。それに、ちゃんと本気を出している君と手合わせしたかったからな」
「は、はい! 本当に、ありがとうございます!」
僕は入団テスト中だというのに、深々と頭を下げた。こうせずにはいられなかったのだ。
「まったく、礼儀正しいにも程があるぞ。だが、それに気づいたからには、きちんと本来の力でこい。お前が護りたいと願う人々のためにも」
「はい、もちろんそのつもりです!」
僕には確信があった。今なら...『この街の人々の笑顔を護りたい』と強く願えている今ならば、この力を使えるという確信が。
「いきます!」
「さぁ、こい!」
騎士団長さんは再び剣を構える。
僕はさっきみたいに無鉄砲に攻撃はしない。
「うおおおぉ!」
僕は風を切りながら、ステージ上を駆け回る。
今の僕は、自分でも感じたことのないほどの風を感じていた。かなりの速度が出ているはずだから少しは騎士団長さんを撹乱出来るはずだ。
「撹乱する気か。いいぞ、どこからでもこい!」
「では、いきます!」
僕は騎士団長さんの後ろで急停止すると、騎士団長さんの背中へ向かって拳を握り飛びかかる。
「後ろか!」
僕が飛びかかってから、少し遅れて騎士団長さんは反応し、振り向いた。
もうかわすのは無理だと悟ったのか、先程と同じように構えた剣の刀身で僕の拳を防ごうとする。
恐らく僕の拳を防いでから、隙だらけの僕にトドメを刺すつもりなのだろうが、そうはさせない。
「うおおおおお!!」
僕は叫びながら、騎士団長さんの剣の刀身に向かって右手の拳を打ち付けた。
...そして僕はこれと同じ状態をすでに体験している。
ビキッ
騎士団長さんの剣は僕の拳を受け止めると同時に、刀身に大きなヒビが入った。
「何っ!?」
そして僕がその拳を押し込むと、その剣のヒビはさらに大きくなって、やがて剣は砕けた。
僕はそのまま腕を伸ばし、武器を失った騎士団長さんの目の前で、押し込んだ拳を寸止めする。
「ふっ、まさか負けるとはな」
騎士団長さんは笑いながら壊れた剣を鞘に入れた。
「それにしても、剣を破壊するほどの身体強化を行うとはな。君のような魔法使いは初めてみたよ」
「はい、ありがとうございます!」
魔法使い、という言葉に少し違和感があるが、有難い褒め言葉だ。
まぁこれがいわゆる魔法(物理)ってものなのかな。
「さて、これでテストは終了だ。奥の扉を開いて、部屋で結果を待っていてくれ」
「はい、分かりました」
僕は思った以上の結果を残せたことに自分自身で驚きながら、扉を開けて奥の部屋へと足を踏み入れた。
✱✱✱✱✱✱✱✱
最後の志願者がこちらの部屋に入ってから15分程たった後、騎士団長さんが何か書かれた紙を持って部屋に入った。
騎士団長さんは部屋の前方にある机の前に立つと、こう言った。
「では、合格者を発表する」
一気に志願者たちの空気が変わった。やはり全員緊張しているようだ。
「合格者は、先程の説明でも述べた通り2人だ。今年合格出来なかった者も来年また頑張って欲しい」
2人だけはやっぱり辛いかもなぁ......
「では発表する。1人目、12番『シィ・エスターテ』」
シィ・エスターテ......ってあの女の子か!
あの子、そんなに凄い子だったのか。
僕は合格者第一号の方を見てみる。
その少女は壁にもたれかかりながら、落ち着いた表情で腕を組んでいた。
普通なら舞い上がってしまいそうなところなのにこんな冷静とは、やはり凄い人のようだ。
「それでは2人目、いや、最後の一人を発表する」
うーん、緊張してきたなぁ。
少女は12番だから、2人目はそれより後かな?
それならまだ可能性はあるんだけど...。
とにかくお願いします、合格しててください!
「13番『ミル・アキカゼ』」
...え?
今、僕の名前が呼ばれたんだよね?
「やった!」
僕は思わずガッツポーズをして、小さく声を上げた。
こんなに嬉しかったことはそうそうないぞ。
「合格者はここに残ること。合格出来なかった者はまた来年頑張ってくれ」
騎士団長さんがそう言うと、他の男達はぞろぞろと部屋を出ていく。
「クソッ。なんであんな子供が......」
「チッ、余所者の癖に」
そんな声も聞こえたが、今は気にしない。というか、そんなことをすぐ口にするのはどうかと思う。
✱✱✱✱✱✱✱
他のみんなが去ってから、僕と少女は机の前に立つ騎士団長の元へ集まった。
すぐ隣でこの少女を見たのは初めてだが、思ってた以上にかなりの美少女だった。可愛くて強いなんて、羨ましいなぁ。いや、僕は『可愛い』必要はないけどね。
「すまないな、街の志願者達は君たちの合格に不満があるようだ。だが君たちの実力は私が保証する。だから安心して欲しい」
騎士団長さんは僕達に向かってそう謝った。騎士団長さんが気にすることじゃないのに。
前々から思ってたけどこの人も凄い優しいよなぁ。前にも入団テストについて教えてくれたし。僕が力を発揮出来たのもこの人が入団テスト中に話しかけてくれたおかげだしね。
とりあえず、様々な人のおかげで僕はなんとか魔法(?)騎士になることが出来たのだった。
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