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30話(88話) 『分断』

前回からかなり長い期間が空いて申し訳ありません。

時間はかかるでしょうが必ず完結させます。

「私が彼らを完全に分断します」


 リツは僕が、アンドレアはミハクとスノウがそれぞれ相手をする。彼らを分断するというということは彼らの連携の封じるということであるが、それは同時に僕らが手を貸し合うこともできなくなるということのはずだ。


「分かった。任せるよ」


 だがそれはミハクも承知しているはず。どのような手を用いるかは分からないが、僕もリツと戦っている最中にアンドレアから横槍を入れられるのは面倒だ。彼女の実力を信じてここは策に乗ることにした。

 僕の返答を確認し、ミハクはその手に持つ刀『雪花』を地に突き立てる。


「氷結抜刀式『氷層』」


 彼女がその名を唱えた瞬間、リツとアンドレアの間を隔てるように巨大な氷の壁が地面から隆起する。彼らはすぐさま飛びのいて巻き込まれることを回避したため直接的なダメージにはならなかったが、その壁は全力で跳躍しようとも越えられない程高く大規模なものであり、その上にそれが長距離に渡って展開されていた。彼らを完全に分断することは成功だ。

 だが、それほどの力を行使したということは……


「ミハク」

「分かっています。無理はしません」


 僕が言いたいことを発するよりも先に、ミハクはその内容を予測して答えてみせる。彼女に見透かされ、出かかっていた言葉を口の中に押しとどめられた僕はばつが悪くなり、小さく「ならいいよ」とだけ呟き、彼女から視線を外した。


「ミル様もお気をつけて」

「うん。すぐに終わらせて、君の所に戻る」


 氷を隔てて僕とミハクは二手に別れる。

 もちろん僕が戦うのはリツだ。


「なるほどな。俺の相手はお前って訳か」

「ああ。早速だけど、君にはもう一度凍り付いてもらうよ。『白魔』」


 彼に向かって駆け出すと先程と同様に刀を振るい、その足元を凍結させようとする。


「同じ手を二度も食らってたまるかよ」


 だが、リツは白魔の力で動きを止められるよりも先に風の魔法を使用して跳躍し、凍結を回避する。……けれどかわされるくらい予測済みだ。


「『神風の弾丸(ストーム・バレット)』」


 彼が飛びのいた方向目掛けて指先から風の弾丸を放つ。彼は今空中にいる。風の魔法を利用しても攻撃をそこからかわすのは至難の業。命中は避けられない。


「いい狙いだ。だがそんなそよ風じゃ俺は貫けない」


 中に浮きながら、彼は新たに水の魔法を行使する。複数の魔法を使える彼ゆえの特権だ。空気中に生み出した水の壁が風の弾丸を防ぎ、彼は安全に地上へと着地する。


「やっぱり厄介だね。複数の魔法というのは」

「この力こそが俺と仲間たちの絆の証だ。お前に防げるか?」


 仲間を作らなかった僕と自身を対比するような口ぶりで、彼はその剣に雷の魔力を溜め込む。彼の雷魔法にはかつて煮え湯を飲まされた。まともにくらう訳にはいかない。


 しかし僕が回避するまでもなかった。なぜなら、その攻撃が放たれることはなかったからだ。


「クソ……なんだよこれは」


 リツとアンドレアを分断するためにミハクが生み出した氷の壁から巨大な氷柱が飛び出し、魔力を溜めていたリツの身体を貫いた。

 彼らを連携できないようにするということは僕らもまた協力できないと考えていた。けれどよく考えてみれば、この氷の壁はミハクによって生み出されたのだから、彼女自身が利用することは出来るに決まっているか。


「クソ……あの女か。一対一の戦いじゃねえのかよ」


 動揺するリツの隙を見逃さず、僕は拳を叩き込む。

 彼の身体を固定していた氷柱が壊れ、リツの身体は吹き飛ばされる。僕は駆け出してそれに追いつき、追撃をかけようと再び拳を振りかぶる。


「協力するのは結構だが、俺も好き放題にはさせないぜ」


 僕の二度目の拳が命中するよりも先に、リツの全身をドーム状に形作られた土が覆う。

 堅い土に阻まれて僕の攻撃はリツまで届かない。


「引きこもりかい君は。随分みじめな姿だね」

「何とでも言え」


 まぁどれだけ堅い守りがあろうと今の僕には無駄だけれど。

 僕は『白魔』を突き立てる。刺さりはしないが、触れるだけで十分だ。


「凍り付け」


 そう告げた瞬間、彼を護る土は氷に覆われる。堅い守りを更に堅い氷で覆ってしまうことにはなるが、それが防御策としての役割を果たすことはもうない。

 氷に覆われた土はミシミシと音を立てながらひび割れていき、それを覆う氷ごと簡単に崩壊した。彼を護るものはもう何もない。


「今度こそ終わりだ」


 崩れる氷と土の中から姿を現したリツに僕は今度こそとどめを刺そうとする。


「ああ、俺も丁度準備が終わったところだ」

「何!?」


 彼が姿を現した瞬間、大地が揺れた。

 いや、ただ揺れているわけじゃない。僕やリツのいる一帯の地表がまるでテープを剥がすときのように捲れ上がっているのだ。


「風と地の魔法の応用だ。実際やってみるのは初めてだからうまくいくかは賭けだったけどな」


 地面が捲れ上がった衝撃で僕の身体は宙に浮きあがり、雷を纏ったリツの剣に空中の僕はなすすべなく吹き飛ばされる。刀で防ぐことで直接斬られてはいないがこのままでは地面に叩きつけられてしまう。


「まだだぜ」


 更にリツは自ら捲れ上がった大地を蹴る。風の魔法で加速しているのか、吹き飛ばされている僕に容易く追いつくと、もう一度僕に斬りかかる。

 再び刀で防ぐが、鍔迫り合いの格好のまま僕らは村の外の森の方まで吹き飛ばされていく。

 なるほど、彼の目的は……


「さぁ、今度こそ真の一対一でやろうぜ」


 ミハクから僕を引き離すことか。


 氷の壁に阻まれてその向こうにいるミハクの姿は見えない。彼女も先程の衝撃で僕がいなくなっていることには気づいているだろうが、彼女を心配させないためにもすぐに戻らなければ。

 この男を倒して。

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