6話 『思いがけぬ発動』
うーん、どうすればあの力を使えるんだ。何か発動条件でもあるのかな?
そんな事を考えながら、僕はそろそろリースが昼食を作り終わった頃だろうと思い、リースの家に戻ることにした。
てか気づけば当然のようにリースに昼食を世話になっちゃってるなぁ。僕のために推薦状も書いてくれた訳だし。
そこまで僕を手助けしてくれているんだ。僕も絶対リースの期待に応えないとな。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「おーいリース、とりあえず帰って来たけど昼食の用意って出来てる?」
僕がリースの家のドアをノックしながら、そう聞くと、まもなくドアが開く。
「はい、後はジャムだけですよ」
そう言って僕を家の中に入れると、リースはすぐに台所へ向かった。
リースは台所に置いてある小さな踏み台を持って、戸棚の下に置いた。多分あの中にジャムが入ってるんだろうな。
...それにしてもあの台結構長いこと使ってるのかな、リースが乗るとかなりガタガタしてる。なんとなく心配になって僕が近づこうとしていると、
「きゃあ!」
僕の悪い予感通りが的中し、リースは台から足を踏み外してしまった。
「リース!」
僕は台から落ちてしまいそうになっているリースを支えようと、リースの方へ駆け寄る。その時だった、
僕は確かに感じた。あと黒騎士を倒した時と同じ、体が軽くなるような感覚を。
僕はたった1歩の踏み込みでリースの所まで跳躍し、台から落ちそうになっているリースの体を支える。
「す、すいません、また助けていただいて」
「いいよ、でもその台はもう使わない方がいいと思うよ」
そう言って僕はリースを床に降ろすと、リースの代わりに背伸びをして戸棚の中のジャムを取り出した。
僕は取り出したジャムをパンに塗りながら、先ほどの僕の状況について考えていた。さっきリースを助けることが出来たのは間違いなくあの力を使っていたからだ。
...しかし、なぜ発動したんだろう。
さっきまで全く使えなかった力が今発動した。という事は何か発動条件があり、力を使うにはそれを満たす必要があるのかもしれない。
だから、僕は黒騎士を倒した時、そして今リースを助けた時に何をしていたかを思い出そうとしていた。おそらく力を使えた時には何か条件を満たす行動をしていたはずだ。
そういった事を僕が考えていると、目の前の椅子に座って僕と同じようにジャムを付けたパンを食べているリースが話しかけてきた。
「そのジャム、あまりお好きなものではないですか?」
僕はその声に慌てて返事をした。
「え、いや、そんな事ないよ。凄い美味そうだよ!」
「そうですか。ミルさん、とても難しそうな顔をしていたのでてっきり......」
僕はそんな怖い顔しながらジャムを塗っていたのか...。リースを怖がらせちゃったな。
「別にちょっとした考え事をしてただけだよ」
まぁ偽った答えではないな。
僕はそう答えると、ジャムを塗り終わったパンを食べ始めた。
昼食を食べ終え、リースはさっき書いていた推薦状を僕に見せた。
「ミルさんの推薦状は書き終わっています。後はこれをこの入団テストの申込書と一緒にお城に提出すれば、ミルさんも入団テストに出られますよ」
「うん、ありがとう。リース」
僕はリースが書いてくれた推薦状と、これから僕が書く入団テストの申し込み書を受け取る。
まずはこれを書かなくちゃな。
えーと、『氏名・年齢』と『出身地』か。
早速困ったな。名前はまぁ『ミル・アキカゼ』にしておこう。元の名前のじゅんじょははここでは一般的ではないらしいからね。歳は17歳。出身地はとりあえず、『ニホン』としておこう。何処って聞かれたら遠くの街ですとしか答えられないけど...。
次は、『魔法属性』か。これも困った。なにせ自分でもよく分からないからなぁ。とりあえず『身体強化系』って書いておこう。だいたいあってるだろうし。
それから、『現在の職業』か。これは簡単だ。『旅人』で誤魔化せる。
そうこうしながら、僕が申し込み書を書き上げたところで、洗い物を終えたリースがやって来た。
「書き終わりましたか?」
「ああ、出来たよ」
「では、私がお城に提出しておきましょうか?ミルさんはその力を使いこなす練習をしていた方がいいと思いますし」
「リースがいいなら、僕はその方がありがたいかな」
「分かりました。推薦者として提出してきますね」
そう言うとリースは家の中のタンスから鍵を取り出して僕に渡した。
「これは家の合鍵です。まだ家を出る時は家の鍵を締めておいて下さい」
「わかった。戸締りはしっかりしないといけないしな。それじゃあ悪いけどよろしく」
「はい、しっかり提出しておきます!」
そう言うとリースは城に僕の申し込み書と推薦状を提出しに行った。
僕も少ししたら行くかなと思いながら、僕は大変な事に気づいた。
...あれ、僕が鍵を持ってていいのか?
そもそも僕は完全なよそ者なのに、リースは僕に鍵を預けていってしまった。僕がもし悪人だったら、一人暮らしの女の子の家なんて大変なことになるぞ!
...でも逆に言えば、リースは僕がそんな事絶対にしないって思ってくれるくらい、僕を信じてくれているのかな。
そう思った僕はリースの期待と信頼に応えるため、また公園に向かった。もちろん、ちゃんと鍵をかけて。
公園の周りを何周も走り、鉄棒で懸垂し、どうにもならないなぁと弱気になりながらブランコを漕いだ。いや、最後は特訓じゃないな...。
とにかく僕は午後だけで様々な筋トレをした。どうにかして、力を使えるようにしなくてはと焦っていたからだ。
しかしその思いもむなしく、僕は結局、午後も1度も力を使えずに終わってしまった。
公園の時計を見ると、時刻は午後6時だった。そろそろ暗くなってきたし、1度リースの家に戻ることにしよう。
「おかえりなさい!」
「うん、ただいま」
まぁ僕の家じゃないけどね。リースは僕が家に戻るとこちらへ駆け寄ってきた。
「ミルさん、しっかり提出してきました。これが明日のテストの時に必要なバッジです。」
リースは僕にそのバッジを手渡した。
「ああ、分かった。本当ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。ミルさんはこれからどうしますか?」
「そうだな、とりあえずもう宿に泊まるかな。少し休みたいし」
「そうですか。それじゃあここで引き止めるのも申し訳ないですね...」
リースはどこか寂しげだった。しかし僕もリースに頼りっぱなしはダメだと思ったいたので、夕食まではご馳走にならない、と自分の中で決めていた。
「それじゃあ、また明日ね」
その言葉を聞き、リースは寂しそうな顔を笑顔に変えて、僕を応援してくれた。
「はい! 頑張って下さいね!」
僕は自分が持っている合鍵をリースに返して家を出ると、宿に向かって歩き始めた。流石にもう行き方は覚えていた。
✱✱✱✱✱✱✱✱
僕は昨日と同じ宿に入ると、早速宿泊の手続きを済ませる。夕食、朝食付きなのは変わらないが、今日はだいぶ汗をかいたのでシャワーも使わせて貰うことにした。
シャワーを浴び、夕食を食べ終わった僕は、部屋のベッドに寝転がった。
もう明日が入団テスト本番だ。元々時間が無かったとはいえ、結局力を使いこなせるようになる事は出来なかった。
それでも僕は全力を尽くさなくてはいけない。
僕は部屋の窓から外を見る。夜空には月が輝いていた。それは元の世界の月よりも何だか少し綺麗に見えた。都会の光が無いからかもしれない。
そういえば、今日は騎士団長に合わなかったな。
まぁあの人もお城での仕事もあるから、あまり街にまで来る時間は無いのかな。会えれば何かアドバイスを貰えたかもしれないけど、仕方ない。
まぁ今考えてもどうしようもないな。シャワーを浴びてサッパリしたし、明日のためにも今日はもう休もうか。
そう思い、僕は目を閉じた。
疲れていたからか、僕が眠りにつくまでにそれほど時間はかからなかった。
ブックマーク、感想、評価等、励みになりますのでもしよろしければ、お願いします。
明日以降も同じ時間帯に投稿予定です。