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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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5話 『騎士団長と夜景』

 さて、どうしたものかなぁ。

 夕食を食べた後、僕は暇だった。

 時刻は午後8時前、まだ寝るには早いが、特にすることも無かった。


 夜の街でも少し歩いてみようかな。


 そう思った僕は部屋を出て、一応受付の人に少し外に出ることを伝えてから、夜の街に足を踏み出した。

 夜の街はやはり静かだったが、どの家もまだ明かりが付いていた。こちらの世界でもこの時間ではまだみんな起きているようだ。

 僕は特に目的地もなく、迷子にならない程度に街をぶらぶら歩くことにした。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 10分程歩いた頃だろうか、僕は街の高台に登ることが出来る階段を見つけた。

 結構高そうだが、夜の街を上から眺めるのもいいかもしれないと思い、僕は高台へ登って見ることにした。

 階段を登った先の高台は結構広くなっていて、ベンチなども沢山あった。昼間は多くの人が見に来たりするのかな。

 誰かいるかを確認するために、高台の広場をグルッと見回すと1つの人影が目に入った。


 1人でいる人に近づくのも気が引けたので、少し離れた所に行こうと思っていたら、思いがけずその人影から話しかけてきた。


「こんな時間に高台に人が来るなんて珍しいな」


 その声には聞き覚えがあった。

 そう、昼間に僕とぶつかった騎士団長であった。

 騎士団長はこちらへ近づいてきた。


「おや? 確か君は昼間の......」

「あ、こんばんは、騎士団長さん。すみません、昼間はぶつかってしまって。それに騎士団長の方に挨拶もせず...」

「ああ、別に構わないさ。君はこの街では見慣れないから旅人だろう? 私の事を知らなくても当然だからな」


 旅人ではないんですけどね...。

 でもリースと違って完全に初対面の人に「別の世界から来ました!」なんて言っても、絶対に変な人だと思われるだろうから、そういう事にしておこう。


「ま、まぁそんなところですね。 あ、騎士団長さん、明後日は魔法騎士団の入団テストだそうですね」

「ああ、今年は結構期待出来る人材がいてな、楽しみにしているんだ」

「えっと、つかぬ事をお聞きしますが、入団テストに出る条件って何ですか?」


 せっかくの機会だ、ここで僕の疑問を解決しておこう。


「条件か。この街で3年以上在住している事だな。こちらとしても顔見知りの方が信用しやすいからな」


 早速僕の魔法騎士団への夢は崩れ去った、そりゃあ見ず知らずの旅人なんて雇わないか......。


「まぁこれはこの街に住んでいる人のための条件だな」

「え、という事は旅人でもテストに出られるんですか?」


 まだ希望はあるのかも知れないので、僕は興味あり気に聞く。


「ああ、城としても、他の街の者だとしても実力者ならば雇いたいからな。他の街から来た者も、この街で5年以上暮らしている者からの推薦状があれば入団テストに出られるようになっている」

「5年以上暮らしている人...」

「まぁ基本的には町長だが、今からだと推薦状を得るのは難しいだろうな。...そういえば君は入団テストに出るのか?」

「あ、は、はい」


 思わず答えてしまったが、そもそもまだ条件クリアしてないぞ僕。


「そうか、この街の騎士団に入団したらこの街で暮らすことになるが、それでもいいのか」

「はい、そのことは大丈夫です」


 一応お金はあるから、小さな家でも借りればいいだろうからね。

 それに魔法騎士団に入れば、身分証明書と比較的安定した収入も得られるだろうから、それも家を買うのに役立つだろう。


「そうか。こちらとしても十分な実力のある者なら、旅人であっても大歓迎だ。君が入団テストに出て、合格する事を期待しているよ」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ私はそろそろ城に戻るな」

「あ、もしかして魔法騎士団の方は城に暮らすことになっているんですか?」


  それなら家を買う必要はなくなるんだけど。


「いや、まだ城での仕事が残っているからな。普段は私もこの街で暮らしているよ」

「あ、そうなんですか」


 世の中そんなに上手くはいかないか。


「それじゃあな」

「あ、色々ありがとうございました」


 僕は高台の階段を下りる騎士団長へ頭を下げた。



 僕は高台の手すりの方へ近づき、夜の街を眺める。街の夜景は思っていた以上に美しく、僕は結構長い間見入っていたと思う。


 そして僕は決心した。


 もうここまできたんだ、入団テストに出よう、と。

 こう決めたのには、身分証明書を手に入れるため以外にも理由があった。


 僕はこの街の夜景を見て、この街で出会った人々のことを思い出した。商店街で元気よく声を上げながら品物を売る人々やその商店街を行き交う多くの人々の顔には明るい笑顔があった。

 そんな人たちの笑顔を僕は護りたい。遠くの街から来た僕にも親切にしてくれた人たちをあんな黒騎士のような魔物に傷つけさせたくない。

 そんな気持ちが僕の中で生まれた。


 しかし、入団テストに出るためには5年以上この街で暮らしている人の推薦状が必要か。明日またリースに相談してみないと。

 ていうか出たとしても僕が持つこのよく分かんない魔法(?)を使いこなせないとダメだな。

 ...ってまだ問題山積みじゃないか。まぁ、とにかく明日頑張らないといけないな。


 とにかく今の目標は決まった。推薦状を手に入れ、魔法を使いこなせるようにし、魔法騎士団の入団テストに合格する。



 大量の問題を整理し終えた僕は、やや名残惜しいけど高台から降りて宿に帰ると、布団に潜った。

 この世界に来て1日、色々とあったがとりあえずは退屈することはなさそうだ。

 昼も寝ていたけど、布団に入ってから僕が眠りにつくまでに時間はかからなかった。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「起きてくださーい、朝ですよー」


 ドアの外から聞こえる受付の人の声で目が覚めた僕は少しの間寝ぼけていたが、すぐにここが元の世界とは違う世界であることを思い出す。


「あ、はい、起きました」


 声に応えつつ、カーテンを開けて日差しを浴びながら外の様子を見てみる。街ではもう多くの人が行き交っていた。

 部屋に備え付けられた時計を見ると午前8時であった。そりゃもう多くの人は起きてるか。

 

「ミル様、朝食を運び入れてもよろしいですか?」


 またドアの外から受付の人の声が聞こえる。そう言えば朝食付きにしたんだった。

 僕はドアを開けて、受付の人が持ってきた朝食のお皿を受け取る。

 朝食は目玉焼きとコッペパンの様なものだった。朝でも食べやすいもの、ということだろうか。

 まぁとにかく食べてしまおう。早いところ街の人からの推薦状を得る手立てを考えなくてはいけないしな。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 朝食をすぐ食べてチェックアウトを済ませた僕は、宿の外で伸びをしていた。

 心地いい風と日差しだった。元の世界と違って高層マンションなどは無いので、日差しを十分に受けることが出来た。

 さてと、とりあえずは街の人から推薦状をどうにかして書いてもらわないとな。

 そう思った僕は、昨晩思った通り、リースに相談しようと考えていた。この街に住んでいるリースならば、誰か書いてくれるような人を紹介してくれるかもしれないからだ。



 僕はリースの家まで何とか迷わずに辿りつくことが出来た。方向音痴じゃなくて良かった...。

 僕がドアをノックしようとしたところで、丁度リースの家のドアが開いた。


「あ、ミルさん。おはようございます」

「ああ、おはよう」


 ドアの外にいた僕に気づいたリースが挨拶をしたので、僕も返す。

 リースは昨日と同じカゴを持っていた。


「リースはこれから出かけるところ?」

「ええ、また森で果物などを収穫しに。昨日の森とは別の所なので多分黒騎士は出ないはずですよ」


 僕は今ここで推薦状について相談しようか迷ったが、そもそも昨日とは別のところとはいえ、少女が1人で森に行くのを見送るだけというのは気が引けた。


「えっと、もしかしたらという事もあるし、僕もついていくよ。収穫の手伝いも出来るしさ」

「え、でも、いいんですか?」

「いいよ、それにちょっと相談したいこともあるし......」


 森でも相談することは出来るので、ここはリースと一緒に森に果物を収穫しに行くことにした。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 街を出てから5分程歩き、僕達は森に到着した。

 別の森とはいえ、見た感じはほとんど昨日の森と変わりはなかった。

 僕とリースは、協力して木に実っている果実を取っていく。この辺りの森では1年中何かの果実が実っているそうだ。僕はどれが食べごろのものなのかよく分からなかったので、リースに聞きながらの作業だった。


 リースが持ってきたカゴの3分の2くらいが果物などでいっぱいになった頃、リースは僕に問いかけた。


「そういえば、ミルさんの相談って何ですか?」


 収穫もひと段落ついた頃だし、そろそろ話してもいいかな。


 僕はリースに、身分証明書と安定した収入を得るために魔法騎士団になりたいと思っていること。そして魔法騎士団の入団テストに出るためには、5年以上この街で暮らしている人の推薦状が必要だという事を話した。


「推薦状ですか......」

「誰か書いてくれそうな人に心当たりはある?」

「......私ではダメですか?」

「リースってこの街に5年以上住んでたの?」

「はい、私の両親は、よく遠くに探検しに行く方たちで、物心つく前からお婆ちゃんとこの街で暮らしてました。まぁ、そのおばあちゃんも今は腰を悪くして、大きな病院がある元の街へ帰ってしまっていますけ」

「そうだったんだ...」

「あ、ちょっとしんみりした話になってしまいましたね。すみません。それで、推薦状を書くのは私でも構わないですか?」

「うん、リースが書いてくれるっていうなら嬉しいよ」

「それでは帰ったら早速書かなくてはいけませんね。入団テストはもう明日ですし」

「そうだね。ごめん、突然頼んじゃって」

「いえいえ、私もミルさんが入団テストに出るというのなら精一杯手助けするつもりだったので、大丈夫です!」


 リースは笑顔で僕の頼みを聞いてくれた。

 とりあえずこれで推薦状の問題は解決した。後は僕が魔法を使いこなせるようになれるかどうか、だな...。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 僕達はリースの家に戻ると、それぞれがやるべき事をやり始めた。

 リースは僕の入団テストのために推薦状を書くことと昼食の準備。

 そして僕は自分の力を使いこなせるようにするため、とりあえず街の公園で走り込みやら懸垂やらをして体力造りをする事にした。あの力が使えれば、おそらくまた体が軽くなるような感覚が得られると思ったからだ。



 しかし、結局午前の特訓中に僕があの力を使用する事は出来なかった...。

明日以降も同じ時間帯に投稿予定です。

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