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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
56/92

23話(55話) 『逆襲』

先日の7月5日、この作品が1周年を迎えました。

ここまで来ることが出来たのも皆さんがいてこそ。ありがとうございます。

「私を殺す······? 出来るものならやってみなよ!」


 僕に破壊された棘の先端部を引きちぎり、二本の棘をロサは自分の元まで再び持っていく。

 そして千切れた先端部は瞬時に元の長さまで再生してしまった。


「棘を破壊したくらいでいい気にならないでよ。私と繋がっている限り、今の棘は常に再生し続ける」

「説明ご苦労様。だけど心配しなくていいよ。むしろ、自分の全力をかけて殺しに来てくれて構わないさ」


 僕のその言葉を聞いたロサが青筋を立てる。

 そして僕の言葉通り、自らの肉体から新たに六本の棘を生やした。


「言われなくてもそうするよ。可愛げの無くなった今の貴方のその顔、叩き潰してあげる」

「へぇー、可愛げがあったら多少は手加減してくれるのかな? 今度からは気をつけるよ」

「いい加減黙ったらどう?」


 ロサが八本全ての棘を使役し、僕に襲いかかる。



 今までの僕では、例え神の力を使っても確実に対処しきれない数だ。

 ──けど、それはあくまで『不完全な』神の力しか使えなかった時の話。

 そもそも、本来この力を預かったのは僕の本来の心。つまり今の僕の事であり、過去の僕はあくまで表面上の使い手でしかない。


 今の僕は知っていた。この神の力の『本質』を。

 過去の僕はこの力を『皆を護るための力』と認識していた。けれど、それは半分当たりで半分外れだ。


 この力の本質は『自らの強い思いを力に変える』こと。つまり重要なのは思いの強さであり、内容ではない。

 過去の自分は人を護る事に対して強い思いを抱いていた。だからその時に限り力を使うことが出来た。しかし、それだけでは不十分だった。


 この本質の重要な点は『思いの強さがそのまま力に反映される』という所。

 過去の僕は方法も考えず、ただ無意味に理想を掲げているだけであった。その程度の思いでは禄な力にはならない。


 だが、今は違う。今の僕は『護る』という思い、そしてその方法である『ロサを殺す』というより強い目的意識を持っている。

 その思いが、過去の僕に成し得なかった事をするための力を僕に与えた。



 まず、迫る棘のうち最初に接近した二本の棘を僕はその拳で破壊した。今度は多少再生に時間がかかるように破壊箇所を広げて。


 そしてそのままその棘の脇をすり抜けて、ロサ本体へ走る。

 しかし、彼女の残り六本の棘がその行く手を阻んだ。


「行かせない。貴方はそこで殺す」

「ああ、別にもう進まないよ。ここで十分だ」


 僕はその場に立ち止まり、六本の棘を向かい撃つ体制をとる。

 六本の棘全てをかわすことのみで対処するのは不可能。しかし、破壊したところですぐに回復してしまう。

 六本の棘はロサに操作され、それら全ての統率が乱れる事もない。一見すれば隙のない相手だ。


 けれど、今の僕ならば······


 六本の棘の隙間を縫い僕はその攻撃をかわしていく。そしてそれと同時に、再生してしまうと分かりながらも、その棘一本一本の一部を破壊していく。


 すぐに最初に破壊した二本も含めた全ての棘の損傷箇所が修復される。僕の与えている傷は棘を防ぐという点においては役に立っていない。


「無駄だって。貴方には棘を完全に破壊する事なんて出来ない。そして、直にそこで死ぬの!」


 確かに彼女の言う通り、いくら傷を与えても僕に棘を破壊する事は出来ない。だから、ロサは僕の行動に意味が無いと思ったのだろう。

 けれど、それは違う。それを今から証明する。


(······見つけた。)


 僕の目的はこの棘から逃げる事でも、ましてや棘を破壊する事でもない。

『道を見つけること』だ。ロサを殺すための。

 棘をかわしながら、攻撃していたのもその為だ。


 破壊された棘は一時的に戦線から離れる。

 しかしそれはほんの一瞬で、同時に全ての棘を破壊する事は出来ない。だから、僕はわざとタイミングをずらしていた。棘を破壊するタイミングを。


 一定の周期で棘を攻撃し続ける事で棘の修復時間、戦線復帰のタイミング、それぞれの棘が担当している位置を把握出来た。

 そこまで分かってしまえば後は簡単だ。


 二つ程棘を破壊して戦線から離脱させ、残りの棘がその担当場所を埋める前にその隙間からロサへ直接攻撃する。棘をかわしていたのもこの時最も攻撃しやすい位置へ移動するための事だ。


 そしてここからが最後の仕上げ。


 僕は二本の棘が一時的に戦線から離れるのを確認すると、左腕を不自然でない程度に無防備に晒した。


「まずは······左腕」


 直後、左腕の骨が軋む。ロサの棘が僕の左腕に打ち付けられ、その骨を砕いたのだ。さらに肘の関節は本来とは異なる方向に曲がっている。


「あは······もうおしまい?」

「ああ、おしまいだよ」


 僕は退避した二本の棘のあった位置、そして僕の腕を別の棘が攻撃したことによりさらに広がったその隙間から、ロサの体を見据える。

 そして、僕は右の拳を強く握った。


「君の······ね」


 右手に神の力を込める。

 ロサ本体との距離はおよそ十五メートル。ここから腕を伸ばしても届かない。


 神の力に加えて、さらに魔力を込める。僕自身が持つ風の魔法を発動するために。しかし、ただ使うだけでは先程までの自分と同じ。弾丸として指先から飛ばす程度では意味が無い。


 魔法を神の力で強化した所で威力は高が知れている。元の魔法の威力が低いんだ。強化してもその威力はロサの肉体を破壊するには至らない。


 ならば、方法を変えるまで。

 魔法はあくまで補助として割り切る。本命は神の力。

 幸いにも僕の魔法属性は風。攻撃以外も使い道がある。


 魔法を神の力で強化するのではない。

 神の力を魔法で補助する。それが今の僕の戦い方。


 僕はその場で右手を振るう。棘と棘の隙間から見えるロサ目掛けて。

 そして振り切ると同時に風の魔法を発動。

 この神の力を『風に乗せる』。威力はそのまま、風を通じてロサの元までこの拳を運ぶ。

 これが僕の新たな力──


「『この風に思いを乗せて(ディザイア・ストーム)』」


 僕の拳から放たれた風が神の力を乗せ、ロサ目掛けて突き進む。


「何!?」


 僕に『風の弾丸』以外の攻撃方法があることを知らないロサは、突然の事に回避もできず、僕の元にある棘を防御に使うことも出来ない。


 風がロサの胴に直撃した。威力はそのまま伝わっている。つまり、今の彼女の体には目の前で僕に殴られたのと全く同じ衝撃が襲っているのだ。そしてその威力は、過去に彼女が体験してきたものとは全く別次元の物であり、彼女に受け切ることは出来ない。


 風はロサを地面に叩きつける共にその胴体を蟻のように容易く潰した。


 やがて僕を囲っていた棘も動きを止め、次々と地面へ倒れていく。


「もう終わりなの、ロサ?」


 ロサの体は動かない。

 しかし、未だ森の木々は燃え続けている。それは彼女がまだ生きている事を表していた。


「まぁいいや。そのままじっとしてくれているなら都合がいいし」


 最後のトドメを指すため、僕はゆっくり歩を進めロサに歩み寄っていく。


 その時、突然倒れた棘の全てが再び起き上がった。


「なんだ、やっぱり生きてるんだね」


 それだけではない。ロサの体から更にもう六本、新たな棘が出現したのだ。

 しかし、明らかにその動きがおかしい。先程までは背からのみ生え出ていた棘が、今の六本は胴体、足の付け根、首、肩というように、これまでとは異なる位置から生え出ていた。それに、相変わらずロサは一言も喋らない。それどころか、むしろどんどん体の色がが悪くなっている。


「棘の方が身の危険を感じて、自ら生え出てきたって所かな。宿主を無視して」


 前の戦いの時、ロサは自分の棘をコントロール出来ていなかったそうだ。恐らく、この棘は本来ロサの体に無いもの、つまり後付けでつけられたものなのだろう。その棘が彼女の体から出る様子は、さながら役目を終えた宿主の体から湧き出る寄生虫のようだ。


 十四本の棘。これを過去の自分が見たらどう思うのだろう。勝てるわけがないと絶望するのかな。


 でも、少なくとも分かっているのは、今の僕が思っていたのはそれとは全く正反対の事だということだ。


「いいよロサ。僕もようやく目覚められて動き足りないんだ。今度こそ、本気で殺してあげるよ」


 再び僕はその拳を握った。

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