22話(54話) 『本性の覚醒』
今回の話はこれまでに比べてかなり長いです。
しかし物語全体におけるこの話の重要性も非常に高いので、ぜひ、最後まで読んで頂きたいと思います。
『今日からは二人だけで生活していくのよ』
両親の葬儀が終わった日、親戚の誰かがそんな事を言っていた。
彼らが引き取ることを拒んだから、僕らが二人きりになってしまった事を分かっていたはずなのに、どうしてそんなに他人事なんだろう。
『お兄ちゃんが、妹を護るのよ』
ああ、そんな事も言ってたな。
······思えば、これが僕にとっての始まりだったのかもな。
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『お兄、今日は何の料理がいい?』
『ねー、休みなんだからどっか遊びに行こうよー』
『ねぇ、受験ヤバイんだけど······勉強教えてくれない?』
『秋風 見春』は明るい妹だった。
料理が好きでよく作っていた。
休みの度に僕にどこかへ連れていけとせがんでいた。
僕と同じ高校に通うために、毎日のように受験勉強にも励んでいた。
一年前、両親を失った後でもその明るさが失われることは無かった。いや、むしろ僕を励ますためなのかその笑顔は一層眩しく輝いていたかもしれない。
両親を失い、これから先どうしていこうか深く悩んでいた僕の心が折れずに済んでいたのもきっと彼女がいてくれたからなのだろう。
僕にとって彼女は生きる上で必要な存在だった。欠けてはならない存在だった。だから、僕も彼女にとっての最も大切なものになりたかった。
『お兄ちゃんが、妹を護るのよ』
あの日、良く顔も覚えていない誰かに言われた言葉が、僕の頭の中を埋め尽くしていた。そして、心に誓ったのだった。
僕が妹を護らなくてはいけないのだと。
······今思えば、護られていたのは僕の方だったのに。
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『お兄、あった! 私の番号あったよ!』
人混みの中、掲示された番号の中から自分の受験番号を見つけた妹が、人混みを抜けて僕の元へと駆け出してきた。
『やったね。これで春からはお兄と同じ高校に通えるよ!』
ぴょんぴょんと飛び跳ね、子どものように喜ぶ妹の頭を僕は優しく撫でた。
本来、この役目は僕の両親であるはずだった。だけど今、その二人はもうどこにもいない。彼女が頼れるのは僕だけなんだ。
僕は彼女の体をそっと抱きしめる。
『お兄! は、恥ずかしいって!』
僕の腕の中で叫び、頬を赤らめる妹をよそに僕はその腕により強い力を込める。
今、彼女の事を褒めて挙げられるのは僕しかいない。だから、僕が精一杯彼女の力になりたかった。
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『ねぇ、お兄。遊園地行かない?』
春休みのある日、掃除をしていた僕の元へとどうやって手に入れたのかも分からないペアチケットを手にした妹が現れた。
正直、最初は乗り気では無かった。その日は日曜日、更に今は春休みだ。混むことは明白である。だから、今日は止めにしようと提案した。
けれど妹にチケットの期限が今日までだから、そして自分の合格祝いにして欲しいと言われてしまい、結局僕は遊園地まで連れてこられてしまった。
けど、何だかんだ久しぶりの遊園地は楽しくて、時が経つのも忘れ僕達二人は小さい頃のように色々なアトラクションを廻った。
やがて日も沈み始め、僕達は最後の締めにと大きな観覧車に乗ることにした。
観覧車の中からはその日走り回った遊園地の全体を見渡すことが出来た。
『ねぇ、お兄』
けれど、僕の向かいの席に座る妹はそんな風景に目もくれず僕の目を見て話し始めたのだ。
『お兄はさ、私のことどう思う?』
その質問を聞いた時、正直なんと答えれば良いのか分からなかった。
見春は大切な妹だ。だけど、そう伝えるだけでは何か物足りないような気がした。
答えられずにいた僕を見かねてか、妹は確信に触れる言葉を投げかける。
「私のこと······好き?」
その言葉が果たして家族として妹としてなのか、それとももっと踏み込んだ事を意味するのかは今の僕も分からない。
でも、当時の僕はただ大きく頷いていた。
恥ずかしくて口には出さなかったけど、その言葉に肯定の意味を返した。
僕のその様子を見た妹は少し恥ずかしそうに、目線を泳がした。
けれど、やがて落ち着くと再び僕の顔を見て、大きな笑顔を返す。
窓から差し込む夕日に照らされていた彼女の笑顔は、相変わらず僕にはとても眩しいものだった。
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『あー楽しかった!』
観覧車から下りた僕らは遊園地のゲートへと向かっていた。出来れば日が沈み切る前に帰って、夕飯の支度をしておきたい。
けれど、ゲートまでの道の途中で僕は見過ごせないものを見かけてしまった。
『お兄、どうしたの?』
突然立ち止まった僕を見て、隣を歩いていた妹を足を止めた。
僕の目線の先にいたのは、花壇の前で声を上げて泣いている男の子。恐らく、親とはぐれて迷子になってしまっていたのだろう。
僕はいてもたってもいられず、彼の元まで駆け出した。妹も慌てて僕に着いてくる。
『お兄ちゃん、誰?』
大丈夫、きっとお母さんと会えるからね。と声をかけて安心させる。とは言っても、親が見つかるまで一緒に探し続けようとは思っていなかった。あくまで、この遊園地の係員に知らせるか、迷子センターに届けるまでだ。
『お兄、その子助けるの?』
後から妹が僕の元まで追いつく。
僕は妹に僕が今からしようといている事を伝える。
『うん。確かに誰かに知らせた方がいいよね』
妹も僕の考えに納得してくれた。帰るのは遅くなるけど仕方がない。
とにかく今はこの子を助け──
その時、遊園地内にその華やかな風景とは似つかない音が響いた。
『キャーーーー!』
女性の悲鳴。しかも、ただ事ではない様子だ。
僕は慌てて辺りを確認した。すると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
全身血まみれの女性が遊園地のタイルの上に倒れ、カラフルな配色をその血で染め上げていた。
その近くにいるのは、同じく血まみれの男性。しかし、見たところ彼から血が流れている様子はない。そしてその手にはナイフが握られている。
間違いない、彼が犯人だ。
『アアアアアア!』
既に正気を保っていない犯人はナイフを振り上げるとデタラメに歩き回り始めた。
そしてそれと同時に、その様子を見ていた遊園地の客たちはパニックに陥る。
今日が丁度混んでいた日であったことも災いし、逃げるのに必死な人々はとにかくその場から離れようと、他人の事など考えずに走り出し、やがて大きな波となった。
そしてその波はどうするか考える間もなく僕らの元へと押し寄せた。
人の波に飲み込まれた僕の手を慌てて誰かが掴んだ。その時は確認する間もなかった。波に流されるがまま、振り返ることも出来無かったからだ。
でも、僕はそれが自分の妹のものであると信じて、その手を強く握り返した。
やがて、ある程度人の波に流された所で、僕はなんとか地に足をしっかりつけて遊園地の中の細い通りへと抜け出した。あのまま流されっぱなしではいつ転んでもおかしくなく、危険だと思ったからだ。ここまでくれば恐らく安全だろうし。
そしてそこで僕はようやく僕の手を掴んでいた者の顔を見ることが出来た。
「え?」
僕の手につかまっていたのは先程僕が声をかけた迷子の少年。僕の妹では無かった。
少年は訳も分からないという様子できょとんとしていた。
けれど、今の僕にはもう迷子の少年なんてどうでもよかった。
「見春······見春!」
僕は慌てて通りから人波の中へと戻ろうとする。早く妹が何処にいるのか探さなくてはならない。
けれど人の波はとても激しく、それに逆らうことなど僕には到底不可能な事だった。
······いや、もしかしたら可能だったのかもしれない。けれど、あの時の僕には逃げる人々をなぎ倒して先に進むという選択肢は無かった。
後戻りが出来なかった僕にはただその場で祈る事しか出来なかった。
けれど、どこかでこう信じていた。
僕の妹ならきっと逃げることが出来ているはずだ。多分この波のどこかにいて、騒動が収まればひょっこり顔を出すのだろう。
そこには僕の、これ以上神様が僕から何かを奪う訳無い。という根拠の無い思いも含まれていた。
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僕の妹は大きな血溜まりの上で倒れていた。
先程まで輝かせていた目には今はもう何も映っていない。ただ虚ろな目が半開きになっているだけだった。
騒動が収まり、僕が現場まで戻ってくることが出来たのは僕が流されてからおよそ十五分後の事だ。
通り魔はその後数人を殺傷した後で完全に発狂し、その最期は自らのナイフで自分の首を掻っ切るというものであった。
そして、その殺傷された者の中に僕の妹は含まれていた。あの人波に巻き込まれた瞬間、バランスを崩した妹は流されることも無く、立ち上がる事も出来ず、その場で倒れ込んでしまった。やがて、人波が過ぎ去った後で通り魔に······。
まだ警察は到着していなかった。
僕は警察の捜査のことなんか何も考えることなく、妹の亡骸を抱き起こしていた。
またあの目で見つめて欲しい。
またあの声で語りかけて欲しい。
またあの顔で笑って欲しい。
けれどそんな願いは虚しく、どれだけ揺すっても彼女が再び目を覚ます事は無かった。
目から涙が零れ落ちる。
今の僕にはもはや感情のコントロールなど出来ない。
警察が到着してからも妹の体を離すことはなく、涙が枯れるまで泣き続けた。
そして涙が枯れると同時に僕は再認識した。
僕の全てが、今この瞬間、奪われたのだと。
✱✱✱✱✱✱✱✱
春が明け、高校二年生になってからも僕が高校に通うことは無かった。もはや、家から出ることすらしなくなっていた。
そして、一ヶ月以上外に出ていないことを不審に思った僕のマンションのオーナーによって、家の中で倒れていた僕が発見された。
すぐに僕は病院に運ばれた。ストレスによる拒食症だと診断された僕は点滴に繋がれ、強制的に入院を余儀なくされた。
入院中、カウンセラーが僕の元に来ることもあった。けれど結局、そんな人達と僕が会話をすることは一度も無かった。
僕が入院中に考えていたことはただ一つ。
どうすれば妹を護れていたのか。
そして、ある程度答えは見つけられていた。
もしもあの時、僕が迷子を見捨て、妹を連れてすぐに逃げていれば。
もしもあの時、僕が逃げる人々をなぎ倒して、妹の元まで辿り着いていれば。
もしもあの時、僕がちゃんと妹が逃げるのを確認するまで、危険を犯してでも待っていれば。
もしもあの時、花壇のレンガを使って通り魔を殺していれば。
全部、僕に勇気と力があれば実行できた事なんだ。
だけど出来なかった。誰かを、何かを犠牲にすることが出来なかった。
迷子が。人波が。僕自身が。通り魔が。
誰かが犠牲になっていれば僕の妹は助かったはずだったんた。
その考えに至った時、僕はある答えを得た。
『誰かを護るためには、何か犠牲がいるんだ』
だけど、その答えが出ても尚、それを認めることが出来ない自分もいた。
何かを犠牲にすることで誰かを護るなんて考えは間違っている、と。
葛藤する。どちらの自分が正しいのか。犠牲が必要なのか否か。
でも、僕はやがて考える事を止めた。
こんな事を今考えた所で意味は無い。
──ならば、今最も効果的な事をする。
僕は点滴の管を外し、ゆっくり立ち上がると、窓の元まで歩み寄った。
今僕が最もすべき事······。
窓を開ける。ここは病院の七階。吹き込む風の強さは過去に地上で浴びたものとは比べ物にならない。
けど、そんな事はどうでも良い。今僕がすべきなのは······
僕は身を乗り出すと、開けた窓から飛び降りた。
彼女を護れなかったという最大の罪がある事に変わりはない。ならば、まずはその罪の償いをする。この命をもって。それが今の僕に出来る、最も意味のある事だ。
地面に叩きつけられた僕の意識は間も無く消失した。
✱✱✱✱✱✱✱✱
ああ、そうだった。
僕は病死なんかじゃない。自分の意思で死を選んだんだ。
今になってこれまでの全てを思い出す。ロサに打ち倒され、心を壊された今になって。
いや、むしろ心が壊された今だからこそ、過去に向き合う事が出来たのかもしれない。
そしてその記憶を取り戻すとともに、今の僕に至る経緯も全て思い出した。
どうして僕が転生という行為に賛同したのか。そして今の僕自身が何者であるのか。
恐らく、病室から飛び降りて死んだあの日、僕は死ぬと同時に二つの考えのうち、一つを受け入れたんだ。
人を護ることに犠牲なんて必要ない、という考えに。
そしてそれとともに、何かを犠牲にして誰かを護るという行為そのものを否定した。
だから、その考えに辿り着くに至った経緯である妹に関する出来事を全て、記憶の奥底に封印したんだろう。
それが恐らく、神と会話を始める前までの事。
そして新たに『病気で死んだ』という本来とは異なる記憶を埋め込んだ自分が生まれた。それがさっきまでの『秋風見留』だ。
その『秋風見留』が転生に賛同したのは、恐らく自分でも気付かぬうちに自己を正当化したいという思いがあったのだろう。
自分の考えが正しいのだと、新たな世界で証明したくなったのだろう。
そして今の今まで、自分が結論づけた考えである『犠牲を必要とせずに誰かを護る』という行為を実践し続けていた。
その結果がこれだ。
誰かを護ると銘打っておきながら、結局は誰かに助けてもらってばかり。自分一人ではほとんど何も解決できていない。
皆を護る力もないのに一人で高い理想を掲げ続けた。
そして、今ここでロサに打ち倒され、心が壊れると共にそこに封印していた記憶が目を覚ました。
結局、何も犠牲にしないで誰かを護るなんて、ふざけた理想だったんだ。
そんな理想も、そんな間違った考えに至ってしまった僕自身も、もう必要ない。
結局、新たな世界に来ても『犠牲が無ければ誰も護れない』のだと言う事を深く気づかされるだけだったな。
そう。犠牲がいるんだ。
何かを犠牲にすることが皆を護る方法なんだ。
『ミルは誰かを護るという『目標』だけを見ている。『方法』なんて見ていない。』
スノウの言葉を思い出す。そうか、スノウが言いたかったのはこういう事だったのか。
ようやく僕は辿り着いたんだ。本来得るべきだった答えへと。
『誰かを護るためには、何かを犠牲にしなくてはならない』のだと。
そんな事は妹を失ったあの日、とっくに気づいていたはずなのに、弱い僕は目を背け続けた。
ならばまずは······
──この弱い自分自身を、これからの僕のための『犠牲』とする。
かつての僕がそうしたように、ふざけた考えもその答えに辿り着いた愚かな僕自身も封印する。
いや、殺す。
封印なんて甘い事はしない。こんな理想を抱いてしまったこと自体が間違いなのだ。ならば、もう残しておく必要はない。
「サヨナラ、秋風見留」
僕は己の中に存在するかつての自分を、この世界に転生してきて今まで生きてきた自分自身を殺す。
「ここからは僕の、本来の『秋風見留』の人生だ」
さぁ、ここから始めよう。正しい答えを見つけた僕の人生を。
✱✱✱✱✱✱✱✱
意識を取り戻す。
地に伏せている僕のすぐ側をロサの足が通り過ぎていった。
恐らく、壊れてしまった僕なんてじきに死ぬだろうから放っておいて、残りの仲間を殺しに行くのだろう。
だが、壊れた愚かな僕はもういない。
「待て」
ロサが森の奥に進む一歩前で、僕の声が彼女の足を止めた。
ゆっくり立ち上がりながら、僕は服についた土を払う。
心が変化しても、肉体までは回復していない。『かつての僕』が受けたダメージはそのまま今の僕にも引き継がれている。
ポケットにはかつての僕がティアさんから受け取った治療薬があるが、これを使うのは止めておこう。これを使っては、過去の自分の行動を肯定することになってしまうから。
「まだ生きてたんですかぁ?」
歩みを止められたロサが驚き半分、苛立ち半分といった口調と表情をして顔だけ僕の方を向いた。
「どこに行こうとしてたのかな?」
服の土を払い終え、今度は髪についた土を落としながら、彼女の質問に答えることもなく、僕は問いかける。
「だって、貴方が壊れてしまったんだもの。だったらもう放っておいても勝手に死にそうだったから、他のメンツを潰そうと思ってね」
大方、僕の予想通りであったか。
「なのに、まさか立ち直るなんて。あれほど壊れた状態から」
ロサはどうやら大きな勘違いをしているみたいだ。僕の方から訂正しておこう。
「生憎だけど、別に立ち直ってないよ。さっきまでの僕は死んだ。今の僕が殺したんだ。だからもう別人みたいなもんだよ」
その言葉を聞いたロサは口角を上げると体全体を僕に向ける。
「なら、どれくらい変わったか試してみよっかなぁ!」
そして背中から棘を一本生やすと、僕に叩きつける。
先程までの僕なら破壊することはおろか、受け止めることすら出来なかった攻撃だ。
──だが、今の僕はその棘を右手のみで受け止める。
「なっ······」
先程までとは明らかに違う僕の能力に気づいたロサが、驚嘆の声を上げる。
「所でロサ、話は変わるんだけどさ」
そんなロサの様子を目に捉えながら、僕はロサに話かける。
「僕は今まで君や君のお仲間達に遠慮していたみたいなんだ」
「一体何を言っているのかなぁ?」
唐突に放たれた言葉の意味が理解出来ず、困惑しながらロサは僕への警戒を続けている。
「僕は今まで『殺す』という行為を恐れていた。だから、君達と戦っていた大きな理由はくだらない正義感によるものだった」
「そう、正義はくだらないもの。このくだらないモノを信じ続けた結果が今の君なんでしょ?」
「ああ、そうだ。それがこれまでの僕を形作っていた。けれど今は違う」
「へぇー······どう変わったの」
強く、強く、胸の内から溢れる衝動。
過去の僕になく、今の僕に新たに根付いた衝動。
それが──
「『殺したい』。殺したいんだ。今目の前にいる君を」
「怖いなぁ······誰かを護るんじゃなかったのかな?」
「護るさ。でも、護るためには目の前に立ち塞がる物を排除しないとダメじゃないか。それが君だ。」
「そうだけど······排除されるのは君の方だから······!」
僕に向かってロサがさらに一つの棘を伸ばす。
しかし僕は棘による初撃を交わすと同時に、隙だらけとなった棘の先端部を右の手で掴んだ。
「まだ話は終わってないよ」
抑え付けるように、棘を掴んだ手に力を込める。
「誰かの前に立ってその人を護るという行為はさ、その誰かを侵略しようとする別の誰かに立ち塞がる行為でもある」
「黙れ。私は君の話なんか聞きたくない」
抵抗し、僕の手から抜け出そうとロサの棘が蠢きはじめる。
「話を聞かないなんて悪い子だね。······じゃあもういいや」
僕は掴んだ二本の棘の先端部を容赦なく片手の力で握りつぶす。
「結局のところ、言いたかったのは『全てを護る』なんて夢のまた夢。頭がお花畑の奴が考える無意味な理想だって事。いつかは誰かの敵に回るんだから。今の僕のように。だから、僕は僕が護りたいって思ったモノだけを護るよ」
「お前、絶対に許さない······」
ロサはもう話を聞いていない。実質僕の独り言だ。
でも別にそれで構わない。これは僕が僕自身に言い聞かせていることなのだから。
僕は一歩、棘を砕かれて僕への憎しみを増すロサに近づいた。そして宣告する──
「護りたいモノだけを護る。その為の犠牲としてロサ······君を殺す」




