4話 『魔法騎士団と入団テスト』
明日も同じ時間帯に投稿します。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「はい、それなら良かったです!」
僕は残りのシチューを食べ終わると、リースへの質問を再開する。
「じゃあリース、質問を再開するね」
「わかりました」
「さっき商店街で魔導書の他に剣が売っていたけど、この世界では魔法が主流のはずなのに、剣を使う人がいるの?」
「そうですね……基本的にこの街で剣を使うのは『魔法騎士団』の方たちでしょうか」
「『魔法騎士団』……」
おそらく関所で管理長が言っていた騎士のことだろう。
「ここストファーレはストファーレ城の城下町です。魔法騎士団はそのお城とこの街に仕えている騎士の方々のことです」
「魔法騎士団なのに剣を使うの?」
「いえ、全ての団員が剣を使う訳ではなく、一部の優れた剣術を持った方が使うらしいです」
剣術か……まぁ元の世界で剣なんて持ったことない僕には関係ない話かな。
「他に使う人はいるの?」
「そうですね、結局は同じ騎士団の方ということになってしまいますが、年に一度の魔法騎士団の入団テストに出る方々も剣術の練習のために使っていると思います」
「入団テストなんてあるんだ」
「はい、このテストでは基本的には魔法の能力を図るらしいですが、同時に優れた剣術を持っていれば合格しやすくなるようです」
入団テスト……もしそれに合格することが出来れば、魔法騎士団としての肩書き、つまり身分を証明するものを手に入れられるが……僕に魔法の才能なんてあるのか?
とりあえず一応そのテストが行われる日をリースに聞いておこう。
「リース、その入団テストが次にいつ行われるか分かる?」
「明後日です」
ああ、これは辛そうだ。まだ十分な時間があるなら、あの黒騎士を倒した力を完全に習得出来るかもしれないと考えたけど、わずか二日じゃあ使いこなせるようになる気がしないな。
「もしかしてミルさん、入団テストに出ようと考えているのですか?」
そんな僕の絶望をよそに、リースは先程までの僕の考えを的確についた質問を聞いてくる。
「あ、いや……身分を証明するために何かの職に就かないとと思っただけだよ。僕に魔法騎士団なんて無理だろうし……」
「そうでしょうか、私はミルさんなら魔法騎士団に入る実力があると思いますよ」
「ええ!? 本当に?」
リースの驚くべき言葉に思わず僕は聞き返す。
「はい、本当にそう思っています。ミルさんはあんなに恐ろしい黒騎士も簡単に倒せるんです、きっと魔法騎士団の方たちもその力を認めてくれますよ」
リースは笑顔で言った。
「う、うーん……そうかな……」
確かにあの力を使えればいいけど、そもそもよく分からないんだよなぁ。
「まぁ、身分を証明するための方法はまた考えるとして……リース、この街に宿ってある?」
「宿ですか? そうですね……」
とりあえず今日は泊まるところを確保することが先決だろうと僕は思った。
リースは少し考えてから、思い出したように言う。
「あ、たしか旅人の方々が泊まる宿があったはずです」
「そっか。えっと、悪いけどまた案内してもらえるかな?」
「はい、構いませんよ。あ、でも先にもう一度商店街に寄っていいですか? 買い足して置きたい物があるので」
「うん、別に急ぎじゃないし、大丈夫だよ」
✱✱✱✱✱✱✱✱
僕とリースは再び先程の商店街に立ち寄っていた。
リースはすでに八百屋周辺の人混みに入っている。いくつか野菜を買い足しておくそうだ。
僕は八百屋から少し離れた位置でリースを待っていたが、せっかくなのでなにか買ってみようと思い、リンゴを売っている果物屋へ行ってみる事にした。
背中に背負ったリュックから革袋を取り出して、店頭に書いてあるリンゴの代金『二百ソル』つまり銅貨二枚を取り出そうとした。
しかし僕は銅貨を取り出すために前を向かずに歩いていたので、前方から歩いてきた人とぶつかってしまった。
「うわっ」
「おおっ」
僕は人とぶつかったことに驚き、手に持っていた革袋を落としてしまった。そして落とした革袋から銅貨などが何枚かこぼれ落ちる。
「す、すまない。店の様子を見ていて、君に気づかなかった」
「あ、いや、そもそも僕が前を見ずに歩いていたのが悪いですから……」
僕はそう言いながら顔を上げる。僕とぶつかった人物を見る。
僕とぶつかったのは僕より少し年上そうな若い女性だった。長く赤い髪をしており、歳は二十歳過ぎくらいだろうか。
その女性は腰に剣を携えていた。という事はこの人はこの街の騎士ということなのだろうか。
僕はしゃがんで落とした銅貨を拾おうとする。するとその女性騎士も同じようにしゃがんで同じように拾ってくれた。
「これで全部か?」
「はい、たしかこれで全部のはずです」
「そうか。それじゃあ、次からはきちんと前を向いて歩くんだぞ」
そう言うとその女性は商店街の奥の方へと歩き始めた。僕は女性が人混みに紛れて見えなくなるまで、なんとなくその姿を目で追っていた。
「カッコイイですよね。ああいう方」
突然後ろから声が聞こえて慌てて振り返る。
「ああ、リース。買い物は終わった?」
「はい、もう済みました。そう言えば何か買うんじゃないんですか?」
「あ、そうだった、リンゴを買ってみようとしてたんだった」
そして僕は店頭で二百ソルを渡し、リンゴを一つ購入する。
僕が買ったリンゴは元の世界と同じ味がした。
僕がリンゴを食べ終わると、リースが僕に話しかける。
「それでは次はミルさんの宿ですね。案内します」
そうして、今度は宿へ向かって僕達は歩き始めた。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「ねぇリース」
「はい、何ですか?」
宿へと向かって歩いている途中で僕はリースに声を掛けた。
「さっき僕がぶつかった人、剣を持っていたから魔法騎士団の人なんだよね? リースはあの人を知っているの?」
「はい、あの人は魔法騎士団の団長の方です」
「へぇ団長なんだ……って団長!? そんな凄い人だったの?」
「ええ、よく街にやって来て街の方との交流を図る方なので、街のほとんどの人は彼女の事を知っていますよ」
「そ、そうなんだ」
「他の理由があるとすれば、明後日が騎士団の入団テストなので、それに向けて練習している街の方の様子を見に来たんだと思います」
「なるほどね」
まぁ僕はまだそれに出るかも分からないし、さっきアピール出来ることはなかっただろう。
「そういえば、ミルさんは入団テストに出るかは決まりましたか?」
「うーん、まぁ身分を証明するために職に就くのは大事だろうけど、それを魔法騎士にするかはまだ決まらないな」
「そうですか……でも、ゆっくり考える事も大事ですよね」
「ゆっくり出来るほどの期間は無いけどね……」
確かに実力があれば入ることが出来る魔法騎士団は大工とか商人と違って特に資格も要らないことは魅力だ。それにきっと『退屈しない』職だろう。
しかしよそ者の僕が就ける職なのかなど、まだ解決しなくてはいけない疑問もあった。そこが僕が悩む理由だ。
「あ、あそこの建物が宿ですよ」
そうこう考えているうちにどうやら目的地に着いたようだ。
僕は宿に入る前にリースにお礼を言う。
「ありがとうリース、色々手助けしてもらって」
「いえいえ、ミルさんはまだしばらくこの街に居ますよね。また何かあれば遠慮せずに相談して下さいね」
「うん、その時はまた頼らせて貰うよ」
そう言って僕は宿に入り、とりあえず夕食と翌朝の朝食付きの一泊という内容でチェックインをする。
僕は受付の人に部屋へ案内された。その部屋はリースの家の広間の半分位の大きさだった。まぁ一人には丁度いい大きさかな。
僕はリュックを部屋の隅の方に置いて部屋に鍵をかけると、色々あって疲れていたので夕食の時間までとりあえず眠ることにした。
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