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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
48/92

15話(47話) 『不思議なギャンブル』

 僕は右手に魔力を集める。

 そしてその魔力を腕ごと神の力で覆った。神の力は誰かを守りたいと言う思いがなければ発動はしない。しかし、誰かを守るための力を得るため特訓している今は発動させることが出来た。

 そのまま魔法を発動し、僕は風を正面の的めがけて放つ。


 威力は充分。的を破壊するのは容易いだろう。

 しかし...


「ああっ...」


 風は的に達するよりも早く空気中に散ってしまう。

 前はこの距離でも普通に届いていたのに...。


「スノウ、どうしてなんだろう」


 僕の隣で腕を組んで立っているスノウに問いかける。


「...多分、魔力が威力が高めることばかりに使われて、形を維持することが出来なくなってるんだと思う」

「てことは、これまで以上に遠くに飛ばせるようにしないといけないってこと?」

「...うん」


 やっぱり、神の力を併用したからといって無条件に魔法が強化される訳では無いのか。威力に問題は無いけど今度は射程距離の問題ができてしまった。


「とりあえず、もう一度やってみるよ」


 僕は再び右手に魔力を集める。


「...待って」


 しかし、神の力を使う前にスノウに止められてしまった。


「どうしたの?」

「...ただ闇雲に練習するよりも、もっと効率的に射程を伸ばす方法がある」

「効率的に?」

「...今のミルの魔法なら威力は充分にある。だから、あえて少し威力を絞ることで射程を伸ばせばいい」

「威力を絞る...」


 そのスノウの言葉で、僕の中に光明が差した気がした。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 僕の指先から、魔法によって作られた三つの風の塊が放たれる。

 一つ一つの大きさはこれまで僕が拳から放っていたものよりもずっと小さい。けれど、その代わりに速さと射程はまさに『弾丸』と呼べる代物になっていた。


 その弾丸がスノウの用意した三つの的にそれぞれ命中し、それら全てを破壊する。

 威力も...流石に巨人の吹き飛ばせる程の力はないが...ガラス瓶やレンガを壊す程度には保持できていた。


「...ミル、だいぶ使いこなせるようになった」


 いつものように隣で僕の様子を見ていたスノウが僕のことを褒める。


「うん。『威力を絞って射程を伸ばす』、スノウのアドバイス通りの仕上がりになったよ」


 神の力と組み合わせる前の魔法は威力に、神の力と組み合わせても、使いこなせるようになる前の魔法は射程に、それぞれ問題を抱えていた。

 しかし、今の魔法は威力と射程、そして速さもある程度の高水準を保つことが出来ている。ようやく、僕の魔法が実践級に達したと言っても良いだろう。


「ミルさん、スノウさん」


 不意に、後ろから僕らを呼ぶ声がした。

 振り返ると、そこにはティーポットを持った姫様が立っていた。


「宜しければそろそろティータイムにしませんか?」

「いいですよ、丁度喉も乾いてましたし。ね、スノウ?」

「...うん、私も飲む」

「では、お二人共席へどうぞ」


 姫様が二脚、テーブルの隣にある椅子を引き、僕とスノウに座るように促した。姫様が引いてくれた席に僕とスノウが腰を下ろす。

 こうしてここで紅茶を飲むのも早三日目だ。この三日間で僕の魔法は形になったということだ。


 姫様が僕とスノウのティーカップに紅茶を注ぎ、僕らの手元まで運ぶ。


「クッキーもあるので、良かったらどうぞ」


 姫様がクッキーの入った籠を僕らの前に置いた。

 お言葉に甘えて僕とスノウはその籠に手を伸ばし、中に入ったクッキーを口にする。

 そういえばさっきからシィとラウンさんの姿が見えない。昨日までは僕と同じようにここで魔法や剣術の鍛錬を積んでいたのだけど...。


「姫様、シィとラウンさんがどこに行ったのか分かりますか?」

「いいえ、私も分かりません。ただ、お二人の事ですし恐らく何処かで鍛錬を積んでいるのだと思うんですけど」


 紅茶を飲みながら姫様も考えていたが、宛は特にないようだ。姫様の言う通り遊んでいる訳では無いと思うけど。


「えー、シィちゃんとラウンまだ戻ってないんですか」


 僕らがそんな会話をしている時に、お皿を持ってティアさんが現れた。


「何が乗ってるんですか、そのお皿」

「あー、これはクッキーだよ」


 僕の問いかけに対し、ティアさんは皿の上に乗ったクッキーを見せた。でもまだクッキーは十分籠の中に入ってる。それどころかティアさんの持ってきたクッキーは四枚しかない。


「...なんで四枚?」


 スノウが首を傾げる。


「ふっふっふっ、これはギャンブルクッキーだよ」


 ティアさんが人差し指を立てて得意げに答えた。


「この中の一つには激辛の木の実の果汁が塗りこまれてるんだよ」


 なるほど、僕らの世界でいうロシアンルーレットってことか。


「本当ならミル君とスノウちゃん、シィちゃん、ラウンの四人にやってもらいたかったんだけどなぁ」

「勝手にギャンブルの参加者にしないで下さい!」


 四人揃っていたら、危うく四分の一の確率で舌が大変な事になる所だった。


「一、二、三、四...丁度四人いるじゃないですか」

「「え?」」


 姫様が口にした言葉に、僕とティアさんが動揺する。


「いやいや姫様、こんなものを姫様に口にさせる訳にはいかないですって」

「そ、そうですよ。流石にこれを食べるのは危ないです!」

「大丈夫です。私、こう見えて辛いの結構得意なんですよ」


 姫様がガッツポーズして見せるが、だからと言ってこんな危険なものを食べさせる訳にはいかないです。


「だ、ダメです」

「いいえ、やります。せっかく作ったんですから食べないともったいないですから!」


 以外に頑固な姫様。確かに食べないのは勿体ないけど...


「ミルくん、スノウちゃん、ちょっとちょっと」


 そうな様子の姫様を見て、ティアさんが僕とスノウの耳元で囁く。


「ああなったら姫様以外に頑固だから、やるしかないよ。でも、絶対姫様に飲ませちゃダメだからね!」

「じゃあどうするんです?」

「私たちの誰かが犠牲になるしかないね」


 悪魔の提案だった。

 とはいえ、姫様に危険な思いをさせるわけにもいかない。やむを得ず、僕とスノウも参加することになってしまう。


「姫様分かりました。やりましょう」

「ええ、では私から」


 姫様がテーブルに置かれた皿の上にある四枚のクッキーに手を伸ばす。

 しかし、その手を僕が制す。


「ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 姫様が選ぶより先に、僕が選ぶことにする。

 少し匂いを嗅いではみるが、元々無臭の木の実なのか、刺激臭のようなものは全くしない。

 仕方ないので、何となく他のものよりも赤く感じたものを選んで手に取る。


「それでいいですか?」

「はい、僕はこれで」


 なんというか、自分から辛そうなものを選ぶロシアンルーレットって凄く不思議な気分だ...。


「じゃ、私はこれにします」

「...私はこれ」


 ティアさんとスノウも残りのクッキーから一つを選ぶ。二人も多分危険そうなものを選んでいるはずだ。


「もう、皆さん先に選んでズルイです! まぁ仕方ないので私はこれにしますね」


 姫様が一言文句を言ってから、最後の一つを手に取った。

 ごめんなさい姫様。本来なら仕える身のものが姫様より先に選ぶなんていけないことなんでしょうけど、これも姫様を護るためなんです。


「では皆さん、せーので食べますよ。...せーのっ!」


 姫様の声に合わせて、僕ら四人は一斉にクッキーを口に含む。こんなハズレを引くことを望むギャンブルは初めてだ。


 しかし、残念な事(?)にも僕の口の中には甘いバターの味が広がった。

 しまった! ハズレ(アタリ)を引いてしまった!


 僕は慌てて姫様の表情を確認する。


「うーん、甘くて美味しいです〜」


 姫様が口にした感想から察するに、姫様は辛くないアタリを引いてくれたようだ。とりあえず一安心。


 次に隣に座るスノウの方を見る。

 いつも通りの表情でクッキーを食べるスノウは僕が見ていることに気づくと首を横に振った。スノウでもないみたいだ。


 ということは...


「グスッ...ねぇ皆...涙が...涙が止まらないよ」


 ティアさんが激辛クッキーを口にして号泣していた。


「用意した方が犠牲になってしまいましたね」

「因果応報ですね」

「グスッ...グスッ...」


 結局、ティアさん(の舌)が落ち着くまで一時間を要した。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 ティアさんが泣き止んでから、僕とスノウは城を後にした。

 今はもうスノウとも分かれ、一人で帰路についている。


 それにしても、今日はティアさんのせいで散々な目にあったなぁ。僕は被害をくらってないけど...。

 でも、僕の魔法も進展できたしそれに関しては良かったかな。


 そんなふうに一日を振り返りつつ、僕は自分の家に着く。

 家の鍵を開けようとしたが、一応先に郵便がないか見ておこうと思い、僕は郵便受けを開ける。


 あ...手紙が入ってる。差出人は...『シィ・エスターテ』!?


 シィからだ、一体なんの手紙だろう。

 僕は慌ててその手紙の表面を見る。


 そこには、大きく綺麗な字で『果たし状』と書かれていた。

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