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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
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14話(46話) 『神の力+魔法』

 氷の壁から僕が飛び出すと同時に、巨人の拳の矛先も僕へと向けられた。スノウが生み出す氷の壁から離れた巨人の大きな手が僕へと迫る。

 その拳を迎え撃つように僕も右手を構え、その拳に神の力を集中させる。


「...ミル、直接触れたら...!」


 スノウが僕に向かって叫ぶ。もちろん奴の高温の体に触れてしまえば大火傷は免れないだろう。

 しかし、スノウの言葉を聞いてもなお僕は止まらず、巨人の拳めがけて自らの拳を奮った。

 バキッ...と音が鳴り、互いの拳が激突する。


 いや、正確には僕の拳と巨人の拳は直に触れてはいなかった。


「...ミル、その手は...」


 スノウも今の僕の手の状態に気づいたみたいだ。


 今の僕の拳に纏われているのは『神の力』だけではない。

 スノウが氷を生み出し続けることで巨人の拳を防いでいたように、僕の拳もまた、僕自身が絶えず発動させている風の魔法によって守られていた。


「ぐっ...」


 しかし僕のまだ半端な魔法では完全に奴の熱を防ぎ切ることは出来ないみたいだ。少しずつ僕の手に熱が伝わってきた。

 このまま拳を合わせ続けるのは不利だと考え、僕は腕を振り切り巨人の拳を弾く。


「あちちちち」


 僕の右手は既に赤くなっていた。あのままだと火傷してしまっていただろう。


 僕に拳を弾かれた巨人は少しバランスを崩してよろめいたが、すぐに体制を立て直した。これだけじゃ決め手にはならないか...。


「...ミル、大丈夫。今ならいけるはず」


 僕の隣でスノウが呟き、無数の氷柱を生み出す。

 そして、その氷柱を先程僕の拳とぶつかった巨人の手めがけて放つ。

 さっきは熱に防がれてしまっていたけど、今回は違った。


 僕の拳によって手を構成する岩が砕けたのか、巨人の手の熱は氷柱を完全に溶かしきる事が出来ず、一部の氷柱が突き刺さった。


「効いてる...!」

「...うん。...だけどこれも決め手にはなってない」


 巨人の右手には多少ダメージを与えることは出来たが、それでは巨人はビクともしない。まだ僕らへその拳を向ける。


「ここは僕がっ!」


 庇うようにスノウの前に出て、先程と同じ要領で僕も拳を振るう。

 再び互いの拳が激突した。しかし、互いの拳にダメージもあり硬直状態が続く。

 だが、硬直状態が続くということは、熱に耐えなくてはいけない分だけ僕に不利だということだ。このままでは不味い。


 今、僕の魔法が完全な状態であったなら、風で巨人の拳を吹き飛ばせるはず。でも、先程から何度も拳に纏わせた魔力で魔法の発動を試みてはいるが、残念ながらそこまでの力を発動させることは出来ない。


 次第に僕の拳に熱が伝わる。

 くっ、まだだ。まだ僕の手が熱に耐えきれなくなるまでには時間はある。もう一度...。

 僕は拳に『魔力』、そして『神の力』、僕の持つ二つの力を強く込め直す。


 少しでも風を発生させることが出来れば、神の力で押し勝てるはず。ならばいっその事、風を発生させる魔法の力、そして拳を押し返す神の力のどちらも同時に発動させる。


「これで...どうだ!」


 神の力を増大させ、僕の拳だけでなく魔力も神の力で包み込む。そしてそのまま僕は魔法を発動した。すると──


 今まで発動させたことが無いほどの極大の風が僕の拳より発生した。


 その風は巨人の拳を押し返し、そのまま巨人を背中から地面へ転倒させた。


「...ミル、今のは?」

「わ、分からない。でも今がチャンスだ!」


 僕が発生された風はほんの一瞬しか維持出来ず、今はもう消えてしまっている。しかし、巨人の体を構成している高温の石も、巨人本体が転倒してしまっているからか今は熱を失っているようであった。


「...任せて」


 スノウはすかさず無数の氷柱を地面に横たわる巨人の上に出現させる。そして...


「...さよなら」


 その氷柱を一本残らず巨人の体へ突き立てた。

 巨人の体を構成する石は次々と壊され、破壊されたそれはもはや元が何であったかも分からない程、細かな欠片になってしまった。


「...これでよし」


 砕かれた石がいつものように消滅するのを確認し、スノウがくるりと僕の方に向き直った。


「...それじゃあ──」


 帰ろうか。そう僕がスノウに答えようとした時、


「...今からスノウ先生の特別授業を始めます」


 突然スノウ先生による特別授業が開始されてしまった。


「えっとスノウ、いきなりどうしたの?」

「...いいからミルは私の言う通りにするの。...まずはいつものように右手に魔力を集めて」


 仕方ないので、僕はいつも氷の柱を飛ばす時のように、右手に魔力を集める。

 普段ならこのまま集めた魔力で魔法を発動させるんだけど...。


「...じゃあ次にその魔力を神の力で包んで。...今なら神の力使えるでしょ?」

「うん」


 言われた通りに僕は僕の手と魔力を神の力で包み込む。先程まで戦闘を行っていたので、まだ神の力は使用可能だった。


「よし、出来たよ」

「...じゃあその状態のまま風を放って」


 僕は前方にあった木めがけて、風の魔法を放った。

 すると、先程と同じように巨大な風が起きる。しかし上手いこと真っ直ぐ進まず、前の僕の魔法のようにすぐ拡散してしまった。


「これって...」

「...うん。ミルの魔法と神の力は組み合わせて使うことが出来るみたい」


 魔法と神の力、全く異なると思っていた僕の二つの力。だけどもしかしたら、この二つの力は合わせる事で真価を発揮するのかもしれない。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 巨人を倒したので僕とスノウは僕らが抜けて来た森を引き返し、元々僕らが別れた地点まで戻る。


 森を抜けて最初の道に辿り着くと、そこでは既に戻ってきていたシィとラウンさんが僕達のことを待っていた。


「二人とも大丈夫?」

「うん、こっちも片付いたよ」


 心配して声をかけてくれたシィに返答し、ラウンさんの方を見る。


「僕らも大樹の所まで向かいますか?」

「ああそうだな。ここからなら歩きでもそう時間もかからないはずだ」


 合流した僕ら四人は森の中を進み、スピリトの大樹まで向かう。


 ラウンさんの言っていた通り到着までにそう時間はかからず、敵襲も無かった。


「あ、みんな。そっちは片付いたんだね」


 大樹の元では、馬車の中で姫様とティアさんが僕らの到着を待っていた。


「ティア、姫様の儀式は終わったのか」

「うん。ただ私たちは戦力的に敵と出会うのはまずいから此処で待ってたの。ここから大樹の加護で多少は護られてるからさ」

「そうか。ならば全員合流出来たので帰るとしよう」


 僕ら四人が馬車の中に入ると、姫様が「お疲れ様です」と声をかけてくれた。

 僕とシィ、スノウは馬車の中に腰を下ろし、ラウンさんとティアさんは馬に跨る。

 そして二人によって馬が操られ、ストファーレへ向かって馬車は進み始めた。


 ストファーレに戻る道中、僕は自分の力の使い方について考え直していた。

『神の力』と『魔法』を組み合わせる。これが僕の力をさらに高める方法に違いない。


「ミルさん。何か気づいたことでもあるんですか?」


 馬車の中で考え事をしていた僕の顔を姫様が覗き込んだ。

 今の僕の様子を見て普段とは違った雰囲気を感じ取ったみたいだ。


「はい。僕の神の力は、まだまだ様々な可能性を持っているみたいです。今日の戦いでそれに気づけました」

「ふふ、そうでしたか。なら、明日からはまた特訓ですね」


 姫様のその言葉を聞いて、僕は同じように馬車の中で座っているスノウの顔を見た。


「スノウ、明日からもまたお願い出来るかな」

「...もちろん」


 スノウも僕の顔を見て頷いてくれた。


「ミル、私もこの戦いで新たな魔法のヒントを得たのよ」


 僕らの話を聞いていたシィが隣から声をかけた。


「シィも? なら、シィも明日からはまた僕らと一緒に特訓だね」

「ええ、二人とも頑張りましょ」

「なら私は皆さんに美味しい紅茶を淹れますね。新しい茶葉が手に入ったんです」


 姫様が僕らに紅茶を淹れる約束をする。


 また明日からも特訓だ。早く、僕も強くならなくちゃ。

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