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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
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12話(44話) 『笑い合える時間』

 芝生が生えた庭で、僕とスノウは向かい合うようにして立つ。


「...じゃあ、まずはミルの魔法を見せて」

「うん、分かったよ」


 スノウを頼まれ、僕は左手で魔導書を持ち、右手の手を胸の前に広げる。

 すぅ、はぁ。

 一度深呼吸をして心を落ち着かせてから、魔法を使う。


 魔法によって右手から風が発生し、僕の髪を揺らす。よし、成功だ。


「...『風』だね」

「うん。ただ、今だとこれくらいの風力が限界」

「...分かってる。...だから、私に頼んだ」

「どうかな? まずは何からすればいい?」

「ちょっと待ってて」


 そう言って、スノウは後ろを向いた。そして今度はスノウが魔法を唱え始める。


 スノウの魔法によって、庭には氷で作られたテーブルが出現した。さらにスノウは魔法を唱え、そのテーブルの上に小さな円柱上の氷を生み出す。


「...よし、準備出来た」

「スノウの魔法は便利だね」

「...そう?」

「そうだよ。色んな物を作ったり、冷やしたり戦ったり沢山の用途に使えるでしょ。羨ましいなぁ」

「...私はこの魔法嫌いだけど」

「え?」


 魔法が嫌い...?

 あんなに魔法を使いこなせるのになんで...


「...私には他に出来ることがないから使ってるだけ。...私からしたら、ミルのその力の方が羨ましい」

「...」


 そう呟くスノウの顔は何だか悲しそうだった。


「何か──」

「...私の話はいいから、魔法の練習しよ?」


『何か嫌な事があったの?』、そう聞こうとした僕の声は、スノウに阻まれてしまう。

 そうだ、今の僕の目的は魔法を教えてもらうことなんだ。それを忘れちゃいけない。それに僕がスノウの事情に首を突っ込むのも如何なものだろう。


「そうだね。僕は何をすればいい?」

「...あれを的だと思って、魔法を放ってみて」


 スノウがテーブルの上の氷を指差す。

 テーブルも氷だから摩擦も無いし、上手く当てれば滑って落とせそうだ。やってみよう。


「了解。それじゃ...」


 僕は右手を広げ、その中で風を発生させる。しかし、今度はここに留めてはおかない。


「いっけぇ!」


 右手を前に突き出し、風を放つ。そのまま風は一直線に進み、氷に命中して氷を滑り落と...せなかった。


「あれ、当たったと思ったんだけどなぁ」

「...当たってたよ。...でも的にたどり着くまでにほとんど拡散しちゃってた。だから当たった時にはほとんど威力が無かった」


 うーん、やっぱりそんなすぐには上手くいかないか。


「...次はもう少し前からやってみて」

「うん」


 言われた通り僕は前に出て、的と約5mの位置に立つ。実戦でこの距離に敵がいたらもはや殴りにいった方が早いなぁ...。

 そしてさっきの要領で風の魔法を放つ。


 命中、そして今度はちゃんと氷を落とすことが出来た。


「今はこの距離が限度かぁ」

「...まぁ、まずはこの練習からだね」


 僕の後ろでスノウが答える。


「そうだね。先生、よろしくお願いします!」

「...先生に任せなさい」


 スノウ先生が親指を立てる。その気になってくれて有難い限りだ。


 とりあえず、第一の僕の目標は『射程を伸ばすこと』に決まった。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「...的から目を離さない。...あと貯める時間が長すぎる。もう少し早く」

「はい!」


 特訓は六日目に差し掛かっていた。明日には二回目の作戦が行われる。

 スノウの指導の下練習を行い、二日目には魔導書無しでも魔法が唱えられるようになり、四日目には10mの距離から氷を落とせるようになった。

 そして...


「よし当たった!」


 約15mのラインから、僕の魔法はスノウが作った氷をテーブルから落とした。それもただ滑り落とした訳ではない。当たった衝撃で吹き飛ばして落としたのだ。


「やったスノウ! やったよ!」


 僕はスノウの下に歩み寄る。この喜びを共有したい!


「...ミルは飲み込みが早くて、私も嬉しい」

「スノウの教え方が上手いんだよ」

「...その言葉も嬉しい。...ご褒美に頭を撫で撫でしてあげる」

「い、いや、それは遠慮しとくよ...」


 スノウのその言葉を聞き僕は後ずさりする。

 流石に同い年に頭を撫でられるのは恥ずかしい。いや、上だとしても嫌だけど。子どもじゃないんだから。


「では、私が代わりに撫でよう」

「えっ、うわっ!」


 下がった先でいきなり頭を撫でられる。というか、力が強くて『撫でる』の域を超えてる! 『頭わしわし』の域だよ!


 一体誰がやっているんだ。と思い、頭わしわしから脱け出してその正体を確かめる。


「ラウンさん!」

「やぁミル。調子が良さそうで何よりだ」


 手の正体はラウンさん。いや何となく察していたけれど。僕にこういう事するのはスノウかティアさんかラウンさんくらいだし、ティアさんは姫様の紅茶のおかわりを淹れに行ってるし。


 ティアさんの後方では、シィが一人で剣を振るっていた。僕と同じでここには毎日来ているし、本当に練習熱心だなぁ。

 少しして、シィが剣を振るうのを止め、その剣を鞘に入れた。どうやら一段落したみたいだ。少し話に行ってみよう。


「シィ、そっちの調子はどう?」

「あっ、ミル。ええ、結構順調よ」


 実はここ数日の間はシィとほとんど話していなかった。お互いに鍛錬を積んでいたし、2人ともが空いている時間が少なかったからだ。今日は久しぶりに話そう。


「ミル、魔法はどれくらい使えるようになったの?」

「えっと...」


 口で説明するのは難しい。それなら、


「じゃあせっかくだし、僕の魔法を見せるね」


 僕は右手に風を発生させ、それを地面に叩きつけた。

 直撃したところから風が広がり、僕を中心に円状に風が吹く。


「わぁ、だいぶ腕を上げたのね」

「うん。これもスノウのおかげだよ」

「私も負けていられないわね。見ててミル」


 シィは僕から距離をとり、鞘から剣を抜いた。

 そして前にも見たようにその剣に雷を纏わせる。


「私が特訓していたのはこの剣に魔法を纏わせるという技術よ。元々私はこうして纏わせた魔法を飾りくらいにしか思っていなかったの」

「でも多少切れ味が上がったり、魔法を放てたりするよね?」

「ええ。でもこのままじゃどちらにするにしても中途半端なの。だから私は前のような時にも対応出来るように、もっと鋭く、速くなりたいの。あの硬い棘すらも斬れるほどに」


 そう言ってシィはその剣を振るう。

 振るった瞬間剣は輝き、その速度は前に見た時よりも更に速く、電撃が残像のように空気中に漂っていた。


「まぁ、こんな所よ」

「おお、凄いよシィ!」


 こうして見ていただけでもいかにシィが成長しているのかが分かった。シィもたくさん努力しているんだ、僕も頑張らないと...。

 ......そうだ。


「シィ」

「ん、なにミル?」


 剣を鞘にしまうシィに僕は再び声をかける。


「ちょっとこっちに来て欲しいんだけど」

「え? いいけど」


 シィは僕に言われた通り、僕の下までやって来た。

 よし...


「きゃっ! えっ、ちょっとミル...」


 僕は目の前にいるシィの頭を撫でる。


「あっ...ちょっ...」


 顔を赤くしてシィは困惑している。正直、僕だって突然こんな事されたら困惑するだろう。

 僕だけ撫でられたままという状況だったから、褒めると同時にシィの事も道連れにしてしまおうという僕の黒い考えだった。


 触って初めて実感したけど、シィの髪はすごくサラサラしている。それに本来ならほとんど身長は変わらないのに、僕に撫でられて少し屈んでいるからシィが僕よりも小さく見えた。だからまるで僕の身長が伸びたみたいで不思議な感覚だ。


「...隙あり」

「えっ」


 また、後ろから僕の頭が撫でられる。しかし、この撫で方はラウンさんではない。


「す、スノウ...!」

「...ミルが隙だらけだったから」


 僕がシィを撫でて、その僕をスノウが撫でるという不思議な構図。傍からみたら『この人たちは何してるんだ』って感じだろう。


「いやーミル君。モテモテだねぇ」

「えっ、ティアさん」


 やばい、傍から見る人が来た。

 姫様に紅茶をつぐために戻ってきたティアさんが僕達を見て笑う。


「見ていると和みますねー」


 その隣では紅茶を飲む姫様。人が続々集まってきた!

 僕はシィの頭から手を離し、スノウの手から脱出する。


 あぁ恥ずかしかった。いや、半分くらいは僕の責任だけど。

 シィと僕は両手で自分の頭を守りながら後退し、スノウはそんな僕達ににじり寄ってくる...。そしてその様子を眺めるティアさん、ラウンさん、姫様。


 こんなふうにみんなでいつまでも笑い合えるようになるためにも、僕は...強くなろう。

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