11話(43話) 『皆の力を借りること』
よし、行こう。
僕は姫様から貰った魔道発現書を手に家を出る。
昨日あの後家に帰った僕は、1人で何度も魔法を発動させ続けた。その甲斐もあり、何とか小石を浮かすことが出来る程まで魔法を鍛えることが出来た。
しかし、小石を浮かすことが出来る程度では実戦でなんの役にも立たない。その魔法で石を飛ばせたとしても、神の力を使って素手で投げた方がましな威力だ。
となればこの魔法が目指す先は『神の力では出来ない事』を出来るようにすること。つまり、遠距離への攻撃手段になることだ。今回の作戦のような時でも僕が役に立てるようになるために。
そのためには、やはり1人で練習し続けるよりも魔法のエキスパートに習った方が上達も早いだろう。その人に頼むため、今僕は朝の街を歩いている。
僕には自分に魔法を教えてくれる人の宛があった。
その人の家の前に立ち、ドアをノックして呼びかける。
「おはようスノウ、起きてる? ミルだけど、用があるんだ」
挨拶してから名乗り、ドアの前で少し待つ。
やがてドアの鍵が開き、中からスノウが顔を出した。
「...おはよミル。何の用?」
「僕に付き合って欲しいんだ」
「...いいよ。初デートはどこにする?」
いや、流石に言葉足らず過ぎたか。
ちゃんとスノウに伝わるように説明し直す。
「ごめん、そうじゃなくて僕の魔法の練習に付き合って欲しいんだ」
「...魔法の練習? まぁとりあえず入って、外は暑いから」
「うん、お邪魔します」
スノウの言葉に甘えて家の中に入れてもらう。
実際この季節、もう既に今の時間から外の気温は高くなっており、出来るだけ早めにと思って小走りで来たこともあって僕は汗をかき始めていた。出来れば日の当たらない所にいたい。
「...そこ座ってて」
スノウに促され僕は椅子に座る。スノウの家に来るのも掃除を手伝った時以来だから2回目か。今では僕らが掃除した時よりも部屋が綺麗になっている。
「...はい」
スノウが2人分のジュースを持ってきてテーブルの上に乗せた。ちょうど喉が乾いていたので有難く頂く。
ジュースを飲み干してから、僕は本題に入った。
「それで僕の魔法の事なんだけど、今まで僕が使ってきた力は『魔法』ではなかったんだ」
「...魔法じゃない? それってどういうこと」
「僕のこの力は『神の力』っていうものみたいなんだ」
「...! 『神の力』...」
その言葉に対して、スノウは強く反応した。机から体を乗り出し、僕の顔に接近する。
スノウのその行動に疑問を感じて僕は問いかける。
「神の力について何か知ってるの?」
「...いや、何でもない。今はミルの話を続けて」
乗り出した状態から体を引き、再びスノウは椅子に座った。
今は...って事はやはり何か知っているのかもしれない。ただ、今話す気がないのならここでは僕の話を優先させてもらう。
「だから、僕はそもそも魔法が使えていなかったんだ。その事について昨日は姫様と話してた」
「...うん」
「その後、姫様の力も借りて僕は自分自身の魔法を身につける事が出来た。でも今のままじゃ力不足なんだ、だからもっと強くなりたい」
「...だから、私の力を借りたいの?」
「うん、そうなんだ。力を貸して貰えないかな?」
「...分かった。私がミルに魔法を教えてあげる」
二つ返事でスノウは承諾してくれた。
「ありがとうスノウ。助かるよ」
「...どういたしまして。それで場所はどうする。目立つけど公園?」
「いや、場所については宛があるから大丈夫」
「...じゃあ任せる」
スノウに魔法の特訓に付き合ってもらう事を承諾してもらったので、僕達は早速スノウの家を出た。そのまま僕の宛まで歩いていく。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「...ここが宛か」
城の門の前に立ち、スノウが呟く。
昨日帰る前に、僕が魔法の練習をするために城の敷地内を使ってもいいということは姫様やティアさんたちに確認済だ。ここでなら思う存分魔法を使うことが出来る。
僕らは城の敷地に入り、騎士の修練場を目指して歩く。
少し歩けばすぐに修練場の建物が見えた。よくよく考えると、ここに来て鍛錬を積むのも初めての事だなぁ。
中に入ると、そこでは多くの騎士が剣を振るい、魔法を唱え、鍛錬を積んでいる。しかし、見たところ僕達が使えそうなスペースが残っていないような...?
「あの、すみません」
「ん、なんだ?」
近くにいた騎士に声をかける。
「僕達がここを使う予定が入ったと思うんですけど...」
「いや、そんな話は聞いてないな。使いたいなら場所が空くまで待ってくれ」
あれ、おかしいな。ティアさんにも伝えておいたからここに連絡がきてるはずだと思っていたんだけど、上手く伝わってないみたいだ。
「おーい、ミル君、スノウちゃん」
不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと、入口の所でティアさんが手招きしている。
「二人はこっちこっち」
そのまま修練場から出ていくティアさんを僕とスノウは追いかける。
ティアさんは城の周りをぐるっと回り、修練場とは城を挟んで真逆の位置の場所の方まで歩いていく。
「ティアさん、いったいどこに...?」
「大丈夫、もう着くし。...ほら、皆いる」
皆?
一体誰の事だろうと思い、僕とスノウは立ち止まってティアさんの指差す方をじっと見る。
その先には修練場...というよりも単純に『庭』と呼ぶにふさわしい空間があった。
そしてその中には見覚えのある人影が三人分。
「どうしてシィたちも...」
その中にいたのはシィ、それに姫様とラウンさん。姫様は庭に椅子とテーブルを置いて優雅に紅茶を飲んでいる。シィとラウンさんはそれとは対象的にお互いに剣を交えていた。...これは一体どういう状況なんだろう。
「シィちゃんもミル君と同じだよ。強くなってみんなの役に立ちたい。そう思って今ここに来てる」
「僕と同じか...」
そっか、シィも気にしていたんだ。あの時自分がロサに対して力及ばなかった事を...。僕以外にも身近に悩んでる人はいたのか...。
「...ミル、私達もいこう」
スノウに腕を引かれ、僕も庭に入る。
「あ、ミルさんとスノウさんも来たんですね」
僕とスノウの姿に姫様気づいた。
多分二人も気づいてはいるんだろうけど、試合の最中だからか僕らに声をかけはしなかった。
「はい。そう言えば、元は修練場を使う予定だったと思うんですけど、なぜ僕らはここで練習をする事になったんですか? というかここはいったいどういう場所なんです?」
庭を眺めながら僕は姫様に聞いてみる。見回してみても周りに練習に使えそうな道具は特に見当たらない。予備の修練場では無さそうだけど。
「ここは姫様専用のお庭だよ」
僕らの後に庭に入ってきたティアさんが、姫様の代わりに答える。
「姫様の...」
「はい、ここは私のお庭です。普段は今の私のようにティータイムに使っているんですけど、皆さんがそれぞれ鍛錬を積みたいと仰られたので皆さんの修練場としてお使い下さい」
今度は姫様自身が、ここを使わせてくれる理由について語る。
それぞれって事はシィも昨日僕が帰ってからか、もしくは朝早くに、強くなるため鍛錬を積みたいっていうのを姫様たちに伝えていたのか。
「元々私には広すぎる場所ですし、思う存分魔法を鍛えて下さいね。ミルさん!」
「はい、ありがとうございます!」
昨日に続いて、嬉しい姫様のご行為だ。ありがたくここを使わせてもらおう。
「それじゃあスノウ、お願いします!」
「...うん。きっとミルが魔法を使いこなせるようにしてみせるから」
スノウも教える気は満々のようだ。
よし、頑張ろう!
こうして、僕の魔法の特訓は始まったのであった。




