表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
40/92

7話(39話) 『狩人の棘』

今年もよろしくお願いします。

「それじゃ、早速...」


 戦闘開始の宣言をした彼女は突如両手を地面につき、四つん這いの体勢になった。

 その後、彼女の背中からブチブチと不気味な音が響く。


「あなたが神の力を使うように、私にも『我らが王』から与えられた力があるの」


 その言葉を放った直後、背中を突き破って彼女の体の内側から巨大な2本の棘が姿を現した。その棘はまるでムチのように長く、おぞましく蠢いている。


「さぁ、私の所まで辿り着けるかなぁ?」


 その2本の棘を振るい、彼女は僕に襲いかかる。

 けど、僕はこんなふうに動く敵を相手にするのは初めてではない。前にシィと共にあの岩の魔物と戦っていたからだ。

 僕はその経験を活かして、自分の体めがけて叩きつけられる棘を上手くかわしていく。


「へぇ、なかなかやるじゃん」


 敵である彼女から賞賛の言葉を受けても素直に喜べはしないけど、僕が今まで経験してきた修羅場は確実に僕の事を強くしてくれているなのだと感じる。その証拠に、岩の魔物との戦いでは1本かわすのに精一杯だったのが今では2本の棘を1人でかわし続けていられている。


 さらに僕は棘をかわしながら少しずつ彼女の隙を探す。

 僕の神の力なら奇襲の一撃で彼女を仕留めることが出来るだけのパワーがある。

 ならばその一撃を必ず彼女に叩き込む為にタイミングを掴むことが最優先だ。


 そして、棘をかわし続けて気づいた事があった。

 彼女は時々、2本の棘で同時に僕を攻撃してくる事がある。もちろんそれはかわすのが多少困難なのではあるけど、逆に言えばこの攻撃をかわした直後、僕を攻撃するもの、そして彼女の身を守るものは一時的に機能を失う。

 つまり、その瞬間が僕にとっては最大の攻撃のチャンスであるはずだ。


 次に彼女がこの行動をとった時、仕掛ける...!



 そのチャンスは意外に早く訪れた。


 僕の狙い通りに彼女が2本の棘で同時に攻撃してきたのだ。

 迫るその棘を僕は前方に駆け出すことでかわした。

 そしてその勢いのまま彼女めがけて一直線に走る。


「ふぇ?」


 突然の事に驚いた様子の彼女は、棘を使って自らの体を守る行動が遅れる。いや、もはや間に合わないことを察したのか棘を全く動かそうともしていない。

 それならば僕にとっては好都合だ。少女の姿をしているロサに殴りかかるのは少々心を痛めるが、この一撃で決めさせてもらう。


 ──この戦いを終わらせるために、神様、どうか僕に力を貸して下さい...


 僕に力をくれた神様に祈りを捧げ、構えた右の拳に力を込める。

 そして、彼女たちの言う『神の力』が込められた拳をロサへと振るう。


「『この拳に思いを込めてディザイア・ストライク』!」


 僕の拳は無防備な彼女の体めがけて突き進む。


 そしてこの一撃が僕らの戦いを終わらせ──


「残念でしたぁ〜」


 僕の拳は彼女の背中より新たに生えた2本の棘に阻まれ、彼女の体まで届くことは無かった。

 その2本の棘は先の2本ほどの長さはないが、かわりに異常なほどの硬度を持っていた。拳が完全に受け止められ、僕の体は静止してしまう。


「なっ...!」


 そんな馬鹿な...僕の本気の拳をこんな簡単に受け止められるなんて。イーブルにトドメをさすことだって出来たのに...。


 そして、目の前の事態をまだ飲み込めていない今の僕に、彼女の攻撃をかわすことなど不可能であった。

 腹部に強烈な痛みが走った...という事を体が感じた時には既に僕の体は軽々と吹き飛ばされていた。


「ガハッ...」


 そのまま、周りに生えた木の幹に僕の体は叩きつけられる。背中を強く打ち、肺の空気が吐き出されると同時に僕の口からは血が飛び出した。


「ぐ...はぁはぁ...」


 今の衝撃で、内蔵を傷つけてしまったらしい。体に力を込めて立ち上がろうとしても、激痛に阻まれて力が入らない。僕は木にもたれかかる様な体勢をしたまま動くことが出来ない。


「誰も...2本しかないなんて言ってないよね?」


 最初に生えた長い棘2本、そして先程新たに生えた超硬質の棘2本の計4本を背中から生やしたロサが僕を笑う。


「さて、それじゃあ更なる絶望を味わってもらおっと」


 ブチブチ...

 最初に棘を生やした時の音が再び彼女の背中から鳴り響く。

 そして更に2本の棘が彼女の背中より突き出した。形状を見るに最初の2本と同じ、長さと俊敏性を兼ね備えたタイプのものだ。しかしそれでも、今の僕にとってはどうやっても防ぎようの無いものだ。


「私の力はこの棘。素早く動く4本の棘が相手を追い詰め、2本の硬く鋭い棘で相手を仕留める。それが私の...『狩人の棘(ハンティング・ソーン)』! もっとも、あなたを追い詰めるのは2本で十分だったけど」


 6本の棘それぞれを動かして見せびらかしながら、彼女は僕を嘲笑い続ける。


「ま、この姿で6本全部使い続けるのは身体的に辛いから、2本しか使わなかったのは自分のためっていう意味もあったし、あんまり落ち込まないでね」


 全く嬉しくない励ましの言葉を送ると、彼女は硬質性を持つ2本の棘を自らの体の中にしまった。多分さっき言ってたように、自分の体の事を考えてだろう。今の僕なんてこの2本をわざわざ使わなくても簡単に仕留められるって考えてもいるのだと思うけど。


「ではでは、今からこっちの4本で君を殺すけど、君を殺すことまでは命じられてるんだけど、そこから先君の死体をどうするかは言われて無いんだよね...」

「何が言いたいの...」

「神の力を宿した人間がどんな味がするのか気になる...てことで──君を食べるね!」


 その言葉で全身の毛が逆立つのを感じる。

 もちろん喰われる時僕は既に死んでいるのだから痛みなどはない。それでも死して後、自らの肉体が魔物によって喰われ、遺体すら残らないという事実を突きつけられると僕は恐怖した。


「では早速...」


 彼女の棘のうちの1本が僕めがけて振るわれる。


「く...」


 まだ腕なら辛うじて動かせる。でも両手を使って防げたとしても止められるのは2本だけ。残り2本はどうすれば...。

 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。とにかく少しでも生き永らえるために、まずこの攻撃を止める...!


 僕は右手を上げて、その棘を受け止めようとする。

 が、そもそもその棘が僕の元まで辿り着くことは無かった。


 巨大な氷の壁が僕を守るように展開され、その棘を阻んだのだった。


「何!?」


 防がれたロサが驚きの声を上げるが、僕は瞬時に状況を理解出来た。

 こんな事を出来る人は、僕の知っている人の中には1人しかいない。


「...悪いけど、その人を殺させはしないから」


 僕がもたれかかる木の上から飛び降り、庇うように手を広げてスノウは言った。


「スノウ、そっちは片付いたの?」

「...うん。だからこっちに加勢に来た。...ミル、危ないところだった」

「そうだね。...また、助けられちゃったね」

「...別にいい。気にしないで」


 力無い僕は、またスノウに助けられてしまった。本当は男の子である僕の方が助けてあげなくてはいけない側なのに...。自分の不甲斐なさを痛感する。


「なんだ、1人しかいないじゃん。少しびっくりしたけど全然問題ないなぁ」


 僕らの様子を見て、ロサは安心した様子。

 だが、スノウは表情を変えず答えた。


「誰も、1人で来たなんて言ってないけど」

「は?」


「『水龍・降臨』!」


 突如僕とスノウの後方から、ラウンさんが魔法名を叫ぶ声が響いた。

 そしてその直後、水の塊で形づくられた巨大な龍が姿を現した。


「な、なんだこいつは!?」


 慌てた様子のロサが棘を振るってその龍を破壊しようとするが、龍は体をくねらせてその棘をかわし、逆にその棘の1本がに噛み付いた。

 その後、龍の体を形作る水が急激に膨張し弾けた。それと同時に龍に噛み付かれた棘がその爆発に巻き込まれて破壊される。


「間に合ったようだな」

「ラウンさん!」


 恐らくティアさんに治療されたのだろう、傷を回復した馬の1匹に乗ってラウンさんがやって来た。


「ミル、大丈夫!?」


 その後ろには別の1匹の上にティアさん、そしてその馬が引く馬車に乗ってシィと姫様が付いてきていた。シィは馬車から顔を出して僕のことを心配してくれている。

 シィとティアさん、そしてラウンさんは僕の元まで辿り着くと、馬から降りて目の前の敵を見据えた。


「さて、これで再び全員集合だな」


 僕を守るため...と言うよりもロサを倒すために、心強い仲間達がここに集結したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ