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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
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5話(37話) 『護り手の初仕事』

「ティアさんは、姫様たちのことを裏切ったんですか...」


 拳を握り直し、ティアさんの姿を確認して緩んでいた気を引き締め直す。

 そもそもティアさんが姫様を連れていきたいのならわざわざこうして顔を隠す必要などないはずなんだ。


「ち、違うってミル君! これには訳があって...いやその理由も褒められたものじゃないんだけどさ」

「え、そうなんですか?」

「私が言うのも何だけど、チョロいよミル君...」

「!!」


 その言葉を受けてまたまた気を引き締め直す。

 いや、人を信じやすい体質なのには一応自覚はあるけど...。


「待って待って。理由があったのは本当だから、警戒しないでよ」

「じゃあ理由って何ですか」


 理由があるならとりあえずそれを聞いてみないと判断のつけようがない。


「姫様が私の渡した人形を持ってるのは知ってる?」

「はい」

「それは姫様の位置の他に周りの状況もある程度分かるんだけど、私が確認したらなんとミル君らしい反応が姫様のそばにあるではありませんか!」

「は、はぁ...」

「そうして、ミル君の実力を試してみたくなってこうした行動に出てしまった訳です。誠に申し訳ない」


 ティアさんは姫様を抱き抱えたまま僕に頭を下げる。


「姫様も突然襲ってすみませんでした。怪我はしてませんか」

「はい、私は大丈夫ですよ」


 抱えられている姫様には先程から慌てた様子は無かった。恐らく屋根の上に持ち上げられた時点でティアさんから小声で話を聞かされたのだろう。


「僕も別に怒ってはいないですけど、これからはこんなふうな事は止めて下さいね。心臓に悪いです」

「うん、ごめんねミル君」


 とりあえずこの件はこれで終わりとして、後は姫様の要件だよね。


「ティアさん、元々僕達は姫様の行きたい所に向かっている途中だったんですが」

「えっと、それなんだけどね、私が元々ここに来た理由は王様が姫様の事を呼んでたからなの」

「お父様が? もしかしてここに来ていることがバレたのでしょうか...」


 ティアさんの腕の中で姫様が不安そうな声を上げる。


「うーん、多分そうではなくて、明日大樹へ向かう事に関してだと思います。ただ、今は私とラウンで誤魔化してますけど、あまり時間をかけると姫様が城にしない事がバレてしまうかもしれません」

「分かりました。では早く向かわないといけませんね」


 そう言うと、姫様は僕の方を振り向いた。


「ミルさん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」


 笑顔で姫様は僕にお礼を言った。


「いえいえ、姫様が楽しんでくれたのなら良かったです」


 元の目上の人に対する敬語に直して、僕も姫様に笑い返す。


「それでは、明日からもよろしくお願いしますね」

「じゃあねミル君」


 2人で僕に手を振ると、ティアさんが姫様を抱えた状態のまま屋根の上をつたって城へと走り去っていった。


 さてと、僕も帰るとしようかな。


 屋根から飛び降り、僕も帰路につくことにする。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 今日は早めに寝ておこう。

 お風呂から出て、タオルで濡れた髪を拭きながらそう考える。

 明日の集合は朝6時だ。だから早めに寝ておくに越したことは無いだろう。


 姫様の大樹での儀式は4回にわたって行われると打ち合わせの時に言っていた。

 つまり僕らの護り手の仕事も4回あるという事だ。

 それだけの回数があれば1度も魔物に襲われないということは考えにくい。しっかり気を引き締めておかないと。


 髪を吹いたタオルを洗濯カゴに入れて、僕は2階の寝室に向かう。


 もちろん、何事も無ければ1番いいんだけどなぁ。


 そんなことを考えながら僕は眠りについた。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 早朝。

 僕とシィとスノウは街の入口に集まり、これから来る姫様達を待っていた。

 夏になりこの時間帯にはもう太陽も登っているが、それでもまだ街の人々が活動を始めるには早い時間だった。歩いている人もほとんどおらず、街は静まり返っている。


 その時、その静寂を破る大きな足音が聞こえてきた。


「お待たせー」


 馬車に...正確にはその馬車を引っ張っている二匹の馬の片方に乗ったティアさんが僕らに手を振った。


「みんな、もう集まってるな」


 もう片方の馬から降り、ラウンさんが僕らの元に歩み寄る。


「はい、準備は出来ています」

「よし、なら早速馬車に乗って。すぐに出発するから」

「分かりました」


 言われた通り、僕らは馬車に乗ろうとする。...けど、その前に、


「頼んだよ」


 ラウンさんが乗ってきた馬の頭を優しく撫でて、僕は呟く。スノウとシィも同じことを考えていたようで、ティアさんが乗っている方の馬を撫でていた。


「...よろしく」

「よろしくね」


 馬車を引っ張ってくれる馬たちへの挨拶も済み、今度こそ僕らは馬車の荷台に乗る。

 荷台とはいえ、城で用意されていたものだということもあり案外中は広かった。僕らが乗っても結構ゆとりはありそうだ。

 そしてもちろん、荷台の中には姫様がいた。僕らが広々と座れるようにするためか、隅の方に座っている。


「皆さんおはようございます。今日はよろしくお願いしますね」


 座ったままの姿勢で僕らに頭を下げる姫様。


「姫様、おはようございます」

「おはよう姫様」

「...おはよ」


 僕らも1人ずつ馬車に乗りながら姫様へ挨拶する。

 姫様が座っている側に僕、反対側に向かい合うようにしてシィとスノウが座った。


「みんな乗った?」


 前からティアさんの声がする。


「はい、全員乗りました」

「了解。じゃあ行くよ。片道1時間半位だけど寝たりしたらダメだからね!」


 そう言って、前のティアさんとラウンさんが轡を握り、馬を走らせ始めた。

 仕事ではあるのだけど、こんな経験は元の世界ではした事がないし僕は正直少しワクワクしてしまっていた。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 15分ほどした所で馬車は森の中へ入った。目的地の大樹は森の奥だからここからしばらくは変わり映えのしない風景が続くだろう。


 ちょうどその頃に隣に座る姫様が僕だけに聞こえるように声をかけてきた。


「ミルさん、昨日はありがとうございました」

「いえいえ。というか、そのお礼の言葉は昨日言ってもらいましたよ」

「それはそうですけど、昨日は急いでいて気持ちが篭って無かった気がするので」


 そのような理由でまたお礼を言うなんて、姫様も律儀な方だ。


「それからミルさん、またお時間がある時に一緒に言ってくれますか?」

「はい、もちろんです。呼んでくださればいつでもお側に使えますよ」

「ふふ、嬉しいです」


 なんというか、自分もすっかり姫様の従者みたいになってしまったものだ。まぁ姫様が喜んでくれたのでいいのだけど。


「ねぇ」


 そんな事を小声で話していた僕らに対して、正面に座るシィ不思議そうな顔でが問いかける。


「ミルと姫様ってそんなに仲が良かった? 前に会ったばかりよね」


 痛い質問だ。姫様が昨日街に出ていたことを話せば事情は伝えることは出来る。でも姫様は出来ればティアさんや僕のような当事者以外にはこの事を話してもらいたくないと思っているかもしれない。もちろんシィやスノウなら信用出来ると僕は思っているけど、さて、どうしたものか。


 ちらりと隣に座る姫様の方を見た。その時、姫様もちょうど僕の方を見て互いに目が合った。そして僕の目を見ると姫様はコクリと頷く。どうやらこの2人になら話してもいいらしい。


「実は...」


 僕は昨日の出来事を2人に話し始めた。


「なるほど、そういう訳だったのね」


 僕が話を終えると、2人は納得した様子だった。


「そういう理由があるなら、もちろん私達も他の人に話したりはしないわ」

「...うん。私も自由に慣れない辛さ、分かるから」


 そして、この事を黙っていてくれることも約束してくれた。やっぱりこの2人なら信用して良かった。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 出発から体感時間でそろそろ1時間半位が経つ頃だろうか。突然、先程までの木々だけの変わり映えしない風景が森の中にぽかんと開いた広い空間に変わった。


「ふぅ、到着っと」


 前からそう言うティアさんの声が聞こえると、馬車の速度は次第にゆっくりになりやがて止まった。

 止まった馬車の荷台から僕達4人は大樹のある地へ降り立つ。


「おお...」


 思わず僕は感嘆の声を上げた。

 隣に立つシィやスノウも同じように驚いた表情をしていた。理由はもちろん僕と同じだろう。


「皆さん、これが私達の目的地、『スピリトの大樹』です」


 姫様にその名を呼ばれた大樹は、待っていたかのように僕らを見下ろし、そびえ立っていた。

かなり遅くなってしまい申し訳ありません。

もう少しペースを上げて投稿したいと思っているのですが、なかなか難しいですね...。

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