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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
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3話(35話) 『思わぬ出会い』

 さてと、今日は何をして過ごそうかな。


 先日、護り手の仕事を引き受けてからもう6日。

 昨日のうちに大樹へ向かうための打ち合わせも済んだ。そして明日、初めての仕事をこなす事になる。

 その関係で今日は休暇となっている。しかし、元の世界とは違って娯楽となる物も無いため、いつも通り休日は手持ち無沙汰となってしまった。


 シィから借りていた本ももう読み終わってしまった。返すために家に出向いたけど、留守だったからシィは出掛けているようだ。

 街を出歩いてみても、シィはおろかスノウの姿も見当たらない。一緒に過ごせそうな人もいないし、今日は本格的に自分1人で暇を潰すことになりそうだ。


 本といえばまだこの街の本屋に立ち寄ったことは無かったな。家に読み物は無いし行ってみてもいいかもしれない。

 そう考えると僕はこの辺りにある本屋に向けて歩を進める。実際に入った事はなくてもパトロールで見かけた事はあるから場所は分かっていた。


 確かこの路地を抜ければ近道になるはず。


 記憶を辿りに家と家の間の路地に入り、目的地に向けて進んでいく。


 その時、不意に背後から足音が響いてきた。


 なんだろうと思い、僕は少し戻って確認してみることにする。

 僕が戻って入り組んだ路地の交差点に立った瞬間、突然別方向から飛び出してきた人影が勢いよく僕にぶつかった。


「わっ」

「きゃっ!」


 その人は僕よりも小柄だったから、僕はよろめく程度ですんだ。しかし反対に相手の子は尻もちをついてしまい、手に持っていた袋は地面に落ちて中からは本が溢れている。


「ごめん、大丈夫!?」


 僕は謝りながら、慌ててその子に手を差し伸べる。

 先程ぶつかった時の声からして女の子のようだけど大丈夫だろうか。


 と、その時、僕は気づいた。

 転んだ拍子に外れてしまった少女の帽子から飛び出す長くて美しい白色の髪。

 そしてその少女の幼げながらも気品溢れる顔立ちに。


「あ...」


 少女の方も僕の存在に驚いている様子だった。もちろん僕もその反応と同じくらい驚いている。

 何故なら僕とぶつかったその少女は、


「ひ、姫様!?」


 僕の護衛対象、リブロ姫だったのだ。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「...」


 僕らは路地を抜けて公園のベンチに座っていた。

 とはいえ、普段立ち入るような広い公園ではなくほとんど人が立ち入らなそうな小さな公園であったけど。


 しかし、お互いにどう話を切り出したらいいのか分からず黙り込んでしまっている。

 ただ、このままでは拉致があかない。意を決して僕は隣に座る姫様に話しかける。


「あの、姫様」

「は、はい。なんでしょう」

「その、どうして姫様がそのような格好で街に出ているのですか?」


 今の姫様の格好は城で会った時のドレスではなく、長い髪を押し込むための帽子とシャツにスカートというごく普通のものだ。とても、城からなにかの用事で街に来たようには思えない。


「それはその...抜け出して来たんです。だからさっきも騎士の方に見つかりそうになって逃げていました」

「ぬ、抜け出してですか」


 思っていたよりも深刻な答えに僕は肝を冷やす。

 あれ、これって結構大変な事なんじゃ...。


「どうしてそんなことを?」

「私はあまり自由に外に出歩く事が許されていないんです。だからこっそり城を抜け出して本を買いに街へ来てるんです」

「そんなことして大丈夫なんですか?」

「元々父上や母上との会話は少ないのでほとんど城の使いの方としか話しませんし、そういった方が部屋に入ってもティアさんが変わり身を作ってくれているので。まぁあくまで『物』なので顔を見られたら1発てバレてしまいますが」

「いえ、バレてしまうのではないかということではなくて、危なくないんですか? 1人でここに来て」

「その事でしたら、一応こうして変装はしていますし、最悪の時もティアさんとラウンさんが気づいてくれますので」


 そう言うと姫様はスカートのポケットの中から、木で作られた小さな人形のようなものを取り出した。


「これはティアさんが自分の魔力を込めて作ったものです。私がこれに強く念じれば、ティアさんに危険を知らせられるという訳です」


 先程変わり身を作ったとも言っていたし、ティアさん、ラウンさんは姫様の事を思って外に出る手助けをしているのか。


「それで、」


 姫様は人形をポケットに入れ直すと、改めて僕の方を向いた。


「ミルさんはどうしますか? 私を城に連れ戻します?」

「...」


 正直なところ、その質問の返答には詰まる。

 僕の職を考えれば姫様の安全を考えて城に連れて帰るのが1番だろう。しかしそうすればこれよりも姫様の警備が厳重になり、もう外に出られなくなってしまうかもしれない。しかも姫様の事を思って行動してくれたティアさん、ラウンさんが処罰されてしまう事も考えられる。

 となれば、僕のするべきことは1つ。


「いえ、僕は姫様を連れ戻したりはしません。ただ...」

「ただ...?」

「僕も姫様と行動させてもらいます」


 その言葉に姫様は少し考えた様な素振りを見せた。

 そしてなにか決めたような表情を浮かべると、口を開く。


「分かりました。まぁミルさんに見つかってしまった以上仕方ありませんね。どうかよろしくお願いします」


 僕に向かって頭を下げる姫様。

 どうやら納得してくれたようだ。


「ええ、こちらこそよろしくお願いします、姫様」


 姫様が頭を下げたので僕も頭を下げ返す。

 しかし、頭を下げた僕に姫様はなんだか不服そうな表情。どうしたのだろうか。


「あの姫様、なにか?」

「いえ、立場上、普段はその口調で話しかけて下さっていいのですが...」

「口調ですか?」

「実際は同い歳とはいえ、街中でこんな幼い見た目の子にミルさんが敬語を使ってたら怪しまれちゃいます」

「あー、確かにそうですね。...って同い歳!?」


 姫様が口にした聞き捨てならない言葉に僕は反応する。


「あの、僕17歳ですけど...」

「ええ、存じ上げております。私も17歳です」


 いや、でも姫様の姿はどう見てもそれより幼いような...。


「ミルさん、『どう見ても17歳には見えない』って言いたそうな顔してますね」

「えっ」


 姫様が頬を膨らませて抗議する。

 しまった、顔に出てたか...。


「仕方ないんです。私たちの血筋の人間は大樹の精霊からの加護を完全に得て成人するまでは、身体の成長が普通の人よりも遅いんですよ」

「そうなんですか」


 確かにそう考えれば、今の王や妃様の年齢と姫様の年齢の関係に多少納得がいく。姫様の見た目そのままの年齢だと王様たちは姫様をだいぶお年を召されてから授かった事になるし。


「まぁ、成人したらきっとスノウさんやティアさんやラウンさんにも負けない位の大きさになるはずです」

「え、あ...はい」


 そこにシィが含まれていないということは、つまり『それ』のサイズの事を言っているのだろう。

 でも故意にシィを省くのは止めてあげて姫様!


「とにかく、そういう訳で私はこの歳でこの姿ということです。分かっていただけましたね?」

「はい、了解です」


 僕のその返事を聞いて、姫様もニコッと笑う。


「では参りましょうか。私の行きたい所に付いてきてくれますね?」


 ベンチから立ち上がった姫様が僕の正面に立ち、僕に向かってその手を伸ばした。


「はい、もちろんです。どこへでもお供します」


 そういって姫様の手を取ろうとしたが、姫様はムスッとした表情を浮かべて手を引っ込めてしまった。


「ミールーさーんー、その言い方はダメと言ったじゃないですか!」


 っと、そうだった。やはり癖はすぐには無くならないものだ。


「えっと、それじゃあ...。よろしくね...あっ」


 姫様の事を呼ぼうとしたところで言葉に詰まる。

 姫様と呼んじゃいけないはずだし、僕はなんて呼べばいいのだろう。


「えっと姫様、僕は貴女のことをなんと呼べば...?」

「うーん、そうですね。...それでは普通に『リブロ』、とお呼び下さい」


 呼び捨てか...。正直姫様を呼び捨てで呼ぶのは恐れ多い、けど、それが姫様自身の望みなら仕方ないか。


「よし、分かったよ。じゃあ改めて、よろしくねリブロ」

「はい、よろしくお願いします。ミルさん」


 僕が握手を求めた伸ばした手を姫様...リブロが握り返す。

 そのまま僕を引っ張ってリブロは公園から出ていく。


「こうやって同い歳の男の子と街を隣を歩くのは初めてのなんです。緊張しますね...」

「はは、僕も正直ドキドキだよ。...バレて怒られないか...」

「もう、今はそんな事を気にしてたらダメです。さ、もっと楽しく行きましょう。こういうのを『デート』って言うんですよね?」

「わわ、あんまり早く歩くと危ないって!」


 次第に足を早める姫様に連れられ、僕は街へと駆り出していくのであった。

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