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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
二章 スピリトの大樹/覚醒する魂
34/92

1話(33話) 『新たな出会い』

「ふぅ、これでとりあえずは一段落かな」


 掃除を終え、椅子に座りながら僕は呟く。


「相変わらずそれなりに重労働よね、この作業」


 口元に付けた三角巾を外しながら、向かいの椅子にシィが座る。


「...2人ともありがと」


 残りの椅子にスノウがお礼を言いながら座った。

 これでこの場にいるのは全員だ。


 ここは騎士になったスノウが僕と同じように提供された住居。ただし僕と同じくということはもちろん掃除もされてなく...。

 ということで僕とシィが家の掃除を手伝いにやって来ていたという訳だった。


「別にいいよ、元々今日は仕事も無かったし、それにこの作業が1人でやるようなものじゃないってことは僕が一番分かってるから...」


 僕とシィとエンさんの3人による我が家の大掃除の様子が頭に思い浮かぶ。


「エン姉は今日も忙しそうだったわね。まぁ新しい騎士団のメンバーを探したり、新しく入った人達に仕事の内容を教えたりってやらなくちゃいけない事が山積みだものね」


 新しい騎士団、そうシィが表現するのも無理はない。

 例の事件により騎士団の一部が脱退。今はその入れ替わりとしてスノウを含む、騎士団に入団希望だった者達に事情を話して勧誘を行っている。

 しかし、先日のイーブルによる襲撃の話を聞くと恐れなして入団を辞退するものも多く、そう上手くはいっていないようだった。


「今は騎士団の数が減っちゃってるし、今いるメンバーが頑張らないとね」

「そうね」

「...私も2人と頑張る」


 僕の言葉を聞き、2人も決意を新たにする。

 ちなみに今の僕らは暫定的にトリオとして活動している。スノウは1人で騎士団で入った形のため、わざわざ他の者と組ませるよりも知り合いである僕らと行動した方が仕事もしやすいだろうからというエンさんの配慮だ。


「それにしても、最近は暑くなってきたね」


 僕はおでこの汗を拭いながら呟いた。


「本当ね、すっかり夏の季節よ」


 シィも首元をパタパタさせて風を送り込みながら答える。その装いも前まではズボンだったけど最近はスカートを履くようになっていた。街の人たちも半袖を着る人が多くなって、この様子だけ見ると日本の夏と何ら変わらないなぁ。


「スノウ、悪いんだけど水を......ひゃあああ!」


 喉が乾いてきたのでスノウを水を頼もうとした時、突然首筋にとてもひんやりとした感触が襲い、思わず僕は叫んで椅子から立ち上がった。


「...どう、冷えた?」


 見ると、僕の椅子の背後には魔法で作ったであろう氷を手にスノウが悪戯な笑みを浮かべて佇んでいた。


「冷えたというか、背筋が凍るような思いだったよ...」


 冷えた首筋に手をあて温めながら、僕はスノウの問いに答えた。


「...予想以上の反応で嬉しい」

「凄い叫び声だったわね。なんかこう、女の子みたいな」


 喜びの表情のスノウと僕の声で笑うシィ。

 突然の事だったけど、何であんな風に叫んじゃったんだろう。恥ずかしいなぁ。


 コンコン


 その時、スノウの家のドアをノックする音が響いた。


「...見てくる」


 家の主であるスノウがドアに近づき、開ける。


「私だ。どうだスノウ、新しい家は」

「あ、団長」


 スノウが団長と呼ぶのはもちろん、我らが騎士団団長のエンさんだ。


「...2人が手伝ってくれたから掃除も終わった」

「そうか、やはり2人ともここにいたんだな。なら丁度いい」


 スノウとエンさんの話を聞いていたシィがその話に割り込む。


「丁度いいって、もしかしてまた魔物が出たの?」


 しかし、エンさんは首を横にふる。


「いや、そういう訳ではないんだが。...とりあえず3人ともすぐ城にまで来て欲しい」

「城まで?」


 城に僕達が呼ばれるとはどういうことだろう。

 街を護った事に感しては既に王様からお礼の言葉を貰ってるし。


「ああ、そうだ。今日は休みのはずだったのだがすまないな」


 エンさんにそう言われてしまっては仕方ない。

 僕らはすぐにスノウの家を出て、城へ向かう事にする。



「そういえばミル、さっき叫び声が聞こえたんだが大丈夫か?」

「え!? あ、別に心配は無いですよ」

「そうか、ならいいが」


 家を出た時にエンさんが僕に先程の叫び声について聞いてきたが、ここははぐらかしておく。

 まさか聞かれていたとは...。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「あの、誰が僕達に用があるんですか?」


 城門前の橋を渡りながら、僕はエンさんに問いかける。先に内容を知っておいた方が話しやすいだろうし。


「確か、まだ3人は会ったことはないだろうな」


 会ったことがない、ということは少なくとも王様や妃様ではないのか。なら城に勤めている方なのかな?


「その方は3人の事については既に知っている。というか、知っているからこそ呼んだんだが」


 いや、エンさんが『方』と呼ぶということはもっと位の高い人物なのか?


「それで、その方は?」

「ああそれは...」

「おーい!」


 エンさんが答えようとした所で、前方から響く声がそれを阻んだ。

 声の主は肩ほどまでの茶髪をした人物。前に僕がお世話になったこともあるティアさんだ。そういえば城に仕えているんだった。

 その隣には長い紫色の髪をした女性も立っている。その人が僕らを呼んだのだろうか?


「やぁミル君とシィちゃん、久しぶり。そっちの青髪ちゃんとは初対面か、よろしくねー」


 手を上げながら、僕らに向かって挨拶をするティアさん。相変わらず元気そうだ。


「ティアさんお久しぶりです。えっと、そちらの方が僕らを呼んだんですか?」

「え、この人? 違う違う、この人も私と同じ。城の使用人」

「どうも、この人こと『ラウン』です。よろしく」


 隣に立つ人はお辞儀をして自己紹介をする。

 失礼ながら、ティアさんとは対象的に大人しそうな人だ。


「やぁティア、ラウン。わざわざ待ってくれていたのか」

「いやー、丁度窓から橋を渡る姿が見えたんでね」

「なるほど、そうだったか」


 エンさんは普段と変わらない様子でお2人と話している。知り合い、というより友人同士のようだ。


「それにしても、このように年下に街を護られたとは。若い世代の成長を喜ぶべきなのか我々が追い越されてしまいそうで悔しがるべきか悩みますね」


 ラウンさんが僕の頭を手でポンポンしながら話す。...意外にボディタッチとかする方なんだな。


「そこは素直に喜ぼうよー。というか私たちもまだ充分若いから!」


 反論するようにティアさんが応える。特に後半部分を強調して。


「おほん...では2人ともミルたちの案内を頼めるか?」


 エンさんが咳払いをして、逸れかけていた話の内容を元に戻す。


「ああそうだったね。じゃあここからは私たちがエンに代わって3人とも案内するよ」

「エン姉は来ないの?」

「私はまだ他の仕事があるからな。それに私は今回の件については余り深く関わらないのでな。...じゃあ、よろしく頼んだぞ」


 エンさんは僕ら5人を残して城へ入っていった。

 残された僕らもまずは自分たちの目的を果たそう。


「それじゃあお2人ともお願いします」

「はい、では着いてきてください」


 僕達を先導するように、ラウンさんは先を歩いて城の中へ入っていく。

 それに続いて僕らも城の中に入り、奥へと進んでいく。



「ミル君ミル君」


 城の中を歩いている途中、突然僕の隣を歩いていたティアさんが小声で僕の名を呼びながら腕をつついた。


「何ですか?」


 小声で呼ばれたので、他3人に聞こえないように僕も小声で返す。

 何か重要な用事なんだろうか?


「ラウンだけどさ、ああ見えて年下の男の子が好みだから気をつけてねー」

「へ?」


 余りに僕の想像とティアさんの発言の内容がかけ離れていたので思わず拍子抜けしてしまった。


「それがどうしたんですか?」

「いや、目当ての娘に辿り着く前に他の女に手を出されないようにねっていう忠告だよー」

「な!?」


 僕を驚かせる言葉を残して、ティアさんは前を歩いていたラウンさんの隣につく。

 というか気づかれていたのか...? 僕ってひょっとしてわかりやすい...?

 そんな事を考えていると、いつの間にか後ろを振り返っていたスノウと目が合った。


「えっとスノウ、どうかした?」

「...別に」


 元々口数は少ない方だが、いつにも増して短い言葉を発するとすぐさまスノウは前に向き直った。

 何だったんだろう?


「さて皆さん、到着しましたよー」


 僕の疑問を他所に、ティアさんはある扉の前で立ち止まるとまるで観光名所のガイドさんのように僕らにその扉を見せつける。


「無駄な演出はいいから、早く用事を進める...」


 ティアさんのそんな様子を見かねたラウンさんが止めに入る。


「それもそうか。それじゃあとっとと中にいる方をお呼びしますか」


 コンコン、とティアさんが扉をノックし続けて問いかける。


「姫様、お呼びしていた方が到着しました」

「中に入れてどうぞ」


 扉の中から『姫様』と呼ばれた方の声が聞こえる。

 ...でもなんか幼いような。


「じゃあ3人とも、中へどうぞー」


 ティアさんが扉を開け、僕らをその中に入れた。


 扉の中にいたのは白い髪を腰ほどまで伸ばした少女。歳は僕らよりも3つ4つ程下だろうか。

 椅子に座り、先程まで読んでいたのであろう本を膝の上に乗せている。


「初めまして。『リブロ・ガイアブレイド』です」


 少女は僕らに向かって、にこやかにそう言った。

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