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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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24話 『一か八かの作戦』

 どうする...どうすればあいつらのスキをついて弱点を攻撃出来る...?


 僕は考える。


 今はアイツの警戒範囲外にいるようで攻撃をされる事は無いが、こちらもここから出る事は出来ないからこのままでは拉致があかない。

 それにここは密閉された空間だ、このままの状態が続けば酸素不足で先にこちらが倒れるのは明白だ。

 他にも僕らを倒す隠し玉があるかもしれないし、ここでジッとしているわけにもいかない。何か行動を起こさなくては...。


 2体の尾をかいくぐるにはどうすれば...。


 2体...


「シィ、1つシィの意見を聞きたいことがあるんだけど」

「何?」


 僕は僕の身体を支えてくれているシィに問いかける。


「シィはあの尾は3体以上あると思う?」

「...。いや、ない可能性が高いと思うわ。だって...」

「3体以上あったなら2体目がシィを無視して僕の方へ来る必要はないから、だよね」

「ええ」


 シィも同意見なのであれば心強い。僕が今考えた作戦は尾が3体以上あったとしたら失敗してしまうものだからだ。


「シィ、もしも追ってくる尾が1体だけだったら、それをかいくぐってあの塔までたどり着けそう?」

「必ず出来るとは言い切れないけど、その状況が作り出せたならその役目受けるわ」

「ありがとう。その状況は僕が作るよ」

「どうやって?」


 シィが僕に問う。


「僕のこの方法も確実に成功するかは分からない。僕の体力次第だからね。それでもいい?」

「ええ、それであいつを倒せるのなら」


 シィが真っ直ぐに僕の目を見て答える。

 その目に僕に対する心配の感情は見えない。それはシィが僕のことをちゃんと頼りにしてくれている証のようで少し嬉しかった。


「それじゃあ説明するね。...」


 僕もシィのことを信じて、自らの作戦を語った。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「シィ、心の準備は大丈夫?」

「大丈夫よ」


 作戦を説明し終え、僕らは少し離れた位置でそれぞれ岩の塔にその眼差しを向けていた。


「じゃあいくよ...」

「ええ...」


 僕達は勢いよく岩の塔を目指して駆け出した。

 もちろん2体の尾もそれを見て僕らに襲いかかる。


 僕は自分の方へ来た尾に対して、拳で迎撃する体制をとる。しかし今度はその拳で受け止めるわけではない。

 岩が僕の身体の目前に達した時、僕はその尾に下から協力なアッパーを決める。この力の方向ならば、尖端の岩を破壊できるはずだ。

 狙い通り、尖端の尾が破壊されたことにより僕に向かった尾は切り離しによる再生を開始した。

 これで少しだけ時間を稼げる。


 一方シィは、向かって来た岩を先程の僕のようにひらりとかわし、岩の塔を目指して走り続けている。


 よし、お互い初動は完璧だ。


 シィがかわした尾はすぐにシィの方を向き直して再び襲いかかった。

 僕は今度はシィの方へ向かって走り出す。

 シィを庇うように尾の前に仁王立ちし、全身を使って岩の尾を受け止める。

 そして受け止めた岩の尾を地面に押さえ込み、動きを止める。

 これでこっちは僕から脱出するまでシィの元へは向かえない。


「シィ、いって!」


 後ろを確認しながらシィに叫ぶ。僕が片方の尾を止めることが出来たという合図だ。


 もう一方の尾が尖端を切り離して再生を終え、シィに襲いかかる。

 シィはそれをかわしながらさらに進んでいく。言ってた通り、1体だけならかいくぐることができるみたいだ。

 尾の方も鬼気迫る様子で、連続でシィに襲いかかっているが、シィは剣も使いながら上手くそれをいなしていく。


 この調子なら...


 そう思っていた時、僕が押さえ込んでいる方の尾がいっそう強く力を込めた。

 僕も負けじとさらに強い力で尾を地面に押さえる。シィが体力の勝負なら、僕は気力の勝負だ。絶対にシィのところへは行かせないという気力の。


 しかし、ここで不思議なことが起こった。

 先程まで加わっていた力がどんどん弱くなっている。岩は物体だから体力なんて消耗しないと思っていたのに。物体といっても魔物だから体力があるのだろうか。

 だが、僕はここで気がついた。この尾は体力が尽きて僕からの脱出を諦めるどころか知恵を絞って僕から抜け出そうとしているのだということに。


 この尾は尖端を切り離そうとしている...。

 まるでトカゲの尻尾切りの様に。

 僕じゃ2つ目の岩まで手が届かない。このまま切り離されてしまったらこの尾もシィの元へ向かっていってしまう。そうなったら作戦は失敗だ。


 けど、そんな簡単に打破させたりはしない...。

 シィは既にかなりの距離を進んでいるはずだ。この状況をしのげばきっとシィは弱点までたどり着ける。

 一か八かだけど、こいつを止めるための方法は僕の『手の中』にある...。


 とうとう切り離しを終えた尾が、尖端の岩を残してシィのところへ向かって行ってしまう。

 それに気づいたシィは元々いる方の攻撃をかわして、僕の手から抜けた方の尾の攻撃を防ごうと、足を止めて剣を構えた。

 そんなシィに僕は叫ぶ。


「シィ、進んで!」


 僕の声を聞いたシィは塔の方へ振り返り、再び走り始めた。

 シィは僕を信じて進んでくれた、絶対にこの尾は止めてみせる...!


 僕はあの尾が残した元々尖端だった岩を、抜け出した尾の尖端目掛けて全力で投球する。

 ただシィを目指して進んでいただけの尾には、後ろの僕の攻撃にすぐには対処出来ない。

 岩は尾の尖端部分に命中し、シィを目指していた尾の進行方向を無理やりねじ曲げた。

 さらに今の正直によって尖端の岩は大きくひび割れてしまっている。あれではすぐには復帰できない。


「残念だけど、君と同じで僕も諦めが悪いんだ」


 僕は激突した衝撃でそのまま地面に倒れた尾に対してそう言った。尾を『君』と表すのは少し違和感があったけど。


 そしてシィは、最後にもう一方の尾の攻撃をかわしてとうとう塔の前までたどり着く。


「シィ、いっけぇぇ!」


 僕は再びシィに向かって叫ぶ。


「『雷纏いし剣』ボルテックス・ブレイド!」


 シィは魔法名を唱え、塔を斬りつける。

 シィの魔法によって、空洞全体が明るく照らされた。

 僕はその眩しさに手で目を覆ってしまう。


 そして光が収まり僕がシィと塔の方を向くと、そこにはちょうど真ん中辺りを真っ二つに斬られた塔とその隣に立つシィの姿が見えた。

 僕は喜んでシィの元へ駆けつける。


「シィ、やったね!」

「ええ、とうとう倒したわね」

「それは『塔』とかけたシャレだったりするの?」

「ち、違うわよ!」


 そんなことを言い合えるほど、今の僕らはこの魔物を倒したことに安心していた。


 だからこそ、直前まで気がつけなかったのだろう。


 塔と尾の魔物を倒して間もなく、閉ざされていた亀裂が再び開いた。

 すぐにそこから出ようと思ったけど、ここでシィが気づいた。


「ねぇミル、この赤い光、なんだか強くなってない?」


 確かに塔の中の赤い光は先程までよりも強くなっていた。そしてその光が一気に大きくなったところで僕は察した。


「シィ、危ない!」


 僕はシィを突き飛ばした。2人で走り出してはもう間に合わない気がしていたからだ。

 直後、岩の塔は爆発した。僕に突き飛ばされて多少距離があったシィは爆風を受けただけだったけど、すぐそばにあった僕の身体は激しく吹き飛ばされてしまう。


 僕の意識は、そこで途切れた。

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