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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
24/92

23話 『苦戦』

遅くなって申し訳ありません。

「結構広いわね」

「そうだね」


 狭い亀裂を通り抜けて僕らが出た先は、大きな空洞になっていた。

 しかし、まだ暗闇に目が慣れていないから空洞全体がどのようになっているかは分からない。


「とりあえず空洞を1回りしてみましょ。私が照らすわ」


 そう言うとシィは自分の指先から電気を発生させて周りを照らす。


「そんな使い方も出来るんだね」

「ええ。それじゃあ回ってみましょ...ん?」


 シィが暗闇の奥を見て何かに気づいた。

 僕もシィの目線の先を見てみる。


「何か光ってる...」


 暗闇の先には先ほどまでは先ほどまでは点いていなかった赤い光が浮かんでいる。

 僕らは不審に思いその光を注意深く観察していたが、それは始まりに過ぎなかった。


「光が増えていく...」


 赤い光は空洞内を照らすように空洞の壁のあちこちから発生し始めた。

 そしてあっという間に空洞はその光によって全体を把握できるほどに照らされる。


 そして僕らは最初の光の発光源だけは壁ではなく、僕らの身長とほぼ同じくらいの大きさをした石の塔であると分かった。


「あの塔、何かあるのかな?」

「行ってみましょ」


 僕とシィはその塔に向かってゆっくりと歩き始めた...が、


『何か』が塔の下から僕らの方へ勢いよく伸びてきた。


「ぐっ...」


 僕はその速さになんとか対応して拳でそれを受け止めるが、その力は今までこの拳で受けてきたどんなものよりも強かった。


 受け止めてから、今僕を襲っている物が何なのかを確認する。

 巨大な岩がいくつも連なってできており、それは腕のようにも尾のようにも見えた。


「ミル、今助けるわ!」


 僕の隣にいるシィが、僕の拳とぶつかっている最尖端の岩を斬りつける。


「硬っ!」


 しかしシィの剣でもその岩には傷一つつかない。


「仕方ない...魔力の消費が激しいから使わなかったけど、今はそんなこと言ってられないから使ってやるわ!」


 そう言うとシィは森でのエンさんの様に自らの2本の剣に手から発生した電気を纏わせる。


「はあっ!」


 シィは電気を纏った剣で再び岩に斬りつける。

 先ほどよりも手応えのある音が響く。間違いなく今度の斬撃は効いている。


「うおお!」


 シィの攻撃で傷ついた岩を僕は全力で押し返した。

 

 岩はシィの攻撃によってひび割れており、僕の攻撃を受けきる事は出来ない。粉々になって最尖端の岩は砕け散る。


「よし!」


 しかし喜んだのもつかの間、最尖端の岩を破壊された尾(?)は僕らから距離をとると、砕けた岩の残骸を落として、2番目にあった岩が尖端となることで再生し始めてしまった。


「これじゃあキリがないね...」


 岩が無くなるまでこれを続けようとしても、体力の関係上、人間である僕らの方が先に力尽きてしまうだろう。となれば...


「シィ、もう1度僕があの岩を受け止めるけど、今度は僕に構わずにあの石の塔に向かって。あっちが弱点かもしれないから」

「...分かったわ。試してみる。あんたも気をつけて」


 その会話を終えたところで、完全に再生が終わり2つ目の岩が尖端となった尾が僕らに再び襲いかかる。

 その尾を僕はシィの前に出て受け止める。


「ぐっ...」


 今度も先ほどと同程度の力だが、いきなりでなかった分さっきよりは余裕を持って受け止めることができた。


「シィ!」


 合図するように僕は後ろのシィに叫ぶ。


「ええ!」


 僕の声に返事して、シィは勢いよく塔に向かって駆け出した。

 シィは走りながら剣に電気を纏わせていく。塔を一撃で破壊するために。


「はああ!」


 塔の目前までたどり着いたシィは塔を激しく斬りつける。しかし、


 待ち構えていたかのように新たな尾が塔から発生し、シィの身体を吹き飛ばした。


「きゃあああ!!」


 シィが吹き飛ばされてしまった高さはかなりのものだ、もしあの高さからそのまま落ちたら...無事では済まない...


「シィ!!」


 僕は自分が受け止めていた岩を放棄し、シィをキャッチするために駆け出す。

 既にシィは落下し始めている...お願いだ、間に合って...。


「うおお!!」


 今までで最も強く風を感じながら、僕はなんとかシィが地面に激突するよりも先に受け止めてることに成功する。

 シィのことをしっかり抱きとめながら、僕は全力で2本の尾から距離をとる。今の状態でこの尾2体と戦うのは不可能だからだ。

 しかし無慈悲に僕が受け止めるのを放棄した方の尾が僕らに襲いかかる。


 今は受け止めることは出来ない...。なら...


 僕は前方から来たその尾を紙一重でかわし、走り続ける。

 これも僕の身体能力強化の魔法があってこそだ。シィならともかく元の僕にはこんなことができる運動能力はない。


 ある程度奴らから距離をとったところで、僕は腕の中のシィに呼びかける。


「シィ、大丈夫...?」

「ええ」


 シィは僕の呼びかけにいつもと変わらない様子で答えた。良かった、大怪我はしてないみたいだ。


「ありがとうミル、助かったわ。......でも、その、下ろして欲しいんだけど...」


 その言葉で、僕はシィの身体をがっしりと抱きしめてしまっていることを思い出す。


「ああ! ご、ごめん!」


 僕は慌ててシィを地面に下ろす。

 シィは少しふらつきながらも、すぐに力強く立ち上がった。


「とりあえず、僕はここから出ようと思う。僕達2人には正直荷が重い相手だし。みんなを呼んだ方がいいだろうから」

「そうね、私も賛成よ」

「よし、それじゃあこのままの距離を保って外へ...」


 そこで僕はある事に気づいた。


「どうしたのミル?」

「入ってきた亀裂が無いんだ...」

「ええ!?」


 シィは慌てて辺りを見回す。しかし僕と同じく入口を見つけることは出来なかったみたいだ。すぐに落ち着きを取り戻し、あの塔と塔を守る2本の尾を睨む。


「どうやら、倒さなくちゃ帰してはくれないみたいね」

「うん、残念ながら」


 恐らく僕らとの戦闘が始まった時点で入口は閉ざされてしまっていたのだろう。この塔、いや、この魔物によって。


「シィ、今度は僕があの塔に向かってみるよ」

「分かったわ。...あの尾の片方なら私が足止め出来るけど、もう一方はどうするの?」

「かわすよ。さっきみたいにさ」

「...了解。気をつけなさいよ、直撃したらただじゃ済まないわ」

「うん分かってるよ。シィも気をつけて」


 そして僕達は同時に駆け出した。あの塔へ向かって。


 思い通りに、2本の尾は僕とシィそれぞれに1体ずつ襲いかかった。

 シィはそれを剣を使って受け止める。ただ、いくら電気を纏わせているといっても僕ほどのパワーは無い。早めに勝負を決めなくては危険だ。


 僕は襲いかかってきた尾をステップを踏み上手くかわす。まずは上手くいった。

 しかし、そんな簡単に尾は僕の侵攻を許してはくれない。次は背後から僕に襲いかかる。


「うおっ」


 流石に背後からの攻撃を走りながらかわすのは辛いので、1度足を止めて回避する。

 完全に尾が通り過ぎたところで僕は再び走るために前に振り返る。

 よし、この調子ならいけ...


「ミル、そっちにいったわ!」


 僕が振り向く途中にシィの叫び声が聞こえた。

 こっちに来た......まさか!


 僕は何が起こったのか察する。しかしもう遅すぎた。

 僕は目の前にまで迫ってきていた岩の尾を受け止めることが出来なかった。


「があぁ!!」


 尾はそのままみぞおちに直撃し、僕の身体を後方へ大きく吹き飛ばした。


 そう、シィが受け止めた尾はシィのことを放棄して僕を倒しに、いや殺しに来たのだ。まるでさっき僕がシィを助けるために駆け出したように。


 吹き飛ばされた僕は地面に激しく激突する。

 シィほど高く飛ばされなかったのと、僕の魔法自体が身体強化系だったから1発食らっただけでは完全に動けなくなるほどのダメージを負わなかったのは不幸中の幸いか、僕はなんとかまだ動くことが出来た。


「ミル!」


 吹き飛ばされた僕の元へシィがやってくる。尾が両方とも僕のところへ来たから攻撃を受けずに離脱出来たみたいだ。良かった。


「だ、大丈夫」


 正直まだ身体には痛みが走っていたが、無事をアピールするためにふらふらと立ち上がる。


「私は剣を構えていたから直撃じゃなかったし、あんたに受け止めてもらえたけど。ミルは完全に直撃じゃない...。 本当に大丈夫...?」


 シィが心配そうに、立ち上がった僕の身体を支える。

 シィの身体が僕に密着する。...けど、今はそんな事を喜んでいる場合じゃない。


「うん、本当に大丈夫だよ。...でも、どうすればいいんだ...」


 圧倒的な力の差を前に、僕は絶望していた。

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