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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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21話 『2人だけの時間』

「「ごちそうさまでした!」」


 食事が終わると、僕らは手を合わせて食前と同じように2人でそう言った。


「シィ、どうもありがとう。凄く美味しかったよ」

「どういたしまして」


 シィの料理の腕前はレストランやリースと肩を並べるほどであった。

 こう周りに料理が出来る人が多いと自分の料理スキルの無さに悲しくなってくる。エンさんも出来そうなイメージがあるし、仲間はスノウだけか...。


「じゃ、私はお皿を洗ってるからあんたは座ってさっきの本を読んでていいわよ」

「ううん、僕も手伝うよ。ご馳走になったわけだしね」


 僕は自分の食器を片付け、朝と同じ要領でキッチンへ運ぶ。


「えっと、それじゃあ私が洗ったお皿を拭いてもらえる?」

「了解」


 僕らはキッチンに並んで作業を始める。

 シィが食器を洗い、僕がその食器を拭いて重ねていく。

 そんな調子で作業を続けていくんだけど、僕はどうしても隣のシィが気になってしまっていた。

 シィの家のキッチンはリースの家ほど大きくなかったからどうしても体が密着してしまう。

 それにシィの背丈はちょうど僕とほぼ同じくらいだったので僕の顔のすぐ横にシィの顔があった。


「どうかした?」


 僕が緊張していることに感づいたのか、シィが僕の顔を見つめて言った。


「いや、何でもないよ」


 こんな事を気にさせても仕方ないから、僕は適当に誤魔化す。


 ...というか、シィがこんな近くで僕の顔を見たせいでよりいっそう緊張してきたんだけど。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「お疲れ様」


 洗い物を終えて僕が先ほどの本を読みながら椅子に座っていると、シィが両手にティーカップを持ちながらテーブルに戻ってきた。


「紅茶で良かった?」

「うん。ありがとう」


 僕は本に栞を挟んでテーブルの端に置くと、シィからカップの1つを受けとる。

 湯気がたっていて熱そうだったので、ふーふーと息を吹き込んでからカップに口につける。

 元の世界と同じ甘さを感じて紅茶を飲んでから、僕は向かいに座るシィに明日のことについて聞いてみる。


「シィは明日の討伐戦にむけてはどう?」

「どうって...つまり何が聞きたいの?」


 シィに聞き返されてしまったので僕は分かりやすく説明する。


「いや結構急な話だったしさ。その、気持ちの整理とかは出来てるのかなって」

「ああ、そういうことね。私は...まぁ騎士になる以上こういったことになるかもしれないって覚悟はあったし。それに前にも私達は森で魔物と出会っているからあまり緊張はしてないわ」

「そっか」


 シィはそう答え、再び紅茶をすする。

 やっぱりシィは強いな。大規模な作戦の前だというのにいつも通り肝が据わっている。


「そう言うあんたはどうなの?」


 紅茶を飲み干し、カップをテーブルに置きながら今度はシィが聞いてきた。


「うん、僕も大丈夫だよ。心配しないで」

「そう。それならいいけど」


 もっとも、僕の言葉は完全な真実というわけではない。まだ僕の心に不安はある。この言葉はシィに余計な心配をさせたくないからという気持ちの表れでもあった。

 それでも不思議と前に森へ魔物を討伐しに行った時よりも僕に緊張は無かった。

 それはやはり先ほどのシィの言葉によるものだろう。シィの言葉は、僕に心強いパートナーがいるのだという事を再確認させてくれた。


「シィ、お互い頑張ろうね」

「ええ、頑張りましょうミル。大丈夫、もし危なくなったら私が助けてあげるわ」


『僕こそシィを護ってみせるよ!』とは言えなかった。今の僕にはまだそんなことを言えるほどシィに頼られていないと思うからだ。

 こういうの気持ちの人をヘタレっていうのかな...。もっと強くならないといけないな。


「ってもうこんな時間か」


 気づけば時計は3時過ぎを指していた。

 僕は慌てて残りの紅茶を飲み干すと、既に飲み干されているシィのティーカップと共にキッチンまで運ぶ。


「あんまり長居しても悪いし、僕はそろそろ帰るね」


 ティーカップを流しにつけてから僕はシィにそう伝える。


「別に迷惑だなんて思ってないし、まだいてもいいのよ?」

「でも明日は討伐戦だからお互いしっかり休養しておいた方がいいと思うし」

「まぁ、そうね」


 僕はズボンのポケットに自分の家の鍵があることを確認すると、ドアへと向かった。

 その時、あることに気づいたシィが僕の背中に声をかけた。


「そういえば私達がこうして2人だけで長い時間を過ごしたのって初めてね」


 その言葉を聞いて僕は今までの仕事の時間を思い出してみる。


「そういえばそうだね。僕らはペアといってもエンさんやスノウが一緒にいた時が多かったから」

「家に誰かを招いたのも、他の人に料理をご馳走したのも久しぶりだったから今日は楽しかったわ。ありがと」


 シィは僕に笑顔でそう言った。

 ただ純粋に僕に向けられた笑顔に、僕の鼓動は思わず早くなっていた。


「こちらこそ呼んでくれてありがとう。それじゃあ僕はこれで」

「あ、ミル、ちょっと待って」


 僕は高まる鼓動を悟られないうちに家を出ようと思い、ドアノブに手をかけたが、再び後ろから聞こえたシィの声に遮られる。


「はい」


 シィは振り返った僕にテーブルの上にあった本を手渡す。それはさっき僕が読んでいた小説であった。


「これ借してあげるわ。読み終わってから返してくれればいいから」

「あ、うん、ありがとう」

「じゃ、バイバイ。ミル」


 僕はシィから本を受け取ると、ドアを開けてシィの家を出た。


 そのまま真っ直ぐに自宅まで戻ったが、僕の家には食べ物の貯蔵が無いことを思い出し、シィから借りた本だけ家に置いて僕は商店街に向かった。


 とりあえず1週間分くらいの食料は買いだめしておこう。冷やすことが出来る魔法道具は家にあったし。


 そう考えると僕は商店街のあちこちを廻って調味料にパン、肉、魚、野菜、果物などをバランスよく買った。

 バランスよく買った理由には健康面ももちろんあったけど、普段料理をしない僕に何が作れるか分からなかったので、実験的な意味もあった。

 流石に1週間分ともあって、買い込んだ食材は大きな紙袋2つ分にもなった。僕はその紙袋2つを抱えながらなんとか家まで辿りつく。


 家につく頃には5時近くを回っていた。

 元々今日は早く眠るつもりだったので、夕食も早めに食べてしまおうと思い、冷やすべきものを収納すると早速取り掛かる。

 何を作るかは考えていなかったが昼が結構ガッツリしたものだったので、あまり重すぎないものにすることにした。

 少し考えて、魚のフライを作ることに決める。これなら前の世界で『妹』が作っていた記憶があるからそれなりに作りやすいはずだ。


 記憶を頼りに、小麦粉、卵、パン粉の順に衣をつけると、油の中に魚を入れる。


 魚を揚げているあ間、僕はあることに気になっていた。


 僕のシィに対する気持ち。


 今までは強い人に対しての『憧れ』のようなものだと思っていた。だけど、それはもしかしたから間違っていたのかもしれない。

 そんなことを今日の出来事から考えていた。


「って、うーん...少し焦げちゃったな...」


 考え事をしていたせいもあり、フライをすくい上げた頃には既に黒く焦げ始めていた。

 ま、自分で食べるわけだしいいか。


 僕はフライをお皿に盛り付けると、パンを主食に少し早めの夕食を食べ始める。


 シィへの気持ち、例えそれがどんなものであっても明日の僕がする事は1つだ。


 シィを護る。


 シィ本人の前では言えなかったけど、シィに認めてもらう、頼りにしてもらうためには僕がシィのパートナーとして頑張らなくてはいけないという事は分かっている。

 それが彼女の過去を知った僕の使命だ。


 討伐戦の前日、再び僕はそう決心したのであった。

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