20話 『ようやく見つけた住居』
「さぁ着いたぞ。ミル、ここがお前の家だ」
エンさんに案内されて、僕とシィは僕の新居に到着した。
「おお、思っていたよりも大きいです」
僕の家は木造の二階建てで、家の大きさはリースの家のそれとほとんど同じくらいだった。
これほどの家が借りられるなんて思ってもみなかったので僕は驚いてしまう。
「まぁ、大きいのはいいことといえばいいことなんだが...」
エンさんが少し含みのある言い方をした。
「何か訳ありなんですか?」
「とりあえず中を見てみてくれ。鍵は預かってある」
僕はエンさんから鍵を受け取ると、早速家の鍵を開けてドアを開けた。
が、ドアを開けると同時に家の中から埃が飛んでくる。
僕は咳き込みながら慌ててそのドアを閉める。
「えっと、家の中が凄い汚れてるみたいなんですが...」
「そうなんだよ...。私も昨日管理人にミルのことを報告してから教えられたんだが、前に人が住んでいたのがだいぶ前のことで、空き家になっている間掃除をしてなかったそうだ...」
「ええ...」
「家賃が通常より安いのは掃除が必須だったのもあるみたいだな。外観がしっかりしているから私も安心し切ってしまった。不覚だ...」
世の中そんなにうまい話はないってことか...。
「えっと確認なんですけど、掃除すればちゃんと住めるんですよね?」
「ああ、家具や魔法道具などは問題なく使えるはずだそうだ」
「はずって...大丈夫なんでしょうか?」
「流石にそこまで嘘だったら私達が動かなくてはいけないからな...」
そりゃそうですよね。立派な詐欺になっちゃうし。
だが、そうなればやる事は1つだ。
「それじゃあ僕が掃除します。これから自分が住む家なので」
結局掃除してしまえば万事解決するなら、それをするしかないからね。
僕が掃除のためにもう1度家に入ろうとしたところで、エンさんは僕の肩に手を乗せた。
「待てミル。私も協力するぞ」
「でもエンさんはまだ仕事があるのでは?」
「元はと言えば、私が確認しておかなかったせいだからな。責任は取らせてもらう」
「...それではお言葉に甘えさせてもらいます」
実際、僕1人でこの二階建ての家を掃除するのは辛いと思っていたからエンさんの言葉はありがたかった。
「待ってミル、私も忘れないで欲しいわね」
エンさんに続いて、僕の後ろにいたシィが声を上げた。
「でもシィには僕の家を掃除する理由なんて無いし、頼むのは悪いよ」
「それはそうだけど、ミル、私達は明日魔物の討伐をするのよ。家の掃除で疲れ切って明日、まともに戦えなかったら困るわ」
「流石にそこまで無茶して掃除はしないよ...」
「でもあんたのことだから、どうせエン姉に遠慮して早めに帰すつもりでしょ? それなら最初から3人でやって早めに掃除を終わらせた方が得よ」
「それはそうだけど...」
「ま、今ので理由が不十分だって言うなら、これは貸しにしとくからいつか返してくれればいいわ」
「...うん、分かった。じゃあシィにもお願いするね」
ここまで言ってくれたのだから断ったら逆に失礼だろうし。ここは素直にシィの好意を受け取っておこう。
「よし、開けるよ」
僕は再び家のドアを開ける。
あまり埃を吸い込まないために手で口を覆いながらゆっくりと家の中を歩いて掃除道具を探す。
僕と一緒に入ったシィとエンさんと協力して3人で家の中を歩き回る。
歩きながら家の中を見てみるとテーブルやタンスといった家具はちゃんとあった。埃を被ってるけど...。
「お、あったぞ」
エンさんが棚の中からハタキと箒、雑巾を取り出して僕達に見せた。
「じゃあ私が箒を使うわ」
シィが箒担当になったので、僕は雑巾を担当することにした。
「じゃあ僕が雑巾を使うのでエンさんはハタキで高いところの埃を落としてください」
「ああ、了解だ」
残念ながら僕よりもエンさんの方が身長が高いから適役だからね。もうちょっと身長欲しいなぁ...。
それぞれの担当が決まったところで、僕達は家の掃除を開始した。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「ふぅ、終わった...」
僕は床にへたり込みながら、掃除をし終えて綺麗になった家を見回して呟いた。
家の中に備え付けられてあった時計を見てみると、現在の時刻は12時半過ぎだった。
3人でやったおかげでなんとか昼過ぎには終わらせることが出来たか。
「結構広かったわねこの家。意外と骨の折れる作業だったわ」
シィも僕と同じように疲れた様子で椅子に座っていた。
本当、1人でやってたら日が暮れてたかもなぁ...。
「2人ともお疲れ様だ」
エンさんはばてることなく平然と立っていた。やはり騎士団長だけあって鍛え方が違う。
「私は城に戻っているぞ。2人とも、もう今日は明日に向けて休んでおくといい」
僕らにそう告げてから、エンさんは僕の家から出ていった。
僕はとりあえずシィと昼食について考えることにした。
「まだ昼食を食べてないけど、今日もレストランに行く?」
「いえ、今日は作るわ」
「作る? 自炊するってこと?」
「そうよ」
驚きだ。シィも自分で料理を作ったりするとは思っていなかった。
「じゃ、僕はレストランに行こうかな」
「いや、あんたも私の家で食べるのよ?」
「え?」
おかしい、今の話を聞く限りそんな展開にはならないはずだけど。
「ほら言ったでしょ、私の家の場所も教えておくって。そのついでよ」
「あぁ、そういうことか」
そういえばそんなことを言っていたけどあれは本気だったのか。わざわざ僕に家の場所なんて教えたりしないと思ってたのに。
「それじゃ、とっとと行きましょう。もうすぐ1時になっちゃうし」
「うん、そうだね。料理の材料は大丈夫?」
「2人分くらいあると思うわ」
「そっか、それなら行こうか」
僕らは家を出ると、鍵を閉めたことを確認してシィの家へ向かった。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「ち、近い...」
シィの家に着いた僕であったが、なんとシィの家は僕の家の向かいの通り上にあり、僕の家から徒歩3分程の位置だった。
「本当よ。私もあんたの家に来て驚いたわ」
シィが鍵を開けながら言う。
ま、これだけ近いなら確かに連絡がある時とかは便利そうだけどね。
「さ、上がって」
「おじゃまします」
シィの家の中は女の子らしく綺麗に整頓されていた。1階が広間になっているので自室は2階にあるのだろう。
「じゃ、そこに座ってて。暇なら本棚の本を適当に読んでてもいいから」
シィがテーブルの横に置かれた椅子を指差す。
シィが読んでいいと言ったので、適当に本を取って座ることにする。
本棚には色々な本があった。剣術の本が多いが、僕が読んでも仕方ないのでとりあえず『銀狼になりし少年』という小説を手に取って椅子に戻る。
その小説はタイトルに銀狼こそ入ってはいるが、始めは普通の小説の平和な日常や恋模様が展開されていた。この少年に何かがあって後々銀狼になってしまうのだろうか。
「さ、出来たわよ。といっても味付けしてお肉を焼いただけだけど」
「おお、美味しそう」
小説についての考察をしているうちに、シィが焼かれた肉をお皿に乗せて持ってきた。
「明日は魔物の討伐だし、スタミナがつきそうなものにしたの」
「うん、ありがたいよ」
シィがナイフとフォークをお互いの手元に並べると、僕らは声を合わせて一言。
「「いただきます!」」
そう言うと、僕らはナイフとフォークをとり、目の前の肉を切り始めた。
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