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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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1話 『思っていたものと違った力』

2話も本日中に投稿します。

 目が覚めるとそこは森だった。

 最初は頭がボーッとしていたが、すぐに自分が元の世界で死んでから転生してこの世界にやって来たことを思い出す。


 改めて自分の服装を見ると、それは元の世界での服装ではなく布の服にズボン、それにもう一枚上着を羽織った格好だった。

 そして背中にはリュックがあり、その中には大量の金貨、銀貨、銅貨が入っていた。神は僕が転生した時にお金を渡すと言っていたがこれの事だろう。


そういえば神は僕になにか一つ力を与えてくれたんだよな。


 僕は周りに人がいないことを確認してから、僕は右手を前に突き出して手のひらを大きく広げて叫んでみる。


火炎(フレイム)!」


 ……何も起こらない。いや、僕の声に驚いて木に止まっていた鳥達が飛び立ちはしたが、炎が発生することは無かった。

 僕は考え直してみる。

 もしかしたら炎じゃなかったのかも知れないと思い、再び手を前に突き出して手のひらを広げる。


(サンダー)!」


 再びむなしい沈黙が訪れる。

 僕はまた考え直し、今度は「吹雪(ブリザード)」を試してみようかと思い、再び手を前方に突き出そうとしたとき、ガサッという、何かが森の落ち葉を踏んだような音が聞こえた。

 僕は驚き、音が聞こえてきた方向を見る。


 そこでは、木と木の間から僕と同じくらいの歳の少女が、こちらを見て、


「あ…あの…」


と声を出していた。


 ま、まずい……。

 明らかにこの子は困惑している。どうやら僕は魔法を唱えることに夢中で人の接近に気づいていなかったらしい。

 このままだと僕は森で叫んでる変な人だと思われてしまうだろう。

 僕はとにかくこの状況を打開しようと、困惑した様子の少女に事情を説明しようと考える。しかし、「ほかの世界から来た」なんて言えば、いっそう僕の変な人レベルは上がってしまうだろう。


 とりあえずここでは旅の者だという事にしておこうと思い、口を開く。


「あ、えっと、僕は旅をしている者なんだけど、道に迷っちゃって。だから誰かを呼ぼうと思って、大声を出してたんだ……」


 苦しい。苦しいよこの言い訳。

 恐る恐る少女の顔をよく見ると、少女は僕の目をじっと見ていた。

 これは確実に怪しんでるなぁ。いや、当たり前だけど。

 僕が、せめてこの世界での警察的な役割の人を呼ばれずにここを抜けれないものかと願っていると、少女の口からは思っても見ない言葉が返ってきた。


「わ、わかりました。私でよければ森の出口まで案内しますよ?」


 なんと僕を森の出口まで案内してくれるというのだ。声は若干怯えている感じもするが。


 僕は少女にもう一度確認する。


「えっと、本当にいいの、案内してもらって?」


 少女は答える。


「は、はい。私はこの近くの街に住んでいて、この森には果物やキノコを取りに来ました。私もちょうど帰ろうと思っていたので」


そう言うと少女はこちらへやって来る。少女がこちらへ来たことで、これまで木の影でよく見えなかった少女の姿が良く見えた。

 少女は肩ほどまでの長さの栗色の髪で、服装は白いワンピースの様なものを着ており、果物などが入ったカゴを持っていた。体は細くやや小柄だ。

 と考えてから、僕は初対面の人をジロジロ見てる事を思い出し、目をそらした。

 少女はまだ不思議そうにこちらを見ていた。もしかしたらこの娘は僕のことを不思議そうに見ているというより、元々こういうほんわかした雰囲気の娘なのかもしれない。


「では行きましょうか」


 少女の声に答えるように僕は頷く。

 だけど行く前に一応名乗っておこうと思い、僕は少女に再び話しかける。


「あ、僕の名前は秋風み……」


 そこまで言ったところで、僕の言葉は止められた。


  グオオォ……


 僕達の後ろからかなり大きな音、いや、声のようなものが聞こえてきたからだ。

 僕と少女は驚き、ハッと音の聞こえる方を向いた。


 そこでは鎧を纏った、全長二メートル程はある黒騎士が、黒い霧のようなものから現れているところであった。

 黒騎士は僕と少女の方を見ると、ゆっくりとこちらへ歩き出してきた。

 

 僕は本能的に危険を感じ、まだ状況が理解出来ていない少女の手を取って駆け出した。

 どちらが出口かは分からなかったが、とにかくこの黒騎士の近くにいるのは危険だと思ったからだ。


 しかし僕達が逃げようとした方向の木々は、僕達の後ろから飛んできた火の玉によって炎を上げた。

 後ろを向くと黒騎士が本のようなものを左手に持っていた。先程の火の玉はそこから現れたものらしい。更によく見ると右手には既に腰の鞘から抜かれた黒い剣を持っている。


 前方には燃え盛る木々、後方には迫る黒騎士。僕達は左右のどちらかに逃げようと思ったがどちらの方向の木々も黒騎士の放った火の玉によって瞬く間に炎を上げる。


 そして僕は次に火の玉を放たれたらもうかわせないことを悟った。


 ……しかし何故かそれ以降火の玉が放たれなくなった。


 黒騎士の方を向き直すと持っていた本が消滅している。

 原因不明の幸運だったが絶体絶命な事に変わりはない。黒騎士は右手に剣を持ち、こちらへと接近してくる。

 せめて男として少女だけは護ろうと思い、僕は少女の前に立つと自分の後ろの少女に向かって叫ぶ。


「君は出口が分かるんだよね? ここは少しでも僕が時間を稼ぐからせめて一人で逃げて!」


 しかし少女はまだ状況がしっかりと飲み込めていないようで足はガタガタと震え、地面に座り込んでしまっていてとても一人で走って逃げられるようには見えなかった。


 そしてそうしているうちにも黒騎士は更に迫る。

 僕は少女が早くまともに走れるようになる事を願いながら、ヤケクソ気味に黒騎士の方へ駆け出す。

 右手を強く握り、黒騎士に向かってに大きく振りかぶる。

 黒騎士は殴りかかってきた僕に向かい、右手に持った剣の刀身をゆっくりと振り上げる。


 おそらくこれが振り下ろされたとき、僕は死ぬのだろう。こっちの世界に来てから1時間、いや、30分ほどだろうか。とにかく短い人生だった。


 悲しみにくれる僕だったが防衛本能でその拳が目指す対象を黒騎士本体から振り下ろされつつある剣へと向け直していた。


 死にたくない……()()死ぬのは嫌だ。

 僕の心の内にはそんな思いがあった。


 剣が完全に振り下ろされるよりも先に僕の拳が黒騎士の剣の刀身に当たる。


 その時、ありえないことが起こった。


 僕の拳が刀身に触れた途端、その刀身には激しくヒビが入った。そのまま僕が拳を振り抜くと刀身のヒビは更に大きくなり、やがてその剣は粉々に砕け散ってしまった。


 僕は呆気に取られ、慌てて一度黒騎士から距離を取ろうと足に力を込める。

 そこで僕は自分の体の違和感に気づいた。


 体が異常に軽い。


 いや、体重が軽くなったというより、体の筋力が跳ね上がってより軽快に動けるようになったといったところか。

 僕は少々後ろに飛び退くだけで黒騎士との距離を充分取ることが出来た。


 黒騎士の方を見ると、黒騎士は自分の武器を失い、完全に動きが停止していた。


 今なら……いける!


 そう思った僕は再び黒騎士に向かって駆け出し、右手を握る。

 武器を失い、鎧以外に身を護る方法の無い黒騎士に向かって僕は握りしめた拳で殴りかかる。

 僕が黒騎士の着ている鎧を殴ると、先程の剣と同じように激しくヒビが入る。

 それを確認して僕は、


「うおおおおおおお!」


と叫びながらその拳を更に押し込む。すると黒騎士の大きな体は僕の拳によって後方へ大きく吹き飛ばされた。

 黒騎士の体はそのまま後方の木の幹に激突する。すると、黒騎士の体を現れた時と同じ黒い霧が包み込んだ。


 その黒い霧が晴れると黒騎士の姿は完全に消滅していた。

 僕は完全に呆気にとられていたが、すぐに少女のことを思い出して振り返った。

 少女はまだ震えながら地面に座り込んでいた。おそらくこういった状況に慣れていないのだろう。……それは僕もだけど。

 更に驚いたことに、先程まで轟々と燃えていた木々は酷く焼けてしまってはいたが、火は既に消えていた。黒騎士を倒した影響だろうか。


「歩けそう?」


 僕はそう少女に声をかけた。


「は、はい」


 少女はそう答えて、まだ震える足でゆっくりと立ち上がろうとする。

 震える足じゃ危ないだろうと思って僕が少女に手を貸すと、少女はその手を取って立ち上がった。


「す、すみません。助けていただいて。」

「いや、別にいいよお礼なんて。そもそも僕もどうしてあいつを倒せたかよく分からないし……」

「でも、あなたがいなかったら私は今頃あの黒騎士に殺されてしまっていたと思います。本当にありがとうございました!」


 少女は僕に向かって大げさすぎるほど深々とお辞儀をする。 


「あ……と、とりあえず頭を上げて?」

「あ、はい」


 少女は僕がそう言うと顔を上げる。その顔にはさっきまでの怯えていた表情はなく、笑顔を浮かべていた。

 僕はその笑顔を見て、護ることが出来て良かったと心から思う。


「でもまだこの森はまだ危険かもしれない。とりあえずここを出よう」

「そ、そうですね」


 僕はそう言うと森の出口へ歩き始めようとする。


 が、そもそも僕は森の出口を知らないんだった。


「えっと、ごめん。出口まで案内してもらえるかな?」


 僕が苦笑いしながら少女に話しかける。


「はい、もちろんです!」


 少女は先程より更にいい笑顔で返事をしてくれた。


 そして僕は結局まだ名乗れていないことを思い出す。


「そういえばまだ名乗ってなかったね。僕は秋風 見留(あきかぜ みる)

「私は、リース・プリマヴェーラと言います。秋風 見留…少し不思議なお名前ですね」


 どうやらこの世界ではこの名前は珍しいものらしい。一応僕は多少言い訳しておく。


「あ、えっと、僕の国ではこういった命名のしかたなんだ。プリマヴェーラさん」

「そうなんですか。あと私は『リース』で構いませんよ。私の方が年下みたいですし」

「え、プリマ……いや、リースは何歳なの?」

「私は十六歳ですよ、アキカゼさん」

「そうか、じゃあ確かに僕の方が年上だね。僕は十七歳。…まぁ1歳違いだけどね。あと僕の事もミルでいいよ」

「わかりました。ではそろそろ行きましょうか、ミルさん」

「ああ、行こう、リース」


 こうして互いの振興を深めてから僕は少女と共に、森の出口へ向かって歩き始めた。


 それにしても、さっきのが僕の『力』なのだろうか?

 僕はもっと炎だとか雷だとかをイメージしていたから、そうだとしたら……なんか思っていたものと違う……

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