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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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17話 『迷子探し』

「えっと、まずはその迷子になった娘さんの特徴を教えて貰えませんか? 探す時の手がかりにしたいので」

「は、はい。娘は『リリア』といって、赤いワンピースに黄色いリボンを頭につけています。身長は皆さんの腰くらいの高さだったと思います」

「はぐれたのは商店街でしたよね?」

「はい、そうです」


 僕はシィの方を向く。


「よし、じゃあシィはこの方と一緒に商店街の方へ行ってもらえるかな? 僕は商店街から少し離れた所を探してみるから」

「分かったわ」


 僕がシィに提案すると、シィは簡単に了承してくれた。やはりシィもここは分かれて行動した方がいいと思っていたようだ。


「それじゃあまた後で」

「ええ」


 僕と、母親を連れたシィはそれぞれが目指す方向へ走り出した。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 シィと分かれた僕はまず公園へ向かっていた。

 迷子になった子がとりあえず待機するとしたら公園あたりかなと思ったからだ。

 ただ、ここは商店街からは若干離れているし、まだここまでたどり着いてない可能性も高いけど。


 公園の中が見える位置まで来たので、公園内を見てみるとそこには異様な光景が広がっていた。


 大量の猫たち、そしてそれらに囲まれてしゃがんでいる青い髪の少女。

 さらにその少女には見覚えがあった。


「スノウ、何してるの?」


 僕は公園内に入って、猫に囲まれたスノウに話しかけた。


「...あ、ミル、おはよう。...気がついたらこの子達が集まって来た」


 スノウはしゃがんだ姿勢のまま、僕の方を振り返って答えた。


「何か心当たりはある?」


 流石に何もせずこんなことになる訳ないだろうから、僕は好奇心で聞いてみた。


「...魔法」

「魔法?」

「...うん、魔法の練習に私の周りの空気の温度を低下させてた」

「それに反応して来たってこと?」

「...だと思う。最近暑くなって来たし」

「なるほど、涼しい所を求めてやって来たんだね」


 確かに自分がこの街に来た日に比べ、今日は朝からやや暑い気がしていた。もしかしてこの世界にも四季の概念があるのかな?


 ...って、今はそんな話をしてる場合じゃない!


「スノウ、この辺りで赤いワンピースで黄色いリボンをつけた子を見なかった?」

「...ううん、見てない」

「そっか...」


 自分のカンは外れていたようだ。だったら次はもっと商店街に近いところに言ってみよう。


 僕が公園を出ようと振り返りかけたところでまた1匹、猫が公園にやってきた。

 スノウは自分の元へやってきた猫の首を撫でながらそっと呟いた。


「...この子達、皆商店街の方からやってくるんだよね。野良っぽいけど餌付けでもされてるのかな」

「商店街には食べ物を扱っている所も多いし、余ったものでも貰ってるのかもね。それじゃあスノウ、悪いけど僕は...」


 もう行くよ、と言おうとしたところで僕はある事に気がついた。


 もしかしたら、リリアちゃんを見つけられるかも知れない...!


「スノウ、悪いけど来てもらえるかな」

「...いいけど、どうして?」

「理由は後で話すよ、今は急いでるんだ」


 そう言うと、僕はしゃがんだ状態のスノウの手をつかんで商店街の方へ歩き始めた。


 小さい子は猫とか、もっと小さな生き物でいえばアリとかを無意識に追いかけてしまうものだ。実際、僕の妹がそうだった。

 あくまて仮定だけど、リリアちゃんが商店街で見かけた猫について行ってしまった可能性だってある。

 でも、スノウの所にいなかったということは公園とは別方向に行ってしまったということだ。


 ならば、こちらから出向いてしまえばいい。


「スノウ、わざわざ連れてきたのにさらに頼みごとして悪いんだけど、ここでまたさっきと同じ魔法を使ってもらえないかな?」

「...ここで?」


 僕がスノウを連れてきたのは商店街の比較的近くの日当たりがいい通りだった。


「うん、お願い」

「...分かった」


 スノウは僕のお願いを了承すると、魔法を使い始める。

 スノウの隣にいた僕も、スノウが使用した魔法によって空気がどんどん冷やされているのを肌で感じた。


 数分経ち、1度場所を変えてみようかと思ったところで路地から1匹の猫が現れた。

 そしてその猫の後ろには、猫をじっと見つめながら追いかける、赤いワンピースで黄色いリボンをつけた少女の姿があった。


 僕はその姿を見つけると、すぐさまその少女の下へ向かった。


 僕が少女の前に現れると、少女はきょとんとした顔で僕を見上げた。

 出来るだけ警戒心を与えないように、僕は膝を曲げて少女と同じ目線の高さで話しかける。


「君がリリアちゃんだね?」

「えっと、そうだけど...お兄ちゃんだぁれ?」

「僕は魔法騎士団のミル。君のお母さんに迷子になった君を探してくれないかって頼まれて君を見つけにきたんだ。ほら、このバンダナ見たことないかな?」


 僕は自己紹介すると自分の右腕に巻かれた騎士団の証である真紅のバンダナをリリアちゃんに見せた。


「お母さんが...って、あれ? ここどこ?」


 少女は不安そうな顔でキョロキョロと辺りを見回した。やっぱり無意識に猫についてきちゃったみたいだ。


「大丈夫、お兄ちゃんが君をお母さんの所へ連れていってあげるから」


 僕は安心させるために、リリアちゃんの頭を撫でながら笑顔で言った。


「うん、分かった。ありがとうお兄ちゃん!」


 そう言ってリリアちゃんは笑顔を浮かべた。


「...その子を探してたんだ」


 後ろからスノウがこちらへやってきながら言う。先程の空気の冷たさは無いし、事情が分かったから魔法は解除したみたいだ。


「うん、そうだよ。協力してくれてありがとね。このお礼はまた今度するよ」

「...お礼はいい。これは昨日道案内してもらった私からのお礼だから」

「そっか。それならありがたく受け取っておくよ。それじゃあ、僕は今からこの子をお母さんの所へ連れていくけど、スノウはどうする?」

「...私も行く。一応最後まで見届けたいから」

「うん、分かった」


 スノウの返事を聞いてから、今度はリリアちゃんの方を向く。


「それじゃあリリアちゃん、お母さんのところへ行こっか」

「うん!」


 僕はリリアちゃんの手を握り、シィと母親がいるはずの商店街の方向へ歩き出した。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「本当にありがとうございました」

「ありがとう!」


 再開した親子は俺とシィとスノウに向かって、深々と頭を下げてお礼を言った。


「いえいえ、これも騎士としての仕事なので。......でもリリアちゃん、今度は勝手にお母さんから離れていったりしないようにね」

「うん!」


 リリアちゃんは力強く答えた。いい返事だ。


「それでは、私たちはこれで」

「じゃあね、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


 親子は手を繋ぎながらまた商店街の方へ消えていった。



「ふぅ、一件落着ね」

「そうだね、まぁ良かったね。きちんと迷子探しが出来て」

「そうね、それにしても猫について行っちゃうなんて...。やっぱり小さい子って自由奔放なものね」

「だね。スノウがいなかったらもっと時間がかかってたかもね」

「...役に立ったなら良かった」


 そんな話をしながら僕達3人はまた街を歩き回っていた。

 まぁスノウは魔法騎士団じゃないけど...。


「っと、もうお昼時ね」


 ちょうど時計が見え、シィが立ち止まって言った。

 自分もその時計を見てみると、確かにもう正午近くだった。


「そろそろお昼にしようか」

「そうね。で、あんたはまたあの子に作って来てもらうわけ?」

「いや、今日は何処かのレストランで食べようと思ってるよ」

「...あの子?」


 スノウが首をかしげて聞いてきた。


「えっと、その子にはとりあえず僕の家が見つかるまで家で住ませてもらってるんだ」

「...ふぅん、そうなんだ」


 あれ、聞いたわりに興味無さそうだ。まぁ他人の事情への興味なんてそんなもんか。


「それでレストランなんだけど、シィ、どこかいい場所ないかな? 僕よりは街に詳しいよね?」

「私が行く場所があんたの口に合うかは分からないわよ」

「僕はあんまり好き嫌いないから大丈夫。スノウもシィが決めた場所でいい?」

「...ごめん、私今日の昼食は宿でとる予定だから」


 ああ、宿屋の朝食と昼食がセットになったコースで泊まったのか。


「そっか、じゃあ残念だけど一旦お別れだね」

「...うん、じゃあ行ってらっしゃい。」


 そう言ってスノウは去っていった。


「それじゃあ、僕達も行こうか」

「そうね、これからどんどん混んでいく時間になるし、早く行くわよ!」


 そう言って、シィは小走りで先に行ってしまう。


「うわ、いきなり走り出さないでよ!」


 僕は慌ててその背中を追いかけた。

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