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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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16話 『手助け』

「...あのさスノウ、まだ何か用があるの?」


 僕は自分をつけている相手がスノウであるという確信を持ち、その名を呼びながら振り返った。


「...あ、気づいてたんだ」


 僕の数メートル後ろを歩いていたスノウは、突然僕が振り返ったことに若干驚いているようだった。


「流石にずっと後をつけられてたら誰でも気づくと思うよ」

「...じゃあどうして私だと分かったの」

「スノウの靴、少し上げ底だから音が普通の靴よりも特徴的だからね」

「...ああ、そっか」


 それを聞いてスノウはかかとを鳴らし、その音を再確認する。


「それで本題に戻るけど、どうしてついてきたの?」


 地面を叩く仕草を止め、スノウは僕の方を向き直して真剣な顔で答える。


「...迷った」

「...え?」

「...迷ったの」


 いや、2回言わなくても分かってるけど。

 結構真剣な顔で言ってるし本当に迷っちゃったみたいだな...。


「えっと、宿に戻る道が分からないってことでいいのかな?」

「...うん」


 ま、困ってる人を助けるのが騎士団の役目だし、これもお務めの1つだよね。


「それじゃあもう1度連れていくからついてきてね」

「...うん、ありがと」


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 さっき来た道を戻り、スノウに紹介した宿屋を目指して歩くこと数分、ようやく僕達は目的地へ到着した。


「とりあえず着いたけど、さっきの場所からここまでの道は覚えられた?」


  僕は宿屋の看板の前で一応スノウに確認してみる。


「...なんとなく」


 なんとなくかぁ...。


「ま、まぁまた道が分からなくなったら言ってよ、出来る限り案内するからさ」

「...ありがとう。...ごめん、方向音痴で」


 スノウがうつむいて呟く。そういえば森でも迷ってたみたいだし、結構気にしてるのかな...。


「大丈夫、人間誰しも苦手なことの1つや2つあるよ。 僕だって料理とかそういった家庭的な事は出来ないし。それにほら、スノウはあんなに強力な魔法が使えるじゃないか」

「...でもあんまり使う機会無い」

「暑い時に使えば涼しいよ、さっきみたいにさ」

「...本来の用途じゃない。...あー、騎士団に入って魔物と戦えればなー」


 スノウ、そんなチラチラ僕の方を見られても僕に騎士団に入れる権利は無いよ...。


「まぁ、また道に迷っても言ってくれれば出来る限り案内するからさ」

「...任せた」


 スノウは僕に向けてグッと親指を立てる。


「いや、出来れば自分で覚えてね...」


 いつでも僕が暇だとは限らないからね。


「えっーと、宿に泊まるためのお金とかは大丈夫だよね」

「...流石にそこまで迷惑はかけないよ」

「なら良かった。じゃあ僕は帰るけど、また道に迷われても困るから出来たら夜は出歩かないようにね」

「...うん、今日はありがと」

「どういたしまして」


 別れの挨拶を終えて、一応スノウが宿の中に入るのを確認しておく。...流石にもう大丈夫だろうけど。


 スノウが宿に入るのを見届けた僕は今後こそ僕自身の帰路につく。帰り道に見かけた時計を見ると既に7時近くであった。


 それにしてもお腹空いた...。今日の夕食はボリュームがあるヤツだといいなぁ。


 なんてことを考えつつ、僕はいつも通っている道を進みリースの家に辿り着く。


「リース、ただいま」


 僕がそう呼びかけながら扉をノックすると間もなく扉の中からリースが顔を出す。


「リース、今日の夕食は何かな!?」


 僕は家の中へ入ると同時に、柄にもなく若干興奮気味のテンションでリースへ問いかけた。


「えっと、スパゲッティを作ろうと思っていたんですが、2人分の麺がなくて...。さっき買い終えた所なんです」


  そう言ってリースはテーブルの上に乗った紙袋を指差す。


「そ、そうだったんだ...」

「はい、今から作りますね!」



 結局僕が夕食を口にすることが出来たのはさらに30分後のことだった...。


 肝心のスパゲッティはボリュームがあって美味しかったけどね。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 さて、今日も頑張るかな。


 肩に騎士団のバンダナを結びつけた僕は、朝食を食べるためいつものように階段を降りる。


 今はこうして寝泊りやご飯をリースにお世話になっちゃってるけど、出来れば早いところ自分の家を探さないとなぁ。


 階段を降りながらふとそんなことを考える。


 近々安息日があるはずだからその日にでも色々見てみようかな。今のところ特に予定も無いし。


 なんとなくの予定を立て、リビングへとやってきた僕はキッチンで作業しているリースへ声をかける。


「おはよう、リース」

「あ、ミルさん、おはようございます。もうすぐ出来るので座って待っていて下さい」


 リースに促された通りに、僕は椅子に腰掛ける。

 すぐに、リースがキッチンからパンとスープを持ってくる。もちろんスープは出来たてで、ふわふわと白い湯気がたっていた。


 リースが食器を並べ終えて椅子に座ると同時に、僕達は手を合わせて一言、


「「いただきます!」」


 目の前に並べられて分かったが、リースの持ってきたスープはトマトをベースにしたものだった。玉ねぎやキャベツといった野菜も入っており、体に良さそうで大変ありがたい。


「あの、ミルさん」


 僕がスプーンでスープをすくって口に運ぼうとしたところでリースが申し訳なさそうに口を開く。


「うん、どうしたの?」


 スプーンを持ったまま会話するのもみっともないので、僕はすくった分だけ飲み干してから答える。


「えっと、今日はお昼に用事があるので昼食は届けられなそうです」

「うん分かったよ。昼は適当に街で食べるから心配しないでいいよ」


 街にはレストランなどもあるし食事には困らないはずだ。


「それよりもし森に行くなら気をつけてね。というか今は出来る限り1人では森で森に行くのは止めておいた方がいいよ。最近魔物が増えてきてるそうだから」

「いえ、今日は前に森で採った果物を果物屋さんに渡しに行くだけなので大丈夫ですよ」

「そっか、それなら良かった」


 僕は安心して食事を再開した。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 朝食を食べ終えた僕は、リースに感謝を告げてから家を出た。


 今日はシィ、早く来るかなぁ。昨日みたいなトラブルがなければ集合時刻には来ると思うけど、まだ10分以上前だからなぁ。


 そう考えながら待ち合わせ場所である橋の前に差し掛かると、既にシィは橋の前に立っていた。

 僕はシィに駆け寄って声をかける。


「シィ、今日は早いね」

「元々昨日のこともあったから早めに出ようと思ってた上に、エン姉が起こしに来たから」


 シィがふわぁ、とあくびをしながら答える。

 しかし、起こしに来たっていう割には周りにエンさんの姿は見えなかった。


「あれ、エンさんは?」

「エン姉ならまだこの前の魔物について会議をするらしいからいないわよ」


 ということは城にいるんだな。昨日から続くってことはやっぱりかなりの緊急事態だったりするのかな。


「ま、元々は僕達2人でのペアだから、2人だけで仕事することにも慣れないとね」


 例えば、街の人たちとの会話とかはエンさん無しでもきちんとこなせるようにしておかないと後々困りそうだなぁ。


「ああー...。まぁそうね」


 シィはなんだか乗り気ではなさそうだった。


「とりあえず2人とも集まったわけだし、昨日みたいに街の見回りから始めようか」

「そうね」


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「ねぇ、騎士ってどうしてこうやって2人で一緒に行動するのかしらね?」

「え?」


 街のパトロールを始めてから数分、隣を歩くシィが突然問いかけてきた。


「えーっと、どうしてそう思うの?」

「だって、見回るだけだし2人がわざわざ同じ所を歩いても効率悪いだけでしょ?」

「確かに一理あるけど。...そうだなぁ、例えば僕やシィがひとりで歩いてても、遠目じゃあんまり威圧感無いでしょ? 同じバンダナをした人が2人揃って歩くことで始めて犯罪を抑制するだけの威圧感が出せるんだよ!」


 凄い、とりあえずシィを納得するためとはいえ、よくこんな次々と適当な言葉が出てくるものだ。我ながら関心してしまう。

 まぁ本当の理由はまたエンさんに聞こう。


「威圧感ねぇ...」

「ま、2人でした方が効率が良さそうな時は分かれて行動すればいいんじゃないかな」


 そんなことを話しているうち、僕達の前に30歳ほどの女性が息を切らして走り寄ってきた。


「ど、どうしたんですか!?」

「す、すみません、先程商店街で娘とはぐれてしまい辺りを探しても見つからなくて......。どうか探すのを手伝って頂けないでしょうか!?」


 僕もシィも、もちろん断るつもりなんて無かった。

 そして僕達は同時に直感する。


 今こそ、さっき言ったような『分かれて行動』すべき時なのだと。

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