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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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15話 『3人で見た景色』

「...それじゃあ、通行証貰ってくる」


  僕達が関所に着いたところで、スノウはストファーレの通行証を発行してもらうために受付に向かった。


  スノウが通行証を受け取るまでの間に、僕が騎士団に入る前、魔法を使う黒騎士に出会っていた事を2人に話しておくことにした。この黒騎士も最近この辺りで危険な魔物が増えていることに関係しているはずだと思ったからだ。


 僕は僕と同じように関所の前でスノウを待っているエンさんに話しかける。


「エンさん、少し話があるんです」

「ん、なんだ?」


 僕はそう言ってから、シィにも声をかける。


「シィも来てもらっていいか?」

「何? なんかあったの?」


 シィがこちらへ来たところで、僕は黒騎士のことを話し始める。


「僕も、前に魔法を使う魔物と出会った事があるんです」

「何っ、それは本当なのか!?」


 エンさんが驚いて問いかけた。僕は続ける。


「はい、その魔物もこの辺りの森で出現しました。3日前のことです」

「3日前、ということはその時には既に危険な魔物の発生が始まっていたということか......」


 エンさんは手を顎にあて、深刻そうな顔をした。


「てか、そんな奴と出会ってよく逃げ切れたわね。下手すると死んでたわよ...」


 シィがそう言ってきたので、あの黒騎士を倒すまでの経緯も話しておく。


「いや、逃げたんじゃない。倒したんだ」

「た、倒したの? あんた1人で?」


 厳密には僕1人しかいなかった訳では無いけどね。ただ戦ったのは僕だけだし、1人で倒したようなものか。


「うん。途中でその魔物、弾切れを起こした見たいに魔法を使ってこなくなったからなんとか倒せたよ」

「私達人間も連続で魔法を使用し続けると魔力が切れて魔法が使えなくなる。それと同じような感じだろうな」


 エンさんが冷静に分析を行う。

 というか、やっぱりゲームとかと同じで魔法は無限に使える訳では無いんだ。


「...通行証貰った」

「うわっ!?」


 僕がその話をし終えたところでいきなり僕の背後にスノウが現れたので、僕は驚いて声を上げてしまった。


「なんだ、スノウか。いきなり後ろに現れないでよ、驚いたじゃないか」

「...ごめん、昔からあんまり足音立てないで歩いてたから癖になった」


 まぁ癖は仕方ないにしても、背後からのその口調は心臓に悪いよ...。

 

「ま、通行証が発行できたなら、早速街に入ろうか」

「...うん」


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 街に入って時計を見てみると既に午後5時頃であった。日は沈み初め、街はすっかり夕暮れ色に染まっている。


「ミル、シィ、先ほどの牧場の者達には私から魔物を討伐したことを報告しておく」

「はい、了解しました」


 まぁ街の人の顔とか住所とかよく分からない僕達じゃ探すだけで一苦労だしね。


「その後は城に戻って最近の危険な魔物の発生について話し合わなくてはいけないから、多分今日は2人の下へ戻って来れないと思う。だから2人はスノウにこの街を案内しておいてくれ。 歳が近い者同士の方が話しやすいだろうしな」


 そう言うとエンさんは街の奥の方へ歩き出した。...が、少し歩くと何か思い出したように僕達の方を振り返った。


「そうだ、前に説明した時にも伝えたが勤務時間は6時までだ。だからスノウに街を案内し終えたら解散していいからな」


 そう言うとエンさんは再び歩き出し、街の奥へと消えていった。


 残された僕はとりあえずシィにスノウをどこを案内するか相談しようと思い、シィを僕の所へ呼ぶ。


「シィ、ちょっと...」


 僕は手招きしてシィをこちらへ来るように促す。


「何? また何か用?」

 

 シィがこっちへやって来ると、僕は小声でシィに問いかける。


「なぁ、スノウに街を案内するんだけどどこかいいところないか? 僕が案内したいところなんてほとんど無いんだけど」

「ああ、あんたがこの街に来たの最近だったわね。でも、悪いけど私もこの街に戻って来たのは最近だから、あんまり詳しくは分からないって言ったわよね。簡単に紹介出来るところなんて主要な施設くらいよ」

「ま、まぁ街にある施設を紹介することも案内になるよね...」

「ええ、まぁそれでいいんじゃない?」


 よし、話はまとまった。

 僕とシィはヒソヒソ話し合っているこちらを不思議そうに眺めていたスノウの方を向き直す。


「よ、よし、スノウ。今から僕達がこの街を案内するからね!」


 僕は自分の胸を叩いて自信ありげに言う。

 まぁ騎士がろくに街の案内も出来ないだなんて、悟られたら恥ずかしいからな...。


「...うん、ありがと」


 さっき三人で話し合ってた時もそうだけどスノウがあんまり詮索しないタイプの人で良かった...。


「全く、期待されても困るわよ...」


 僕の隣のシィがやれやれといった口調で呟いた。

 ごめんシィ、これもこの街の騎士団の名誉を下げないためなんだ...。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


  「そしてここが宿。泊まるんだったらここがいいと思うよ」


 一通り街の案内を終え、僕は前に自分が宿泊した宿をスノウに紹介していた。

 紹介したといっても、僕が案内したのは商店街くらいで、他は病院、行き付けの武器屋やレストラン、子供の時によく行っていたという美容院などをシィが案内するといった感じだったからほとんどシィにおんぶにだっこ状態だった。


「どう? これでだいたいの施設の場所は分かった?」

「...うん。多分」

「多分って...。まぁいいわ、これで案内は終わったし解散もう解散していいわよね?」


 シィがそう言って帰ろうとするので、僕は慌てて呼び止める。

 

「あ、待ってシィ。まだあと一箇所案内したいところがあるんだ」

「何か他に重要な施設なんてあった?」


 帰ろうとしていたシィは振り返ってそう聞いてくる。


「いや、重要って訳じゃないけど、個人的に好きなところなんだ」

「ふぅん。まぁ、まだ6時にはなってないし行ってもいいけど」

「...私も行く」


 2人の合意を得られたので、僕はさっきとは違い本当に自信を持って言う。


「よし、それじゃあ2人ともついて来て!」


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「ここ?」


 目的の場所に着いたところで、シィが僕に疑いの眼差しを向けて言った。


「うん、ここだよ。日もだいぶ落ちてきたしそろそろいい時間だと思うんだけどなぁ」


 僕はそう言い、僕が案内したかった場所である高台の階段を登り始めた。

 後ろを向くと、シィとスノウは顔を見合わせて不思議そうな顔してから階段を登り始めていた。


 一足先に高台の上まで辿りついた僕は、そこから眺められる景色を確認すると、まだ階段を登っている2人に声をかけた。


「2人とも、ほらもう少し!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいって」


 僕の声に反応し、シィが先ほどよりもペースを上げた。それに続くようにスノウも早足で階段を登る。


 

「ほら、登って来たわよ。それで、あんたが見せたいって?」


 シィが上まで登り、僕に向かってそう言った。流石に普段から剣術の練習をしているからか、これくらいの階段を登ったくらいじゃ息も上がっていない。

 

「...ふぅ」


 シィに少し遅れ、スノウも登ってくる。魔法使いだからなのかは分からないが、シィとは違い結構疲れているようだった。結構階段長いし、仕方ないけど。


「2人ともお疲れ様、じゃあこっちに来てもらえるかな」


 僕はそう言うと、2人を高台の手すり近くまで誘導する。こっちの方が街全体がよく見えるからだ。


「...おお、凄い」

「へぇ、なるほどいい眺めじゃない」


 シィとスノウもこの景色を見て感嘆の声を上げた。自分の好きな景色が他人にも評価されると嬉しいもんだなぁ。


「シィはここに来たことはなかったのか?」

「私が街に住んでいた頃はまだなかったし、戻って来てからもこんな長い階段をわざわざ登ろうだなんて思わなかったから」


 確かにその先の景色も知らずにこんなところに登る人は結構なものずきだな。...って僕のことか。


 それにしても今日は疲れたな。騎士団として初めての戦闘もあったし、森とか街を歩き回ったから。そろそろ夕食時だしお腹も空いてきたなぁ...。


 なんてことを考えていたせいか、街の夜景を眺める2人の隣で僕のお腹が鳴った。


「全く。あんた、デリカシーないわね」


 シィが僕の方を向いて笑いながら言った。


「ごめんごめん、もうすぐ夕食時だなぁって」

「ああ、確かにそうね。てか、もう6時過ぎてるわね」


 シィが高台に建てられていた時計を見ながら言う。


「そうだな、連れてきといてなんだけど、ここで解散にする?」

「ま、そうするとしましょうか。じゃ、お先に帰るわね」


 そう言ってシィは階段を降りていった。

 僕は残ったスノウに話しかける。


「それじゃあ、僕達も解散しようか」

「...うん」


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「それじゃあまた」

「...バイバイ」

 

 階段を降りた僕達はそんなやり取りをして解散をした。


 僕は自分の帰路へ入ると早速リースがどんな夕食を用意してくれているかを考え始めていた。


 しかし、そんな平凡な考え事はすぐにやめるハメになってしまう。


  ...ザッザッ


 スノウと分かれてから、ずっと同じ足音が僕の後から聞こえてきた。もう夕食時で街を歩いている人は少ないので、その足音は他の足音にかき消されることもなくはっきりと絶え間なく聞こえ続けている。


 まさか、つけられている...?

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