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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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11話 『見抜く力』

「うーん...」


 リースから借りている部屋で目を覚ました僕は目を覚ますために伸びをしていた。

 部屋の時計を見てみると午前7時頃、僕が起きたいと思っていた時間だった。


 僕はベッドから起きると、クローゼットの中にしまっておいた上着を取り出して着る。

 そして、昨日渡された魔法騎士団の証である真紅のバンダナを左腕に巻く。片手で巻くのは少し難しかったが、これから何度もこなすことになる動作なのでしっかり巻けるようにしておきたいものだ。


「これでよし」


 僕はバンダナを巻き終わると、部屋から出て階段を下りた。


 一階ではリースが既に朝食の準備をしていた。昨晩のうちに、今日は早めに出るという事を伝えていたからだ。


「あ、おはようございます、ミルさん」

「ああ、おはよう、リース」


 挨拶を交わして、僕はイスに座る。

 ほどなくして、朝食の用意が出来た。メニューは目玉焼きと、森の野菜を使ったサラダであった。


「「いただきます」」


 そう言って僕とリースは同時に朝食を食べ始めた。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 リースが作った朝食を食べ終わると、僕は立ち上がって、家を出る準備をしながら言った。


「それじゃあ、昨日も言ったけど関所にいってくるよ。正式な通行証を発行してもらうために」

「はい、分かりました。あ、今日の昼食はサンドイッチを用意しておきますね」

「サンドイッチか、こっちに来てから食べたことないから楽しみだな」

「はい、今はまだ作り終わってないので、また後で届けに行きますね」

「分かった、ありがとう」


 僕はリースにお礼を言ってから、家を出て関所へ向かった。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 関所に着いた僕は、受付の前で係の人を呼んでいた。


「すみませーん、こんな時間から悪いんですけど、通行証を発行してもらえませんかー?」


 僕がそう声を出したが、関所の奥から返事は来ない。

 仕方ないので、もう一度呼びかける。


「すみませーん、誰かいませんかー?」


 やはり返事は来ない。

 一応奥で寝ているということも考えて、関所の奥へ続く扉をノックしてみる。開けようともしたが鍵がかかっていた。

 鍵がかかっているということは少なくともまだ受付の所には来ていないということだ。

 また午後にでも来ようかと思い、その場を去ろうとしたところで、僕は後ろから声をかけられた。


「おお、誰かと思ったら君か。待たせてしまってすまん」


 僕が振り返ると、この前会った関所の管理長である老婆がいた。


「おはようございます。身分証明書を手に入れたので正式な通行証を発行してもらいたいのですがいいですか?」


 僕は丁寧な言葉で返す。目上の人との会話はエンさんに対してのもので前よりもだいぶ慣れていた。


「ということは何か職に就けたのか。見せてみなさい」


 僕はそう言われて自分の身分証明書を管理長に渡した。

 管理長は僕の身分証明書を見ると、笑顔で言った。


「ほお、騎士になったのか。やはり君が黒騎士を倒したというのは真実で間違いないな」


 まぁ騎士になれたのは僕だけの力じゃないですけど。


「これからしっかりこの街を護ってくれよ」

「はい、もちろんです」

「うむ、いい返事だ。では正式な通行証を発行するから少し待っておれ」


 そう言うも管理長は扉の鍵を開けて奥へ入っていった。


 数分後、管理長がカードを持って戻って来る。管理長はそのカードと身分証明書を僕に手渡した。


「このカードが通行証だ。仮の物はそちらで処分しておいてくれ」

 

 渡された通行証には『ストファーレ通行用』と書かれていた。おそらくどの街に入るにしてもここと同じように通行証を発行する必要があるんだろう。


「どうもありがとうございました。では僕は仕事に行きます」

「おお、今日からか。頑張れよ」


 僕は管理長に一礼してから街へ戻った。




 とりあえずこれで、とりあえずの住む所も見つかり通行証も手に入れた。つまりこの街に永住することが出来るようになったということだ。でもまぁちゃんとした住まいははなく見つけないとな。リースに迷惑はかけられない。

 これから先はおそらくこの街で騎士として働くことが生活の中心になるだろうからこの街から出るということはないかな。少し残念な気もするけどせっかく就けた仕事を後々手放したくないからね。


 まぁここでの生活がこれから先も『退屈しない』ものなら悩む必要もないんだけど。


 そう考えながら、僕は待ち合わせ場所に向かって歩く。

 歩きながら街の時計を見たがまだ7時半前といったところなので余裕すぎるほどだろう。


 予想通り橋にはまだシィは来ていなかった。なのでとりあえず僕は僕はシィが来るまで待つことにした。


 

 橋の前でシィを待つこと数分、7時40分を過ぎた時に時、僕は城の方向から橋を渡ってきた人に後ろから声をかけられた。


「やぁミル。まだシィは来ていないようだな」

「あ、おはようございます。エンさん。まだ待ち合わせの時間には早いですからね」


 僕は聞きなれた声に返事をしながら、振り返った。


「そうか、ならばもう少し待たなくてはいけないな」


 あれ、待つということはエンさんも何かシィに用事でもあるのだろうか?


「シィに何か用事でもあるんですか?」


 小さな用事なら代わりに僕が片付けようと思って、聞いてみる。そんなことで待たせるのもエンさんに悪いと考えたからだ。


「いや、シィにだけということではないかな。2人ともへの用事だよ」

「僕にもってことは何かの手伝いとかですか?」

「いや、付き添いだよ。君たちの事をよく知らない人も多いだろうし、仕事で困ることもあるだろうからな」

「そういうことですか。ありがとうございます」


 僕達を気遣ってくれてるという事か、ありがたいな。


「いや、いいんだ。これも上司として当たり前のことだからな」


 ああ、なんていい上司なんだ...。

 でもそれなら尚更待たせるのも申し訳ないな。

 そろそろ来ないかな、シィ。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「ごめん、遅れたわ」


 7時55分を回ったところでシィが走って現れた。


「まだ大丈夫だよ、待ち合わせの時間には間に合ってるからさ」


 待ち合わせの時間の数10分前に来るのは元の世界だと日本人くらいなものらしいし、他の人たちからすればちゃんと時間に間に合っていれば大丈夫、といった考え方なのだろう。だから僕もそこは気にしないことにした。

 元の世界だと公共交通機関すら遅れる国もあるらしいし、それに比べれば全然マシだからね。


「...ふむ、なるほどな」


 エンさんはシィを見てから何かに納得したような声を出した。


「どうしましたか?」

「あ、いや何でもないよ」


 僕が聞いてもはぐらかされてしまう。シィの時といい、やっぱり2人にとって僕はまだ大切なことを話せる程の間柄ではないんだな。それとも僕が簡単に人を信頼しすぎなのかな...。


「あれ、どうしてエン姉がいるのよ?」


 シィが僕の後ろにいたエンさんに向かって言う。


「ああ、私は付き添いだよ」

「城での仕事はいいの?」

「城にも優秀な騎士はたくさんいるからな。それに新たな騎士との交流を深めるのも騎士団長の勤めだ」

「なるほどね」


「それじゃあ、2人とも集まったわけだ。そろそろ街のパトロールに行こうか」


 エンさんが僕達2人に提案する。

 まだ8時にはなってないけど、もう待っている必要も無いから僕もシィもその提案に賛成した。




 ✱✱✱✱✱✱✱✱


 僕達がパトロールを初めてから既に30分程がたっていた。街では特に異常はない。でもこうして僕達が見廻ることで犯罪は抑制出来るのだとエンさんは言っていた。

 

 エンさんを先頭に街を歩いていると、突然公園からボールが転がってきた。


「おにーさん、とってー」


 中央に大きな池があるその公園には数人の少年が集まっていた。こんな朝早くから元気な子達だな。

 僕は足元に転がって来たそのボールを拾って少年たちの方へ投げ返す。


「ありがとー!」


 少年たちが手を振って来たので僕も笑顔で振り返す。こういった平凡な時間ってのもいいもんだなぁ。後ろのエンさんやシィもその様子を見て笑っていた。

 僕が再び歩き始めようとしていると、少年達はもう一言、僕達に向かって言った。


「金色のおねーちゃんもさっき池に落ちたボールとってくれてありがとー!」


 その声を聞いて驚いた僕はシィの方を向く。シィはビクッと肩を震わせていた。


 僕達に向かってそう言った後、少年達は再びボールを使って遊び始めた。

 僕は歩こうとするのを止めてシィに話しかける。

 

「この子達のために少し遅れたのなら、どうして言ってくれなかったの?」


 シィは少しの間黙っていたが、やがて口を開く。


「あんたのことを試して見たかった。ってのは少し上から目線ね...」

「試す?」

「ええ、あんたが私の遅れた理由に感づいてくれるかね」


 そう言うとシィは長ズボンの裾を上げて、まだ乾ききっていない靴と靴下を見せた。よく見ればズボンの裾もまだ濡れている。


「エン姉はすぐ気づいた見たいだけど」

「まぁ一応騎士団長だから、それくらいのことには気づけないとな」

「はぁ、てことは僕はそれに気づけなかったのか。またシィに認めてもらう日が遠のいちゃったね」

「...ま、これは私が勝手にやった事だし気にしなくていいわよ。こんな事だけで本当の人間性が分かるとは私も思っていないし」

「う、うん」


 気にしなくていい、と言われても僕の声は暗かった。


「それじゃあ、パトロールを続けましょ」


 そう言ってシィは再び歩き始める。



 このことで僕は、今の自分の注意力の無さを痛感した。

 だからこそ、これからはもっと物事を注意深く観察しようと心に誓ったのであった。

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