10話 『リースへの感謝』
「エン・ヒートフレムです。新たな騎士を連れてきました」
「うむ、入りなさい」
エンさんが王の間の前で挨拶すると、部屋の中から返事が聞こえる。
「失礼します」
エンさんがそう言って扉を開けると、それに続いて僕とシィも王の間の中へ入る。
王の間では、王とその妃が玉座に座っていた。
僕とシィは自己紹介をする。
「ミル・アキカゼです」
「シィ・エスターテです」
「私が『グイド・ガイアブレイド』だ。うむ、君達のスピーチは聞いたぞ。ミル、他の街からこの街の為にはるばるやって来てくれてありがとう。シィ、君が騎士になったこと、君の姉もきっと喜んでいるだろう」
王様はエンさんが言っていたとおり良い人柄のようであった。
それにしてもシィには本当に姉がいたのか...。さっき悲しい理由があるって言ってたのはこのことに関係してそうだな。
「「はい、ありがとうございます」」
僕とシィは声を合わせてお礼を言い、エンさんと共に王の間を後にした。
王の間から出て、エンさんは僕とシィに告げる。
「これで挨拶は終わりだ。次は騎士の仕事についての説明をさせてもらう」
そう言われ、僕達は城の外にある騎士たちの詰所へ案内された。
詰所の中にはやはり多くの騎士たちがいて、各々剣の手入れや的に向かっての魔法の試し打ちなどをしている。
数人は僕達を見かけると気さくそうに手を振ってくれた。
詰所の中の一室に入り、僕達はそこに用意されていた昼食を食べ、その後はその部屋で先輩騎士の方々から仕事の話をみっちりと聞かされた。
......3時間くらい。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「はぁ、疲れた...。」
僕達が城から街に戻った時には既に4時過ぎ頃だった。
「ふぅ、確かに長丁場だったわね」
「後半シィも眠そうだったね」
「うっ...」
「ま、仕方ないよ。仕事に直接関係することならまだしも、これまでに解決してきた街の事件を聞かされてもね...」
「正直退屈だったわね」
僕もその話の時の記憶はほとんど無いけど、とりあえず仕事の内容についての大切そうなところはメモっておいたからまた見直しておこう。
そして僕は念願の『身分証明証』を手に入れた。
これできちんとした通行証を関所で発行してもらえるから、また明日の朝にでも行こうか。今日は疲れたし。
それと僕とシィは魔法騎士団の団員が腕に身に付けるバンダナを渡された。
仕事の際にはこれを着けるのだそうだ。
「それで、明日からはどこに集合するの?」
僕達は明日からペアで仕事をするので、仕事の際にはどこかに集まる必要があった。
「8時に、今いる城への橋の前でいいんじゃないかな? それならお互い迷わないだろうし」
「そうね。てかあんたこの街の出身じゃないけど、どこに住んでるの?」
「僕は宿暮らしだよ。とりあえず家を買うまでは。そういうシィも今はこの街の住人じゃないんだよね」
「私は昔住んでた家にそのまま住んでるわ」
「そうだったんだ」
前の家がまだあるなら、この街の騎士になっても暮らしやすいだろうなぁ。
「それじゃあまた明日」
「ええ、それじゃあ」
そう言い合って、僕達はそれぞれの道を歩き始めた。
そうだ、宿に行く前にリースの家に寄ろうか。きちんとお礼も言っておきたいし。
ということで、僕はまずリースの家に向かうことにした。
✱✱✱✱✱✱✱✱
「おーい、リースいる?」
僕はリースの家のドアをノックしながら話しかける。
間もなくドアは開き、リースが顔を出す。
「ミルさん、入団おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう。でも合格出来たのはリースのおかげでもあるよ」
「私の...ですか?」
「うん、そうだよ。リースが推薦状を書いてくれたから僕は入団テストに出られたからね」
きっとリースが居なかったら僕は参加すら出来ていないだろう。
「少しでもお役に立てたのなら嬉しいです。あ、せっかくなので夕食も食べていって下さい」
「いや、でも、そこまでしてもらうのは悪いよ」
「いえいえ、ミルさんが騎士になったんです。お祝いさせてください」
「うーん、それじゃあお言葉に甘えようかな」
「はい、腕によりをかけますね!」
リースは笑顔で答えた。
僕は再び、リースの家に上がった。
✱✱✱✱✱✱✱✱
夕食を食べ終わって、僕はリースに少し気になることを聞いてみた。
「そういえはリースはどうやって収入を得ているんだ? どこかに働きに行っているようには見えないけど」
「私は森に行く時に、忙しい八百屋さんの代わりとして野菜や果物を採ることもあるんです。そのお礼として、賃金を貰っているんです」
「それだけで足りるのか?」
「食材は森で採れるものも多くありますし、今家で住んでいるのは私1人だけなので心配ないですよ」
でもそれなら、こうして毎日のようにご馳走になるのも申し訳ないな......
「悪いなリース、いつもお世話になっちゃって」
僕がそう謝ると、リースは首を横に振って答える。
「いえ、ミルさんが気にする必要はありません。私がか好きでやっているこことですから」
「......そうだとしても、ありがとうリース」
僕のその言葉にリースは笑顔を返してくれた。
それでも、あまり長居するのは良くないと思い、僕は立ち上がった。
「それじゃあ僕はそろそろ宿に行くよ。あ、それと今日の料理もすごく美味しかったよ」
「あっ......」
僕がそう言って家から出ようとしたところで、リースが僕の服の袖を掴んだ。
「リース?」
僕はリースの行動に疑問をもってきょとんとした顔をする。
「あの、ミルさん。もし良ければきちんとした住まいが見つかるまで私のお家に暮らすというのはどうですか?」
「えぇ!?」
僕はリースの言葉に驚愕した。
流石に一緒に暮らすのは結構無理があると思ったからだ。
しかしリースは話を進める。
「二階に昔おばあちゃんが使っていた部屋が空いているので。ミルさんが良ければですけど...。」
部屋を貸してもらえるのはありがたいけど、リースは心配とかないのだろうか。
「えっと、リースはいいの?」
「あ、はい。おばあちゃんの部屋はもう遺品などは整理してあるので自由に使ってもらって構わないですよ」
違うリース、そういうことじゃない。
「いや、そういうことじゃなくて、だから、僕は男だしさ...」
「あ、えっと、それは...」
リースは顔を赤らめながら考えるそぶりをした。
「ミルさんなら、多分そういうことはしないだろうなぁ...って思っているので」
「ああ、うん...」
信用されているのはありがたいが、本当にそんな理由で大丈夫だろうか。
まぁ僕はそんな気を起こさなければいいんだけどさ。
「よし、それじゃあとりあえずここに住ませてもらうことにするよ。でも、リースも何か僕に対して嫌な事があったら遠慮なく言ってくれていいから」
「は、はい。分かりました」
こっちとしても家を見つけるまで住むところが有るのはいいことだからね。毎日宿代を消費する必要がなくなるし。
「あ、それと、何か困ったことがあったら言ってよ。僕に出来ることなら出来る限りするからさ。僕がきちんとした住まいに住んでからでも大丈夫だから」
まぁリースにはたくさんお世話になってるから、これくらいのことは当然だろう。
「それじゃあ、僕が使う部屋に案内してもらっていいかな?」
「はい」
リースに案内された部屋はベッドやタンス、クローゼットなどもあって、生活に困ることはなさそうだった。
一応屋根裏部屋もあるそうだけど、あんまり広くないから多分使うことはないだろうな。
そう思いながら僕はリースの家のお風呂に入っていた。疲れているだろうからということでリースが先に入らせてくれたからだ。
明日からは本格的に騎士としての仕事が始まる。しっかりと仕事をするためにも今日の疲れはしっかり癒しておこうと考えながら僕は久々にゆっくりとお風呂を堪能したのであった。
ブックマーク、感想、評価等、励みになりますので、もしよろしければお願いします。




