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セイヴァー・レコード 〜とある守護騎士の記録〜  作者: パスロマン
一章 ストファーレ/生まれ変わった身体
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9話 『決意表明』

次話は日付が変わった頃に投稿します。

「では早速だが、この後街の者達に君たちのことを紹介する事になる。そして君たちにはペアを組んで仕事に当たってもらう」


 騎士団長さんが僕達2人に向かって言う。


 なるほど、2人が合格者ってのはその2人をペアにして働かせるってことか。

 それなら指導するにしても2人同時に行えるから、指導者からしても楽なのかな。


「えっと、よろしくね。エスターテさん」


 僕はそう言って、隣に立つエスターテさんに手を伸ばし握手を求めた。

 しかし、エスターテさんは僕の手をじっと見るばかりで、握手に応じることは無かった。


「どうかしたの?」


 僕は気になってそう問いかけた。

 もしかして嫌がられることだったのかな、とつい心配してしまう。


 エスターテさんは僕のその問いかけによって、始めて口を開いた。


「その握手は出来ないわ」

「え?」


 突然の発言に、僕は返す言葉を失った。

 やはり嫌がられる事だったのかな、それとも他に何か悪いことしちゃってたかな...。


「私達はまだ会って間もないし、お互いがどんな人物なのか分かってないわ。だから私は完全にあんたを信用出来ないし、それはあんたも同じでしょ?」

「まぁ確かにそうだね」

「てことで、この握手はお互いがちゃんと信頼し合える時までとっておくことにするわ」

「...うん、分かったよ」


 とりあえず嫌われてるとかじゃないみたいで良かった。


「まぁ確かにシィが言うことも一理あるな。だがシィ、ミルの実力は本物だ。なにせ、今回の入団テストでお前と同じく私を倒したんだからな」

「へぇ、あんたもエン(ねぇ)を倒したのね」

「てことはエスターテさんも...って『エン姉』!?」


 エスターテさんも僕と同じく騎士団長さんを倒していたということよりも、僕はエスターテさんの騎士団長の呼び方の方に驚いた。


「あ、別に私とシィは姉妹ではないぞ。ただ私が騎士団長になる前から、シィとは知り合いだったんだ。...だが、だからといって贔屓目はしていないぞ。私を倒すことが出来たのが君たち2人だけだったから君たちを騎士として迎えることにしたんだ」

「そうだったんですか。てっきりエスターテさんと騎士団長さんが、何か悲しい理由があって姉妹であることを隠していたのかと思いましたよ」


 僕はそう言って笑った。一瞬知ってはいけないことを知ってしまったようで焦った...。

 でもまぁ本当にそんな理由があれば『(ねぇ)』だなんて気安く呼んだりはしないか。


「ま、悲しい理由がある姉妹ってのはあながち間違ってないわね...」

「え?」


 エスターテさんは小さな声でそう呟き、顔に少し悲しそうな表情を浮かべていた。


「それってどういう...」

「いえ、別に気にしなくていいわよ。それと、私のことは『シィ』でいいわ。一応仕事のパートナーな訳だし。私もあんたのことは『ミル』って呼ぶようにするから」

「えっ...あ、うん、分かったよ。シィ」


 なんかはぐらかされちゃった気がするけど...。詳しく聞かれたくないことだったのかな。


「じゃあミル、私のことも『エン』で構わないぞ。『騎士団長さん』じゃ長いだろう」

「は、はい、分かりました。エンさん」


 流石にエンさんのことはさん付けで呼ばせてもらう。年上だし上司だからね。


「それじゃ、共に仕事をする者達のファーストコンタクトを終えたところでそろそろ話の本筋に戻るぞ」


 そうだ、すっかり話し込んでしまってしたが、僕達が街の人たちに紹介されるという話をしていたんだった。


「紹介されると言っても、私が2人を紹介するのではない。2人にはこれからの仕事について、自分でその熱意を語ってもらう。要するに皆の前でスピーチをしてくれ」


 スピーチか...。大勢の前で発表するのはあまり得意じゃないなぁ...。


「スピーチはこの城のバルコニーで行ってもらう。11時になったらまた呼びに来るから、それまでに内容を考えておいてくれ。私は街の者たちを城に呼んでくる」


 そう言うとエンさんは部屋から出ていった。


 僕は机からペンと紙を取ると、椅子に座ってとりあえずスピーチの内容を考えることにした。

 


 少しの時間が経ち、とりあえず原稿の骨組みが出来たところで、僕とは少し離れた位置の椅子に座ったシィの方をチラリと僕は見てみた。

 シィは僕のようにスピーチを考えている素振りはなく、窓を開けて空を見ていた。風を受けて2つにまとめられた金色の髪がなびいている。


 どうして何もしてないのか気になったが、何か考え事をしているのかもしれないと思い、話しかけるのは止めておいた。


 そうして僕がまた手元の紙に視線を戻してスピーチを考え始めた時に、


「ねぇ、あんたは何を言うか考えたの?」


 突然その声は聞こえてきた。

 シィの方から僕に話しかけてきたのだ。


「うーん、だいたい言いたいことは決まったところかな。後はそれをしっかり文章にしないとね」

「そう。ま、順調そうなら良かったわ」


 せっかくシィの方から声をかけてきたので、僕も先程の疑問を問いかけてみることにした。


「シィの方はどう? さっきからあんまり考えているようには見えなかったけど」

「私はだいたい言いたい...というか宣言したいことは決まってるから」

「そうなんだ」


 さっきも落ち着いていたし、この入団テストを受けた時から、既に合格した後のことを考えていたのかな。


「そういえば、あんた何歳なの? あんまり離れているようには見えないけど」


 シィが続けて問いかける。特に隠したりする必要も無いので正直に答える。


「僕は17だよ」

「なら同い年ね。やたら私に丁寧に接してきたから年下なのかと思ったわ」

「はは、結構年下に見られることはあるから馴れっこだよ」


 実際元の世界でも実年齢より若く見られることは多かったしね。若干身長が低めっていうのも原因なのかな。リースやシィよりは高いけど、エンさんには負けていたし。


「それじゃあ、僕ももう1つ質問するね」

「何?」


 シィが2つ目の質問をしてきたので、僕もそれに合わせてもう1つ聞くことにした。


「さっき、エンさんがシィとは前からの知り合いって言ってたけど、結構長いことこの街に暮らしてるの?」


 本当はさっきはぐらかされたことを聞きたかったけど、わざわざはぐらかす程の事を聞くのも気が引けたので止めておいた。


「いや、この街にきちんと住んでいたのは5年前よ。エン姉とはその頃に知り合ったの。それから他の街に引っ越して、この街の騎士団の入団テストを受けるために2週間前に帰って来たってわけ」

「てことは僕と同じように他の人に推薦状を書いてもらったんだね」

「ええ、前に住んでいた頃からの知り合いもいるから」


 さっき不合格者の人たちが言ってた『余所者』ってのはシィの事も示していたのかもしれないな。


「どうしてそんな事を聞いたの?」

「いや、僕は他の街から来たし、シィが街に詳しいなら仕事の時に助かるなって思ってさ」

「なるほどね。ま、結構前から変わっちゃってるところもあるから、あんまり期待しないでよ」

「でもまぁ、頼りにはするよ」


 僕よりは詳しいに決まってるからね。


「それじゃあ、僕はまた原稿を書くのに集中するよ」

「ええ、分かったわ」


 僕は今度こそ手元の紙に視線を戻して作業を再開した。


 ✱✱✱✱✱✱✱✱


「2人共、そろそろ時間だが、準備はいいか?」


 そう言いながらエンさんが、部屋へ戻って来た。


「はい、大丈夫です」

「ええ、大丈夫よ」


 僕とシィは同時に答える。


「そうか、それじゃあバルコニーまで案内する。もう街の者たちは集まってくれているぞ」


 


 そして僕達はエンさんに城のバルコニーへ案内される。


 バルコニーには何人か魔法騎士団の騎士が両端を固めていて、僕とシィはバルコニーの中心部分に立っているエンさんの後ろで待機した。

 バルコニーから下を見下ろすと、多くの街の人たちが見え、僕はその中にリースを見つける。

 バルコニーに僕が立っていることに気づいたリースはこちらに小さく手を振ってくれる。僕が合格出来たのはリースのおかげでもあるし、後でしっかりお礼を言っておかないと。


「皆、今日は私達『魔法騎士団』のために集まってくれて感謝する」


 エンさんが初めの言葉を観衆を見渡しながら言う。


「今日、2人の新たな騎士がこの街を護るために、この騎士団に入団した。今からこの2人の今の気持ちを語ってもらう」


 そう言うと、エンさんは後ろに立っている僕達の方を向いた。

 どっちが先に言うか決めてなかったので、どうしようかと思ったが、僕の隣に立つシィが僕の腰を指でつついてきた。

『あんたから先に行って』ということなんだろう。それじゃあ僕からいかせてもらうとしようか。先に終わった方が気が楽だしね。


 僕は後ろに下がったエンさんと交代するように前に出て、観衆を見渡した。

 すぅ、っと深呼吸して、口を開く。


「街の皆さん、僕は今日この騎士団に入団した『ミル・アキカゼ』です。僕は元々この街の生まれではないです。ですが、この街の皆を護りたいという気持ちは他の騎士の方たちにもきっと負けません。だから、どうか僕のことを頼って下さい。困ったことがあれば相談して下さい。僕はこの街の為に自分が出来ることを全力でします。 ...えっと、僕からは以上です」


 僕が振り返って元の位置に戻ろうとすると、観衆たちから拍手が起こる。とりあえず、上手く言えたみたいで良かった。


 僕が元の位置に戻って来ると、今度はシィが前に出てスピーチを始めた。


「この中には私のことを覚えている人もいるでしょうね。私は『シィ・エスターテ』。この街には5年前まで住んでいたわ。私のことを覚えている人は私がこの街から去った理由も知っているでしょうけど、私は『あの人』のようにはならないわ。 私は絶対、『生きて』この街を護ってみせる。私からは以上よ」


 シィが振り返って戻ろうとした時も、僕と同じように拍手が起こった。

『あの人』、『生きて』...やっぱりシィには何か事情があるようだ。


 僕達のスピーチが終わると、エンさんは再び前に出て、観衆に呼びかける。


「2人とも、とても優秀な力を持った騎士だ。きっと皆の事を助けてくれるだろう。ミルも言っていた通り、他の騎士と同じようにこの2人のことも頼りにしてくれ。...ではこれで2人の紹介は終わる。皆、集まってくれてありがとう」


 エンさんが話を終えると、拍手をしながら、観衆たちはそれぞれ解散していった。

  城から観衆がいなくなった事を確認すると、僕達を含むバルコニーの騎士たちは城の中に戻る。


「エンさん、私達は先に詰所へ戻ります」

「ああ、了解した」


 騎士の一人がエンさんにそう告げてから、僕とシィとエンさん以外の騎士は城の階段を降りていった。


 エンさんは僕達の方を向いて言う。


「よし、2人とも、次はこの城の王に顔を見せに行くぞ」


 ここも城だから王もいるのか、でもここで疑問が生まれた。


「あれ? 普通、先に王様の所に行くんじゃないですか?」

「ここの王は自分よりも民の事を優先するお方だからな。それにスピーチを聞いて、その人の人柄を推測するのが好きなのだそうだ」


 ないと思うけど、もし街の者じゃないからって信用されなかったら嫌だなぁ...。



 こうして僕とシィはエンさんに案内されながら階段を上り、今度は王の間へ辿りついた。

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